クレヨンしんちゃん&ジョジョの奇妙な冒険 ハリケーンを呼ぶ 綱玉の示す路(ロード) 作:パタ百ハイ
「作戦を伝えます」
「それ長くなる?」
「少し」
ボーは挙手した。
「作戦タイム!」
「認めよう」
柿枝はこう即答する。琢磨は思わず転びそうになったが、奴の余裕ぶった顔からこっちが何をしてこようとどうにかなると思っているのは見て取れた。作戦を六人に伝えると、バラバラに散る。操られている者達は追うも、春日部防衛隊のすばしっこさに時折入る琢磨のアシスト(指示と能力)もあって捕らえる事が出来なかった。
(みんな思いの外運動能力高いのですね……)
感心する琢磨。柿枝の意識も春日部防衛隊に向かっていて、これなら邪魔されないと踏んで次の『準備』に取り掛かろうとする。
しかし、トオルがしんのすけの前に出てきた時、動きを止めた。
「何をしてるんですか! 危ないから止まるなと言ったでしょ!」
声を荒くする琢磨。催眠術に掛かっている人間の中でもしんのすけには一般人には見えない凶器である『スタンド』を持っている。話してはいないがあの中で柿枝を除けばしんのすけが最も危険である事は言った。
「すみません須藤さん! でもどうしても今こいつに言いたい事があるんです! 僕はいいから他の皆を頼みます!」
「……分かりました」
言葉に意思の固さを感じ説得は無理そうだと判断した琢磨はしんのすけを任せる事にした。
「しんのすけ! お前一体何やってるんだよ!」
「一体何で怒ってるの風間君。この前借りたゲームまだ返してないから?」
「いつの話だそれ。そしてそんな事じゃない! 何お父さんや先生達を傷付けた奴に思うように操られているんだ! お前あいつの事を許さないんじゃ無かったのか?」
「オラが操られてる? もー風間君ったら冗談がキツいなぁ」
そう言いながらしんのすけはトオルに右フックを放った。トオルはそれを食らうも、しんのすけの胸ぐらを掴む。
「お前、今何した?」
「え?」
「お前今何したと訊いたんだ! 僕を殴ったんだよ! 冗談で殴ったのか? 違うだろ! お前が無闇矢鱈と人を傷付ける奴じゃないのはよく解ってる! そんなお前が簡単にこんな真似をした事が操られている証左だって言いたいんだ! それともなんだ? 僕の勘違いで元々お前は簡単に人に暴力を振るえる人間だったとでも?」
「ううん……違う……」
「そうか。じゃあ、許せない奴に言い様にされていいのか!」
「そんな訳ないに決まってるぞ!」
しんのすけは柿枝へと顔を向け、睨み付ける。敵意を向けられても、柿枝は動じなかった。
「敵意でも殺意でも何でも向けろよ。お前が俺の催眠術の影響下である事は変わりはない。そしてもうお前等の狙いも解ってる。ガキ共は陽動で」
近くの茂みへと身体を向け、スタンドから強烈な閃光を放った。そこから黒磯が両目を抑え悶えながら出てくる。サングラスを掛けていても光の強さが上回ったようだった。
「黒磯!」
「本命はこいつ。お前等に意識を傾けさせてこいつに俺を倒させるつもりだったろうが……残念だったな、失敗だ!」
「いえ、成功です」
マウンテンバイクに跨がって直進しながら琢磨はそう返した。軌道にいる人間は当たらないよう『持っていって』いるのでスピードは緩めようとしない。車体はそのまま持ち主の身体を突き飛ばした。
「僕のスタンドの破壊力はたかが知れているから、あんたの自転車を使わせて貰いました。でも自分がただ実行しようとしてもすぐ察せられて目論見が駄目になるのは目に見えていたので彼等に陽動を頼んだんです。言うまでもありませんが他人の自転車を勝手に乗るのも人をはねるのもいけない事なので絶対に真似してはいけませんよ」
「誰に向かって言ってるの?」
「お……の……れ……」
大怪我を負いながらも立ち上がる柿枝。ネネやマサオは「ヒッ……」と怯えるが、スタンドはボロボロでもう戦えないのは琢磨には分かった。
