クレヨンしんちゃん&ジョジョの奇妙な冒険 ハリケーンを呼ぶ 綱玉の示す路(ロード) 作:パタ百ハイ
深夜帯。開いた分厚いファイルを机の上に置いて、その机の角に備え付けた電話の受話器を取ってボタンを押す。数回のコール音の後、掛けた相手が電話を出た。
『もしもし。どちら様でしょうか?』
「こんな時間に突然済まない。時間は大丈夫か?」
『あんたか……昼寝し過ぎて寝付けなかったし、何もやる事無かったし大丈夫よ』
「余計なお節介だが生活習慣は整えた方がいい」
『喧しい。わざわざ説教する為に電話してきたのか』
「勿論そうじゃない。貴女に『依頼』する為だ」
『……どうして私?』
「貴女の通う学校で行われる学祭に彼が向かうから。何より、貴女の『能力』を買っているから。どうかな?」
『折角だけど、断らせて貰うわ』
「……理由を説明して貰えないか?」
『耳に挟んだけど、あんたは既にもう何人ものスタンド使いを刺客として送り込んだのよね? 私に『依頼』が回ってきたという事は、そのスタンド使い達は全員やられたって事だよね?』
「その通りだよ」
『私の『スタンド』は戦闘向きとは言い難いし、私一人じゃ……』
「何時貴女一人を向かわせると言った?」
『違うの?』
「貴女と貴女の弟を含めた『12人』のスタンド使いを向かわせる。皆厳選した強力な能力者達だ」
『そいつ等と組んで事を当たれと? 無理。スタンド能力は友人間でも秘密にするもんなんでしょ? 初対面の赤の他人同士が易々と明かす訳無い』
「いや、ただ向かわせるだけ。後は各々が邪魔にならない範囲で自己判断で動いてくれて構わない」
『ダメ出ししておいてなんだけど、それ、人数送る意味ある?』
「貴女が言った通り他者には能力を隠す傾向が強いスタンド使いに連携なんか期待しない。そもそもスタンド使いは大概が人格に難がある。そんな連中が初対面同士でそれを期待するのは無理だろ」
『「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる」ですか』
「否定はしない。それで、どうする?」
『……確認するけど、各々の邪魔にならない範囲で自己判断で動いていいんだよね?』
「構わないよ」
『なら、その為に他のスタンド使い達へあんたに伝言頼むのはOK?』
「お安い御用」
『分かった。引き受けるわ。弟にこの話伝えた方がいい?』
「変わってくれたらこっちが話すが……」
『弟は眠ってるわよ』
「なら明日の朝に連絡するよ。依頼料は明日中に振り込んでおく。それじゃ、早めに寝なよ」
受話器を置いて椅子から立ち上がった。
★
「もー、除夜のお兄さん遅い!」
「待ってくれ。約束の時間まで後三十分はあるのにどうして怒られないといけないんだ?」
土曜日、野原家。俺達はしんのすけを迎えに来ていた。みさえさんからこいつが酷い寝坊助なのは聞いているので、遅れないよう集合時間の少し前に迎えに来るのを約束したからだが、来てみると既に起きて準備も済ませており、玄関で仁王立ちしているこいつと顔を合わせると怒られた。
「怒るに決まってるでしょ! オラもう二時間も待ってたんだぞ!」
「早過ぎるわ。お前は今日何処に行くつもりだったんだ」
「ななこおねいさんとの学祭デート! 忘れたの?」
「忘れてはおりませんよ」
妙なテンションなのはそのせいか。後ろでみさえさんが頭を下げていたが、そんな事される謂れは無いので手首を振った。
「あれ? 除夜のお兄さん、この人誰?」
「今聞くのかそれ。今週からウチに入った
俺が連れてきたかき上げた黒髪に団子眼の、何本かの赤のラインを染めた襟の無い銀色のワイシャツに黒いジーンズを履いている少年をしんのすけの前に出して紹介した。
「オラ、野原しんのすけ五歳! 宜しくね咲良君!」
