湾岸ボカロフォギア~story of urban highway circuit~   作:ヘリーR

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 え~……読者の皆様。およそ8ヶ月ぶりでございます…。
 かなり長い期間モチベ上がらずで更新が途絶えていました。お待たせして申し訳ありませんm(_ _)m


act.15「ギリギリの駆け引き」

 「悪魔の、Z……!」

 

 一体どれだけの時間(とき)を、時代(とき)を、超えてきたのか。

 その悪魔は、まるで色褪せていなかった。

 その青いボディが放つ魔力は、生まれたときから全く衰えることなく、むしろ大きくなっているとさえ感じられる。

 そう思うのは、Zの前を走る寧亜でも恵未でも翼でもない。彼女たちは悪魔のZの存在は知っていても、会ったのはこれが初めてなのだから。

 そう思うのは、悪魔のZの助手席に乗っている、その創造主―――つまり、北見淳だ。

 

 (クックック……今更ながら、俺はとんでもないモンを作っちまったナ。これまで幾度となくクラッシュを重ねたし、スクラップにすらされかけた。それでいながら、未だに走り続けている……それも、全く力衰えることなく。まあ、こうしてコイツが走り続けていられるのは―――)

 

 北見は隣の運転手を見やる。

 

 (――こうやって、Zを信じて乗り続けるやつがいるからなんだろうナ)

 

 ただ前を見つめ、悪魔に道を示すそのドライバー。彼の名は、朝倉アキオ。

 悪魔と呼ばれたその車を信じ切って操ることで、悪魔は恐ろしい速さでUHCを走り抜ける。

 アキオは言う―――少しでも心が引けると、Zは本心を見せてくれないと。

 逆に言えば、このZを全面的に信用できている間は、Zは必ず答えてくれる。

 

 このZは、ただの機械ではない。自我を持つ、ヒトから独立した1()()の「クルマ」だ。

 故に、このZは乗り手に操られるままの存在ではない。対話し、協調し、その意志を尊重する必要がある。

 それがわからない限り、このクルマは、絶対に乗りこなせない―――。

 

 エイトとFDにどんどんと近づいていく悪魔のZ。

 撃墜(おと)されるわけにはいかない――寧亜も、翼も、抜きかけていたアクセルを再び踏み込む。

 加速する2台。後ろから追うZもまた、スピードを上げてゆく。

 コースは八重洲へ―――ここもまた、軽量なロータリーFRが得意とするカーブの多いエリアだ。

 エリアに入りすぐの右カーブ―――上り坂を登ってすぐに現れる角度の急なカーブであり、八重洲でも屈指の急カーブだ。

 3台は的確なブレーキングと絶妙なアクセルワークによって難なくそのカーブを切り抜ける。その速さに、ほとんど差はない。

 

 「……この2台、速いですね」

 

 ふとアキオが呟く。

 

 「クックック……2台とも、今の首都高(UHC)ではトップクラスの走り屋だ。そう簡単に撃墜させてはくれないぞ」

 「そうなんですか?」

 「走りを見ればだいたい分かるのは、俺も一緒ってことヨ。特にエイトの方は、前回ブラックバードに乗ったときも見たからナ」

 「へえ……その時の結果は?」

 「負けたヨ。江戸橋を抜ける速さがずば抜けていた。正直今まで見たことがないレベルのコーナリングスピードだった」

 「……そりゃまた、とんでもないのが現れましたね」

 

 そう言いながら、アキオは前を走る2台を射程距離から外さない。

 

 「しかしあのFD……《天羽々斬》と銘打ってあるナ……この前見たRGTも確か、《Airget-Lamf》と銘打たれていたはずだが……何か関係があるのか…」

 「あれ? 北見サン、知らないんですか?」

 「……何?」

 「最近、とあるチューナーの手掛けた車がここで幅を利かせているそうです。そのチューナーが手掛けた車はほとんどがああいう銘が与えられていて、それらは1つのチームとして成り立っている……そのチームの名は、『S.O.N.G.』」

 「『S.O.N.G.』……ああ、どこかで聞いたぞ。確か、キャロルとかいうチューナーだったな?」

 「ええ。そのウワサはかなり広まってますよ。俺の知る限りだと、ケイや黒木サンもヤル気になっていろいろ車の調整してるみたいですヨ」

 「ケイに、フラットレーシングの黒木か……黒木はともかく、ケイもまだ走ってたのか」

 「ええ。太田サンたちが渡したスープラを、今度は車を壊さない程度のチューニングで」

 「フッ―――どいつもこいつも、懲りねーナ、本当に」

 「俺たちは皆、スピードの虜ですから」

 「クックック……その点で言えば、俺も同じか。……っと、前で動きがありそうだナ」

 

