どーせ、あとでしっかり戦ってもらいます。
「ふぅ…。」
ゆっくり湯船につかりながらまったりしているのは大和である。入渠のドッグで先の戦闘で傷付いた集中防御方式のバルジの修理に出し自身はゆっくり温泉につかっているのである。生身の肉体には装備のおかげでまったくの無傷だったため、大きく損傷した陸奥たちと違って別の場所での治療も必要がなく艦隊のほとんどが何かしらのダメージを負ってしまったので、大和は一人でここに来ていたのである。ふと、頭にタオルをおいて戦闘のことを振り返っていた。初陣とはいえ、戦艦や重巡に向けて主砲を撃つことが出来たあの瞬間が高揚感としてまだ心に渦巻いていた。その理由は史実が影響していた。本来、艦隊決戦の切り札として建造された大和であったが、真珠湾奇襲以来、戦闘の中心は航空機へと変わっていったのである。そのため、出番のない大和はその居住性から「大和ホテル」と揶揄されてることになった。その大和が唯一敵艦隊に向けてその主砲を轟かせたのがレイテ沖海戦、正確にはサマール沖海戦である。瑞鶴率いる機動部隊が敵機動部隊のつり上げに成功し、大和たち敵艦隊はレイテ島へと向かう最中、敵艦隊と遭遇、対艦射撃を行っているのである。大和の最初で最後の対艦戦闘の経験は、薄幸な生涯において最も充実していた時間となったであろう。
勿論、今の大和に前世の記憶が完璧に戻っているわけもなく謎の快感だけが残っていたのである。
「お隣失礼します。」
チャプンと控えめな音を立てて大和の隣に座ってきた艦娘がいた。
「朝霜じゃない、もう入渠の方は終わったの⁇」
同じ第一戦隊の駆逐艦朝霜だ。
「おう、俺は至近弾だけだったから装備の修理だけで済んだぜ。」
隣でドヤ顔で嬉しそうに言うのだったが、それがちょっと背伸びした感じで大和には微笑ましかった。そんな大和を見て
「お?何が可笑しいんだよ、これでも前世ではお前の最後一緒に出撃したんだぜ!!」
とムスッとした表情で衝撃の事実を告げられた。
「え…?」
きょとんとする大和に朝霜は続けて
「覚えてねーのか⁇坊ノ岬へ出撃する護衛の第二水雷戦隊に確かに俺はいたぜ。ちょっと故障で最後まで大和は護衛できずに沈んでしまったがよ…。」
少し最後は残念そうに聞こえたがまさか、矢矧と同じ艦隊にいて自分が沈んだ戦いに同行していたとは思わなかった。
「そうだったのですか、あなたも私と同じようにあの海に沈んでいたのですね…。」
「沈んだなんて言うなよ、こうして形は違えど生きているんだからよ。何も戦うだけがすべてじゃないぜ。」
と湿ったことを言ったので少し怒られてしまった。確かにこの子の言う通りだと思った。形は違えどこうして生きている…。
―戦うために生まれてきた存在
と初めに言われたが、少し見解が変わりそうだった。戦うだけでない、こうして話す、食べる様々なことが出来るというのはまぎれもない事実だ。もちろん、感情ももちろんある。こうして考えてみると人そのものとなんら大差はないような気がしてきた。
いろいろ考えを巡らせていたので、隣から声をかけられていることにまったく気が付かなかった。
「おい、おい、大和、どうしたんだ、そんな難しい顔をして。」
不思議そうに自分の顔を覗き込む朝霜の顔を見てはっと我に返った大和は
「いえ、なんでもないわ。教えてくれてありがとう。私は先にあがるわね。」
と告げ、湯船からあがった。
「お、そうかおれはもうちょい浸かっていくわ。」
その言葉を背に温泉から上がった。髪からしたたる水をふき取りながら先ほどの言葉を頭に思いうかべていた。自分の存在意義は戦うことだけだと思っていた。そのため、生きているなどと言う言葉には違和感を感じざるを得なかった。普通に人としての生活を鎮守府では保障されているが、それは戦うためだと思っていた。戦うだけがすべてじゃないなら自分の存在とはいったいなんなんだろうか、そういう疑問が浮かんでくる。艦娘は兵器だけではないのか…。
「クシュン…。」
湯冷めをしてしまったか、かわいいくしゃみをしてしまった。
「風邪引いてしまうわね…。」
そんな独り言を呟きつつ先ほどの思考を停止し服を着て軽く髪をまとめて脱衣所を出て自室に向かうことにした。
少し夜風がひんやりと風呂上りの体に感じさせた。遠くでは「はやく、夜戦!!!」などと騒がしい艦娘がいるようだが、先ほどの考えごとの続きをしている大和にはそんな騒々しい声すら耳に入ってこなかった。ただ、その思考も堂々巡りを繰り返していることに気が付きこれ以上考えても無駄だと感じた大和は布団に入ってゆっくり休むことにした。戦いの疲れからかすぐに眠気が襲ってきて夢の世界へと大和をいざなうのであった。
翌朝、大和たちが破壊した基地に最前線の攻略基地を建設すべく、重巡最上、三隈を中心に付き添いに軽空母1隻、駆逐艦6隻による工作部隊が出撃していった。ここ攻略が遂行されたため遠征の幅が広がり鎮守府の資材状況もプラス傾向になるであろうと予測が建てられていた。特に資材消費のひどい大和にとっては嬉しい話であることには間違いないのだが。
