クレヨンしんちゃん&ジョジョの奇妙な冒険 ハリケーンを呼ぶ 綱玉の示す路(ロード) 作:パタ百ハイ
「改めてアイス買いますけど、食べます? 奢りますよ」
「いらん! そんな時間ない!」
二限目の半分に差し掛かる辺りの時間で、俺は教室に滑り込んだ。
「すみません遅れました!」
日本史の教科担と級友達の視線が、一様に俺に向けられた。先生に言われるまま、自分の席へと向かう。
事前に連絡を入れておいたお陰で怒られる事は無かった。だが、授業の内容が分からない。
一限目の分含めて後で優太や宝来にノート見せて貰って、帰ったら復習しないと。
あ、あれからどうなったかと言うと。
須藤琢磨の事だが、気絶した後ほっとくのも何だったので、目が覚めるまで付き添った。
色々話して、どうにか俺がこの春日部で起こる怪事件に関わっていないのは分かってくれ、騙されていたとはいえ襲ってきた事への詫びを含めて真の元凶の『弓と矢』を持つ男を捜す協力をすると申し出た。仲間が増えるのは喜ばしい事なので俺は了承した。
(事態は……思っていた以上に深刻だったようだ……)
「――み」
琢磨から詳しく聞いた所、春日部で起こる怪事件は、可能性のあるもの含めてその全てが春日部以外では普通の事故や事件に『すり替わっている』らしかった。
何故なら『スタンド使い』による事件が沢山発生していれば、その存在を知る「SPW(スピードワゴン)財団」が嗅ぎ付けない筈が無いらしい。実際に調べてみても調査員らしい人間が入った形跡や記録は見当たらなかったようだ。それをおかしいと思って更に調べてこの事実が判明したと言う。
どうやら財団に来てほしくないから情報操作を行っていると琢磨は推測していた。何故なら財団が協力しているスタンド使いは厄介な能力者が多く、その中で特に「時間を感覚で数秒止められる」というふざけた能力を持つ、「史上最強のスタンド使い」と名高い男もいるだとか何だとか。
「――上」
そんなのに来てほしくない気持ちは分かるが、別に俺にとって何て事はない。問題は、「マスコミに介入して情報操作」なんて出来る程の力のある奴が相手だという事だ。
何より今もなお『スタンド使い』はその数を恐らく、いや、確実に増やしている。その全員が俺を悪人だと思って、いや、単純に金目当てで狙っていても何もおかしくない。その中には、俺の身近にいる人間もいる可能性だってある。
(たく……俺が一体何をしたんだよ……何がそいつをそこまでさせてるんだよ……)
「瀬上っ」
「うるせぇな今重要な事考えてんだよ! 後にしろ後に!」
しつこく何度も声をかけてくる奴に、俺は思いっ切り怒鳴りつけた。
因みに、その相手は先生で、それを確認するとクラス中から俺に視線が向けられているのに気が付いた。
考えていたのは「俺にとっては」重要な事だが、「授業とは」何の関係も無い事なので俺の分は悪い。素直に頭を下げるとちょっとした注意で許してくれた。
★
授業が終わって休み時間。優太にノートを見せて貰おうと思ったが、その優太は休み時間になると同時に急いで廊下に出た。恐らくお手洗いだろう。宝来にお願いしようとしたが、数枚の書類と睨めっこしている。多分生徒会関連だろう。邪魔するのも気が引けたので止めた。
誰か他の奴を――と首を動かすと、突然視界が遮られた。
「だーれだ?」
高い声と服越しの柔らかい感触から、相手は女だと分かる。そして『誰か』はすぐに分かった。高校生にもなって、しかもまだ大部分が緊張している中でこんな事をして来る奴はこのクラスでは、いや、俺の知る限りこの学校では一人だけだ。
「何の用だ? 稲庭」
「大正かーい!」
視界が戻った俺が最初に見たのは、子供じみたイタズラをした張本人の朗らかな笑顔。
黒くて綺麗な髪を首の所で赤いリボンで結った、袖と襟が配色が逆になってる制服を着ている同い年の少女だ。
稲庭(いなにわ)早良(さわら)。それがこいつの名前で、このクラスの委員長。委員長の就任したのは入学式の後で、『クラスで一番元気だから』という小学校低学年レベルの理由で担任から選ばれた為。
「テンション高いな。病み上がりだろ? 無理すんなよ」
「ただの風邪でーす。それにもう完全に治って今は元気モリモリだよ」
「良かったな。それとノート見せてくれ。御存知の通り取ってない」
「あたしはコンビニで買ったプリンを食べるのに夢中で取ってません!」
教室の隅のゴミ箱の一つに、プリンの容器が大量に捨てられていた。幾つもの容器のタワーが普通に視認出来る程高く積み重ねられてる。
見なかった事にして稲庭へと向き直る。
「だからあたしも他の人に見せて貰う予定!」
「あっそ……」
「あれ? 服についてるその染み何?」
今朝琢磨とぶつかった際についたソフトクリームの染みを指差した。
「人とぶつかってその人の持っていたアイスがな……拭いたんだが染みになったんだよ」
「災難だったね」
「さいなんです」
教室全体が白けた。うん、ごめんね。下らない事口にしてごめんね。
「……話は終わりか?」
「違うよ。瀬上君にしか言えない事があるんだ!」
教室全体に響く程の声量でそんな事を言い放つ。最初からそれを言え。
「……で?」
「はにゃ?」
「その俺への用件って何だ? さっさと話せ、休み時間ももう時間がない」
そう言ったら稲庭が満天の笑顔を浮かべる。元々笑顔は可愛いが、この笑顔は格別だった。
「昼休み屋上に来てくれない?」
「まだ寒いぞ……」
「だから誰も来ないんでしょ? 誰にも聞かれたくないの!」
「分かったよ行くよ」
「ありがとー!」
笑顔でギュッと俺の手を握る。不覚にも俺は思わず顔が少し熱くなったのを感じた。
稲庭が自分の席に戻るのを見届けると、次の授業に使う教科書とノートを取り出そうとした。
「あれ?」
その動作の途中、こんな言葉が思わず口から出た。
教科書を取り出す時は必然的に視線を落とす。こうなったら制服の前の方が当然視界に入る。
それで気付いた。染みが『消えている』。まるで最初から無かったかのように。
最初は見落としただけかと思い、時間を空けて次の休み時間に改めて確認する。やはり無かった。
全くの余談だが、直後に俺は同級生達に好奇の視線を向けられた。優太はにやけた顔を、宝来は少しばかり不機嫌な表情を、俺に対して向けていた。