IS インフィニット・ストラトス ~天翔ける蒼い炎~   作:若谷鶏之助

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 突如アリーナに出現した黒い異形の機体。本来ISにはあるまじき「全身装甲(フルスキン)」のそれは、巨大な腕を含めれば、二メートルはあろうかという巨体を誇っていた。その腕にはこれでもか、とばかりにビームの砲口が覗いている。さらに、人の心を感じさせない頭部のセンサーが禍々しさに拍車をかけていた。

 

「え、な、何、あれ……?」

「あんなの、見たことないよ……!」

 

 観戦していた生徒たちは、慌て始めた。勿論、あんなものの存在を知っているわけがない。

 

「あ、あれはなんですの!?」

 

 セシリアが俺に尋ねるが、俺にも全く分からない。

 

「俺にも分からない。ただ、今は避難が優先だ」

 

 教師の部隊もじきに到着するだろうし、今は混乱する生徒たちをまず非難させなければ。このまま戦闘が起こったらどうなるか……。

 

「いや、それもできない!」

 

 俺の言葉に箒が答えた。その理由は、アリーナのモニターを見ればすぐに分かった。

 

「アリーナの遮断シールドがレベル四に設定されているだと……!?」

 

 アリーナは緊急時の避難所も兼ねている。遮断シールドのレベル四というのは、何かしらの天災やテロがあった際の最も厳重な展開強度だ。当然、そんな状態ではアリーナの内と外で出入りはできない。

 

「翔、どうする? こうなったら避難も救助もできない!」

「…………」

 

 落ち着け。こういうときこそ落ち着かなければならない。優先順位を考えろ。自分がするべきことを考えるんだ。俺はそのためにここにいる。

 

「……セシリア、箒。お前たちは生徒を第二ゲートまで誘導してくれ」

「なっ、何を言っているんだ! ロックされているから、避難はできない!」

「――俺がロックを解除する」

「えっ!?」

 

 二人が驚いた声を上げた。

 

「俺がこれからシステムをハッキングして、コントロールを奪い返す。そうしたらすぐに第二ゲートのロックを解除するから、ここからすぐに脱出してくれ」

 

 当然もうハッキング自体は行われているだろうが、時間はかかるだろう。俺がやった方が断然早い。

 

「で、できるのか……?」

 

 半信半疑に尋ねる箒。愚問だな。

 

「俺を誰だと思っている? 俺は、篠ノ之束の弟子だぞ?」

 

 俺があいつから学んだものはIS関係のものだけではない。コンピューターのハッキング技術その他もろもろ、学んできた。

 

「――分かりました」

「セシリア!?」

「あなたを信じますわ、翔さん」

 

 セシリアは笑顔で言った。

 友達になった日以来、セシリアは俺に全幅の信頼を置いてくれている。こんなときでも、俺のことを信じてくれる。それはとてもありがたかった。

 

「ありがとう。――箒も、頼んだぞ?」

「……承知した」

 

 箒も一応は納得してくれたようだ。この場は二人に任せて、俺はコントロール・ルームへ急いだ。

 

 

 

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 

「お前は、誰だよ」

「…………」

 

 一夏は漆黒の異形に問いかけるが、反応はなかった。

 

『織斑君! 凰さん! 今すぐアリーナから脱出してください!』

 

 一夏の耳に、山田先生からの通信が入った。

 

「――いや、ここは俺たちで食い止めます。みんなが避難する時間を稼がないと」

『そ、それはそうですがっ――』

 

 無理矢理先生との通信を切って、一夏は前の異形に再び視線を戻す。

 

「いいよな、鈴」

「事後報告じゃないのよ」

 

 呆れたように言う鈴だが、特に反対するような様子でもない。つまり、やろうということ。

 一夏は《雪片弐型》を構える。鈴も青龍刀、《双天牙月(そうてんがげつ)》を構えて、相手の出方を見る。

 

