クレヨンしんちゃん&ジョジョの奇妙な冒険 ハリケーンを呼ぶ 綱玉の示す路(ロード) 作:パタ百ハイ
「今晩は。こんな時間に何の用なの?」
チャイムを鳴らそうとした俺の前に、髪を後ろに束ねている女が俺を笑顔で出迎えた。髪型は違うが、一人暮らししているという情報だったし、何よりあの時の彼女と声が同じだったので同一人物だとすぐ分かった。
「あなたは……御厨山女先輩ですよね?」
一応確認を入れる。彼女は「ええ」と、肯定の返事をした。
「外はまだ寒いから、中でお話しましょ」
御厨はそう言って俺を中に入れてくれた。本当はすぐさま『プラネット・ルビー』で攻撃するつもりだったが、その前にこう言われてタイミングを逃してしまった。
因みに、脱いだ時に気付いたが俺の靴は今日一日でかなりボロボロになってた……明日購買部に寄らないとな。
★
言われるがままにリビングまで来た俺は、御厨の向かいに座って用意されたクッキーを食べていた。
これまでに彼女からは何か攻撃らしい事はされていない。自分の『スタンド』の特性は本体なんだし把握しているだろうから、ほぼ確実に返り討ちに遭う危険は冒さないと言った所だろうか……。
それにしてもこの部屋暑い。まあ4月はまだ中盤だし、時期的に暖房器具動かしててもおかしくないが、体を激しく動かした後もあってこれはキツい。
「暑い? ごめんなさい、私寒がりなの」
「いえ、お気になさらず」
顔に出ていたのか、来客がこう思うのが通例なのか、思っていた事を言い当てる。
目を合わせつつ、御厨の顔全体を見る。正直、あの髪型で顔を隠すのが勿体無いと思える程の美貌だと思う。今までに出会った女の誰よりもというのはオーバーだが、主観で順位付けをするなら上位三位に食い込む。
俺のその視線に対してだろう。御厨は顔を顰めた。
「何をジロジロ見てるの? 私の顔に何か付いてる?」
「いえ……ただ綺麗だから思わず見とれちゃって……」
「ありがとう。だけど私は見世物じゃないの。だから必要以上に見ないで。そういう視線はアイドルとかモデルとかに向けてよ」
「すみません……」
不快にさせてしまったのは確かなようなので謝罪する。
クッキーを一枚食べ、気を取り直して御厨に質問を始める。
「この春日部で、『矢』に射抜かれて『スタンド使い』になったんだな?」
「ええ、君を追い掛け回しているのが私の能力……名前は『マイ・フレンド』……『瀬上除夜』が同じ学校に通っているのは「あの男」から聞いて知ってたけど、まさかあんな所であんな形で出会うなんて……」
「あのノートがスタンド発現の鍵なのか?」
「その答えはイエスでありノーね。『マイ・フレンド』は私の秘密にしたい事を私の許可なく知ったり探ったりした事を私が知って発動するの」
「じゃあ……あのノートは俺を倒す為に用意していたのか……?」
「違うわよ! 能力発動の為なら別の物を準備するわ! あのノート、持ってきた覚えないのに昼休みの頃に何時の間にか教室の机の上に置いてあった、それがこの一週間毎日続いていたの! それですぐ鞄の中に入れていた! だからあの時どうしてあそこにあったのか……」
「『俺を認識するまで分からなかった』……それでいいか?」
「正解……もっとも、認識してしまったらすぐに理解したけどね」
そこまで言って茶を一口飲んだ後、俺に「君ももう分かってるでしょ?」と聞いてきた。俺はすぐに首を縦に振る。
十中八九『矢』の男の仕業で、目的は俺を『マイ・フレンド』で襲わせる事。ここまで状況証拠を並べ立てられたら、この結論に誰でも至れる。
そこまで考えると、御厨はまた顔を顰めた。
「やめてって言ったのにまた時々チラチラ見るのね……」
……バレてたか。
「すみませんね。一応自制しているんだけどやっぱり目がいくんだよ。さっきも言ったけど、あんたかなり綺麗だから」
