傭兵上がりの高校生   作:小林輝昭

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こんばんは。

それでは本編をどうぞ。


NO.5

新入部員勧誘週間を終えた週の週末、関東地方の某所。

殺風景な部屋の中に軍服に身を包んだ四名の男達が座っていた。その中で明らかに四人の中で最も上官であろう壮年の男が口を開いた。

「呼び出して悪かったな。貴公には、正式に我が隊、陸軍101旅団・独立魔装大隊に所属してもらう。『永角哉太(えすみかなた)特尉」としてな。基本的には、武装一体型CADの開発が今後の主な仕事だ。質問はあるか」

目の前に座っている青年に問いかける。他の三人と比べて明らかに若い年齢であるが雰囲気は歴戦を潜り抜けてきた軍人と相違ない。

「以前のように海外の情報を集めたりするような事はあるのでしょうか」

「それはない。以前は、傭兵だったからできたことだ。傭兵であるならば、本官からの依頼という形だったが既に軍人となっている今では本官の権限だけでは、任務とすることはできない。魔法師であるならば尚更だ。貴官の質問に関する回答は以上だ」

「では、最後に一つだけ。 私の出自に関して知っている方はどれほどいるのでしょうか」

今のところ(・・・・・)我が隊ではここに居るメンバー。そして、言わずとももう一人はわかるだろう。 いずれ漏れるだろうがまだ時期尚早だ。君の存在を無闇やたらに世間に公表すると厄介な事になりかねないからな。君の方が良く分かっていると思うが」

思い当たる節があるのだろうか青年は、申し訳なさそうな顔をしている。

「わかりました。質問は以上です」

「わかった。既に知っていると思うが紹介しておこう。

真田繁留大尉と柳連大尉だ」

青年と話していた男が両隣に座っていた人物を紹介する。

右隣に座っていた男が立ち上がり、端末を配り始めた。

「真田大尉です、これからよろしく。では、特尉にやってもらいたい事について説明します。今、配った端末を見てください。この項目についてですが......」

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

激動の新入部員勧誘週間が終わりを告げた。風紀委員は、これから通常業務に戻る。謙吾に関しては、ご褒美(?)という一ヶ月間の見回りがあるが。

朝の授業前の教室では生徒同士でのお喋りの時間だ。恋愛やドラマ、映画そして学校行事もしくはイベントなど。こういったところは、普通の高校と何ら変わりはない。ここ暫くは部活動関連の話題になるだろう。部活動関連と言えば今、現在学校全体の共通の話題になっているのはやはり彗星のごとく現れた一人の男子生徒だろう。

「中津くん」

振り向くと女子生徒が三人いた。深雪、ほのか、雫だ。声をかけてきたのは、ほのかだ。先日の一件以来謙吾と打ち解けている。

「達也さんすごいですよね。かなり噂になっていますよね。なみいる魔法競技者(レギュラー)を打ち破ったって」

打ち解けたといっても達也の話ばかりだが。

謙吾は、会って数日で思いを寄せる事が本当にあるのだと本気で感心した。

それを指摘すると「そんなことはない」と強く否定されるのだが、次の日になるとまた話し出すので、隠す気があるのか?と疑いたくなる。

「確かに、達也は凄いと思う。色々な意味で」

初日に剣術部の次期エースであり、二年生ではトップクラスの実力者と目されている桐原武明を、新入生しかもニ科生(ウィード)が倒したとなると一科生にとっては面白くない。その結果として、達也に対する報復行為が続出した。それくらいで根を上げる柔な高校生ではないが、魔法なしで取り押えるためそれが更に彼等の神経を逆撫でし、また報復行為が増えるという負のスパイラルになってしまったのだ。

魔法を使わずに取り押えるという達也の行為が噂を呼び『魔法否定派に送り込まれた刺客』などという大層な肩書が付くことになったのだが。

謙吾が、この件を達也に伝えると「お前もか」とため息をついた。聞くとエリカとレオにも散々からかわれたらしい。しかも、廊下を歩いていても生徒同士でヒソヒソとこっちをみながら話す人が多いみたいだ。

