湾岸ボカロフォギア~story of urban highway circuit~   作:ヘリーR

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 今更ですが、海ノ上SAは現実でいう大黒PAを浮かべて貰えればと思います。
 首都高の物語を書いておきながら、現地のことは分からないことだらけでして……。


act.18「桜、重なり合い」

 深夜11時、UHC·海ノ上SA。

 三玖は駐車場に愛車を停め、夜風に当たりながら自販機で買ったホットコーヒーを飲みつつ、自分への協力を買って出てくれたもう一人を待つ。

 ウィングが外され元に戻った愛車R33は、不思議と強くなったように見える。

 鳴と階が何かしらの手を入れてくれたのか、それとも。

 試行錯誤を経て、《青桜》そのものが熟成されてきたのか。

 愛車の「声」が分かる三玖だからこそ、人の手が加えられずとも進化することもある―――乗り手がそう望み、車自身もまた望めば、その「意思」ひとつでこの車は限界を突破していく―――のだと、理解できる。《青桜》がそうした特殊性を持っていることに気付いたのは、いつ頃だったか。中古車のディーラーで一目惚れして即決し、そこからこの車が「意思」持つ車であることに気付くまで、そう時間は掛からなかった。

 ―――あの『悪魔』とは、結構近いモノだと、三玖は思っている。

 違うとすれば、出会った場所と、それまで辿ってきた道くらいなものか。

 

 「………」

 

 思いを馳せるあまり、愛おしげにR33を眺める。

 脳裏を一瞬よぎったのは、自身のライバル―――《草薙竜》。

 三玖はあのライトグリーンのFC3Sも「意思」持つ車であると認識しているがために、いずれこのRにも限界が来てしまうのだろうかと、考えてしまったのだ。

 

 (あなたは……あとどれくらい、生きるつもりなのかな?)

 

 心の中で問いかけてみる。不思議と、返事が聞こえてきた気がした。

 

 ―――俺は生死は自分で選ばん。生かすも殺すも、お前次第だ―――。

 

 (……そっか)

 

 続く言葉は、紡がない。心の中でも呟かない。形にしないほうが強度の高い想いもある。

 

 「…………来た、かな。でも、音が違うような……?」

 

 気配でキャロルのアテンザだと分かるが、音の違いにも気付く。感じるオーラは明らかにキャロルだが、昼に会った時とは音が変わっている。

 

 間もなく、海ノ上SAにダークピンクのアテンザが入ってきた。シアン色のR33の隣に停めて、キャロルが下りてくる。

 

 「待たせたか?」

 「いえ。気持ちを落ち着けていたので、特に待ったとは……」

 「そうか。その落ち着いた気持ちのまま走れよ」

 「はい……。あの、エンジンの音が違ったと思うんですけど、何を……?」

 

 三玖のその質問を待っていたとばかりに、キャロルはニヤリと笑みを浮かべる。

 

 「『ステップランブル』を出る前に、エンジンに手を入れると言ったろ? あれは、換装するという意味だ」

 「―――ッ! じゃあ今、アテンザのエンジンは……」

 「俺が1から組み上げた、オリジナルのV4エンジン、『チフォージュ·シャトー』が鎮座している」

 

 三玖は絶句。無理もない。数あるチューナー、ショップの中で、エンジンスワップをするショップは少なくない。マフラーなどの給排気系やECUでもオリジナルのものを持っているところはある。

 

 ―――しかし。エンジンがオリジナルというのは、全く聞かない。

 『チューニングの錬金術師』という呼び名だが、もはやチューニングという概念に留まっているのかすら危うい。そのレベルでとてつもないことをキャロルはやってのけたのだ。

 

 「動作テストもしてきたから問題ない。油断してると偽物と一緒にお前も撃墜(おと)すかもだ」

 

 不敵な笑みを浮かべたキャロルのその言葉に、決して嘘はない。先程まで感じていた《青桜》のオーラがかき消えるほどのものを、《ダウルダブラ》は持っている。

 だが、当面の問題は偽《青桜》だ。アテンザに感じたある種の恐怖感を一度忘れ、本題へと話を戻す。

 