「お兄さんのお友達のしんのすけ君だね。お兄さんからお話は伺ってます。宜しくお願いします」
「オラの事はしんちゃんでいいぞ。そんな他人行儀もいいから」
「うん、分かったよしんちゃん」
「ところで除夜のお兄さん、オラをお迎えに来るの、除夜のお兄さん一人だったよね? 咲良君が来るの聞いてないんだけど」
「それは事情があるんだが」
「ほうほう、それは大変でしたな」
「俺まだ何にも喋ってないんだけど」
「手っ取り早く言ってね」
「実はかくかくしかじかで」
「そんなんで分かる訳無いじゃん、馬鹿にしてるの?」
「少しふざけて悪かったな。真面目に話すよ。春日部を案内する為だ」
「オラ達がこれから行くのはななこおねいさんの大学だよ?」
「本当は義母さんがやるつもりだったんだ。だが朝早くにウチで預かっていた子が事故に遭ったって里親から連絡があって、その見舞いに。住所新潟だから一泊するって」
「それで除夜のお兄さんにアブが回ってきたという訳ですか」
「
「でもそれじゃ学祭行けなくない?」
「勿論春日部全体じゃなくてこいつが通う事になる学校とか、俺達がよく利用する店とか程度。それと学祭が終わってからでいいって言われてるしこいつもそれは了承してる」
「ほうほう……じゃあデートが終わったらオラも一緒に行く! 咲良君にオラのオススメ紹介したい!」
「ありがとう! 楽しみだよ!」
「それじゃ行くか。もうあいつ等も集まっているだろうし」
「行ってらっしゃい母ちゃん」
「行ってきますでしょ。除夜君達に迷惑を掛けちゃ駄目よ」
「失礼な! 一体いつオラが人様に迷惑を掛けているというのですか!」
「あんたにそのつもりが無くても掛けてんのよとっくに数えんのが馬鹿らしくなる程に!」
「落ち着いて二人共……往来ですよ……」
「北本さんって人から聞いたが、こんなやり取りは日常茶飯事らしいぞ……それじゃ行ってきます……」
★
「お早う除夜」
「お早う優太。俺達が一番最後か?」
「来る人がもういないのならそうなるね」
集合場所に来ると、来る事を聞いていた面子は既に揃っていた。俺としんのすけ共通の知己で仲間である琢磨と稲庭、俺の同級生の優太と宝来、そして
「わざわざ誘ってくれてありがとね瀬上君!」
「こっちこそ来てくれてありがとな斜森」
ウェーブがかった銀髪のセミロングの、ジッパーの着いた紺色のブレザー服にオレンジの地に緑の斑点模様の蝶ネクタイを着けて青い短パンを穿いた
「今日は忘れられない一日にしましょう」
腰まで伸ばした青みを帯びた黒髪に赤いフリルの着いたカチューシャを着けた、赤いジャージの上に黒いコルセットを嵌めて緑色の膝までの長さのフレアスカートを穿いた
集まっていた面々で初対面同士の自己紹介は既に済ませているとの事で、しんのすけと咲良を紹介した。
「ところで瀬上君、知り合いを大勢呼んだって言ってたけど、来たのはあたし達だけ?」
稲庭が聞いてきた事に俺は頷く。斜森と岡宮は何か意外そうな顔付きになった。
「瀬上さん……高校に進学して短い間にそんなにお友達が出来たんですね……」
「相当驚いてるみたいだな岡宮……気持ちは分かるが……」
「私達意外はどんな人達を呼んだの?」
「お前等もよく知ってる本荘や清水先輩は勿論、同学年の吉祥寺や尾花、有藤、茂地。しんのすけの友人の春日部防衛隊にロンディネ、後は御厨先輩に逢坂先輩、塩屋……どんな人達かは機会があれば紹介するよ」
「案外その機会は意外な形ですぐ巡ってきたりして」
優太が笑顔でそんな事を言い出してきた。偶然会う事もあるだろうしそうなるかも知れないな。
「そろそろ行こっか」
「あれ? しんちゃんに瀬上さんやないか、何しとるん?」
出発しようとすると、缶ジュース片手の藤方が声を掛けてきた。
「苺ちゃん、どうしたの?」
