湾岸ボカロフォギア~story of urban highway circuit~   作:ヘリーR

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 題名から、何が復活するのか考えて読んでもらえると嬉しいです。


act.14「復活」

 ブラックバード、《アガートラーム》、そして寧亜のエイトが激戦を繰り広げていた頃と時を同じくして、『蜻蛉屋』の前に1台のトラックが停まった。

 降りてきたのは神居。愛車であるはずの180SXに乗っていないのは、きっちりとした理由がある。

 トラックの荷台に掛けられていたカバーシートを外す。

 姿を現したのは、ひとつのエンジンと、いくつかのエアロパーツ。

 そう―――恵未のFCのものだ。

 

 「待ってろよ、恵未……あと、もう少しだ」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 翌日。

 『S.O.N.G.』のメンバー達が住む家。

 1台の車がガレージでメンテナンスを受けていた。

 FD―――ボディカラーはマツダ純正のイノセントブルー、フロント部には濃い目の青から水色へとグラデーションしていく、響の《ガングニール》と似ている炎柄のステッカーを貼っている。

 そして、トランク右側にある『RX-7』のエンブレムの下には、『天羽々斬(アメノハバキリ)』と銘打たれている。

 『天羽々斬』。

 日本の古代神話において、須佐之男命がヤマタノオロチを倒したときに使っていたとされる刀の名である。

 それがこの蒼いFDに冠された名だ。

 

 「……問題なし。消耗の早いロータリーエンジンをここまで綺麗に保ったまま使えるのは、お前くらいのものだろう」

 

 メンテを終えたキャロルは、そのFDの乗り手に賛辞の言葉を送る。

 送られた側――風鳴翼は、淡々とした様子だ。

 

 「大事な車だからな。愛着があるなら、雑には扱わないものだ」

 「それにしても、ってことなんだがな。ライダー歴長いからな、お前。そこでそういう車に負担をかけない走らせ方も身につけたんだろうさ」

 「お褒めの言葉、ありがたく受け取っておこう」

 「……今夜、行くのか?」

 「ああ。良い相手を見つけたのでな。会えば仕掛けに行くつもりだ」

 「昨日マリアが負けたというエイトか?」

 「そうだ。あんな走りを見せられて、同じロータリー乗りとしてやらないわけにはいかないだろう?」

 「フ。やる気があって結構。あまり熱くなりすぎるなよ?」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 その日の夜。

 UHCに、再びベージュのエイトが走りに来ていた。

 流す程度の走りだが、それでも走行ラインだけは抜かりなく、あのギリギリのラインをきっちり辿っている。

 

 「……今日は誰もいないね」

 

 助手席に座っていた恵未がポツリと呟く。

 

 「う。全然いない」

 

 寧亜はやや寂しそうな表情を浮かべている。

 これが嵐の前の静けさであることなど、知りもしない。

 

 

 

 その頃、翼のFD《天羽々斬》は新環状エリアからUHCに入り、C1エリアへと向かっていた。

 他に走っている車は見当たらない。広い新環状エリアに心地よいロータリーサウンドが響き渡る。

 

 「走りに来たはいいが……今日あのエイトに会えるとは限らない。今日も走っているだろうか……」

 

 C1に合流する。

 邂逅の時は、近づいている――。

 

 

 

 寧亜のエイトは一旦SAに寄り給油を済ませてから、再びC1を走っていた。

 前回―――ブラックバードたちに会った時―――走っていた内回りではなく、今回は外回りを走っている。

 江戸橋のような急カーブは存在せず、内回りと比べればスピードの乗りやすいコースではあるが、それでも曲がりくねったコースではあり、高度なテクニックを要する。

 そこを、まるで川の流れに乗って魚が下るかのように鮮やかに走り抜けていく。

 

 「本当に今日は誰もいないね……もう少し走ったら帰ろうか」

 「う」

 

 もう帰ろう―――そう思い、少しスピードを緩めた、矢先だった。

 エイトとは別の、軽やかなロータリーサウンドが聴こえたのは。

 