「来るぞ、鈴!」

「わかってるわよ!」

 

 不気味な黒いISは、一夏と鈴に突進した。

 

 

 

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 

「――システムハック完了。第二ゲートを開放」

 

 コントロール・ルームでは、俺がシステムのハッキングを完了させていた。実に、事態の急変から数分。

 

「あ、天羽君、あなたは一体どこでそんな技術を……?」

 

 山田先生が信じられないといった様子で俺に聞く。確かに、俺のハッキング技術を鑑みても今回は早かった。何故か。それには「とある理由」があったのだ。

 

「言ったでしょう? 俺は篠ノ之束の弟子だと。コンピューター技術は、師匠の十八番です」

 

――そう、その師匠は十二カ国もの軍事コンピューターをハッキングしたほどの腕なのだから。

 

「……だろうな」

 

 織斑先生は束のことをよく知っているので、驚いていない様子だ。

 

「先生、あとは任せてもよろしいですか? 俺は二人の救援に向かいます。流石に二対二ではきついでしょう」

 

 それに、実際に見て確かめたいこともある。織斑先生は「……了解した」と少し間を置いて許可を出した。

 

「だが、天羽、これが片付いたら話がある。後で来い」

 

 束の推薦だと言っても、流石に何もかも秘密というわけではいられないか。

 

「――分かりました」

 

 さて、どこまで聞かれるか。まあそれもこれが片付いてからだ。織斑先生の言葉を背に、俺は駆け出した。IS学園を護る。それは束から託された、俺の使命なのだから。

 コントロール・ルームを飛び出し、ピットへ走って向かう。

 

「翔さんっ!」

 

 走る俺に、セシリアが併走する。

 

「避難は終わったのか?」

「ええ。篠ノ之さんと二人でやりましたもの、すぐに終わりましたわ」

 

 セシリアはしっかりやってくれたようだ。

 システムの奪還に加え、これで避難も済んだ。となれば、残るは敵性ISの排除だ。ピットについた俺たちは、すぐに射出口を開くスイッチを押した。

 

「これから、アリーナに突入する」

「私も加勢いたしますわ!」

「それはダメだ」

 

 俺は即答した。「な、何故ですの!?」とセシリアは尋ねた。その理由は一つ。

 

「このままでは、お互いに邪魔になってしまう」

 

 セシリアのブルー・ティアーズは、援護能力の高い後衛志向の機体故、一対多向けの機体だ。それに対し、俺の蒼炎は前衛志向。役割が被ることはないが、俺たちの場合、どちらもビットという空間を圧迫する武装を持っている。俺の蒼炎は《飛燕》の使い方次第でどうとでもなるが、セシリアのビットはそうはいかない。

 要は空間制圧力の高い《飛燕》や《ブルー・ティアーズ》がある以上、俺たちはお互いの行動を制限してしまうのだ。

 

「で、でしたらビットは使わずに――」

「じゃあ連携訓練をしたか? その時のお前の役割は? ビット無しでどういう風に戦う? 味方の構成は? 敵はどのレベルを想定してある? 連続稼働時間は?」

「う、うぅ……」

 

 小さくなってへこむセシリア。説得のためとは言え少々言い過ぎたかもしれない。

 ただ、セシリアは俺のためを思って協力を申し出てくれている。俺を信じてくれたセシリアに報いるためだ。勇気を出そう。俺は覚悟を決めると、セシリアの頭に手を乗せた。

 

「――あっ……」

 

 セシリアは咄嗟のことで赤くなると、驚いた様子で俺を見た。

 

「心配してくれてありがとう。だが、それは無用だ」

 

 俺はそう言って微笑んだ。

 

「俺を信じろ。必ず倒す」

 

 はっきりとした意思を込めて、セシリアに言った。セシリアがぴくんと震え、頬を赤く染めた。

 

「もう、ずるいですわ、翔さん……」

 

