クレヨンしんちゃん&ジョジョの奇妙な冒険 ハリケーンを呼ぶ 綱玉の示す路(ロード) 作:パタ百ハイ
除夜達と分かれたしんのすけ達は、試合会場の観客席にいた。後は試合開始を待つだけ。それまでの時間、観客達は各々雑談したり外で買った食べ物を食べたりして時間を潰しており、彼等も同様だった。
「どうしたの? 琢磨お兄さん」
その中でこの場には不釣り合いな神妙な顔つきで黙っている琢磨が気になって声をかけるしんのすけ。琢磨は表情はそのままでしんのすけへと顔を向け、小声で言う。
「先程の除夜君の事で……」
「あああれかー。スリも空気読んで欲しいよねー、瑪瑙お姉さん落ち込んでたし」
「気になりませんでしたか? 確かに現行犯は一般人でも逮捕は出来る。しかし警察への通報を頼まずあの言い方……」
そこまで言われてしんのすけも理解出来た。しんのすけが何か言おうとした時、ホイッスルの音が会場全体に響き渡った。
太股まで届く程の長さの金髪を二結びにして頭に王冠のようなデザインのティアラを着け、茶色いレンズのサングラスを掛けた、ゴムを素材とした紅色のチューブトップを豊満な胸に覆い、白い短パンを履いて腰に黒い長袖のシャツを腰に巻いた女性がリングに立っていた。右手には笛が持たれており、レフェリーなのだろうと宝来達は思った。
女性は笛を短パンのポケットに入れると、足元にあったマイクを拾い上げ、一気に息を吸う。
「ハイ観客の皆さん! 本日は貴重な時間を割いて我が校の祭りへ足を運んでいただき、真にありがとうございます!」
目一杯肺に溜めた空気を一気に吐き出し発したその声量は、会場の他の音全てを掻き消さんとばかりな大声だった。言い終えた直後女性は何かやらかしたかのような顔となった。
「失敬。マイクの電源切ってました。では改めて」
『せんでいい!』
彼女以外の会場にいたほぼ全員が全く同じタイミングで同じ言葉を放った。
「何なのあのファンデーションなお姉さん……」
「それを言うならハイテンション……」
「あの人は
「ほうほう……ねえ琢磨お兄さん」
「?」
「あの人おっぱいおっきいね」
「……突然何バカな事を言い出すんですか君は」
顔を弛めたしんのすけの発言に呆れる琢磨。話に乗ってくれなかった事に不貞腐れるしんのすけだが、斜森が反応した。
「まあ大きいのは確かだしね。見た所F以上はあるし。因みにあたしや繭莉はEだよ」
「本当?」
「私は本当ですけど緋音ちゃんは自己申告の五つ上ですよ」
「まだ四つ上! 嘘言わないでよ繭莉!」
「先に嘘吐いたのは緋音ちゃんです」
言い返せない斜森の胸を、目を丸くして見るしんのすけ。彼のみならず稲庭や藤方も視線を向けていた。
「本当にそんなに大きいの? そうは見えないけど」
「普段は目立たないようにしてるからね。知らない人にジロジロ見られるのも嫌だし」
「あー、お母さんも若い頃は胸に向けられる目が嫌やった言うとったな」
「オラの母ちゃんには一生分からない悩みですな」
「尚、瑪瑙も脱いだら凄いよ?」
「そして大きさなら比留川さんという人が中学時代で今の緋音ちゃんを上回って……」
盛り上がりだした斜森と岡宮の二人の頭を宝来が小突いた。
「小さい子とどんな会話してるのよ」
「いやいや、幼稚園児でも男の子なんだし、そういうのに関心を持つのはおかしくないよ」
「場所は選びなさい!」
「何で私まで……」
「話に加わってここにいない人の事まで言おうとしたから」
「しんちゃんはおっぱいの大きい人が好きなん?」
「え? おっぱいが嫌いな男なんている訳ないでしょ?」
「言い切った……」
「ふーん……しんのすけも色を知る年頃になったのかぁ」
ニコニコ笑顔をしんのすけに向けて言ってくるななこ。その言葉にしんのすけは首を傾げる。
「色ならいっぱい知ってるよ? 赤、青、黄色、白、黒、緑、オレンジ、紫、ピンク、茶色……」
「違います。異性、君の場合女性に興味を持つようになったと言っているんです」
「そんな! 言っておきますが、ななこおねいさんの魅力の前には、クレオパトラやマリー・アントワネットだって腐ったミカンにたかるハエの幼虫も同然です!」
「じゃああたし達蛆虫未満?」
「気に留めない方がいいですよ」
「腐ったミカン美味しいじゃない。よく食べるよ」
稲庭の発言は全員がスルーした。
