クレヨンしんちゃん&ジョジョの奇妙な冒険 ハリケーンを呼ぶ 綱玉の示す路(ロード)   作:パタ百ハイ

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お待たせいたしました。


いざプロレス観戦へ!

「除夜、この学校随分活気あるね」

「そりゃ学祭だからな。開催の理由も理由だし活気づくだろ」

「ねえねえ、餡蜜の屋台があったけど買ってきていい?」

「好きにしていいが加減はしろよ? 見ての通り客は俺達だけじゃないからな」

「ちょっと瀬上君、女の子にそんな沢山食べるような言い方は無いんじゃない? 第一甘い物がそんなにお腹に入る訳……」

「沢山食うんだよ。ま、これは実際に見ないと分からないか」

「瀬上さん、ななこさんって人が来るまでお祭り回ってきていい?」

「駄目だ。数分程度だから我慢しろ」

「瀬上君」「瀬上君」「除夜君」「瀬上さん」「瀬上君」

「うるせーーーーーー!」

 

 何かと俺に話し掛けてくる面々に苛ついて盛大に怒鳴った。

 

「さっきからみんなして何かと俺に声掛けてきて、しかも返事したら間を置かずに別の奴が……」

「みんなじゃないよ。ホラ」

 

 そう言って斜森が手を差し向けた先には、滅茶苦茶不機嫌な様子でその顔を更に膨らませて俺を睨んでくるしんのすけがいた。それ見て何度目かの溜息を吐いてしまう。

 十分程前、大学に到着した俺達は校門から一番近いベンチで待ち合わせの手筈だったが、敷地内に足を踏み入れる直前にななこさんが俺の携帯に掛けてきて、「少し遅れる」と連絡した。徹夜で準備をしていた友人が倒れて保険センターに連れていくとの事で、それを全員に伝えて待ち合わせ場所で待つ事になったのだ。

 そしてしんのすけが拗ねてしまった。俺がななこさんのアドレスを知っている事に怒ったのだった。尚、俺の携帯のななこさんのアドレスはみさえさんが俺に彼女と連絡を取る為に教えてくれたものであり、ななこさんはみさえさんから説明して了承している。勿論それは言ったのだが……

 

「オラとはアドレス交換なんてしてないのに」

「お前携帯自体持ってないだろ」

「会ったばかりの除夜のお兄さんに簡単に教えるなんて……」

「必要だと思ったから教えてくれたんだろ。いい加減機嫌直せよ」

「ななこおねいさんにとってオラは、携帯持ってないからアドレスを教えてくれない程度の存在なんだ……」

「お前自分の言ってる事が支離滅裂なの解ってる?」

 

 機嫌直らないどころかどんどん面倒臭くなってくるな。

 

「瀬上君、しんちゃんって、いつもこんな感じなの?」

「いや、普段は違う方向で面倒臭い」

「どうにかならないんですか? お話にも乗ってくれないし……」

「さっきから何かと俺に話し掛けてきてたのそれ? なら直接しんのすけに……」

「除夜が一番しんのすけ君と付き合い長いから扱い方解ると思って」

 

 優太のこの発言から、全員がこのしんのすけの相手を俺に押し付けようとしているのは察した。多分示し合わせたのではなく、全員が同じ事を考え、そして同調したんだろう。

 確かに一番付き合いは長いし一番親しいと言えるがあくまで『この中では』だ。正直困る。

 

「俺にもどうする事も出来ない。だがどうにかなる心当たりはある」

「……何となく解りましたが、それまでこの空気に耐えろと?」

 

 それに無言で頷く俺。全員嫌そうな顔をしたが掛かっても30分も無いだろうしそれしか思い付かないから我慢して貰う。

 

「お待たせみんなー」

 

 稲庭が戻ってきた。餡蜜買うのに時間掛かったなと思ったが、片手に十袋提げていて(袋の膨らみ方からして入れてるのは一つじゃない)、作ってもらって時間食ったんだと理解した。あれだけの量を作り置きなんて出来ないだろうし。

 稲庭と初対面の斜森達はあいつが買ってきた量にやはり目を見開いた。

 

