A.C.2045 July,8 Sun A.M.8:30
「マスター、起床時間ですよー。…………起きてくださいーマスター」
耳元に響く、元気の良い少女の声。
だが、眠い。
寝かせてくれ。後、五分だけで良いから。
……とは、言わないし、思わない。
「……おはよう、フォーゲル」
故に俺は目を覚まし、枕の脇に立つ全高15㎝程の小型ロボット――神姫に声を掛ける。
神姫とは、多目的機械人形のようなモノだが、感情を持つ所が、旧世代のロボットとは違うところだ。
また、数年前には規制がかかったり、違法モデルによる人的被害が起きていた。
それらは “神姫バトル”の公式大会である“Fバトル”の最高峰、“F0”の三強達が主軸となって解決したという。
とはいえ、噂話程度しか知らない俺にとってはどうでも良い事だ。
「おはよー、マスター。今日は何するの?」
で、俺が所有している神姫はアームズ・イン・ポケット社製、火器型神姫《ゼルノグラード》型。
元気で明るく、ノリが良い基本性格で、親しみやすいが、膨大な兵器の知識を内包している事、兵器に関する話になると、口数が圧倒的に増える事等から、ミリタリーヲタクには人気のモデル。
かく言う俺も、ミリヲタに分類される人間だが。
「何する、か。……今日は休日だしな…………フォーゲルは何をしたい?」
特に予定を決めていない為、銀髪碧眼のゼルノグラード型神姫――もとい、フォーゲルに問う。
「う~ん……グアム、かなぁ。かつての
「……おいおい。冗談も大概にしてくれ」
彼処は色々な銃火器が実射できるが、俺はパスポートを持っていない。
「だよね……。マスター、パスポート持ってないし。……じゃあ、トイガンの専門店かな」
「……了解だ。少し待ってろ、準備する」
フォーゲルの返事を待たずに、ベットから立ち上がり、部屋を出る。
まずは顔を洗って頭を覚まさねぇとな――
数十分後――
「よぉ、また来たか。笹倉」
俺とフォーゲルは行き付けのトイガン専門店に入る。
何故か知らんが、この店は24時間営業で、それなりに利益が出ているらしい。世の中不思議なものだ。
「おやっさん、久し振り!」
「おぉ、フォーゲルちゃんも一緒か。……ゆっくりしていきな」
「そうするよ」
「じゃ、物色させてもらうぜ、店長」
店長に断り、店の奥へと進む。
ほどなくして、トイガンの陳列されたゾーンに入り、
「あ、マスター。《WA2000》が入荷されてるよ!」
フォーゲルは嬉しそうに言う。
(……カールヴォルター WA2000か)
ブルパップ型ガス圧利用半自動式狙撃銃。
1970年代に起きた《ミュンヘンオリンピック事件》において、多数のアスリートが死傷した為、ドイツ警察が高精度の半自動式狙撃銃の開発を要請し、ヴォルター社が製造した物だ。同時期、H&K社も《PSG-1》という半自動式狙撃銃を製造しており、結果としては《PSG-1》の方が採用されている。
故に、《WA2000》の方は製造数が少ないが、特異な形状から、様々なメディア媒体で使われていた。
7㎏以上の重量は確かに重いが、それが反動吸収に貢献しているし、全長自体は比較的小さい。歴史的にはあまり日の目を見ない銃だが、良い物である事は確か。……実銃の話であって、
(……候補に入れとくか)
脳裏に描いた暫定購入リストに記しておく。
その間も、フォーゲルは目を輝かせている。
「これは、《APS》だね。また特殊なモデルだよ」
あぁ、全くだ。
冷戦下のソビエト連邦で製造された水中用アサルトライフル――まぁ、競技用空気銃にもAPSという物はあるが、アレはごく普通の形状だ。
ベースは同国の顔、AKシリーズだろう。使用弾頭は針に近い物で、水中での有効射程は11~30mぐらいだったが、元が元だからか、精度は劣悪だったはずだな。
何にしても、珍しいモノであることに変わりはない。
「各部もしっかり造られてる……。製作者の愛を感じるよ!」
商品の出来を確認し、無邪気に楽しんでいる。マスターとして、一人のミリヲタとして微笑ましい光景だ。
優先順位はこっちが上かな。
「で、他には……《SRS》に……《M98B》、《96式自動砲》」
なんか、今日は狙撃銃ばっかり目に付くな。
何でだよ。
しかも、最後の以外は割りと最近のモデルだし!