疲れからぐっすりと寝ていた大和はいつもよりゆっくりの起床だった。本日は戦闘から帰ってきたのもあるし、長門たちの装備の修理も兼ねて休日となっていた。そのため目覚ましもかけずに10時近くまで爆睡していたのである。そんな大和も朝から提督に長門の変わりに戦果の報告をしなければいけない任務があった。別に時間を指定されてるわけでもないので、昼前に提督室に向かうことにした。
11時過ぎ、髪をいつものポニーテールにまとめ上げゆっくりと準備を済ませた大和は提督室に向かうことにした。今日は食堂で何を食べようかなと考えながら扉の前まで来た。いつもここに入るときは緊張するなとちょっと憂鬱になったが、そろそろ慣れねばと思い切って扉をノックした。
「提督、大和です、お時間よろしいでしょうか。」
と中からすぐに
「入っていいよ。」
と返事が返ってきたので失礼しますと一言言って扉を開けて中に入った。
「本日は長門の代理で戦果の報告に参った次第にございます。」
ものすごく丁寧にゆっくりと提督につげた。それを聞いて少し苦笑しつつ
「そんなにかしこまらなくていいよ、それより大活躍だったと聞いてるよ、大和。緒戦とは思えないほど堂々とした戦いぶりだったらしいね。」
といつものやんわりした口調で絶賛してくれた。それがくすぐったいような感覚を覚え、それと同時にとても心地いいものだと感じた。
「いえ、たまたまです、運がよかっただけです。」
嬉しさを隠しつつ丁寧に受け答えをした。
「謙遜しなくてもいいぞ、お前の活躍だ、胸を張っていい。」
さらに続けて
「さすがは最新鋭の戦艦として建造されただけはある、文字通りその性能を発揮してくれて俺は嬉しい。この編成に迷いがあったがこれで自信をもって運用することが出来そうだ。」
初めて会ったときより随分と上機嫌であったため、ひとつ昨日の疑問を口にしてみることにした。
「提督ひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ん?なんだい鎮守府でまだ不自由なことでもあるのかい⁇」
と少し怪訝そうな表情をしていたが思い切って
「艦娘、私たちとはいったいどういった存在なんでしょうか。」
それを聞いた提督は片方の眉をくいっとあげ
「なかなかおもしろい質問をするのだな。」
「いえ、昨日温泉で朝霜と話す機会がありまして、兵器として生きるだけじゃないと言われました。」
興味深そうにうんうんと頷きながら
「続けて。」
「はい、私は初めて目が覚めたとき矢矧に兵器だと言われました。勿論、前世が戦艦大和であるためその言葉に疑問はありませんでした。」
「うんうん、確かに矢矧の言ってことは間違いないね、確かに君は兵器だ。」
とはっきり返されてしまった、ただ、そのあと興味深い言葉を口にした。
「確かに兵器だけど、大事な存在だ。それは兵器としてではない。一個人の人としての認識で構わない。」
提督の言葉に疑問符が浮かんだ。
「人⁇ですか⁇」
「そうだ、その身なり恰好どうみても人そのものじゃないか。確かに兵器かもしれないが兵器じゃない。」
言っている意味がまるで自分には理解できなかった。
「ん~来たばっかの大和には難しかったかな。ただ、ひとつ言えることは兵器なのにきみたちには”感情”が存在していることだよ。それが僕がいや朝霜もそうだが、人と言ってる大きな理由だよ。」
提督の言葉には確かに納得がいく。兵器というなら感情などといものは必要ない。戦うために雑念となってしまうものは不要である。ただ、私たちには兵器であるながら感情といものが存在している。それが完全にただの使い捨ての兵器じゃない人だとこの人は言いたいのだろう。そんな様子をにこやかに眺めていた提督は
「うんうん、自分なりに答えを見つけたようだね。せっかくの休日だ、もう下がってゆっくりしたらいい。また、第一戦隊には近々出撃の任務を言い渡すことになるだろうから。」
「はい、それでは失礼致します。」
とお言葉に甘えて提督室を後にしてゆっくり休むことにした。とその前に大和たちが活躍した背景には第一航空戦隊である赤城、加賀も航空隊がいたおかげであるため、お礼を言いに行った方がいいなと思い、一航戦の宿舎へと足を運ぶことにした。
「失礼します。」
一航戦の宿舎に入り、とりあえず広間に顔を出したのだが、目に飛びこんできた光景に唖然とするしかなかった。
そこに居たのは自分が依然カレーを山盛りにしていたが、それ以上に山盛りにされたカレーの前においしそうに食べる赤城と至って普通のサイズのカレーを隣で上品に食べている加賀の姿だった。
開いた口がふさがらないとはこのことなのかと声をかけられずにいると赤城にが大和に気が付き