「そういう台詞は彼女に言ってあげなさい。会ったばかりの人に軽々しく言うものじゃないわよ」
「俺彼女いないんで。ついでに言うといた事がないんで」
「それでもそんな事は簡単に口にしていいものじゃないわ」
「肝に銘じておきます……個人的な好奇心から尋ねるけど、どうしてそんなに顔を見られるの嫌がるんだ?」
「話してあげる」
そう言って彼女は茶を飲みながら話し始めた……その内容は彼女の中学時代だったが、好奇心で訊いた事を後悔させる程酷いものだった。
彼女はその頃所謂「いじめられっ子」だったという。きっかけは、当時の同級生が、彼女が秘密にしていたアニメ、特撮趣味を偶々知ってしまった事からだった(秘密にしていたのは恥ずかしかった為)らしい。まあ、その同級生は元から彼女の事が気に食わなかったらしいから、いずれいじめは始まっていただろうと言った。
悪口や暴行は当たり前で、万引き等の犯罪行為の強要や性的暴行、更に階段から突き飛ばされたり水場で溺れさせられたりという明白な殺人行為も……嫌になってきた。
「学校は何も対処しなかったのか? 親は? 他の生徒は?」
「教師はみんな事なかれ主義だったし、主犯格のその同級生が地元の名士の娘ってのもあって形だけの注意だけで実質野放し。親はどっちも仕事人間で子供の事なんかほったらかしだし……同級生達も怖かったのと面白かったのもあってかいじめに加担しても助けてくれなかった……」
凄惨だな……。
俺も昔いじめを受けてはいたが、その経験を踏まえて他人のそれ関連の話を聞くと凄まじさがよく分かるものがある。
「『死んだらどれだけ楽だろう』……そう思った事も一度や二度じゃ無かったわ……」
「そうか……」
「まあ、死んだら好きなアニメ番組や特撮番組の続きが観れなくなるから自殺なんてやろうとは思わなかったけど」
その台詞で俺はずっこける。それと重苦しい空気が切れた音が聞こえた気がした。
「生への執着テレビだけかい!」
「ああ、漫画やラノベを付け加えるの忘れてたわ」
「特に変わらん……?」
焚き火とか焼き芋した時とかに生じる、『物が燃える音』が耳に入った。それも、かなり激しい。
かなり近い……この部屋にガスコンロは無い。火鉢とかも無い。あったとしてもこんな激しい音を出すとは思えない。それに彼女との話にばかり気を向けていたけど、何かさっきより暑い……!
彼女の『スタンド能力』を思い出して立ち上がった瞬間、『マイ・フレンド』が隣の部屋から現れた。隣の部屋は、燃え盛っていた。
消火器とかで対応出来るレベルの火災じゃない。しかも『マイ・フレンド』は片手にポリタンクを持っていて、それも底に穴が開いているらしく中の灯油がポタポタと落ちていて、それに引火して火はこっちにも広がっている。
『マイ・フレンド』はリビングに両足を踏み入れると、タンクを上に放り投げ、殴りつける。タンクは破壊され、残っていた灯油はリビング全体にかかった。『マイ・フレンド』自身は勿論、俺と御厨もだ。
引火する前に火災報知器を押し、御厨の腕を引っ張ってスタンドで扉を破壊して別室に移る。途端リビングに撒き散らされた灯油は引火する。『マイ・フレンド』は火達磨になりながら俺達と別方向の玄関へと移動した。
これで玄関からの脱出は不可能になったな。そう思って入った部屋を見る。同時に、顔に熱風が当たり、目に入った光景に顔を引きつらせた。
隣の炎上している部屋との境となる壁は破壊され、火が床を半分以上覆っていた。
壁や天井も燃えている。窓はベランダと繋がっている。突破はしようと思えば出来なくもないから、そうしてベランダで救助を待つのが一番現実的な手段だろう。だが今の俺達は灯油まみれ、『プラネット・ルビー』の能力ならベランダまで行けるが、待ってる間に火達磨になるかもしれない。