「散歩しとって偶々通りがかったんよ。で、何の集まりなん?」
「今日しんのすけのガールフレンドの大学で学祭があってそこに行くんだよ」
「除夜のお兄さん、ななこおねいさんとガールフレンドだなんて……オラ達まだそんな関係じゃ……」
「友達未満の関係じゃないだろ?」
こいつの反応は本当に時々解らない。
「どうも、藤方苺花です」
「どうも、斜森緋音です。……瀬上君、この子は?」
「少し前に知り合ったんだ」
「しんちゃんや須藤さんもだけど、接点あるように思えないけどどうやって知り合ったの?」
「もしかしてしんのすけ達にも聞いたのか?」
「まあね。二人共『袖振り合うも多生の縁』的な感じで出会って仲良くなったって言ってたけど」
「ああ、特に間違いじゃないよ。偶々出会って友達になったんだ」
琢磨とこいつはともかく、しんのすけは本当にそうだしな。斜森は「まいいや」と話を切り上げた。こいつなりに納得してくれたようだ。
岡宮が少しだけ考え込む素振りをすると、藤方に話し掛けてきた。
「藤方……苺花ちゃんとお呼びしてもいいですか?」
「ええですよ」
「苺花ちゃんが宜しければ一緒に学祭に行きませんか?」
「へ? ん~……まあウチ今日暇しとったし、お祭りは好きやけど……ええんですか? お金使う予定無かったんで小銭しか持ってきとらんですが」
「そんな心配しなくともお金はこっちが出しますよ」
「なら行きます」
話がついて出発しようとするとパトカーが目の前の道を過った。
「何か今日はパトカーよく見掛けるね。何かの強化期間かな?」
「早良おねいさんもそう思った?」
「お前等はニュース見てないのか?」
「料理番組とアニメと特撮しか視聴しないもん」
「ニュースはキャスターのおねいさん目当てだし」
「せめて埼玉のヤバそうなニュースは目を通すようにしろ。俺達にとって無関係じゃないかも知れないんだぞ」
「それどういう意味? 何で瀬上君達が関係あるの?」
首を傾げながら斜森が訊いてくる。宝来と岡宮も同じ反応だ。もう少し小声で話すべきだった。
迂闊さを悔いつつ理由を考えようとすると、優太が言ってきた。
「自分達が住んでいる所で起こっている以上は巻き込まれる可能性もあるから情報を仕入れといて損はないって事でしょ? 特にここ最近は変な事件多く発生してるし。そうでしょ? 除夜」
「あ、ああ」
そのつもりは当人には無いだろうが結果的にフォローを入れてくれた事に、少しの戸惑いと申し訳無さを感じつつ相槌を打った。宝来達も納得してくれたようで、斜森は「ごめん私危機意識無かったよ」と謝ってきて心が痛んだ。
「で、何が起こったの?」
「近くの刑務所から十人以上の重犯罪者が脱獄したの」
宝来が苦笑いを浮かべながら説明する。他の面々も同様で、多分俺も同じだろう。ニュースは全国は勿論外国にも流れたらしいし、何処の新聞にも一面で載っていて知らない奴がいるのはおかしいレベルだからな。
俺はこのニュースを聞いてどうしても気になる点があった。脱獄した囚人の捜査や逮捕は警察の仕事で俺は関わるつもりはない。『脱獄の手口がどうしても解らない』という発表だ。脱獄に用意していた道具等は確認出来ず、更に看守や他の囚人の証言から脱獄した囚人達同士の関わりは薄く、少なくとも集団での計画ではないという結論が出たという。
それを聞いてもしかしたらと思い琢磨に連絡を取り、俺の頭にあった答えをすぐに言ってくれた。「囚人達は同時期に『スタンド使い』になり、能力を用いて脱獄した可能性が高い」と。引き出したのが俺を狙っている奴と同一人物だろうから、遅かれ早かれ俺達とぶつかるだろう。
「除夜のお兄さんどうしたの? 置いていくよ?」
「悪いな。ちょっと考え事してた」
まあ、今は学祭を楽しもう。そう思って走ってしんのすけ達との距離を詰めた。