 セシリアは赤らむ頬を膨らませて、俺から目を逸らした。この表情は、初めて見る女の子らしい顔だ。セシリアの印象は、最初からがらりと変わった。勿論、良い方向に。彼女が見せる最近の表情が、セシリアにとっては自然体なのだ。

 

「こんなことをされては、どうしようもありませんわ……本当に強引なんですから……」

 

 笑顔で言う辺り、本当に怒っているわけではないというのは分かる。

 

「――じゃあ、行ってくる」

「ええ。お待ちしておりますわ」

 

 セシリアは、俺を信頼してくれている。俺が俺であることを認めてくれている。 その事実は、俺の心に確かに届いた。

 俺は蒼炎を展開、大空へ翔け出す。

 ――行くぞ、蒼炎。セシリアが待っている。

 

 

 

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 

「くっ」

 

 黒いISに吹き飛ばされ、苦悶のうめき声を上げる一夏。

 

「一夏っ!」

 

 鈴が衝撃砲を放ち、敵を牽制する。その間に一夏が体勢を立て直した。

 二対一と数的優位の戦いではあるが、敵ISの高い火力と、試合のエネルギー消費も重なって二人は苦戦していた。特に、黒いISのスラスターの性能が高く、攻撃もなかなか当たらないのが問題だった。一夏はコンソールに表示されているエネルギー残量を確認し、苦々しい表情を浮かべた。

 

「……まずいな。エネルギーが心もとない。鈴は?」

「あたしもよ。残り少ない」

 

 そもそも、二人は試合をしていたのだ。一夏は鈴にかなりエネルギーを削られたあとに、この機体と戦っているのだ。万全でない状態で敵と交戦するのはキツイ。

 一夏は「急がなきゃな」と《雪片弐型》を握り直した。そして、目の前の黒いISを眺める。

 一夏の中では、数回の衝突の結果、ある一つの仮説が立っていた。あくまで仮説に過ぎないが、それをより確かなものにするため、一夏は隣の鈴へ通信を送った。

 

「なあ鈴」

「なによ?」

「あれって、本当に人が乗ってるのか?」

「はあ?」

 

 鈴は何を当たり前なことを、とでも言いたげだ。しかし、一夏にはあの黒いISが機械であるようにしか見えなかった。もちろんISだから機械なのだが、そういう意味ではなく、人が乗っている気がしないのだ。行動がプログラム染みている。相手の攻撃に対しては、迎撃。数度の攻撃をしのぎ、反撃に出る。それを繰り返しているだけ。作業的と言っても良いくらいだ。

 

「あ、当たり前でしょ!? ISは人が乗らなきゃ動かな――」

 

 ここで鈴ははっと何かに気付く。

 

「……そういえば、あいつらあたしたちが話してるときにはあまり攻撃してこないわね。興味があるみたいに……」

「だろ? だから、もしかして無人機なんじゃないかって」

「…………」

 

 鈴は考える。無人機であるメリット、無人機であるデメリット、それらを統合して割り出される無人機の特徴。確かに、一夏の考察はあながち間違いとも言えなかった。

 

「仮に、あれが無人機だとしたらどうだ?」

「なに? 無人機なら勝てるっていうの?」

「そうだ。この《雪片弐型》の攻撃力は、『零落白夜』を含めてもおそらく高すぎる。普通の人間相手なら全力を出せないが、無人機なら、心置きなく使える。最大出力でな」

 

 一夏は《雪片弐型》を構え、鈴に笑いかける。

 

「あ……」

 

 頼もしい、その笑顔。勝機を見出し、やるべきことが見えた一夏は、「きっとこの人なら何かしてくれる」という不思議な頼もしさに溢れていた。普段朗らかな彼が時折見せる、男らしいその表情。鈴はそれがたまらなく好きだった。

 

「……仕方ないわね」

 