 「……ルートは、どうしますか?」

 

 仮に今夜、偽物が走っていたとして、ルートが違えば会えない可能性もある。早めに潰したい故に、それはできるだけ避けたい。

 

 「そうだな……ここを出発してとりあえずはそのまま湾岸線を西へ、そこからみなとみらい右回り、横羽、C1内回りを1周して新環状右回り、湾岸へ合流しここに戻ってくる、というルートはどうだ?」

 「全体をくまなく走り込む感じですね……いいと思います」

 「では、早速行くとしようか。また誰かが喰われる前に、ヤツを潰す」

 

 シアン色のR33とダークピンクのアテンザ。圧倒的な存在感を持つ2台は海ノ上SAを去り、戦場へと走り出す―――。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 一方、当の偽物はというと、獲物を探しみなとみらい線右回りを周回していた。

 しかしながら、全くと言っていいほど他に走る車は見当たらない。

 原因は分かっている。自分自身だ。偽物とバレているのかどうかはさておいて、出会えばクラッシュ必至という存在が毎晩走り回っていると聞けば、迂闊には走れまい。

 ならばなぜ彼は走っているのか。言うまでもない―――本物に会い、潰すためだ。

 

 「《青桜》の名は俺がいただくぜェ……。キヒヒッ、ヒヒヒヒ………」

 

 下卑た笑いを浮かべ、スキンヘッドの頭を窓から差し込む月光に輝かせながら、彼は邂逅の時を待つ―――。

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 求めあえば、必ず出会う―――。それがUHCの理。

 みなとみらい右回りを走り続けていた偽物と、湾岸線から合流してきた三玖、キャロル。

 ステージは整った。あとは、役者が揃うだけ。

 200km/h程度で流していた三玖とキャロルの車のバックミラーに、猛スピードで近づいてくるヘッドライトがある。

 

 「R33のヘッドライト……!そしてシアン色!ビンゴだ!」

 

 キャロルは早くも探していた相手を見つけ獰猛な笑いを浮かべる。そして三玖は。

 

 「あれが、偽物……。

 

 

 

 

 

 ――――――――――――潰す」

 

 怒りが頭を侵していくのが分かる。目つきは暗闇の中で獲物に狙いを定めた梟のように。冷酷に、しかして冷静に。沸き上がる怒りを感じつつも、不思議と三玖の思考は澄んでいた。

 三玖とキャロル、同時にアクセルを踏み込む。加速。300km/hに到達する頃には、偽物もすぐ後ろに付けていた。

 みなとみらいを抜け、横羽線上りへ。湾岸線に次ぐ直線コースでありながら、狭い路幅と時折現れる小規模なカーブによって、湾岸線とはまた異なる難しさがある。その狭さ故に、偽物はスリップストリームの恩恵を受けつつもすぐには抜きにかからない。三玖とキャロルが並んで2車線を塞ぎ偽物が前に出る余地をなくしているからだ。

 

 「チッ、こいつらグルかよ……。まあ良い、直線でパワーに頼って無理矢理抜くのは初心者のやることだ。意外なところで華麗にパスして、その後はじっくり潰してやるぜェ……」

 

 偽物を駆る男は、それは外道に変わりなかったが、厄介なことに賢い外道だった。直線でオーバーテイクする隙を封じられても微塵も焦らず、前の2台が通るラインを予測しながらその機会を伺って走る。隙ができれば、すぐにでも抜きにかかってやる―――そういう警告を態度で示すことで、三玖とキャロルにプレッシャーを与える。

 しかし、三玖はもはや歴戦のUHCランナー。キャロルは歴戦とは言えないが、期待というプレッシャーの中チューニングの腕を磨いてきた。たかだか「抜くぞ」程度の圧力など微風同然。その程度で怯むようでは、UHCを走り続けられない。