と、思い辺りを見回せば、ここは狙撃銃コーナーだった。目について当然。
……はぁ。疲れてんのか、俺は?
「……あ、煉」
ほら、聞き覚えのある幻聴まで聴こえ――ん?
振り返る。
一人の少女がいた。
長めの銀髪。肌は白く、華奢な体躯に端正な顔。
しかし、表情筋が殆ど動いていない為、どことなく人形じみていた。
「……何の用だ、リーシャ」
リーシャ・ギアハート。
同い年、お隣さん、通う大学すら同じという、何処かのギャルゲーならば、ヒロインポジにいそうな少女だ。
「別に。……ただ、物色に来た」
「…………お前もか」
「……随分とダウナーじゃないか、
そう言うのは、リーシャの肩に座っていた、軍装の神姫。
フロントライン製の戦車型神姫《ムルメルティア》型だ。
基本性格は軍人気質、武人……とでも言えば、大体の奴は理解する。
融通が効かないのがたまに瑕……だろうか。
「ダウナーにもなるさ、フォッケ。ここ最近の講義がハードで、な。疲れが抜けきれてねぇのかもしれない」
「……アレは…………辛かった」
昨日までの事を思い出す。
俺とリーシャが選択するコースは、メカニックコースであり、様々な機械にまつわる技術を専門的に学ぶ。
で、今週の講義は……講義ではなく、実習だった。
講堂に入ってくるなり、講師はこう言ったからだ。
『作業着に着替え、実習棟に来い』
言われるがまま、作業着に着替えて実習棟に言ってからは生地獄同然。
手始めに、バックホー(小型のパワーショベルのような物。配管埋設工事等に使われる。一般には“ミニユンボ”で通じるが、ユンボは商品名である)を一人で
生徒を何だと思ってやがる、あの講師。
結果として、クリア出来たのは俺とリーシャだけであり、他の奴らは今も死んだ魚のような目で、整備を続けているはずだ。
「……だけど、足はここに向かっていた」
「……週課、だったな」
苦笑。
自然と俺達は週末、トイガンなりの物色に行くようになっている。
だから、ここでよく会うのは普通。
「……でも、めぼしい物はなかった。……だから、煉……」
リーシャがまっすぐ俺を見る。
そして言い放った言葉は――
「――神姫バトル、しようよ」
ストレス発散への誘いだった――
数分後――
店内の片隅には、何故か神姫バトル用の筐体がある。
設置理由を店主に聞いたことがあるが、はっきりとは答えなかったな。
まぁ、それはともかく。
「ルールはどうする?」
「制限時間600秒。フィールドは市街地。武装は神姫固有のセットのみ」
「……いつものだな」
返答しつつ、俺は筐体の指定位置に着き、準備。リーシャも既に準備中。
数分後に準備を終えた俺達は、各々の神姫と一体化するライドシステムに接続。電脳空間へと没入。
数十秒程度、視界がブラックアウト。
再び視界が回復した時には、目の前に廃墟と化した市街地。
試合開始を待つ――ほどもなく、目の前に投影される、カウントダウン。
カウントがゼロになり、響く試合開始のコール。
『今日も市街地かぁ。まぁ、良いけどね』
『索敵を開始する』
脳内に直接語りかけるようなフォーゲルの声を聴きつつ、背部のウェポンラックから長大な砲身を外し、手にした機関部のみの大型重火器に接続。
ゼルノグラード型の大型のウェポンマウントユニット、四肢自体を武装のハードポイントとした上で、主武装の機関部を共通化させる事によって、重武装を可能にしている。
で、現在の保持武装は 《Zel L・R/Sライフル》。
長距離砲撃形態の主武装。
L・R/Sライフルを肩に担ぎ、近くの廃虚内に身を潜めつつ、伏射姿勢。
さぁ、いつでも来い。
と、思った矢先に市街地に溶け込むような、灰色の武装を纏う神姫を確認。フォッケだな。
照準を合わせ――僅かにずらす。
そして、トリガーを引く。
轟音。
大口径の砲弾が撃ち出される様を確認しつつ、機関部から《L・R/Sライフル》の砲身を分離。背部ウェポンラックに戻し、別の砲身を取り付ける。
《Zel P・A・Rショットガン》
散弾砲形態の主武装へと換装。
