ソードアート・オンライン 千変万化   作:黒いエナメル

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プロローグ

「はぁっー!!!」

 切る、斬る、伐る。

 とある森の奥深く、その場所で目の前の敵を青年は切り裂いていく。

 見た目は黒髪の美男子で、目の下には色気漂う黒子。まさにイケメンといった言葉がピッタリ似合う青年が戦っていた。

 しかし彼は実在した人物では無く、だだとあるゲーマーが作り出したアバターである。

 その証拠に彼が操る武器である片手持ちの剣が敵を切り裂くと、その敵が青いポリゴンと成り爆散する。

 彼の回りには複数のモンスターが彼を囲っている。そんな中彼は先程手に入れた片手剣『アニールブレード』を器用に扱い、次々にモンスターを斬り伏せていく。

 

 

 そう、それがこのVRMMORPG世界『ソードアート・オンライン』のルールにして常識。

 そんな仮想世界が正式に始まり約五時間が経過していた。そんな中、次々にモンスターをほふっていくセイバー。

 本来ならこんなにも簡単にモンスターは倒せないのだが、セイバーは一カ月前までやっていたβテストの知識と経験により、目の前の『リトルネペント』の行動と対処方法が分かる。先ほどもβ時の知識を使い、『実つき』の実をあえて落とさせることで、通常popより多くの『リトルネペント』を集めたのだ。

 勿論その全てを狩りつくすつもりで。

 そんな風に経験からの知識に加えてここは一階層、余程の事がないかぎりそうそうモンスターには殺られない。

 その証拠に既にセイバーのレベルは5。

 このVRMMOをを開始後、スタート地点から離れたら現在の狩場に移動してからただひたすらレベル上げをこなしており、そのレベルの上昇値は異常だ。

 しかし今やらねばいけない理由がセイバーにはあった。

 この世界のセイバーは一人の剣士だが、リアルでは一人の少年。学校には通ってないが代わりにキチンと働いている。

 そんなセイバーとは違い、丸々一日このゲームが出来る人達は必ずいるだろう。

 そんな人達とは違い限られた時間しか出来ないため、セイバーはレベルを上げられるだけ上げようと考えていた。そのため多少のデスペナルティーは許容範囲として、無謀なレベル上げを続ける。

 自分のアドバンテージは九階層まで。

 そのアドバンテージがある内に強くなろうとセイバーは決めていた。そのため彼は、ただひたすらに片手剣を振るい敵を倒す。

「はぁー!」

 残り二体の内一体を両断する。

 その瞬間に頭の中に軽快な音が鳴り響く、しかしセイバーはその音を無視して残った一体に剣を振るう。

 モンスターはセイバーの剣に斬られながらも攻撃を繰り出す。

 その攻撃をギリギリかすらせるようにして避ける。

 黄色いHPゲージが少し減り赤く変化する、そうしてまた0に近づく。

 いくら最初のステージとはいえ、この状態で目の前の敵の攻撃をクリーンヒットを受けるとHPは0になる。

 しかしセイバーは敢えて攻撃を受け、自身のHPをギリギリまで削る。

 後々重要なスキル『|戦闘時回復≪バトルヒーリング≫』を入手するためだ。そのためデスペナルティの危ない橋を渡るセイバー。

 

 実際、βテスト時にごく僅かなプレイヤーしか会得出来なかったスキルであり、セイバーは手に入れられなかった。しかしアイングラッドに出回る情報を毎日欠かさず見ていたため、会得するための条件はおおよそわかっていた。

 だからセイバーはHPが危険ゾーンでも慌てず、冷静にモンスターに相対する。

 静かに剣を構え剣先をモンスターに向け腰を落とす。モンスターも突進のための構えに入っている。

 そのまま少しずつ片手剣を肩口に上段で構えるように移行し、モンスターが動くのを待つ。

 何秒たっただろう。そのまま互いににらみ合いが続いていたが、モンスターのしなるムチがセイバー目掛けて突っ込んでくる。

 

「はぁぁぁぁぁ」

 

 セイバーはそれをギリギリ避けて、そのまま片手用直剣スキル『スラント』でモンスターに斬り付けた。

 斬られた途端悲鳴を上げるモンスター、そしてそのままポリゴンに変わり爆散する。

「ふぅー」

 取り合えず目につく敵を全て倒し終え、セイバーは一息つく。

 全くもって汚れていない綺麗な剣を、まるで狩り取った獲物の血を払うように振り、そのまま背中の鞘に納める。

 その動作に一切無駄はなく見事だった。

 周囲の確認、並びに索敵スキルのために辺りを注意深く見渡すセイバー。

 まぁ、まだ大丈夫だろう。そう考えてメニュー画面を開く。

 セイバーはステータスに能力値を振り分ける。バランス良く、しかし若干だけ筋力値を多めに。

 セイバーはβ版と同じようにキャラを作るつもりであった。即ち、攻撃特化型のキャラに。

 そうしてステータスに能力値を振り終わり、セイバーは辺りを見回す。

 その範囲は索敵スキルを使用しながらなので、通常確認するより広範囲を確認できる。が敵モンスターもプレイヤーもいない。

「流石に四時間近く狩れば少なくなるか……」

 そう誰に聞かせる訳もなくポツリて呟くセイバー。

 そのままメニュー画面を開き改めて時間を確認する。

 