「有名税のようなものだ」と言うと「そもそも誰のせいだよ」とこの件でかなり鬱憤(うっぷん)が溜まっているのか珍しく感情的になって言い返してきた。

そんな達也の気苦労など知らない深雪は

「お兄様なら当然です! やはり、お兄様に風紀委員になっていただいて正解でした。もっと早くお兄様の魅力に気づくべきだったのです」

と純粋に達也の活躍を喜んでいる。時々、兄妹愛なのかと思うことも多々あるが触れてはいけないことのように感じるので指摘はしない。

「このご時勢で、魔法を使わずに魔法師を手玉にとるなんて凄いね司波くんは。何かやっていたの?」

普段はあまり表情に出ない雫が、興味津々に深雪に尋ねる。

謙吾も入学式以降ずっと持っていた疑問だ。達也は、色々と特殊なのだ。試験の結果だけを見るならば、実技がかなり苦手で知識が豊富なただの生徒だ。たが、現実はアンティナイトがないと使えないキャスト・ジャミングを使い、対人戦に関しては達人の域に片足をもう突っ込んでいる。そして、起動式を読み取る事ができる力。どれも一介の高校生ではまずあり得ない。あるとするならば、自分と同じ軍人もしくは、何処かの門下生。最も可能性があるのは十師族またはそれに連なる者。

先に述べた二つは、達也の身のこなしに関しては説明がつくが達也の特異な力については説明がつかない。たが、十師族であるならば話は別だ。魔法師としての力は、血筋に依存する部分がかなり大きいからだ。尚且つ十師族であるならば、戦闘訓練もつけて貰う事ができる。

だから、謙吾は達也が十師族またはその傍系と考えているが一つだけどうしても分からない事がある。それは、魔法力の弱さだ。仮にも十師族の血縁者であるならば、一科に受かるぐらいの力は持っている筈なのだ。なのに達也は、一科どころかニ科さえもギリギリだ。本人に面と向かって「どうしてそんなに魔法力が低いのか」と聞くわけにもいかず、頭の中をグルグルと回っていたのだ。

「忍術使い九重八雲先生に、ご教授していただいてるからですよ」

ほのかと雫の顔には「誰?」とかいてある。それもそうだろう。忍術は、古式魔法に分類されるので古式魔法師にとってはかなりの有名人だが、現代魔法を使う一般的な魔法師は、知らなくて当然だ。名が知られない最も大きな理由は、世間への露出度の少なさだ。『九重八雲』は、俗世とは関わらないので必然的に表舞台へ登場することはない。

深雪もそれを分かっていたのかほのかと雫に人物像を説明していた。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

生徒会での昼食風景も、最初の頃とは様変わりしていた。二週間も経っていないのだが。

まず、ダイニングサーバーの出番がめっきりなくなった。

真由美もお弁当を作るようになったからだ。

実績のない真由美の腕前はいささか懸念されるところだったが(と言っても懸念していたのは摩利だけだった)、まずまず無難なレベルはクリアしていて、今ではおかずの交換などして楽しんでいる。

それから、メンバーが増えた。

あずさは特に声を掛けられない限りクラスメイトと一緒に学食、がパターンだったのだが、最近は毎日声を掛けられている状態になっていた。

「達也くん」

「なんでしょう」

そんなメンバーでお昼をとっている最中だった。摩利が達也の名前を呼んだ。

摩利はさりげなく切り出したつもりなのだろうが、野次馬丸出しの笑みが隠しきれていない。

「昨日、二年の壬生を、カフェで言葉責めにしたというのは本当かい?」

「・・・・先輩も年頃の淑女なんですから、『言葉責め』などという、はしたない言葉は使わない方がいいと思いますが」

「ハハハ、ありがとう。

あたしのことを淑女扱いしてくれるのは、達也くんくらいのものだよ」

「そうなんですか?自分の恋人をレディとして扱わないなんて、先輩の彼氏はあまり紳士的な方ではないようですね」

「そんなことはない!シュウは・・・」

そこまで言いかけて、摩利は「しまった」という顔で口をつぐんだ。摩利に散々してやられてきた謙吾が見逃すはずもなくニヤニヤしながらからかいだす。

「先輩って彼氏思いの良い彼女ですね。他人に対してそこまで彼氏の事を率直に褒める人なんてそうそういませんよ。先輩の彼氏は、幸せ者です。もう、ごちそうさまです」

そう言って謙吾は手をあわせる。

「・・・覚えておけよ、中津」

「もちろんですよ」

謙吾は、摩利の怒気を含んだ言葉を意に介すことなく返す。

そんな二人のやりとりが余程面白かったのか真由美は肩を震わせて笑っており、あずさはハラハラした表情でみている。

深雪は、何やらブツブツと独り言を呟いており全く聞いていない。達也は、そんな妹をチラッとみるが何も言わずに謙吾と摩利のやりとりを無表情で見ている。

「・・・それで、剣道部の壬生を言葉責めにしたというのは本当かい?」

これ以上謙吾と関わると墓穴を掘りかねないと思ったのか強引に話を元に戻した。

「・・・そんな事実はありませよ」

「おや、そうかい?

