湾岸ボカロフォギア~story of urban highway circuit~ 作:ヘリーR
「声………?」
鳴は三玖が何を言っているのか瞬時に理解できなかった。
それもそうであろう。
「はい。Rの声が……『これは嫌だ』という声が聞こえたんです………」
涙目でいささか信じがたいことを述べる三玖。鳴も、後からやってきた階も、頭の中でそれを信じられずにいた。
「……あれと一緒ね……」
「あれ……?」
しかしながら、そのようなことはあり得ないわけではない。元プロレーサーだった彼らは、首都高であまりにも有名になりすぎたあの車の存在を知っているからである。
――その車は。
――狂おしそうに。
――身をよじるようにして走るという―――。
――かつてサーキットですさまじい速さを誇りながら、雨のサーキットで大事故を起こし、ドライバーともども亡き者となったと言われていた。
――しかしその伝説的な速さは、数十年の後に首都高で蘇った。
見る者を惹き付けてやまないその車の名は――――。
――――――――悪魔のZ―――――。
「悪魔の……Z……」
「ええ。三玖も名前を聞いたことくらいはあるでしょ? UHCになる前の首都高で、覇を競っていたミッドナイトブルーのS30Z。あの車も、どうやら『意思持つ車』だったって聞いてるわ」
「『意思持つ車』………」
車は単なる機械ではなく。
時に自らの意思を持つものがある。
「首都高で1度大きな事故を起こして、そのオーナーが亡くなってしまったんだけど、それからオーナーが変わる度に何かしらの事故を起こしていたんだって。だけど、ある時からそれも滅多に起きるものじゃなくなった」
「どうしてですか?」
階の言うことに疑問を投げ掛ける三玖。まあ、誰もがそう思うだろう。
「新しくZのオーナーになった人が、首都高で亡くなってしまった最初のオーナーと同姓同名だったって聞いてる。相性、ってやつかな」
「…………」
三玖は言葉を発することができない。
相性。そんな言葉が出るということは、その車に意思があったということを指し示すとも言えるだろう。ありとあらゆる逸話が、悪魔のZを『意思持つ車』たらしめている。
そして三玖の乗るR33もまた、その仲間である。
「あなたの話を聞く限り、このRも意思を持っているわ。であれば、あなたはこの車の声を聞き続けなきゃいけない。大丈夫、あなたの思ってたことは、Rの思ってたことと同じだったでしょ?」
「…………ウィングは、着けたくない……」
「ね? 結論は出たわ。《青桜》は、今まで通りウィングレスでこれからも走る。それはあなたの意思であり、《青桜》の意思。誰かに強要されてその通りにする必要はないわ。自分に合ったようにするのが一番よ」
「……自分に……合ったように……」
「ええ。多分キャロルも、それを試したかったのよ。人に何か言われても、自分のスタイルを貫けるかどうか」
「私の、スタイル………」
「………キャロルはね、自分の中で確固たる信念を持ってはいるけど、それを他人に強いるほど頑固じゃないわ。好みは人それぞれ……それもまた、彼女の信念よ」
「………はい」
その後『ステップランブル』のガレージに行き、ウィングを外して元に戻った《青桜》の運転席に座った三玖が、こんなことを言ってから『ステップランブル』を後にしたとは、おそらく鳴も階も知らない。
――――これからもよろしくね、R。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
自身の結論を出した三玖が帰っていくのとほぼ時を同じくして。
一台の車がUHCに入ってきた。
ピンクのシルビア―――乗り手は桃月留佳である。
「……………」
彼女は分からないまま走っていた―――なぜシルビアが泣いているのか。
走り、車と会話をすることも重要と思った彼女は、こうして久方ぶりにUHCへと走りに来た。
ただ車の声に耳を傾ける。
しかし、彼女は車の泣き声以外は何も聞き取れず、走り続けた。
「…………!」
走っているうちに、前方に黒いポルシェ911を見つける。
勝負を挑んでみれば聞こえる声も変わるかもしれないと思い、彼女は911にバトルを申し込んだ。
911が加速した―――バトルを受ける意思の表示だ。
幸いか、今走っていたのは湾岸エリア――直線の長いエリアだ。
彼女のシルビアは800馬力。パワー勝負なら、負けることはそうそうない。
さらに、911の駆動方式はRR。直線では安定性に欠け、カーブでは著しく滑る。ハイスピードバトルにおいては不利な要素が多い。
すぐにでも追い抜くだろうと彼女は思っていた―――――が。
「…………ッ!!?」
911は驚きの加速を見せ、シルビアを近づかせない。
それでいて車がぐらついているわけでもない。彼女は言葉を発することもなく、ただ息を飲んでその911の後を追う。
徐々にパワーの差が顕著になり、シルビアは少しずつ911との距離を詰める。
そしてサイドバイサイド――――ついには、911を抜きに入った。
そこまでの一連の流れの中でも、彼女はシルビアの発する声に耳を傾けていた。
しかし、やはり泣き声以外に何も聞こえない。
一体、何がいけないのか。わからぬまま、911より頭1つ分前に出たとき。
911が減速、近くに迫っていた出口へと入っていく。どうやら、ここで降りるようだ。
「…………」
結局、何も分からぬまま、シルビアはUHCをその後もしばらく走り続けた。
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ところ変わって途中で降りていった911の車内。
二人の男性が乗っていた。運転席に座っている男は、20代後半と思われる、端正な顔立ちをしている。
助手席には、40代後半~50代前半とおぼしき顔の男。左目には痛々しい傷が刻まれている。
「追わなくてよかったのか? 別に何か急いでいるわけでもないんだろう?」
「今回はテスト走行ですし、本気を出せるほどこの車も出来上がってないじゃないですか。無理は禁物ですヨ」
「まあ、そうだな」
「それより北見サン。あのシルビア、何か感じませんでしたか?」
「ククク……さすがだな。お前も感じてたか。ありゃ、かつてのアイツと同じだ。すごく悲しいエキゾーストサウンドをしている」
「ということは、やはり―――」
「―――ああ、自ら破滅の道へと進んでいる。…………持って、あと2週間だ」
留佳は気付いていなかった。シルビアから泣き声しか聞こえないのは、彼女の問題ではなく。
シルビアが、泣き声しか出していないからだということに。
それをいとも簡単に見抜いたこの二人は何者か。
運転していたのは
留佳はシルビアの声に集中しすぎていた―――彼女とて知らない名ではなかろうに、それに気付けなかったのだから。
ブラックバード。UHCになる前の首都高において、走り屋なら知らぬ者はいなかった《湾岸の帝王》。黒い怪鳥の名を冠したその車は、幾度となくかの悪魔のZと激戦を繰り広げた名車である。
そして、助手席に座る男は
この男こそ、悪魔のZの生みの親であり、数々のチューナーを唸らせてきた男だ。
彼は、時にこう呼ばれる――――。
―――――地獄のチューナー、と。
やっと原作勢を出すことができました。半ば強引かもしれませんが。
そういえば、湾岸5DX+始動しましたね。僕は速攻で旧型のNSXを作りました。前々から出たら絶対作ると決めていたので。
この話、実は出てくる車は湾岸で使える車に限定しているので、NSXを出すのを我慢してました。
しかし出てしまったからには、NSX乗りのキャラを作らないわけにはいかない。現在急ピッチで制作中です。
楽しみにしておいてもらえると嬉しいです。
ではまた次回で。