ポケットモンスター◆スピリットクリスタル◆   作:わた雨

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プロローグ
誕生日の前夜


 ふしぎないきもの、ポケットモンスター。略してポケモン。さまざまな姿や特殊な能力を備えた、動物とは似て異なる本当にふしぎないきもの。

 彼らは遥か昔から人間と非常に関わりの深い生き物であり、時に助け合い、時に対立し、互いに無くてはならない存在となった。

 そんな彼らがいるこの世界では、ポケモンを育てるトレーナーと呼ばれる人々がおり、互いのポケモン同士を戦わせる『ポケモンバトル』が盛んに行われている。

 ポケモンには、生まれ持った闘争心というものがあり、命を奪うことまではしないが、お互いの優劣をつけたがる本能があった。『ポケモンバトル』は、その本能を活かして人々とポケモンたち自身の道楽として発展させたものである。

 トレーナーは常に高みを目指す者として最も親しまれ、多くの人々が様々な頂点を目指して冒険の旅をしている。

 それに付き従うポケモンたちも、志を同じくし、成長を重ねながら確固たる絆を築いて共に歩んでいた。

 そんな彼らの姿は、現代の少年少女たちの目にはとても輝いて見え、誰もが憧れてポケモントレーナーを目指して日々を過ごしているのだ。

 この世界は、幸せな世界だ。ポケモンがいるかぎり、永遠に。

 

 

 この世界にはポケモントレーナーを目指している者が沢山いるが、その資格を得るにはある程度の条件を満たさなければならない。なにせトレーナーはひとつの『職業』のようなものであり、なにより旅をする者だからだ。何の資格のないものが同じことをしても、たちまち路頭に迷ってしまう。

 トレーナー資格を得る条件は、大雑把に言えば次の2つを満たせば良い。

 1つ、年齢が満10歳以上であること。未成年であればもちろん保護者の承認がいる。

 2つ、知人の『ポケモン協会』に加入しているトレーナー資格取得歴5年以上である者を介して、協会に申請を出し、『トレーナーズカード』を受け取る。車の免許証のようなものだ。

 これによって、トレーナーとして登録され資格を得て、協会から様々な援助を受けながら旅をすることが出来るのだ。

 旅をしないのであれば、申請次第で3歳からでもポケモンバトルは出来る。しかし、正式なトレーナーとしては認められないため、自分のポケモンを持つことは出来ず、家族のポケモンを借りる必要があるのだ。

 だから、少年少女たちは10歳が待ち遠しくて仕方がない。

 10歳になることで、この世界の子どもたちの世界はまるで新しいものに変わるのだから。ドキドキ、ワクワクが止まらなくなり、未来がどこまでも広がっていくのだ。

 

 

 はじまりの風の吹く町、ワカバタウン。ここにも、明日で10歳を迎えようとするひとりの少年がいた。

 名前はヒビキ。熱血漢でまっすぐな性格であり、人当たりがいい好少年だ。

 明日の誕生日にウツギ博士からトレーナーカードと初めてのパートナーポケモンを貰えることになっている。

 どうやら眠れないらしく、29番道路の脇の林で時間を潰しているようだ。

 お気に入りの平たい大岩『ねそべいわ』に仰向けで横になり、生い茂る針葉樹の木々の間から、星空を見上げている。

 その傍らには、一匹のポケモンがいた。ビードルというむしタイプのポケモンだ。橙色のイモムシのような姿で、頭のてっぺんと尾の先に大きなトゲがある。

「なあ……ビート」

 ヒビキはぼんやりとした口調で、となりでくつろぐビードルに話しかけた。ニックネームはビートというらしい。正式なヒビキのポケモンではないが、ヒビキとはよく一緒に遊ぶ仲良しの友達である。

「オレ、明日で10歳になるんだ。ついにポケモントレーナーになれるんだぜ」

 嬉しそうな表情をするのを抑えられないヒビキ。ビートは特に何も反応はせず、ただ静かに話を聴いている。

「はえぇよなあ〜。つい最近まで、まだ憧れだったものが、もう目と鼻の先にあるんだ」

 夜風で木々が揺れる。沢山の星と大きな月が、ヒビキを祝うかのように照らしている。

「明日、オレは生まれ変わるんだ。新しいスタートを切って、あの星たちのようにたくさんある未来から、ひとつずつ選んで生きていくんだ。その中には、最強のトレーナーになるって未来も、きっと、ある」

 夜空に手をかざし、月を隠してグッとこぶしを握り締める。

「オレはなりたい。ポケモンマスターに……! いや、ぜったいになってやるんだ!」

 林の木々をすり抜けて、また風が吹いた。ヒビキはこぶしを脇に下ろし、すうっと深呼吸をして目をゆっくり閉じる。傍らのビートも、目を閉じて気持ちよさそうに身体をなぜる風を浴びる。

「おまえも、来て、くれるよな? ぼうけんの旅」

 ピクリとビートは身体を揺らす。

「ぼうけんの前に、迎えにくるよ。だから、待っててくれ……よ?」

 ヒビキがとなりに顔を向けると、ビートはもうそこにはいなかった。上体を起こして、林の奥を見つめ、呟く。

「ったく、相変わらずきまぐれなヤツ」

 ヒビキはまた、ねそべいわに寝転がる。夜空を見上げてため息をついた。

(ねむれないなあ……)

 不意に、ポケギアのアラームが林の中に響きだした。ここに来る直前に事前にセットしておいた、誕生日の0時00分を知らせるアラームだ。

 それと同時。

 

 巨大な影が、夜空と林を一時分断した。

 

「な、なんだっ!?」

 ヒビキは飛び起き、影の通り過ぎた方向へ即座に駆け出した。途端、背中から強烈な風が炸裂し、ヒビキは吹っ飛ばされるように林から押し出されてしまった。

 幸い怪我はしていない。開けた場所に出たため、すぐに体勢を立て直して、目線を前方上空に向けた。

「……!!」

 西の空に向かって、巨大な2枚の翼を持った影が飛んでいくのが見えた。注視すると、羽ばたくたびに金色とも銀色ともとれる輝きを振り撒いている。

 影は、遠く消えていった。天の川のような光と輝きの帯を残して。

 ヒビキは固まっていた。身体が強張って動かない。心臓は早鐘を打っていた。

 しかし、それは恐怖や不安などからくるものではない。

 ヒビキは、喜びからドキドキし、楽しみからワクワクしていた。

「うおぉ……! すげぇ……! すげぇや! ははっ! うおおぉぉぉぉぉ〜〜〜!!」

 ヒビキは叫ぶ。今の感情を言葉にあらわすには、ボキャブラリーが足りなすぎる。だから、叫ぶ。大いに、叫ぶ。両腕を突き上げて。身体全身で。黄金に光る心を、白銀に輝く魂を、透明に澄み渡る精神を。己のすべてをひた叫ぶ。

 ヒビキは今、生まれ変わったのだ。 

 

 

 ヒビキの未来は、今日から無限に広がっていく。満天の夜空と、その奥の宇宙のように。

 

 

 ここから語られるのは、ひとりのポケモントレーナーの少年の、沢山の出会いと別れ、そして仲間のポケモンたちとの成長と心躍る激しいたたかいの旅のお話。

 ヒビキの、物語である。

 

 

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