クレヨンしんちゃん&ジョジョの奇妙な冒険 ハリケーンを呼ぶ 綱玉の示す路(ロード) 作:パタ百ハイ
時刻は早朝、場所は郊外にあるビジネスホテルの一室。
閉めているカーテンの隙間から漏れた朝日を顔に浴びて、ここに寝泊まりしている少年は瞼を開く。
「もう朝か……日本の朝って早いんだな……」
これから暫く住む事になるんだから慣れないといけないなと思いながら、目をこする。そしてベッドから降りて洗面台に向かい、顔を洗い、長めの銀髪を梳く。終わったら寝巻を脱いで、白いワイシャツの上にノースリーブの鱗の大きな蛇の皮を連想させる模様の上着を羽織り、両耳にピアスを付ける。身支度を整えると食堂に向かい、お茶漬けとお新香を注文。それを食べ終えると部屋に一旦戻り、財布等を用意し外に出た。 ロンディネ・カルデローニ14歳。国籍はイタリアで、とある組織の構成員。日本へはトップからの命により単身来日した。これがこの少年の簡単な人物紹介だ。
彼の春日部の物語は、今日ここから始まりを迎える。
★
「本当に申し訳ありませんでしたぁッ!」
約二時間後、アクション幼稚園の敷地にて、ロンディネは色付き眼鏡を掛けた中年男性へと何度目かの土下座をしていた。
事の始まりは三十分前、彼が道を歩いていた時まで遡る。歩いている彼は、全体的にピンクで屋根に猫耳の付いていて、前にデフォルメされた猫の顔が描かれたバス――アクション幼稚園の送迎バスが目に入った。
その時、「どんな人達がこのバスに乗っているんだろう」と、僅かに刺激された好奇心に従って顔をそっちに向けた。真っ先に飛び込んできたのは運転手――彼が現在頭を下げている男の顔だった。
問題はロンディネが彼に『ある誤解』をしてしまった事だ。別にそれは彼にとってよくある事だ。彼は若い頃から人相が良くなく、そのせいで見ず知らずの人から「その筋の人」と間違われ、時に警察沙汰になった事もあり、ロンディネもそうしてしまった。
更に後ろの座席に園児達が乗っているのを『子供を誘拐して外国に売り飛ばすつもり』と結論を出し、過ぎ去ると同時に急いで派出所に駆け込み(当然ながら地図は携帯している)、思った事を説明してバスのナンバーを伝え――今に至る。
「あの……頭を上げて下さい。いいですよ。勘違いされるの慣れてますし……」
「そそっかしい人だな」
「お前だって人の事言えないだろ」
その後、この男――アクション幼稚園園長、高倉文太に「機会は滅多にないし、お詫びという事なら」と、園児達に自分の故郷、イタリアの話をしてやってほしいと頼まれ、ロンディネの方も騒ぎを起こしてこれで許して貰えるのならと了承した。
★
今日は午前で終わりだったようで、昼食の時間はなく正午近くに園児達は帰宅した。それを見送り、ロンディネも改めて園長に謝罪して幼稚園から出て行き、任務を再開する。
「ねえねうお兄さん、これから何処行くの?」
「取り敢えず一人の人間が隠れて生活出来るような場所を」
「住むの?」
「住まない。人捜しの為……て、あれ?」
後ろを振り向くと、幼稚園にいた坊主頭に太眉の少年がいた。
「えっと……野原……しんのすけ君? で合ってたよね?」
「合ってるよロンディネのお兄さん」
名前を覚えていたのは、「イタリアはどんな大人のお店が流行ってるの?」という、生まれて初めてされた質問のインパクトが大きかったからだ。
「もう帰ったんじゃなかったの?」
「忘れ物あったの思い出して戻ったの。ロンディネのお兄さん外に出たから」
「君の家この先にあるの?」
「てんで別方向。このまま家に帰っても暇なだけだし、お兄さんを暫く尾行しようと思って」
「暇潰しで犯罪行為しないでくんない?」
「遊ぶ金欲しさで悪い事するよりずっといいでしょ!」
「された方は迷惑だよ! てかした事あるの?」
「無いけど。当然」
「紛らわしい発言しないでくんない? 仕方無い、家まで送るから案内して」
「家まで行って……何する気なの?」
「送り返すんだよ!」
「あの、すみませんそこの方……少しお聞きしたい事があるのですが……」
濃い色合の茶髪の外ハネしたベリーショートにファー帽子を被った、黄色のシャツの前を寄せてボタンの代わりにクリップと安全ピンを交互に留め、朱色のカーゴパンツを履いた二十代半ば程の女性が、二人の前に現れた。
「おねいさん、僕に目を付けるとはかなりのお巡りさん……」
「何でここでお巡りさんが出て来るの?」