 これでも一夏と鈴は何年もの付き合いだ。一夏が賭け事ではいつも「大穴」を狙うタイプだということも。なんだかんだと言いつつ、鈴がいつもそれに乗っかって一緒に損をしてくれることも。お互いによく知っていた。そしてその「大穴」が当たるときは、いつも鈴が傍にいる。

 

「さあ、やるわよ一夏!」

「オーケー!」

 

 戦闘態勢の二人に、黒い機体は全身のスラスターを点火させて接近した。

 

走吧(ゾウバ)(行くよ)、甲龍(シェンロン)!」

 

 鈴が手に持った青龍刀が高速回転させ、敵機に詰め寄る。甲龍の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)が砲撃形態に変形、見えない砲弾が敵機に連射された。

 作戦は単純。シールドエネルギーにまだ余裕のある鈴が前衛となって黒いISを迎撃、もはや少しも無茶はできない一夏は、『零落白夜』の一撃のためにシールドエネルギーを温存、確実に決まるタイミングで攻撃して勝利するというものだった。

 しかし、この作戦は前衛の鈴の負担が極めて大きい欠点があった。後衛の一夏がISの特性上援護できないからだ。長時間戦況が膠着するのは、シールドエネルギーの少ない一夏たちにとって不利だった。

 

(そうだ、次の一撃は、外せない……!)

 

 プレッシャーを感じて、《雪平弐型》を握る白式の手がガタガタ揺れた。一夏にとっては、いきなり経験する初めての実戦なのだ。「失敗したらどうなるか分からない」……そんな圧力を感じていては、普段の力が出せない可能性だってある。

 

(――いや、それじゃ、いけないんだ)

 

 一夏は柄にもなく恐怖している自分を叱咤し、刀を握り直した。こんなことでどうする。このままでは、実質単機で敵機を抑えている鈴に申し訳が立たない。今も鈴は苦悶の表情を浮かべながら、一夏が受けるべきダメージを肩代わりしている。

 

「そうだ、やるんだ。やるしかないんだ……!」

 

 一夏が覚悟を決め、白式が専用能力を起動する。《雪片弐型》が二つに裂け、中から白い光の刀身が顕になった。鈴も一夏の『零落白夜』が発動したのを確認し、攻撃用のエネルギーを全て使って、最大出力の衝撃砲を放った。黒い機体は、その砲撃を避けるために大きく飛んだ。

 

「今よ、一夏!」

「――ああ!」

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)。一度放出したエネルギーを吸収、増幅させて再度放出後衛の距離にいた白式は、驚異のスピードで無人機に迫る。

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

 加速の勢いも加えた横薙ぎ。白い刃は、敵を真っ二つに切り裂く――はずだった。

 

「な、何っ!?」

 

 黒いISは、左腕の肘から先をパージ、一夏にそれを斬らせて爆発させ、剣撃の勢いを吹き飛ばした。パージした腕が炸裂装甲として機能した形になり、一夏の攻撃は無力化された。

 が、当然に右腕はフリー。その太い豪腕が、『零落白夜』の反動でシールドエネルギーが尽きた白式を薙いだ。

 

「ぐああああっ!」

「一夏ァ!!」

 

 鈴の悲鳴がアリーナに木霊した。一夏は遥か遠くまで吹き飛ばされ、その衝撃を受け止めたのを最後に、一夏を守る純白の装甲はガントレットへと戻った。鈴はエネルギーを使い果たして衝撃砲が撃てない。

 万事休す、打つ手無し――。

 のそり、のそりと黒い機体は一夏へ歩んでいく。一夏は全身の痛みに意識が朦朧とする中、唇を噛んだ。

 

(くっそ、お、俺は――)

 

 そのとき、上空からの一筋のエネルギー弾が、黒いISを攻撃した。

 

「あ、あれは……」

 

 空から飛行してきたのは、蒼と赤が印象的な機体――。

 

「翔!」

 