廃墟から躍り出ると同時にマガジン分――3発撃つ。
『狙われてるよ、マスター!』
『解ってる』
現に、放物線上に撃ち出された砲弾が見えている。
アレは、榴弾。
《P・A・Gショットガン》の砲身を脚部ハードポイントに格納しつつ、背部ウェポンラックの砲身へと換装。
《Zel 0.76㎜ガトリングキャノン》。
換装しつつ、後方へと“ターン”と呼ばれる回避アクションを使用する。
が、すぐさま飛来する複数の小口径弾。
チッ、ハンドガンか。
ダッシュを駆使して避ける。
機関部を取り付けたままの《Zel 0.76㎜ガトリングキャノン》を背部ウェポンラックへ。
代わりに、脚部外装ハードポイントから、銃剣付き大型自動式拳銃《BKピストル》を抜き様に速射。
すると、フォッケは俺と同じくダッシュで射線を避けつつ、接近。
ヤバイ。
ゼルノグラード型固有武装の格闘用武装は扱いづらい《ハンド・パイルドライバー》のみ。
対するムルメルティア型固有武装には、格闘用の大型副腕がある。
格闘戦は不利だ。
ならば、近付かれる前に仕留める。
BKピストルを脚部外装ハードポイントヘ。
Zel 0.76㎜ガトリングキャノンを抜き、
『It's a Show time!』
特殊機動――レールアクションを起動準備。
視界上に、青いレールが表示され――ガトリングキャノンを構えて、掃射。
マガジンの1/3程を撃ち、次のポイントへとレールに沿って移動しつつ、更に速射。
全部避けられるが、発動したレールアクションは途中停止できない。
垂直上昇。
素早く《Zel L・R/Sライフル》へと換装。
砲撃。
今度は――
『直撃♪』
命中したか。
目に見えて減る、フォッケのLPゲージ。
レールアクション最後の一撃の為に伸びるレールは、フォッケの眼前。
これが一番危険だ。
と、思った直後、フォッケへのロックが切れる。
レールアクションを使われたか。
素早くロックし直すが、眼前には大量の榴弾が迫っていた。
クソッ!固有レールアクションかよっ!!
レールアクション中だった俺は榴弾の雨をもろに食らい、よろける。
体勢が戻ると同時に、眼前には副腕を振り絞るフォッケ。
『マスター、パイル!』
分かってる!
俺も左腕を振り絞り、
クロスカウンターの如く、副腕とパイルドライバーが交差するが――
可動域の問題で、俺の突き出したパイルドライバーのみが直撃。
怯むフォッケ。
このチャンスを逃す気は無い。
二段目の攻撃が起動する前に、直前の攻撃をキャンセルして、別の攻撃へと繋げる、“アタックチェイン”で、汎用レールアクションの一つ、パイルバンカー用のレールアクションを発動。
会心の一撃を叩き込み、フォッケのLPを削り切った――
一時間後――
「結局何も買わなかったね~」
俺とフォーゲルは帰宅。
「次は勝つぞ、マスター」
「……分かってる。でも、反省会は後で」
少し遅れて、家に入ってきたのは、リーシャとフォッケ。
「………家は隣だろ、リーシャ」
「まだ、夕方になってない。……それに、友達の家に遊びに行くのは悪い事?」
「…………まぁ、いいか。大したもてなしはできないぞ」
休日ぐらいは寝たいがな。
なんて、思いは胸に秘めておく。
その後、フォーゲルとフォッケがふとした事から銃火器の話を始めてしまい、日付が変わるまで、俺とリーシャは議論に付き合わされる事になる。
結果として、翌日は二人揃って寝過ごす事となった。
こんな日常でも、楽しくないわけでは無いから、良いのだが――
――はい、短編《火器型神姫との一日》でした。
僕は武装神姫に関しては、武装神姫BATTLE MASTERS Mk.2のみプレイし、それを元に思い付きで書いたものが、本作です。
因みに初期神姫は迷わず、ゼルノグラード型です。
アーンヴァル型やツガル型を好む武装紳士の方々が多いですが、僕は断然、ゼルノグラード型が好きですね。勿論、それを押し付ける気はありませんが。
さて、話が脱線しかしないようなので、この辺で閉めます。
拝読ありがとうございました。