 《5:28》

 

 そろそろ一旦落ちるかな? そんな事を考えていると辺り全体に鐘の音が鳴り響く。

 なんだ?。頭の中でそう呟きジッとする。すると一瞬で目の前の光景が森から広場に変わる。

 

 それを認識するとセイバーはゆっくり辺りを見回す。そんなセイバーの視界には広場にいる色々なプレイヤーが写った。

 皆美形だったり屈強だったりと、まさに男女共に理想的な容姿を持つ者ばかり。しかしそんな人々の表情は皆一様に困惑したものだ。

 そんな中でセイバーはとある青年を見つける。

 それは黒髪の高身長で美青年と称するに相応しい容姿の青年であった。

 

「キリト!!」

 自分を呼ぶ声に気が付いたのか、セイバーが声をかけた青年は辺りを見回し此方に気が付いた。

「セイバー!!」

 その顔は嬉しそうに、しかしやはりこの状況による困惑によりその美男子と呼ぶに相応しい精悍な顔を曇らせている。

 そんな彼の元に駆け寄るセイバー 。そして直ぐ様話しかける。

「どういうことだ? β時には強制転移なんて無かったぞ」

「お前気付いてないのか?」

「何が?」

 キリトの言葉に疑問顔で答えるセイバー。

 そんな彼にキリトは深刻そうな表情を浮かべ教える。

「メニュー画面からログアウトボタンが消えているんだ」

「なっ!?」

 キリトの言葉に驚くセイバー。すぐに彼は自身のメニュー画面を呼び起こす。

 そしてβ時にはあったログアウトボタンが無いのに気が付く。

 その事実にセイバーは驚愕する。

「バグか?……」

「わからない、多分コレから説明が始まると思うんだが」

 未だ十分な情報が無く、可能性ある推測の会話を交わす二人。

 そんな風に話していると、キリトの隣にいた赤髪のプレイヤーが話しかけてきた。

「おいキリト、そいつは?」

「ああ、悪い。コイツはセイバー、βテスト時によくパーティーを組んでいたんだ。でコッチはクライン、ゲーム開始時にレクチャーを頼まれたんて今まで組んでいたんだ」

 少々困惑したまま紹介されたため挨拶をするセイバーとクライン。

 とりあえずセイバーから口を開いた。

 

「えっと、よろしく」

「此方こそ」

 そんな風にしているといきなり広場にアラームが鳴り響く。

 何だ、何だ。と広場にいたプレイヤー達が辺りを見回すと、空中に何かの表示が表れている。

 プレイヤーの皆がそれに気がつき注視しているとそこに一体の巨大なアバターが現れた。

 赤いローブでスッポリ覆い、顔がまったく見えない。反対に足のローブに包まれていていない。そんなアバターが表れて皆の緊張した空気が弛緩する。

 それは、ようやくログアウト出来るのか。や何かしらの説明が始まるのか。といった状況が動く事による安堵からくるものだった。しかしセイバーを含め幾人かのプレイヤーは何かしらの嫌な感じを感じていた。

 

 『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ。私の名前は茅場晶彦、今ではこの世界をコントロール出来る唯一の存在だ』

 

 そうして萱場晶彦と名乗った存在はゆっくりと語り始める。

 

 この鋼鉄の浮遊城アイングラッドでの絶望と狂気に彩られた現実。

 ログアウト不能という『ソードアート・オンライン』の本来の仕様。

 HPが0になったら死ぬと言う理不尽なルール。

 

 そんなとんでもない事実を萱場は淡々と語り続ける。

 

『諸君が開放されるための条件はただ一つ、アイングラッド最終層第100層に存在する最終ボスを倒しこのゲームをクリアする。この条件を満たした瞬間、生き残ったプレイヤー全員が安全にログアウトされる』

 

 それを聞いてセイバーの頭の中で一つの記憶が思い出される。

 過去に会った茅場晶彦との会話、そしてその時の彼の目を。

 

―この世界はね、仮想の世界ではあるが、遊びでは無いのさ……君

 

 そういう事かよ茅場。セイバーがそう考えている間、茅場はさらに話を続ける。

『コレが現実だと解るよう、私からの僅かばかりのプレゼントを諸君のアイテムストレージに贈った。確認してくれたまえ』

 その言葉を聞いてセイバーはすぐにアイテムストレージを開く。

 回りでも同じようにストレージを開くのを視界の端で捉えながら、セイバーはアイテム『鏡』をオブジェクト化した。

 鏡に映るのは自身が作り出したアバターの姿。何だ、ただの鏡? と単純な疑問が浮かぶ。

 途端にアバターの姿が青白い光に包まれる。

「うっ!!」

 思わず叫ぶセイバー。そんな彼の回りからも悲鳴が上がる。

 そんな中光は更に眩しさを増し、目を開けていられない程になる。

 思わず目を閉じるセイバー。しかし眩しい光も直ぐに収まったようで、セイバーは恐る恐る目を開けてみる。

 