 

 

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 

「翔!」

「悪い。待たせたな」

 

 何とか間に合ったようだ。俺は一夏と黒い機体の間に入り、敵に《荒鷲》ライフルモードの照準を合わせた。敵機は俺と見合ったまま、何かしてくる様子はない。照準を外しても、それは変わらなかった。まるで「待っている」ようだ。

 

「一夏、大丈夫か?」

「あ、ああ、何とか。でもちょっと、意識がやべえかも……」

 

 一夏の顔が青い。絶対防御を貫通されたのか、一夏本人へのダメージもあるようだ。白式のシールドエネルギーが尽き、待機形態へ強制解除されているのがその証拠か。

 

「天羽翔!」

 

 ISの攻撃用エネルギーを使い果たした凰が、ホバリングで俺の隣に来た。

 

「凰か。どうした?」

「あんたに、言っとかなきゃいけないことがあるの」

 

 凰は、これまでの戦闘で得た情報を整理して伝えてくれた。

 曰く、敵の主武装はビーム兵器であること、こちらの様子を伺うような不可解な挙動があること、そして敵機が無人機である可能性が高い、とのことだった。

 

「――無人機、か」

 

 ISが無人で動くなど聞いたことがない。ISは、操縦者の意思を反映させ、自在に空を翔けるもの。だがもし、無人操縦などということができるとしたら、その技術を生み出したのは束しかいないだろう。

 いずれにせよ貴重な情報だ、これからの戦いが楽になる。

 

「……そうか、ありがとう」

「ううん、こっちこそ。助かったわ」

 

 凰は安堵するように笑った。意外にもあっさり礼が飛んできて驚いた。もっとキツイ性格かと思っていたのだが。

 

「な、何よ」

「意外だったんだ、急にありがとうと言われたものだからな。何で早く来なかったんだ、と言われそうだと考えていたのに」

「……あんた、あたしのことそんなやつだと思ってたのね」

 

 凰は苦笑いだ。

 とにかく、避難のための時間を稼いでくれた一夏と凰には感謝だ。お陰で怪我人も出てない。

 

「翔……」

「何だ、一夏」

「悪い、尻拭いさせちまって……」

 

 一夏が申し訳なそうに言う。思わずふと笑みがこぼれた。

 

「気にするな。お前の尻拭いなんぞ、今まで何度もしてきたろうが」

「そうだっけ……」

 

 体育のサッカーで一夏が外したシュートを押し込むのも、宿題を忘れた一夏に答えを見せてやるのも、上級生に喧嘩を売った一夏の背中を預かるのも、いつも俺の仕事だったのだ。今日この一件くらい、気にすることでも何でもない。

 

「それはもういいから、今は休め」

「……悪い」

 

「じゃあ、ちょっとだけ休むわ」と一夏はゆっくり目を閉じた。初めての実戦だったろうから、精神的な疲労も大きかったはずだ。

――お疲れ様、一夏。

 凰は一夏の傍に行くと、意識を失った一夏を守るように無人機――そう呼ばせてもらおう、その無人機に向き合った。

 

「凰、一夏を頼む」

「え、ちょ、ちょっと待ってよっ! あんた、一人でアイツとやる気!?」

 

 凰が信じられない、と言った様子で俺を見る。

 

「俺のことなら大丈夫だ。俺は、負けない」

「…………」

「凰は一夏を守ってやってくれ。万一が無いとは言い切れない。シールドエネルギーは、まだ残っているんだろう?」

 

 ほんの一瞬考えたのち、「分かったわ」と凰は頷いた。

俺は彼女に「ありがとう」と一言。どうもこの凰鈴音という少女、行動は直情的な割に物分りがいい。自分が置かれている状況を判断し、しっかり白黒つけれる人間なのだろう。

 

「それじゃあ、凰。頼んだぞ?」

「オッケー。一夏のお守りは任せなさい。あとね」

 

 あと、何だ?