「稲庭さん……これは?」

「餡蜜」

「全部……ですか?」

「うん」

「それを一人で食べる為に……買ったんですか?」

「そうだよ。まだお祭りは始まったばかりだし、他のお店のも食べたいから40個に抑えた」

「食い切れるんか……そんなに……」

「やだな、こんなの余裕余裕。もしかして欲しいの? いいよ。一個ずつ分けてあげる」

 

 稲庭は餡蜜を俺達に一つずつ配り、終わったら袋から取り出して笑顔で食べ始めた。かなりのスピードで空になり、積み上げられていく容器に初対面の面々は戦いた。

 

「確かにこれは実際に視ないと分からないわ……」

「だろ?」

「見慣れている僕達も驚く時は驚くからねー……しんのすけ君は食べないの?」

 

 渡された餡蜜に手を着けようとしないしんのすけへ、優太は声を掛けた。

 

「優太お兄さんはオラを食べ物で怒ってるのを誤魔化せる安っぽい人間だと思ってるの?」

「そういう訳じゃないよ。折角稲庭さんが分けてくれたんだから……」

「悪いけど今食べたくない」

 

 取り付く島もないな。さっき多少は誤魔化せた雰囲気も元に戻っちゃったし。

 

「しんのすけ、除夜君、ごめんなさい。待たせてしまって」

 

 溜息を吐くと、ななこさんが来た。急いでいたのか息を切らしている。後ろには長身で筋肉質な女性がいるが、彼女が話にあった女子プロレス部の親友だろう。

 ななこさんの声を聞いてコメツキムシみたいに飛び上がった。

 

「ななこおねいさん! おはようございます!」

「おはよう。今日も元気一杯ね」

「ええ、元気で大変だったんですよ。ついさっきまで俺がななこさんのアドレス知ってた事で滅茶苦茶機嫌悪くなって手が付けられなかったんですから」

 

 ついさっきまでの事を簡単に話す俺。顔を写すものがないので分からないが、多分今自分の表情は満面の笑顔なんだろうなと確信してる。しんのすけは「余計な事を言うな」と言わんばかりの視線を送っているが、知ったこっちゃない。大人気ない? 解っていますよ。

 俺の言葉を聞いてななこさんは厳しめの顔になった。

 

「そんな事で除夜君達に迷惑を掛けちゃったの? 駄目でしょ」

「だって……」

「除夜君にアドレスを教えたのはしんのすけのお友達だからだよ」

 

 それは本当だ。教えてもらった時に会って日が浅く、関係の薄い俺にアドレスを教えて平気なのかと訊ねたが、「しんちゃんのお友達なら信用出来るから」と即答された。

 

「除夜のお兄さんがオラとお友達だったから……」

「しんのすけ? どうした?」

「なーんだ。除夜のお兄さんも最初からそう言ってよ〰」

 

 へらへら笑いながら腹を小突いてきた。俺は手首を掴んで止めさせる。優太や宝来達はしんのすけの様子に凄く困惑していた。

 その後はななこさんと一緒に来た女性、神田鳥忍さんと俺達は自己紹介を済ませた。

 

「しんちゃん、試合を観に来てくれてありがとう」

「忍ちゃん、試合頑張ってね」

「すいません、その試合なんですけど、こっちはいきなり二人加わっちゃったんですけど、席は大丈夫ですか?」

 

 斜森が突然こんな事を早口で言ってきた。確かに今日いきなり加わった人数分の席の準備は容易くはない。

 

「どう考えても無理でしょうし、こっちで二人外して別行動して貰うんで。と言う訳で瑪瑙、瀬上君、二人で気儘に学祭楽しんできなよ」

 

 返事を待たず、話し合いをかっ飛ばして決めてきた。俺は異議を申し立てた。

 

「ちょっと待て。俺は構わないがもう一人はちゃんと話し合って決めるべきだろ? 宝来も楽しみにしていたのに……」

「大丈夫ですよ。瑪瑙ちゃんが楽しみだったのは瀬上さんとのお出掛けですから」

「何言ってるの繭ちゃん!」

 