(一か八か……ベランダに出て……)
「瀬上君、私を置いて逃げなさい」
ここから助かる方法を実行するのに決意しかねてると、御厨はそんな事を言い出した。その顔は何処か達観している感じだった。
「君一人なら無事に逃げられるでしょ? 『マイ・フレンド』はもう解除してあるから、妨害の心配はないわ」
「あんた何言ってんだ!」
「私はもういい。『マイ・フレンド』の存在意義にして存在意味は『私の秘密にしたい情報の漏洩防止』……君が私の前に現れた時点でそれはどちらも失われているも同然……君が私の趣味誰かに喋らないとは限らないし、そうなったら中学時代と同じ目に遭わないとは限らない……せっかく故郷から離れたのに、そうなったら何の意味もなくなる……だから死ぬ……死んじゃえばどんな事思われようがどうだっていいし」
「生きていれば好きな番組の続き見れるぞ……」
「正直、中学の頃も限界に近かった……多分後一ヶ月も続いていたら死を選んでいただろうと今でも思える……また同じ目に遭ったらもう堪えられない……だからいい……早く逃げなさい……でないと君も死んじゃうわ……え?」
俺は上着を脱いで御厨の腕を引っ張り、上着を投げる。部屋の中央辺りまで飛ぶとそれを「軸」にして窓の前まで移動、ガラスを割ってベランダに駆け込む。
「何やってるの? 私は助けてなんて言ってない、それに私は敵――」
「うるせぇ!」
あれこれ言う御厨を一喝して黙らせる。
「俺は目の前で人が死なれて後味が悪くならない人間じゃねえんだよ! 死ぬだの生きるだのは助かってから考えろ!」
押し黙った彼女を『プラネット・ルビー』で抱える。
「覚悟しといて下さいよ先輩……これから俺がやる事、心臓に悪いですから」
「へ?」
返答を待つ余裕は無いので即座に御厨を空高く放り投げる。俺もベランダから飛び出す。
二階にまで落ちたらそこのベランダの手摺に掴まり、壁を蹴って着地。落下する御厨を『プラネット・ルビー』でキャッチする。その際、両腕に凄い痛みがフィードバックした。
痛みを堪えながら御厨を下ろし、腕を掴んでこの場から離れこのマンションの駐輪場まで移動した。
「あんな事するんなら事前に言ってよね。心臓が止まると思ったわよ」
「前置きは言いましたよ」
「あんなアクション映画顔負けの行動誰が想定出来るの!」
「俺だってもう二度とやりたくないわあんな事! 一か八かだったし……で」
「?」
「助かりましたけど……この後どうします?」
「フ……アハハハハ、ハハハハハハハハ……」
突然先輩は堰を切ったように涙を流し、大声で笑い出した。暫く笑った後、息を切らして指で涙を拭った。
「『生きてる』……私今生きてるのよね……」
「当たり前だろ、助かったんだから」
「ええ……そうね……だから生きてる……ありがとう瀬上君」
心からの笑顔を向けられ、俺は顔を少し熱くなったのが分かったので、顔を背けた。
「あら、どうしたの?」
「別に……それより、これからどうするつもりで……?」
「取り敢えず生きてみるわ。過去に引っ張られず、前を見て」
きっと彼女はそれが出来る。それを聞いて俺はそう思えた。
「じゃ俺、今日の所は帰ります。それじゃ、また明日」
「ええ、また明日」
一瞥もせずに帰ったので彼女の顔は見てないが、多分その表情は、輝かんばかりの笑顔だったと、根拠のない確信を俺はしていた。
瀬上除夜――帰宅した後すぐ布団にくるまり熟睡。自転車は当然買い換える事になり、自発的に料金を出した。
御厨山女――家財道具の大半が焼失。数日間のホテル暮らしの末、別のアパートに引っ越した。
他の住人の被害状況――死人は出ず、怪我人も障害に残る程のものでは無かった。
To Be Continued…
御厨は外見は除夜の好みにかなり近い女性です。
次はしんのすけも活躍します。