「無理はしない方がいい。催眠術を解いて大人しくするならばこちらもこれ以上は何もしない。警察を呼びますので警察病院で治療を受けて下さい。どちらにせよもうあんたに逃げ道は無い」
「まだ終わりじゃない……お前等の口を封じれば……」
「何とかなると思ってるの?」
横から声を掛けられた。顔を向けるとしんのすけがいて、後ろに『ハリケーン』も出している。柿枝は身体中の激痛が感じなくなる程気分が高揚した。
「俺の勝ちだ! よし、コイツ等を……」
『ハリケーン』の拳は柿枝の顔面に当たった。そのまま飛んでくる拳が仰け反る彼の身体に叩き込まれる。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!」
「が……何故……」
放たれるラッシュを全て食らった柿枝は、催眠術の影響下であるしんのすけが自分に攻撃してきた事に疑問を口にしながら倒れた。
★
「本当に申し訳ありませんでしたぁ!」
トオルや琢磨達に深々と土下座をするしんのすけ。あの後意識を失った柿枝を拘束して警察と病院に通報、やって来た警察官に柿枝を突き出して操られていた人達は病院に搬送、重傷者は入院し、無傷、軽傷の者も念の為検査を受けて貰う事になった。
勿論しんのすけ達も聴取を受ける事になり、済ませて警察署を出た後しんのすけがこうしてきた。
「顔を上げてよしんちゃん」
「悪いのはあいつ。しんちゃんがそんな事をする必要はない」
「でも、オラはみんなを……」
「あーもー! 僕達は何も気にしてないって言ってるんだ! 何時までもウジウジするな! お前らしくないぞ!」
「許してくれるの? ありがとうみんな! オラは最高のお友達を持てて幸せだぞ!」
今さっきまでの気落ちが嘘のようにいつもの感じに戻ったしんのすけだった。
「そう言えば、何で最後あいつの催眠術に逆らえたんだろう?」
ふと思い出したしんのすけが疑問を口にする。
「催眠術は、相手の信頼度合が重要」
それをボーが返した。聞いたしんのすけはトオルに抱き着く。
「つまりオラの風間君への愛は、あんな奴に介入しようがない程に強いものだという事ね!」
「誰がそんな事言ったんだ! 変な解釈するな!」
「信頼が重要な催眠術、それを用いる催眠術師が人の信頼を踏みにじる行為を繰り返すとは皮肉ですね……」
黒磯がポツリと呟く。その言葉に全員が沈黙するが、少し経ってあいが琢磨に視線を向ける。
「須藤さん。あの時『何』をやったのですか?」
「あの時……とは?」
「公園で私達が陽動をしている時追ってきた方々の腕や胴体が何かに『持っていかれた』かのように抉れました。須藤さんがマウンテンバイクに乗っている最中直線上にいた人達にも同様の現象が発生している以上須藤さんが起こしたと考えるのが自然です」
「……手品?」
「素人考えでも出来ないと断言できます。須藤さんだけではありません。あの男は何もない所から光を出し、しん様は成人男性を文字通り殴り飛ばしました」
「あの閃光は何等かのトリックで、しんのすけ君は運動能力かなり高いから……」
「如何にしん様の運動能力が高かろうと幼稚園児が大人を吹っ飛ばす等出来ません。あの男もそういった物は何も持ってなかったと聞きました。下手な誤魔化しはもう止めにして下さい」
全員の視線が琢磨へと向けられる。観念した琢磨は溜息を吐いた。
「もう無理ですね……分かりました。僕達が関わっている事、大まかでいいのなら話します」
「ちょっと、琢磨お兄さん!」
「もう話して分かって貰うしかありませんよ……言うまでもないと思いますが決して口外しないで下さいね」
そこは全員が頷いた。
「まず、密やかに流れている「超能力者が発生していて事件を起こしている」という噂は真実です。これは人為的なもので、この春日部で何者かが精神に眠っている力を覚醒させて回っているんです。僕もしんのすけ君も、あの男もそれに巻き込まれました」
「須藤さんはその縁でしん様と出会った訳ですね?」
「そうなりますね。力を持つ者同士は引かれ合うので」
「その力を持った人、やっぱり他にもいるの?」
