湾岸ボカロフォギア~story of urban highway circuit~   作:ヘリーR

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 読者の皆様お久しぶりです! そしてもう謝りません! 何故ってこれからもこんな更新速度ですから(多分)!

 ……マイペースに綴っている作品ですので、マイペースにお楽しみくださいm(_ _)m。


act.16「偽物」

 深夜3時。『S.O.N.G.』のガレージ前に佇んでいるのはキャロルとマリア。

 ついこの前マリアの《アガートラーム》を撃墜(おと)したRX-8を探しに行った翼の帰りがそろそろだろうと待っている。

 

 「……戻ってきたな」

 

 キャロルが呟くと同時に、微かに聞こえていた軽やかなロータリーサウンドが大きくなる。

 イノセントブルーのFD、《天羽々斬》が見えてきた。

 ガレージの駐車スペースにFDを停め、颯爽と翼が降りてくる。

 

 「おかえり。どうだったの?」

 「……負けたさ。清々しいほどにな」

 

 口元に微笑みを湛えながら翼が言うものだから、マリアは訝しんだ。

 

 「珍しいわね。あなたがそうもあっさりと負けを認めて帰ってくるなんて」

 「清々しい、と言っただろう。こちらが勝ったと思ってからの鮮やかな大逆転劇だ。まあ、詳しい事の顛末はベッドの上で語ろうじゃないか」

 「ち、ちょっ、翼、あなたそんな軽々しくベッドの上とか―――」

 「? 何がおかしい? いつも同じ部屋で寝ているではないか」

 「………この剣、可愛くない……ッ!」

 「キャロル、明日でいいからメンテを頼む。特に足回りは酷使したからな」

 

 デレているのか拗ねているのか分からないマリアを尻目に、翼はキャロルにFDのメンテをお願いする。

 

 「言われなくてもやるさ。大方、フルブレーキングドリフトとかしたんだろう?」

 「……さすがだな。今の言葉だけでそこまで見抜くとは」

 「おいおい、俺をナメないでくれよ。仮にも『チューニングの錬金術師』なんだからな。お前に言われる前から気づいてたさ」

 「フッ。それもそうか、さあマリア、これからベッドの上で……」

 「だから! そんなにあっさりとそういうことを…」

 「フフ。可愛いやつだ」

 「〜〜〜ッ!!」

 

 ニマニマ顔の翼と真っ赤な顔のマリアは揃って家の中へと入っていった。

 残ったのはキャロルだけ。

 

 「……さて。俺は俺でやるべきことがある」

 

 そう言って閉じられていたガレージの一つを開ける。

 中にあったのはキャロルのアテンザ。空力重視のド派手なエアロは健在だ。

 

 「試してやらないとな……新しいパーツの効果を」

 

 そのド派手なエアロのリアに、三重板(トリプルフラップ)のとてつもなく目を引くウィングが装着されたことは、まだキャロル1人しか知らない。

 アテンザへ乗り込み、エンジンをかける。心地よい直4DOHCエンジンの音が響く。

 

 「いずれはエンジンも手を入れるつもりではあるが……ひとまずはこれでもいいだろう。空力を確かめるのには問題ない」

 

 

 

 午前4時。少し白み始めた空を背にアテンザは艶やかなダークピンクのボディを輝かせながらUHC·みなとみらいエリアを疾駆する。

 ボンネットがカーボンになった関係で4本のストライプは消えている。だが、そのストライプは2本ずつ、左前ドアに赤と青、右前ドアに黄色と緑のものが移された。

 

 「直進安定性は文句なし。接地感も不安がなくなったな。さて、コーナリングは……」

 

 みなとみらいは超高速エリアでありながら、バランス良くロングカーブが配置されている。

 緩やかかつ長めのS字コーナーを250km/hオーバーで危なげなく抜ける。

 

 「……よし。問題ない。あとは、エンジンをイジったあとのパワーでも対応できるかが問題か……。もう少し踏みたいところだが、相手が欲しいな……む」

 

 まるで図ったかのように後方から近付いてくるエンジン音。

 

 (この音は……4G63か)

 

 4G63。歴代ランサーエボリューションに載せられてきたエンジンだ。無論、響のエボ8、《ガングニール》もこのエンジンを心臓としている。

 

 (立花のエボ8に比べると重さがない……もう少し車体が軽かった頃、サイズも考えると初期のもの……おそらくは、エボ3あたりか)

 

 そんなキャロルの予測は当たった。

 アテンザのバックミラーに写ったのはダンデライオンイエローのランサーエボリューション3。

 軽快に名機4G63の直4サウンドを響かせながら近付いてくるそれが纏う雰囲気(オーラ)は、キャロルがバトルするに足ると即座に判断できるそれであった。

 ハッキリ認識できるほどに近づいてきたエボ3。そして―――パッシングをした。

 

 「……ククッ。実践で試すにちょうど良い! その申し出、受けて立とう!!」

 

 ミッションは5速へ。そして一気にアクセルを踏み込む。

 

 アテンザの4輪が大地を蹴る。その加速はおよそ620馬力のスポーツセダンのものとは思えない。

 しかし、後ろのエボ3はしっかり付いてきていた。

 

 「そうでなくてはな! やり甲斐がないってものだ!」

 

 獰猛な笑みを浮かべるキャロル。メーターは300km/hをマークしている。6速には入れない。実践のシチュエーションでバトルがしたかったのは確かだが、「本領を出したい」とは思っていない。

 そも、キャロルからすれば、アテンザ―――《ダウルダブラ》は、まだ完成していないのだ。5速で限界まで出して、負けるようならとりあえずはそれでも良いと考えている。

 