 悪魔のZの出現に伴い、エイトとFDの差は少し開いていたが、再びFDが差を詰め、撃墜態勢に入っていた。

 八重洲は急カーブが多い。ロータリー同士の勝負所なんて、そのカーブ以外なかろう。

 次に構えるカーブもまた、件の右カーブに匹敵するレベルの急カーブだ。

 FDはターボによる加速を生かして、そのカーブに入る前にエイトの横にノーズを差し込む。

 

 「なっ……!?」

 「先に怖気づいた方が負けだ……いざ!」

 

 カーブは左へ曲がっている。エイトはアウト、FDはインにつけている。

 旋回後の立ち上がりならNAのエイトも劣らない。だが、通常の直線における加速で、ターボのFDには叶わない。みるみるうちにFDはエイトの横に並ぶ。

 これにより、どちらもコーナーでアウトインアウトの軌跡を辿ることができなくなった。急カーブにおいてどこまで恐怖心を殺して減速せずにいられるかが勝負となる。

 なんの躊躇もなくカーブへと近づいていく2台。

 しかし、翼は初めからアウトインアウトを諦めているのに対し、寧亜はここでサイドバイサイドになったことに驚いている。

 心の準備という点で、寧亜は数歩遅れていた。

 

 「…………一旦、抜く」

 

 だが寧亜は焦ることもなく、ごく自然にアクセルを緩めた。

 

 「よし、この勝負、取った!」

 

 翼はそのままコーナーへと突っ込み、ブレーキを踏むのと同時にハンドルを左に思い切り切る。

 ドリフトではないが、それに近いやり方ではある。

 蒼いFDはしばらく横滑りしていき、コーナーの外壁ギリギリでベクトルを前へと変換した。

 車体の重いランエボやGT-Rではとてもできない芸当―――車体が軽く、旋回性も高いロータリー車だからこそできたことだろう。翼も恵未も、そして後ろから見ていた北見も、この瞬間に《天羽々斬》の勝利を疑わなかった。

 だが。

 勝負はここで終わらなかった。

 

 「…………」

 

 FDが前に出たのを確認した後、寧亜は再びエイトのアクセルを踏んだ。

 そのままブレーキを踏むことなく、コーナーへ突っ込んでいく。

 

 「ちょ、寧亜ちゃん!?」

 

 基本的にブレーキで減速しなければ曲がれないようなコーナーだ。そこにノーブレーキで突っ込もうとしているのだから、恵未が驚くのも無理はない。

 

 「……少し、ぎゃんぶる。恵未、今だけ私に命預けて」

 「ふぇっ!?」

 

 予想外の言葉に恵未は素っ頓狂な声が出てしまった。

 だがそんなのも束の間、速度を落とさず急カーブに入ったエイトは後輪が滑り始める。

 ノーブレーキであるものの、アクセルは調節している。アクセルワークでこのコーナーを乗り切ろうとしているのか。だが、それでも滑る。このまま行けば、前のFD―――《天羽々斬》を巻き込んで大クラッシュだ。

 

 「……!」

 

 しかし寧亜はブレーキを踏まない。ここで踏めば、むしろ滑るのを助長してしまう。ではどうするか――――。

 ――――寧亜はそこで、()()()()()()()()

 タイヤに力を加えず、惰性で回すことでグリップを取り戻す。途端にベクトルを前へと変えたベージュのエイトは、これから前進しようとしていたFDの左フロントスレスレを通り過ぎた。その差、わずか1センチ。

 

 「なっ……!?」

 

 勝ったと思っていた翼は、その直後に抜き返されたのを目の当たりにし衝撃を受ける。

 

 「うお……なんてこった……まさかあんな手があるとはな……機転が効いてやがる」

 

 北見も静かに驚いた。

 普通にアウトインアウトの軌跡を辿ってコーナーを曲がった悪魔のZは、さして速度も上げていないが蒼いFDを抜いていった。

 

 「ありゃ……戦意喪失したナ。腕で勝負をかけたのに、それに加えて頭脳プレーに負かされたってんだから、まあショックも大きいだろうヨ」

 「このままエイトを追いかけますか?」

 「いや、今日はもう良いだろう。中々見れないモンを見れたからナ。もう腹がいっぱいだ」

 

 

 

 「……………」

 

 抜かされたことに衝撃を隠せない翼は、一気に踏み込むはずだったアクセルを踏み込めぬままゆっくりとFDを発進させた。

 

 「熱くなっていたのは、私も同じか……あとは、こうすれば勝てるという、私の自信(驕り)がこの結果を呼んだか……」

 

 すぐそこの出口で降り、帰路へとつく。

 だがその時、《天羽々斬》が纏っていたのは既に失意ではなく、情熱だった。

 

 「負けたままでは終われるまい……再び相まみえた時には、今度こそ負かしてやるぞ」

 

 蒼いFDは、軽やかながらも熱いロータリーサウンドを響かせて帰っていった。




 どうでもいい余談ですが、私はRE車が一番好きです。主人公の三玖はR33乗りですが、私はRE車の方が好きです。
 しかしGT-Rも大好きなので、R好きの方々はお気を悪くされませぬよう。
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