 「……!」

 「……一台、すぐ後ろに来てる。ものすごい速さで近づいてくる―――!」

 

 バックミラーに映ったのは。

 ライトが固定型に変えられた、蒼いFD。

 

 「フフ……見つけたぞ、エイト」

 

 C1特化のベージュのエイトと。

 『S.O.N.G.』最速と謳われる蒼いFDが。

 ここに、邂逅した。

 

 2つのロータリーサウンドが共鳴し、激しくも麗しい至高の音を奏でる。

 

 「初めて見るFDだけど……ここはC1だし、寧亜ちゃん、頑張って!」

 「う!」

 

 エイトはスピードを上げる。速度が速くなると、寧亜のC1におけるドライビングテクニックは一段と輝きを増す。

 だが。

 

 「離れない……!」

 

 蒼いFDは、全く離れそうになく、むしろ近づいてきているようにさえ感じられた。

 なぜか。

 

 「同じラインを走れば、離されることはない……簡単な理屈だ」

 

 そう。

 後ろのFD―――《天羽々斬》を駆る翼もまた、走行ラインにおいて熟達しているのだ。

 

 「立ち上がりはNAのそちらのほうがいいかもしれないが……コーナリングスピードなら、車体の小さいこちらのほうが攻めれる」

 

 ロータリーエンジン搭載車というのは、ラグジュアリー2ドアクーペとして造られたユーノスコスモを除けば、総じて車体は小さめで軽量、ゆえにコーナーに強い。

 しかしその中で比べた場合、純粋なコーナリング性能だけであれば最も新しいエイトが有利だが、車体の大きさを加味するならば、より小型なものであるほど小回りは効きやすく、攻めやすい。

 そしてFDとエイトならば、FDの方が少しばかり小型なのだ。

 よってこの勝負は、車の性能差はほとんど問われず、ただ単純にドライバーの技量が物を言う。

 であれば―――経験値の多い翼が圧倒的に有利。

 

 「くっ、だんだん近づいてくる……!」

 

 徐々に、FDがエイトとの距離を詰めてくる。

 

 「ダメ、抜かれる……」

 

 エイトをFDが抜きにかかろうとした、その時だった。

 2台のエンジンが奏でる旋律に、ノイズが入り込んだのは。

 

 「……ッ! もう1台!」

 

 ロータリーサウンドに混じり、もう1つ。

 少しばかり、特殊な音。

 それは、新旧ロータリーのデュエットに邪魔なはずなのに。

 寧亜も、恵未も、翼も、その音にすぐに惹かれた。

 ただうるさいだけではなく、聴いた者を惹きつけてしまう魔性の音―――。

 少しずつ、少しずつ、2台のロータリーサウンドを塗りつぶしていく。

 寧亜は、思わずたった今まで後ろを走っているFDとバトルしていることを忘れて、その音に酔いしれてしまっている。

 翼も前のエイトを抜くことを忘れ、その音の持ち主を掴もうと必死だ。

 徐々に近づいてくるエンジン音。

 その中で、翼と恵未はほぼ同時にその音がどのエンジンのものか分かった。

 

 「この音……まさかL型?」

 

 L型エンジン。

 日産の伝統的な直列6気筒エンジンだ。

 これを載せている車となると、かなり古い車に限られてくるだろう。

 だがそれだけなら、3人がその音に惹かれることはない。

 

 「聴く者を魅了するこの音……もしかしたら―――」

 

 破滅を呼ぶように唸っているのに、そこにある種の美しさを内包した魔性の音を響かせるL型など、ただ1つ―――。

 

 その姿がFDのバックミラーに映る。

 やや遅れてエイトのバックミラーにも映った。

 

 「あの青色、あの丸いヘッドライト……間違いない―――」

 

 そう。

 それはいつしか姿を消したはずの、モンスター、否、もはや悪魔と呼ぶべきか。

 事実。

 その車は悪魔の名を冠しているのだから。

 

 「悪魔の、Z………!」

 

 かつて首都高を制した悪魔は、再び時代(とき)を超えて、蘇った―――――。

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