「あら大和さん、こんなとこにどうしました⁇」
と声をかけながらも視線は完全にカレーに向いていた。こっちが幸せになれるくらいものすごくおいしそうな表情で頬張っていた。
「いえ、先日の戦闘の航空支援のお礼を言いに来たのですが…その様子じゃまたまたの方がよろしいですね。」
さすがに食事中を邪魔してはまずいと思ってそそくさと退散しようとしたが
「いいわ、席に座ってゆっくりしていけば、お茶くらい出すわ。」
立ち去ろうとした背中から冷たい口調で加賀に声をかけられた。
「え、いいんでしょうか。」
戸惑いで恐る恐る聞いてみた。
「ええ、構わないわ。」
ということなので向かい側に座ることにした。ふたりを見るのは初めてではないが加賀の方はちょっと近寄りがたい雰囲気を醸し出しているため座っても声をかけられずにいた。
そんな大和を見かねた赤城が
「今日はどうなされたんですか⁇」
といきなり声をかけられたので、ひぃとびっくりして声をあげてしまった。
「あら、驚かせてはしまったのね。」
とふふふと微笑まれてしまった。ゴホンと咳払いをして
「本日は先日のお礼に来たのですが…。」
「って言ってたわね、赤城さん食事に夢中で聞いていませんでしたね。」
と私の言葉に加賀は呆れたように溜息をついた。
「え、ああ、そうでしたね、ちゃんと聞いてましたよ、別に食事に夢中なんてことは」
「聞いてませんでしたよね⁇」
「あ…はい、すいません。」
加賀のジト目で赤城がシュンとなってしまった。私も資材関係かかなりの大食いなことは自覚しているがまさか自分以上に食べる人もいることに驚きを隠せなった。
それにしてもふたりのやり取りを見る限りいいコンビなんだろうなとはすごく感じさせた。話を聞いていなかった赤城を横目で見ながら加賀が
「あれは赤城さんの判断で提督の指示とは別に独断で艦載機を発艦させました。基地航空隊がいることは容易に想定できましたし、そちらには軽空母一隻だけでしたので、心もとないかと判断したまでです。」
と一気に言われてしまった。少し困惑してしまったが
「その判断のおかげでこちらも思い切って砲雷激戦を行うことが出来ました、ありがとうございました。」
と丁寧にお礼を口にしておいた。正直、独断とはいえこの支援がなかったら基地航空隊の攻撃でこちらの被害はもっと大きくなっていただろうし、作戦成功しなかったかもしれない。
「いいわ、作戦遂行においては助けて助けられは当然のことよ、気にすることはないわ。」
相変わらず表情に全く変化がなくクールに加賀に言われてしまった。
「あら、ごめんなさいね、加賀さんはあまり表情を表に出さないの、だから誤解しないでね。これでも大和さんの活躍はすごいものだと言っていたわよ。」
と赤城が人差し指を立てながら嬉しそうに告げた。
「赤城さんやめてください。」
とちょっと顔を赤らめながら否定する姿に大和もクスッと笑ってしまった。
「何かしら。」
とムスッとした顔を向けられたが
「いえ、なんでもありません、それでは私はこれで失礼致します。」
と席を立って広間を後にすることにした。
「また遊びに来ればいいわ、お茶でも出すわよ。」
そっぽを向かれながら加賀に言われそれを苦笑する赤城の姿があった。
「それではまた遊びに来ますね。」
と伝え宿舎を後にした。
一通り今日やることも済んだので、あの食べっぷりをみたばっかなのでお昼にするかなと思いつつ食堂に向かったのであった。
大和がお昼を食べ終わったことそんなまったりした日常を壊すような連絡が鎮守府を駆け巡った。前線基地を作成すべく出撃していた最上たちの部隊が敵機動部隊の攻撃にあい大損害が出てているということだった。情報によれば機動部隊のほかに戦艦を中心とした打撃部隊も向かっているということであった。
提督はすぐに部隊を編成、第二、五航空戦隊に敵機動部隊撃滅を、金剛以下第二艦隊には夜戦も想定済みで基地奪還、及び周辺の敵艦隊殲滅に向けて出撃を命したのである。
さて、提督との関係を前進させようにも全く進展がありませんでした。
ただ、大和の心情描写は少し今回は大目にしてみました。
さて、せっかく大和たちが攻略した基地も速攻取り返されそうになってしまい、次回は、二、五航戦に活躍してもらいます。勿論、夜戦も込みの展開になりますので、まーた戦闘は長くなります。
さて、二章の朝霜のフラグはここで回収です、坊ノ岬組の展開も徐々に入れていけたらと思います。
正直、戦闘においては轟沈に関してもかなりの細かい設定を考えてはいるのですが、いろんな人の嫁が轟沈なんて聞きたくないでしょうし、大破までに留めておこうかなと考えてます。本来戦闘は轟沈なんて当たり前なのですが・・・。ここはちょっと展開と設定は変えないといけないかなって思っています。
ちなみにですが、大和もこの戦いに援軍として()これ以上は内緒です。
それでは次回もお楽しみに。