「はい。何人いるのか見当がつきませんが……彼等に対抗出来るのは『能力』を持つ者だけです」
「瀬上除夜って人、知ってますか? もしかして……」
「僕達の仲間です。察しの通り、彼も同じ能力を持っています」
押し黙る春日部防衛隊。あの時しんのすけが自分達を必死に止めようとしていたのが良く分かった。
少し時間をおいて五人は話し合い、終えるとしんのすけへ顔を向ける。
「僕達は今後こんな事件が発生してももう首は突っ込まない。今回は上手くいったけど、また上手くいく保証は無いからな」
だけどーーと続ける。
「僕達に出来る事、やれる事があれば何でも言ってくれ。いつでも頼ってくれ」
「そうよ。何でもしんちゃんが背負う事なんか無いわ!」
「僕なんか大した事は出来ないけど、やれる事ならある筈だから!」
「僕達には力は無いかも知れない。だけど、友達の力になる事は出来る!」
「勿論、あいも気持ちは同じですわ。さてしん様、お返事は?」
「ありがとうみんな……その時になったらオラ、頼りにするぞ……」
俯き、震えながら言葉を紡ぐしんのすけ。傍で見ていた琢磨は涙を拭っていた。その琢磨に、黒磯は声を掛ける。
「須藤さん。我々はどう動くべきでしょうか?」
「その言葉の意味は?」
「お嬢様がしんのすけ様にああ申している以上、私としても協力は惜しむつもりはありません。しかしその規模によっては、家の力を借りなければならない場合も……」
黒磯の言いたい事は分かっている。酢乙女家がどれだけ力があろうとあい自身はあくまで令嬢に過ぎず、独力は限られている。それ以上になれば酢乙女家に自分の事が露呈する事になる。
「そうなったら仕方無いとしか言えません。僕の件は僕が勝手に行った事ですし、一個人の我儘と街と人命の危機、秤に掛けるまでもない。それだけの協力を求めないといけない事態が発生しない事を望むしかありませんね……」
「私もそこは同意です」
★
トオルとマサオはレジ袋を片手に帰路についていた。解散した後はあいが車で家まで届けると言ってきた。琢磨は遠慮し、この二人はそれぞれ買いたい物があって家もその店から遠くないので店で降ろして貰った。
「春日部が裏で大変な事になっていたなんて……」
「そうなんだけど……よくよく考えたら、今に始まった事でもないかなって。特にしんのすけの周りだと」
「そう言えばそうだね……」
心当たりがありすぎて思わず苦笑してしまった。
「しんのすけは一人じゃない。瀬上さんや須藤さんのような仲間もいるんだし、僕達がいる。だろ?」
「そうだね」
「助けてー!」
突然の叫び声の直後、二人の前の十字路の右の道から仕事帰りのOLが飛び出てきた。必死の形相で走っており、今の叫び声を放ったのは彼女で、右の道の先で何かが起きていて彼女はそれから逃げようとしているのがすぐに解った。
逃げてきた先から『矢』が飛んできて、彼女の喉を後ろから貫いた。彼女の身体はそのままうつ伏せで倒れる。二人が呆然としていると、『弓』を片手に握った男が彼女に近付いた。
男は横たわる彼女の首に指を当てる。すぐに手を『矢』へと動かし、握った。
「彼女も『当たり』か……これで今日は八人目。この辺で……」
独り言を呟きながら『矢』を引き抜く。そこで男は呆然と立っている二人に気付き、身体を向けた。
「折角だし射抜いておくか……大人しくしていてくれ。注射と同じで痛い思いは一瞬で済む」
こっちに向けて弓を引いている男の姿に二人は我に返るが、動く事が出来なかった。
(何なんだ……? まるで服が拘束しているかのように……もしかして、この男も……!)
「何をしている分からないだろうが、既に『能力』の影響下だ。すぐに終わる」
弦を引っ張っていた手を、放った。
柿枝辰男(スタンド名:ビウェア・オブ・ダークネス)ーー再起不能。
To Be Continued……
何気に始めて『再起不能』者が出た戦いでした。
襲われた二人の運命は……。
次回から学祭編が始まります! 大学はまだだけどね!