 自慢の空力パーツはその効力を遺憾なく発揮している。300km/hを超えても抜群の接地感。コーナリングもスムーズだ。

 確かめることは確かめた。あとはこのバトルにケリをつけるだけだ―――。

 

 そう思っていた矢先、さらに後ろからもう1つエンジン音が聞こえた。

 

 「む、RB26……!」

 

 重厚な直6サウンド。スカイラインGT-Rのものだ。

 ものすごい勢いで近付いてくるサウンド。バックミラーに見えてきたのは―――。

 

 「シアン色のR33……《青桜》か? いや、だがエアロがあまりにも違う。偽物……?」

 

 考えつつも、かなりの速度で近づいてきていたので、道を譲り先に行かせようとした……その時だった。

 横に並んだR33が、アテンザに向かって勢いよく被せてきたのは。

 

 「ッ!?」

 

 瞬時にアクセルを緩めつつ逃げるようにレーンチェンジをする。ここでブレーキを踏もうものなら、後ろのエボ3に追突されることが分かっているからだ。減速は最小限に抑える。

 エボ3の乗り手も察してくれたのか、スピードを緩めてくれた。

 

 それからそのR33は速度を上げて先へと遠ざかっていった―――。

 

 「……チ。顔を見損ねたか」

 

 UHCは前の首都高をサーキットとして手を入れたものだが、現役の首都高だった時から狙った車をクラッシュに追い込むような走りをする外道は少なからずいる。

 その多くは《青桜》や《草薙竜》といったトップドライバーによって淘汰されてきたが、それでもゼロになることはなかった。その1つが、今回キャロルをクラッシュに追い込もうとしたR33なのだろう。

 仮に《青桜》を騙り評判を落とそうとでも思っているのなら、かなりの下衆だ。

 そう思いながらアテンザを走らせるキャロル。後ろのエボ3も大人しく着いてきている。

 みなとみらいをじき抜ける、そんなコーナーを曲がった時だった―――。

 

 「―――ッ!!」

 

 前方にクラッシュしたトヨタ·セリカXX(ダブルエックス)を認めたキャロルは、即座にハザードランプを点灯させ脇に寄せ停車。後ろのエボ3も同様の行動を取った。

 

 「おい! 大丈夫か!?」

 

 セリカから這い出てきていたドライバーの男に声をかける。

 

 「うっ、な、なんとか……」

 「待ってろ、今救急車を―――」

 「もう呼んだわよ」

 

 そう言いながら歩み寄って来たのはエボ3のドライバー。スラリと伸びた長身で、ある部分を除けば翼に近いモデル体型。長い金髪も綺麗なクール系美女が冷静に対応してくれていた。

 

 「……すまない。ありがとう」

 「お安い御用よ。それより、聞くべきことがあるんじゃないかしら」

 「……ああ、そうだな。……なぁ、この惨状を招いたのは誰だ?」

 

 クール系美女から目を離し自身が支えている男に向き直る。帰ってきた返答は、予想通りのものだった。

 

 「《青桜》だよ……まさか、あんなことをするヤツだったなんて……」

 「いや、それは……」

 「《青桜》はそんなことしないわよ」

 

 クール系美女がキャロルよりも早くそれを否定する。

 

 「なんで、分かんだよ……あの色のR33なんて、他には……」

 「恵未から聞いてるもの。《青桜》のドライバー……初春三玖のこと。そんなことする子じゃないってのは、すぐに分かったわ」

 

 美女の言葉に、キャロルは少しばかり驚いた。

 

 「お前、知ってるのか」

 「ええ、知り合いの知り合い、まだ会ったことはないんだけどね」

 

 しかし、キャロル以上にセリカのドライバーは驚いていた。

 

 「三玖……? 《青桜》のドライバーは、女なのか?」

 「ああ、そうだが」

 「………」

 

 黙りこくって驚愕の色を顔に浮かべるセリカのドライバー。それを見て、キャロルの疑念は確信に変わった。

 

 「………男、だったんだな?」

 「ああ……見間違えることもない。スキンヘッドの、いかつい男だったよ」

 「……そうか」

 

 キャロルはしばし思案し、美女の方に向き直る。

 

 「連絡先の交換をしたい。頼めるか?」

 「その必要はないわよ、キャロル·マールス·ディーンハイム。私は分かってるから」

 「……! 知っていたのか、俺のことを」

 「こんな派手なアテンザの乗り手なんて1人しか知らないわ。明日……いえ、今日といったほうが正しいわね。今日午後3時、『ステップランブル』に来て頂戴。会えるのを楽しみにしてるわ」

 「………わかった」

 「あとは任せていい? 少し、急がないといけなくて」

 「承知した。こちらは1人でなんとかなる。急ぎの用があるなら行くといい」

 「ええ。ご協力、感謝するわ」

 

 エボ3は帰っていった。残ったキャロルは、セリカのドライバーに尋ねる。

 

 「先程の話、聞いていたな。俺は3時にとある場所に用がある。《青桜》に関連する場所だ。テレビ電話がつながるならば話をその時に改めて聞きたい。連絡先を教えてもらえるか?」

 「あ、ああ……分かった」

 

 連絡先を交換し、救急車とキャリアカーが来たのを見届けてから、キャロルは帰路についた―――。




 何事も例外ってありますよね。
 私も基本的に「どんな車が好き?」と問われたら、RX-7やGT-R、ランエボ、インプレッサ、NSXと言った国産スポーツカーが好きと答えますが、それらと並んで好きなのがアテンザ―――初代デザインのアテンザです。
 言うまでもないですがキャロルの乗っている車ですね。
 小学生の頃家の車を買い換える時に、カタログを見ていてそのカッコよさに一目惚れしたのを今でも覚えています。
 皆さんもそのような『例外』をお持ちでしょうか? 希少な『例外』……大切にしていきたいですね。

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