「では、今回勇姿を見せてくれる二人の選手に、リングに上がってもらいましょう! 皆様、大きな拍手で戦士をお迎え下さい! 赤コーナー、言わずと知れた我が校の女子プロレス同好会のエース、神田鳥忍ぅ!」
忍がリングに上がると、大きな拍手と歓声が上がった。
「凄……」
「忍ちゃん本当に人気者なんだなぁ……」
「盛り上がるのは大歓迎だが、試合は相手がいて成り立つものだぞ! この祭り、この試合の為にわざわざ時間を割いて来てくれたのは! 我が校のOGにして注目の新人プロレスラー、青コーナー、ブラックレオパルト新寺ぁ!」
黒いシングレットを身に着け、異名に反している精巧なユキヒョウのマスクを被った女性がリングに上がった。
「君と戦うの、もう半年ぶりになるんだね……」
「はい……先輩が在学中私は一度も勝てた事がありませんでした」
「こっちが早く生まれてその分長くやってるんだ。簡単に勝たれたら立つ瀬はない……勝ちを譲るつもりは、生涯無いぞ」
「譲ってくれなくて結構。勝利は掴み取るものですからね。私はここで先輩との対戦の初勝利を掴みます」
「おっと、どちらもやる気全開だ! これは熱い試合が期待出来るぞー! では、試合開始ぃ!」
高らかに叫ぶと何処かからタンバリンを出して叩いた。
「ウィナー、神田鳥忍ー! 宣言通り勝利を掴みとったぞー!」
「変やな。ウチ等試合最初から最後まで観たけど何か時間飛んだような……」
「気にしない方がいいですよ……あれ?」
「どないしたん須藤さん?」
「足が何かにはまったような妙な抵抗を感じて……」
「何もないやん」
「はい、気のせいだったようです」
「では皆さん。我々に勇姿を見せてくれた二人の戦士に、今一度大きな拍手を!」
その声と共に会場にまた拍手が鳴り響く。拍手が落ち着くと、一葉が口を開く。
「熱い声援ありがとうございました! 続きまして、私から会場の皆様へと余興をさせていただきます」
途中から声のトーンを変えてこんな事を言った。リングにいる二人も、スタッフ役の学生達も観客達も困惑していた。そんな事予定に無かったからだ。
「これからやるのは演奏です……楽しんでいただける事をご期待します」
一葉の手から『異形の楽器』が出現した。
★
スリを人気の無い場所まで追い込んだ。学校の敷地の端の方の、建物と建物の間、幅が二メートル弱程の路地だ。
「お前がスった物を返して貰うぞ」
「スった物って、これか?」
スリは着ているポケットがあちこちについている白い襟シャツの左脇腹のそこから財布を取り出して見せた。
「あ……うん……それだな……」
「どうした? まさか拍子抜けしているのか?」
その問いにすぐに頷く俺。ここまで素直に出してくるとは思わなかった。
「こんな事に手を染める程稼ぎに困ってる訳じゃないし、遊び半分で人の物を盗む程腐ってはいないつもりだ。『用』が済んだら落とし物として届ける所に届けるつもりだったよ」
(……しまった!)
それを聞いてこいつの『用』が分かった。こいつは最初から俺をここに誘い込むつもりで能力でスリを行ったのを見せたんだ。
奴は『スタンド』の腕だけを出し、何処からか出した拳銃(オートマチック式のデカいやつ)を握らせ、俺に向けて引き金を引いた。
★
会場に近い棟のトイレ。既に用を足し終えた咲良は、まだ籠っている優太を待っていた。優太は「先に行ってていいよ」と言っていたが、しんのすけ達と分かれた時に彼が言った言葉を引用した。初めて来た場所で一人で行動したら迷子になるかも知れないと付け加えて。
チラッと時計を見る。多分試合はもう終わってる頃だろうなと思った。優太は一向に出てこない。幸いこの棟での出展は何もないのか人気は無く、トイレにも自分達の後に一人入ってきた程度だったので(多分)迷惑にはなってないが、割と長い。もしかしてお腹を下しているのかなと思った。
試合はしんのすけ達から聞こうと思い、喉が渇いたので近くにあったフリースペースにある自販機でジュースを買おうと足を動かした。
妙な音と感触がお腹からしたのでゆっくりと顔を下に向けると、『石の鏃が先端についた棒』が突き抜けていた。そこで意識を失い、倒れた。
「………………」
咲良の後ろに立っている『弓』を片手に握っている男は、空いている手で脈を確認し、彼に刺した『矢』を引き抜いた。
「まず二人……あ、忘れてた」
男はトイレに入り、半開きの個室のドアに挟まれている男の脈を確認した。
それを済ませると『矢』についた血を水道で洗い流し、トイレから出ていった。