 

「あたしには鈴音って名前があんだからさ、そっちで呼びなさいよ」

 

 凰はにっと八重歯が覗く笑顔を見せた。

 ――なるほど。凰鈴音、なかなか面白いやつだな。

 

「そうだな。ならこれからは鈴音と呼ばせてもらおう」

「そうしなさいよ。だから、あたしもこれからあんたのこと翔って呼ぶから」

 

 明るい凰の声。ふん、なかなかいいじゃないか。好きになれそうだ。

 俺は《荒鷲》をソードモードに変形、《飛燕》も展開し、いつものスタイルで敵へ構える。

 

「鈴音、また後で話をしよう」

「ええ、モチロン」

 

 鈴音に一言告げ、無人機へ挨拶代わりに《飛燕》を飛ばした。

 待たせたな。親友の一夏と新しい友――鈴音を攻撃したこと、しっかり落とし前つけてもらおうか!

 

「はあっ!」

 

 ソードビットで囲みつつ、《荒鷲》で斬りかかるが、敵ISは素早い動きでソードビットを回避する。回避した後はビームで反撃、俺と距離を取ろうとする。どうも無人機は俺が近接戦を得意としている、と考えたらしい。

 

「正解だ!」

 

 間合いを詰めた俺は《荒鷲》で斬りかかる。

 思った以上に反応は鋭く、剣は残った右腕で防御もしくは回避してくる。無人機はバックブーストで大きく距離を取った。中距離戦がお望みのようだ。

 

(なら、これでどうだ?)

 

 回収した《飛燕》を再び射出、敵ISの周囲から自動攻撃を仕掛けつつ、俺は《荒鷲》ライフルモードを放つ。やはり無人機は《飛燕》の複雑な機動にも対応し、ライフルの弾もしっかり避けた。《飛燕》がロックされ、俺は《飛燕》を後退させ、俺の周囲へ待機させた。

 しかし、素晴らしいプログラムだな。回避行動、迎撃行動のパターンは俺でも舌を巻く。

 この蒼炎の武装は《荒鷲》と《飛燕》だけである。《飛燕》そのものにかなり硬度があるものの、こいつのような高火力の兵器があるなら破壊されてしまうかもしれない。そうなれば俺は多くの攻め手を失うことになる。

 さて、どうするか。このままでは倒せない。しかし敵の撃破にはさらに高い決定力が必要だ。《飛燕》を飛行させている状態では撃墜されるリスクが高いし、中距離戦も弾が当たらないし、単純な接近戦も効果が薄い。ならば――。

 俺は《飛燕》を《荒鷲》周辺に停滞させる。

 

「――合体」

 

 俺の言葉と同時に、六基の《飛燕》が《荒鷲》と繋がり、その大きさを変えていく。合体が完了すると、《荒鷲》は二メートル以上はある巨大な一本の剣になっていた。

 

「――《荒鷲・鳳凰(ほうおう)》」

 

 これを使うのは久しぶりだ。

《飛燕》を六基合体させた《荒鷲》は、《荒鷲・鳳凰》となる。あまりに巨大で扱いにくいため、俺はあまり使用しない。だが、その破壊力・攻撃範囲は絶大だ。しかも相手は無人機。何の遠慮も要らない。

 

「行くぞ、蒼炎!」

 

 スラスターにエネルギーを溜めて瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使用し、一気に無人機との距離を縮める。バックステップで間合いを取って迎撃体勢に入った無人機。

 寄らせないつもりだろうが、甘い!

