クレヨンしんちゃん&ジョジョの奇妙な冒険 ハリケーンを呼ぶ 綱玉の示す路(ロード) 作:パタ百ハイ
「除夜のお兄さん、母ちゃん達が寝静まったら一緒にテレビ見ない?」
「見ねーよ。俺明日も学校なんだ。深夜アニメ観てたら授業中眠くなる」
「除夜のお兄さん、そんな堅苦しく生きてて人生楽しいの?」
「少なくとも今はお前が思っているよりずっと楽しいし楽しんでるよ! てな訳でお休みなさい!」
借りた布団の中に入って眠った。
かなり後に、しんのすけが観たがっていたのがエロ番組と知り、頭が痛くなった。
野原家で一晩過ごした後、言った通り俺は一度自分ちに戻ってから登校している。
俺の『プラネット・ルビー』が見える奴に出会い、この春日部で妙な『弓と矢』を用いて人を襲っている男の捜索に協力する事をそいつと約束したとしても、それはあくまでも私事。日常は変化しない。一高校生に過ぎない俺は、学校のある日は学校に行かないといけない。
……はっきり言って、俺はしんのすけの話は信じているが内容に関しては半信半疑といった所だ。
そいつは『矢』に射抜かれ生きていたら『能力』が発現すると言ったようだが、あの兄妹はそれを発現させていない。俺の『プラネット・ルビー』が見えているので他の人と異なる要素があるのは確かだが、それがその『矢』が関わっているという確証は無い。もしかしたらそれが『能力』なのかも知れない。だが、何故か『絶対に違う』と断言出来る。無論これはただの直感で、根拠は何もない。だからせめて後一人はその『矢』に射られた人間が出て来ないと何も進めない。
そいつをどう確保するかだ。「『矢』に刺された事ある?」と聞き回る訳にもいかないし……
接触の可能性が一番高いのは多分この春日部で多発している妙な事件。内容が真実なら、射られて『能力』を発現させた人間が犯人の可能性は十二分にある。そいつを捕まえれば……
と考えたが、「多発」しているので数は多いし、事件の調書を全くの無関係な高校生に見せてくれるとは思えないし、大体警察が必死に捜査して手掛かりすら掴めないのに素人が何か分かるとは思えない。
最近ので――と思い立ってみたが、今朝ニュースであったのは、もう何度も報道されている春日部を中心に蔓延している、原材料、ルート、成分、その全てが全く特定出来ていない謎の『麻薬』……どう考えても高校生の手に余る。
やはり地道に射られた人間を捜す事から始めるのが一番だが、どう捜すかが問題だ。
射られた人間はウチの学校にいても不思議はない。そいつがその後どう出るかだ。夢だと思ってせいぜい家族や友人に話して終わりとか、困惑して変な行動が目立つようになるか……判別が難しい。高校に入学したばかりでそれが分かる程仲のいい人間はまだいないし、同じ中学出身の人間もいるけどそいつ等と俺は優太と宝来以外は同級生、同学年という事柄以外に接点なんか無い。
昨日まででクラスで変わった事と言えば、強いて言えば委員長が風邪引いて休んだ程度……平和だな。
「平和なのが一番なんだけ……うおっ!」
「わっ!」
何のお約束なのか、曲がり角の地点で人にぶつかってしまった。考え事に気を取られ過ぎた。相手側は大丈夫なのだろうか。
見下ろすと、光沢のある黒いボタンの黒い長袖シャツを着て黒い長ズボン、黒い安全靴を着用し、黒いオープンフィンガーグローブを着け黒い指輪を全ての指に嵌めた、童顔の、見た目中学生程の男の子が尻餅をついていた。横には彼の物だろう黒い帽子と、ソフトクリームのコーンが転がっている。
見下ろすので必然的に自分の制服も目に入る。クリームがべったりとついていた。彼は立ち上がると頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。前方不注意でぶつかってしまって服まで汚してしまい……」
「謝罪はいいよ。こんなの洗えば落ちるし、怪我なんかしてないし」
俺も前方不注意だったから、俺にも非はあるし。
彼はポーチからポケットティッシュを出し、制服に付いたクリームを拭い取ってくれた。
その後、ポーチから切ったチラシとペンを取り出して数字を書いた。
「これが連絡先です。クリーニング代の請求は」
「いや、いいってだから……こんな事で、しかも年下相手に金取ろうとするなんてクズじゃないから」
「貴方、高校生ですよね? 制服からして星陵高校の」
「ああ」
「僕、こんな容姿をしていますが君より年上ですよ。多分」
その証明としてポーチから『運転免許』を出した。それには普通自動車の所に1とついている。
これ見た結論。この人少なくとも18歳以上。俺より年上。
免許を返すと俺は深々と頭を下げた。
「すみませんでした」
「いえ……お気になさらないで下さい……勘違いされるのは慣れています故……」
苦笑いしながら、須藤(すどう)琢磨(たくま)さん(免許証に記載されてあった)はこう言ってくれた。
彼は表情を戻して免許証を戻す。その際、ポーチの中の写真が俺の足元に落ちた。
しゃがんで拾い上げた瞬間、俺は動きを止めた。
その動作をすれば裏返しになってない限り被写体が嫌でも目に入る。
「あんた……この写真は……」
「あちゃー、ちょっと気が緩んでいましたかね。こんなミスを犯すなんて。それで、その写真について僕にどんな事をお尋ねしたいのでしょうか? 『瀬上除夜君』?」
言ってない筈の俺の名前をフルネームで口にした。表情はにこやかだが、纏っている雰囲気は明らかに変化していた。
彼は思い出したように落ちた帽子を拾い上げ、被る。
「じゃあ質問だ。何であんた『こんな写真』を持っていて、俺の名前を知ってるんだ?」
落とした写真――『中学時代の俺が写った写真』を見せた。
「君が僕の『標的』だからですよ」
当たり前のように答えると同時、写真をひったくって乱暴にポケットに手首ごと入れた。向けられた敵意に体が反応し、足を動かして距離を取った。
次の瞬間、俺は自分の身に何が起こったのか分からなかった。
ともかく、首を絞められたかのように『息苦しくなった』。
いや、喉に力を込めた指が『触れている』のは分かる。だが、誰が触れているのか分からない。
指を外そうと喉に手を伸ばす。が、何の感触もそこにはなかった。触っている指はおろか、『自分の喉』さえも、そこには『無かった』。
首を全体的に触ってみてようやく分かった。俺の首は今、『前半分が消失している』という事を。
「『何をされているのか分からない』ですか? 僕は君の首を自分で締めているだけですよ?」
……伝わる感触から事実だと頭が認めている。
何が起こっているのかまだよく分からないが、俺は『プラネット・ルビー』を発現、須藤に殴りかかった。
須藤はそれを強引に避ける。喉の感触や息苦しさが無くなった。首を触ると、消失していた前半分が元に戻っていた。
俺は首が元に戻った、圧迫感から解放された事への安堵感より、あいつが『プラネット・ルビー』の攻撃を避けた事への驚愕で頭が一杯だった。
(こいつ……『プラネット・ルビー』が見えてんのか?)
「危ない危ない……僕の『スタンド』は肉弾戦――と表現するのは少し変ですが――苦手なんですよ」
ここまでで俺は、こいつが俺と『同じ様な能力』を持っている事を、ようやく悟った。
次回、除夜の初めての戦いが始まります。