 誤解されるような言い方をする岡宮に赤面しながら飛び付く宝来。優太や稲庭はやれやれと言いたげな顔してるし、琢磨達は何かニヤついてた。

 

「緋音お姉さん、もしかして瑪瑙お姉さんって……」

「うん、しんちゃんのお察しの通り」

「ほうほう……除夜のお兄さんもまきに置けませんな」

すみ()だろ」

 

 どうやら議論の余地は無いようで、俺は溜息を吐いた。俺の顔を優太が覗き込んできた。

 

「どうしたの? 除夜は宝来さんと二人だけじゃ不服?」

「そんな事は無い。宝来は観戦終わるまでは俺と二人でいいのか?」

「全然嫌じゃない! 寧ろ嬉しい! 瀬上君こそあたしと二人でいいの?」

「ああ、俺も嬉しいが……」

 

 そう答えると宝来は素早く後ろを振り向いた。そして斜森と岡宮が寄ってくる。よく聞き取れないが二人があいつを茶化してるようだった。

 

「宝来さんの挙動や三人が何を話されてるか気にならないのですか?」

「昔からあったやり取りだ。気にしなくていい」

 

 昔訊ねた事はあったが「瀬上君聞かなくていい!」と強く言われたので以降気にしない事にした。他人に踏み込んでほしくない事なんて誰でもあるし。

 

「それじゃ、申し訳無いけど除夜君と瑪瑙ちゃんは別行動でお願いね。終わったら連絡入れるから」

 

 そう言った後ななこさんは俺に耳打ちした。

 

「しんのすけが戸惑わせちゃったみたいでゴメンね? あの子、私の前だと無理して『いい子』を演じようとするから」

「……気付いていたんですか」

「丸分かり。これでも『素』を見せてくれるようになってくれてるんだよ? 前なんて猫被りなんてものじゃなかったんだから」

 

『あれ』でも随分なのに前がどんななのか想像が付かない……。

 

「もー、二人で何話してるの?」

「お前の事だよ。それとしんのすけ」

「何?」

「変にいい子ぶらなくても、お前は間違いなく『いい子』だからな」

 

 頭撫でながらそう言うと、何言ってるんだと言いたげな顔になった。だろうな。俺も何言ってるんだろうと思ってるし。

 これ以上時間を食えば試合の時間に食い込んでしまうだろうし、一旦分かれようと言おうとした。その時、俺の目に「ある物」が目に入り、俺の足は動き出していた。

 

「ちょ、瀬上さん何処行くんや?」

「スリを見付けた! 捕まえてくる!」

「そんなの警察のお仕事……」

「現行犯なら一般人でも逮捕は出来る! 俺がどうにかするからお前等は危険だから付いてくるな!」

 

 

「行っちゃったね瀬上君……」

「あの……トイレは……何処でしょうか?」

「咲良君トイレに行きたいの? なら僕も一緒に行くよ」

「優太お兄さんもおトイレ行きたいの?」

「うん。急に催してきて……行く所同じなら一緒に行動した方がいいでしょ。と言うわけで、僕達も別行動でいいよ。もしかしたら長くなるかも知れないし……終わったら連絡ちょうだい」

「……瑪瑙、プロレス観戦、行く?」

「うん」

「何か、ゴメン」

「緋ちゃんは何にも悪くないよ」

 

 

 追い掛けてくる俺に対して、『あいつ』は人と人との間を掻い潜って逃げていく。かなり手慣れた様子で、恐らく初めてじゃないんだろう。このまま撒くつもりらしいがそうはさせない。

 確かに見た。あの男の手から『スタンドの手』が伸びて、ポケットに手を入れず添えただけで財布が手の中にあったのを。奴がスタンド使いで能力を使って悪事を働いた以上見逃す訳にはいかない。

 

 

「?」「あれ?」「何だ?」

 

 大学の敷地内にいる数人の携帯の着信音が同時になった。

 

『そろそろ始まる。試合会場へ向かうように』

 

 届いた一通のメールには、こう簡潔な指示があった。受け取った全員は、指示に従い会場へと足を動かす。

 

 


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