 2台サイドバイサイドであるためにカーブを抜けるラインは最短距離を取れないが、危なさは全くない。さぞ当然のように、超高速でカーブを抜けていく。焦ったのは、後ろを走る偽物の方だった。

 

 「ば、バカな!? こっちはアウトインアウトの最短ルートで曲がってんだぞ! なんで、並んで走ってる奴らに離されるんだ!?」

 

 コーナリングは空力がモノを言う。ダウンフォースが効かないと、不安定になりやすい。

 三重板(トリプルフラップ)のGTウィングを着けているキャロルのアテンザはともかく、ウィングレスの三玖のR33もそれとほぼ同等のスピードでコーナーを駆け抜けていく。対し、フロントもサイドもリアもド派手なエアロパーツを着けている偽物R33はそれほどの速度ではコーナーをクリアできていない。

 その原因を、『チューニングの錬金術師』は容易く見抜いていた。

 

 「中身はよくできているが――外装に関しては無知だな。ゴテゴテに固めておけば空力が良くなるとでも思ったか?」

 

 そう―――ちゃんとした理論でなく、なんとなく派手なら空力が良いという勘違い。見た目重視の、「なんちゃってエアロ」。

 やたら大きなフロントフェンダー、複雑な形状のサイドスカート。のっぺりしたリアフェンダーに、巨大すぎるリアウィング。互いに主張しすぎて、逆に統制が取れていない。派手なだけで性能は皆無に等しい。否、打ち消し合い、無駄にしている、と言ったほうが正しいか。

 対し、キャロルのアテンザも派手ではあるが、主張が激しいのは件のGTウィングだけ。カナードなどのパーツは着いておらず、比較的シンプルなエアロだ。それでも空力的に問題ないのは、ウィング装着前でも普通にUHCを走れたことが証明している。

 そして、三玖のR33は―――そもそも、GT-R系統は空力性能は純正でも良い方なのだ。下手にゴツくする必要はない。ウィングレス仕様なのは、ストレートスピードを上げるため……という理由は後付でしかなく、「これが一番しっくりくる」という、三玖と《青桜》の感覚なのだが。

 

 本人は気づきもしない空力性能の差で離されていくが、それでも、焦っても勝負どころを見誤りはしなかった。コーナーで抜けないなら直線で抜くという、先程自分が「初心者のやること」として切り捨てた方法を取ることはない。

 

 「……なら、C1だ! いくらなんでもどこかでその並走を崩すだろ、そこがお前らの負ける場所だ……!」

 

 勝機を伺う。伺い続ける。並走する2台の後ろに偽物という構図のまま、戦場はC1内回りへ―――!




 この小説を書き始めてからというもの、コメントを貰い、新たな知識を得、それを深めるためにネットで調べたりなんかしているうちに、車に対して少しずつではありますが知識が増えているように思います。
 もともと湾岸ミッドナイトのゲームの方をベースとしていて、あとは私の無知がために、矛盾した設定になっていたことに気づいたり。

 例えば、冒頭act.0の「500馬力はないと」というセリフ。
 しかしながら、寧亜のエイトはNAなのです。


 ―――2ローターNAのチューンで500馬力オーバーとか無茶すぎるだろ………。

 そして何より、500馬力でも遅いという勘違い。720馬力でC1をかっ飛ばすゲームが基準になるからそうなるんでしょ、と。冷静に考えればGT500の速さは凄まじいもので。あれで遅いって何考えてんの?と、自分の無知を恥じるばかりです……。

 湾岸のストーリーモードをやると、原田が「ついにTD08を装着した」という旨のセリフを言います。そのTD08がタービンのことだと知ったのもつい最近の話…。
ついでにいうとタービンに種類があるのを知ったのも最近です……。いや、知らなさすぎでしょ、私。

 とまあ、まだまだ知らないことは山のようにありますが、これからも新たな知識を吸収しつつ執筆を続けて参る所存です。
 「こいつこんなことも知らねーのか」と幻滅せずに、引き続き読んでいただければ幸いです。

 それでは、また次回!
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