「え? オラの素晴らしさを一目で見抜くなんて、目の付け所が違うと……」
「それは慧眼でお巡りさんは警官!」
「ここから見える……」
「景観!」
「あの……もういい?」
「はいいいですよ」
「それで、僕に何の用ですかおねいさん?」
「ごめん。君に用はないんだ。あるのはそっちのお兄さんの方」
「え? このお兄さん中学生って聞いたよ? 他人の愛にあれこれ言うつもりは無いけど、流石に犯罪なん……」
「君の方がより犯罪。それに私は二十歳以上での年下が好みで子供に興味ないから」
「子供に興味ない? おねいさんのような人が増えてるから少子化問題が……」
「そういう意味合いじゃないから。頼むから君少し黙ってて」
結構きつめに言われ、しんのすけはその威圧感に逆らえず、押し黙った。
「僕に何の用です? つい昨日春日部どころか日本に来て、しかもこれが初めての来日になるので地理とかさっぱりですが」
「私地元民だからそんなの聞こうなんて思わないわよ。単刀直入に尋ねるわ。貴方はどこの国から来たの?」
「イタリアです」
「そうか……じゃあ、『これが見える』?」
数歩下がって右肘を曲げて掌をロンディネの顔へ向ける。
掌から、規格外のサイズの『鋏』が先端から飛び出てきた。全て出た瞬間持ち手を握って開き、腕を伸ばし、閉じる。
このままでは首が飛ぶ。ロンディネは身を屈めた。閉じた音が聞こえないので見上げると、しんのすけから出た『ハリケーン』が金属板を握って動きを止めていた。
女は『鋏』を引っ込めて距離を取った。
「しんのすけ……その猪……」
「お兄さん、『ハリケーン』が見えるの?」
「緑色の猪がそれを指すなら……昔『ある事』に巻き込まれてね……それにしても、ミスで立ち寄った幼稚園の園児の中に『スタンド使い』がいたとは……これも『スタンド使い』の引力か……」
『のん気に愚痴ってる場合ではないぞ! お前は何者だ! あの女は最初からお前が狙いだったようだがどうして狙われているんだ!』
「それはちょっと違うわよ緑豚君。私の狙いは確かに彼だけどロクに情報が無くてね。瀬上除夜以外でヨーロッパ系の顔立ちをした人に片っ端からさっきのやるつもりだったの。一発でヒットはいい意味で想定外。お蔭で余計な体力使わなくて済んだわ」
「て事は、あんた片っ端から殺すつもりだったの?」
「私に殺戮の趣味は無いし持つつもりも無い。出身を訊くのもセットだし、さっきのも反応を試す為だったからどっちだろうと寸止めするすもりだった」
「だからこそあんな不意打ちの形だったのか……」
少しでも匂わせたら、戦闘経験が豊富な者なら、「見えない人間のふり」をしやり過ごされ、油断した所を攻撃される展開も有り得ただろう。しかし、あれなら「見える人間」なら嫌でも反応するだろう。いや、せざるを得ない。
「……いい考えだけどこれ、相手が多くて二人の時しか使えないぞ。グループ相手にやったら途端に袋叩きだ」
「その時は別のやり方で識別するつもりだった」
改めて彼女は己の『スタンド』を出す。ダマスカス鋼のような木目模様の、刃渡り一メートル程の巨大な鋏。それが彼女のスタンドの全容だった。
「『道具型』のスタンドか……」
「そうよ。言っておくけど、故郷の土を踏みたいのなら抵抗はお勧めしないわ。下手にしたら殺してしまうかもしれないからね!」
切っ先をロンディネの胴体へ向け、突く。先程の『確認』と異なり、今度は本気だ。ロンディネは紙一重に避けるが、対して女は片手を離して三歩前に出て避けた方へと振るう。必然、鋏は遠心力で開き、刃がロンディネに迫る。
金属同士がぶつかる音が鳴り響く。鋏が止まっていた。
女は当然何もしていない。ロンディネもだ。障害物があったからこの現象が起こった。
その障害物とは――しんのすけが握っている一振りの『日本刀』。
しんのすけは当然帯刀などしていない。力負けをしている等を除けば、スタンドを受け止められるのはスタンドだけであり、この鋏は厚さ五センチの鉄板すら切り裂く切れ味を持つ。そして、彼の傍にいたスタンドは影も形も無い。
(『姿を変える能力』……)
「おねいさん!」
「な、何?」
「ハサミは切る方を人に向けちゃいけないんだぞ!」
女とロンディネはこの発言に唖然となった。
「正しいけど、違うよね……」
取り敢えずロンディネはその発言に対して頭に浮かんだ言葉を口に出した。
ロンディネの意味は『燕』です。