「なんだ?」

 

 目を開けてみて疑問を上げるセイバー。何が起こった?そんな考えが浮かびながら手に持った鏡を覗き込み、そうしてセイバーは息を呑む。

 大人しいスタイルの黒色に染まる髪はそのまま、爽やかと称する事が出来る端整な顔立ちになっていた。

 しかし髪に対して顔は明らかに黄色人種より白いため、若干だが違和感を生んでいる。

 そこにはセイバーのリアルの顔が映しだされていた。

 

「なっ!?」

 

 何で顔が映し出される? そんな疑問を思うと共にセイバーはすぐに答えを思いつく。

 ナーヴァギアの高密度の信号素子によるスキャニング、それにキャリブレーションによる体格のデータ入力……。

 自身の記憶からナーヴァギアに関する知識を使い、すぐさま状況を理解する。

 そんな事を考えていると隣に立っていた黒髪の少年が話しかけてきた。その後ろには無精髭を生やした赤髪の成人もいる。

 顔に見覚えは無いが髪型はこの二ヶ月何度も目にした髪形、それに先程見た赤い髪形。それによりセイバーは話しかけてきた二人を見分ける。

 そうした彼に黒髪の方の、セイバーと同年代の少年が話しかけてきた。

 

「お前がセイバーか?」

「ああ、そしてお前がキリト、そしてクラインか」

 

 セイバーは現在置かれている状況を冷静に分析しはじめた。

 これからの未来《攻略》の事を考えて。

 

 

 

 この『ソードアート・オンライン』の唯一のゲームマスター茅場晶彦による正式サービスチュートリアルが終わり、三人はパニック状態の広場から少し離れたわき道に来ていた。 

 

「俺は今の内に次の村に拠点を移す。クライン、セイバーお前らも一緒に来い」

 

 焦りに戸惑い、そういった負の感情がキリトの言葉からは見てとれた。表情の方も暗いものである。

 そんな彼の言葉はこの世界で供給されるリソースの奪い合い、この後に起こるであろう事を考えての意見であった。

 そしてこのゲームがMMORPGだと言う事実から考えると、キリトの考えがこのデスゲームを生き残るために一番いい方法である。

 しかし、クラインとセイバーはキリトの誘いを断った。

 

 『仲間を置いてはいけない』

 

 そんなクラインの答えを聞いてキリトはクラインの考えを尊重することに、そして……

 

「悪い、俺も此処に残って他のプレイヤーにいろいろ教える事にするよ」

「……それでいいのか?」

 

 恐る恐るといった感じでセイバーに尋ねるキリト。

 そんなキリトの問いに、セイバーは不敵な笑みを浮かべる。

 

「俺は最初のスタートダッシュに成功したからな、見ての通り『アニールブレード』も手に入っている。十分アドバンテージはあるさ」

 

 セイバーの答え聞いてまた表情を暗くするキリト。

 それはセイバーの言葉を聞いて、自身が選んだ他のプレイヤーを見捨てる行動の罪悪感に苛まれていたのだ。

 そんな考えを感じとり、キリトの肩にセイバーは手を置いた。

 

「……キリト頼みがある、フィールドに出て情報を集めてくれ」

「情報?」

「ああ」

 

 疑問顔のキリトにセイバーは自分の考えを話す。

 

「確かに俺らβテストを経験して予備知識はかなりある、でもこのゲームの今がβテストの時と同じままとは限らない。だから俺らの持つ情報が正しいのか調べる必要があるんだ、頼めるか?」

 

 危険な役目、そう判っていてセイバーはキリトに頼む。

 キリトは目を閉じ少し考えているが、その目はすぐに開けられた。

 その顔は先程までの暗い表情は多少残るものの、その顔には不敵な笑みを浮かべていた。

 

「……わかった、任せてくれ」

「すまない、そしてありがとう」

 

 そしてキリトは進んで行く。

 それをセイバーはクラインと共に見送る。

 

「キリト!!」

 

 クラインは思わずキリトを止めてしまう。

 しかし無意識に呼び止めてしまったので続く言葉が見つからない。

 しかし、何かしら声を掛けなければとおもったのか考える。

 そんなクラインの考えにセイバーも一緒にのる。

 

「キリトよう、お前案外可愛い顔してんな、結構好みだぜ」

「ああ、とても魅力的な素顔だ」

 

 場を和ませようとする二人の言葉。

 そんな別れの言葉にキリトも小さく笑いながら返す。

 

「クライン、お前もその野武士面のほうが十倍似合ってるよ。それにセイバー、お前こそ大きいお友達と仲良くなれるんじゃないか」

 

 そうして一人と二人は別れていった。

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