 

「はあっ!」

 

 長大なリーチの剣は容易に無人機を射程に捉え、《鳳凰》を袈裟懸けに振り抜く。無人機は体を反らせ、避けようとする。俺の斬撃は普通なら当たらない。だが、この《鳳凰》は、かわせたはずでもかわせないほど、攻撃範囲が広がっている。俺の一撃が、敵の腕をかすった。かすっただけだが、《鳳凰》は敵ISの腕部ビーム砲を破壊する。

 

「まだだ!」

 

 後退した敵を逃がさず、そのまま追撃する。前方からの敵のビーム砲を細かい機動で回避しつつ、懐にもぐりこむ。

 回転の勢いを加えた脚部への払い。次の俺の斬撃は、黒い機体の脚を完全に捉えた。脚部の装甲のみならず、脚そのものを斬り飛ばした。すかさず反撃の右腕が飛んできた。剣そのものを盾に防ぎ、蹴りで腕を弾く。

 続いて、腕が、肩が、背部スラスターが、俺の攻撃によって次々に破壊されていく。

 

「《飛燕》!」

 

 今度は合体を解除、《飛燕》で敵の全身を攻撃する。ガガガガ、とソードビットが縦横無尽に駆け回り、敵のあらゆる部位を切り裂いていく。

 

()るっ!」

 

 俺の放った突きが敵の頭部を貫いた。しかし、肉を斬った感触は全く無かった。やはり無人機。俺は《荒鷲》を引き抜くと、一旦距離を取って出方を見る。

 もはや全身にあった武装はほとんど機能せず、もう稼動できるかのギリギリのレベルにまで追い込んだ。全身から漏電していて、紫電が走っている。

 

『ガ、ガガ、ガガガガ……』

 

 半壊した無人機は自らの敗北を悟ったのか、妙な機械音と共に離脱を試みた。襲撃の際に開けたアリーナの穴に向かい、一目散に逃げていく。這々の体でのろのろ飛んでいる無人機は、もはや巨大な的だった。

 

「……悪いが、逃がすつもりはない」

 

 あれの中にあるはずのコアも、そして俺たちとの戦闘で得たであろうデータも、すべて「親」のもとには返さない。必ず、ここで止める。

《荒鷲》をライフルモードに変形、さらに《飛燕》を合体させた。

 

「《荒鷲・鳳凰》……『最大出力形態(バーストモード)』!」

 

 《飛燕》によって強化された《荒鷲》のライフルモードは、巨大な大砲。手持ち武装とは思えないサイズのそれが、空に浮かぶ黒い機体をロックする。

 

『エネルギー充填……六八%、八五%……充填完了』

 

 コンソールに表示された文字を確認し、最終安全装置を解除した。《鳳凰》の砲口にエネルギーが収束していく。

 

「沈めッ!!」

 

 トリガーを引いた瞬間、《鳳凰》が力の奔流を吐き出した。巨砲から放たれたそれは、ズドォォオオオ、と時空を揺るがすような派手な爆発音と共に、黒い機体に直撃した。爆炎の中、もはや胴体部のみとなった無人機の残骸が落下し、アリーナのグラウンドにガシャン、と落ちて動かなくなった。

 敵性IS、完全に沈黙。ミッションコンプリートだ。

《荒鷲》を通常の形態に戻して、俺はふうっと一息ついた。蒼炎のエネルギー残量はほぼゼロ。《鳳凰》の最大出力形態(バーストモード)の反動で、機体全体がオーバーヒートしている。熱を持った砲身を冷ますように、《荒鷲》の展開装甲の隙間から湯気が出ていた。

 

「……ほ、本当に一人で倒しちゃうなんて」

 

 ゆっくりグラウンドへ降り立った俺に、鈴音から通信が入った。ドヤ顔で

 

「どうだ? 驚いたか?」

「……悔しいけど」

 

 鈴音は呆れたように言った。一夏は、気を失ったまま、甲龍の腕の中で眠り続けていた。

 

「俺たちも戻ろう。あとは先生たちが何とかしてくれる」

「そうね。一夏を医務室に連れてかなきゃいけないし」

 

 状況終了。

 俺は胸に抱いた一つの疑念を解消できないまま、ピットへと戻った。

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