壬生が顔を真っ赤にして恥じらっているところを目撃したものがいるんだが」

不意に部屋の気温が下がりだす。

「お兄様・・・・?

一体何をされていらっしゃったのかしら?」

物理的に、かつ局所的に、室温が低下している。

「ま、魔法・・・?」

あずさの呟きには怯えが混じっていた。

「事象干渉力がよっぽど強いのね・・・」

真由美の呟きに達也は苦笑いを浮かべた。

「落ち着け、深雪。ちゃんと説明するから。まず、魔法を抑えろ」

「申し訳ありません・・・」

兄の言葉に、深雪は恥ずかしげに目を伏せ、ゆっくり息を整えた。

室温の低下が止まる。

「夏場は冷房要らずね」

「真夏に霜焼けというのも間抜けですが」

場を和ませる、というより自分が落ち着きを取り戻す時間稼ぎの色彩が濃い真由美のジョークを、達也はさらりと流した。

その上で達也は、この場の全員に、紗耶香との会話を正確に再現して聞かせた。

「どうも、風紀委員会の活動は、生徒の反感を買っている面があるようですね」

最後にそう締めくくると、摩利と真由美が同じように顔を曇らせた。謙吾としては、あり得る話かもしれないと思っている。

高校生ぐらいの年頃なら人を取り締まるなどの力を手に入れれば増長する生徒も出てきてもおかしくない。たが、トップの性格を考えるとそういう輩には鉄拳制裁が待っているだろう。

「しかし、点数稼ぎに強引な摘発、などという事が本当にあるんですか?少なくともこの一週間、そういう事例は見聞きしていませんが」

「わたしもです。

わたしの場合はモニター越しにしか現場を見ておりませんが、あの無秩序ぶりからすれば、風紀委員会の皆様の活動は、むしろ寛容だと思われますが」

達也と深雪の指摘に、真由美はいっそう沈鬱な表情になり、摩利は首を振りながら口を開いた。

「それは壬生の勘違いだ。思い込み、なのかもしれないが。風紀委員は全くの名誉職で、メリットはほとんど無い」

「・・・だけど、校内では高い権力を持っているのも、また、事実。特に学校の現体制に不満をもっている生徒から見れば、学内秩序維持の実働部隊である風紀委員会は、権力を笠に着た走狗に見られることもあるの。

正確には、そういう風に印象を操作している何者かがいるんだけどね」

真由美の言葉は、「正体は分かっているが手をこまねいている」と言外に伝えている。

正体を自分が知ってもできる事など微々たるものだから謙吾はそれ以上突っ込む気はなかったが達也は違ったようだ。

「正体はわかっているんですか?」

「えっ?ううん、噂の出所なんて、そう簡単に特定できるものじゃないから・・・」

「・・・張本人を突き止められれば、止めさせることもできるんだがな」

達也は真っ直ぐに真由美の目を見た。

真由美は直ぐに視線を逸らした。

明らかに動揺している。

「俺が訊いているのは、末端であることないことデマを流して印象を操作している下っ端の正体ではなく、背後で操っている連中の正体なんですが」

達也は、更に畳み掛ける。たが、真由美と摩利が答える気がなさそうなので最後の切り札をきった。

「例えば、『ブランシュ』のような組織ですか?」

動揺が驚愕に変わった。

硬直する真由美、そして摩利。

そんな二人の姿を、あずさが目を丸くして見ていた。

謙吾は苦笑いを浮かべている。

「何故、その名前を・・・・」

「別に、極秘情報という訳でもないでしょう。

噂の出所を全て塞いでしまうことなんて、それこそ、できませんから。現に知っていますしね」

達也は、謙吾に目をむける。

「達也のいう通りですよ、先輩方。誰も知らないと思っていたことの方が不思議です。まぁ、僕がそこらへんにいる善良(・・)な高校生ではないのかもしれませんが」

意味深な言葉の真意を測りかねる面々。

とりあえず一旦置いておくことにしたのか達也は真由美に改めて向き直り話を続けた。

 

 




いかがだったでしょうか。

寒くなってきているので皆様お体にはお気をつけください。
次回もお楽しみに。
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