湾岸ボカロフォギア~story of urban highway circuit~   作:ヘリーR

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act.1「遭遇」

 ここはUHC湾岸エリアの最も大きなSA、海ノ上SA。

 時間はもう夜の11時を回っているが、たくさんの車好きが集まり、賑わっている。

 普通の高速道路のSA同様、UHCのSAも休憩所としての役割を持っており、レストランやコンビニ、場所によっては銭湯などもある。

 皆、バトルの申し込みを受け付けていたり、夜食の定番ラーメンをレストランで啜っていたりと、気ままに過ごしている。

 

 そんな海ノ上SAに、今一台の車が入ってきた。

 シアン色で、ウィングレスの日産・BCNR33型スカイラインGT-R、通称R33だ。

 

 「おい、あれ、《青桜》だよな?」

 「おお!ホントだ、スッゲー!」

 

 このR33は《青桜》という呼び名でUHCの走り屋に知られている、UHCの二大巨頭だ。

 

 《青桜》は、手頃な駐車スペースに止まり、エンジンを止める。

 

 果たして、そのR33から出てきたのは。

 

 車の色と同じシアン色の長髪をツインテールにした、華奢で可憐な美少女だった。

 

 「ふあぁ、少し飛ばしちゃったかな……約束の時間より少し早く着いちゃったな。お腹も空いたし、ネギチャーハンでも食べてようかな」

 

 彼女の名前は初春(ういはる)三玖(みく)。その走りの速さから、少しベテランのイメージを持たれるが、まだ彼女は21歳、免許を取ってから3年ほどしか経っていないのだ。

 そんな彼女の好きなSAメシ(文字通り、SAで食べれるご飯である)は、ネギチャーハンのネギ大盛り。ご飯と卵と肉の総量よりネギの方が多い。

 つまるところ、彼女はネギが大好きということだ。おやつにネギの酢漬けという少々奇抜なものを食べるほどに。

 

 それから少し時間が経った。

 注文したネギチャーハンネギ大盛りが運ばれてきて、3分の1くらいを平らげたところで、

 「三玖ー、やっほー」

と、三玖のテーブルに一人の女性がやって来た。

 

 ライトグリーンのショートヘアーに、なぜかゴーグルを頭にしている。白黒のチェック柄のジャケットがかなりカジュアルに映えている。

 

 「やっほー、恵未ちゃん」

 

 やって来た女性の名前は碧屋(みどりや)恵未(めぐみ)。三玖より2歳年上だが、三玖とはタメ口で話す仲である。

 もっとも、走り屋の間で敬語などあまり使われないのだが。

 

 「また食べてるの?本当に三玖はネギが好きだねー」

 「そう言う恵未ちゃんこそ、また激甘カレー頼むんでしょ?」

 「まあね。あ、すみませーん」

 

 恵未の好きなSAメシはすりおろしたリンゴとココナッツミルクをふんだんに使った激甘カレーだ。言ったそばから恵未は店員を呼んでそれを頼んでいる。

 

 「調子はどう?」

 「良い感じに戻ってきてるよ。とりあえずエンジンをOH(オーバーホール)して、今不具合がないか確認、調整中。外から見てどんな走りをしてるか知りたくて、三玖を呼んだわけ」

 

 オーバーホールとは、エンジンを各部品に分解し、徹底的に洗浄することである。

 稼働過程で付いた錆や汚れを落とすわけだが、これだけでもエンジンが発揮できるパフォーマンスはかなり変わる。

 錆などを落とすわけだから、エンジンの動きは滑らかになるわけだ。

 新品同様とは言わずとも、かなり改善されることは確実だ。

 

 「でもREって、普通のエンジンより構造が複雑じゃないの?よくOHできたね」

 「そりゃあ、ちゃんとREをよく知ってる人の協力も得てやったさ。私一人じゃさすがに無理だったと思うよ」

 

 REとは、ロータリーエンジンのことである。

 世界で唯一マツダ自動車だけが製造可能なエンジンで、燃費はとても悪いが、燃焼効率にムラがないのが特徴だ。

 

 

 二人はそれぞれの夜食を食べ終わったようだ。

 

 「じゃ、そろそろ行こっか」

 「うん」

 

 二人は、食事の代金を払い、自分の車の元へ向かう。

 どうやら恵未は三玖のR33の隣に車を止めたようだ。

 

 「あ、ボンネットカーボンにしたの?」

 「そうだよ、今まで以上に目立つでしょ」

 

 恵未の愛車はマツダFC3S型サバンナRX-7、所謂FCというやつだ。

 メインのボディカラーはライトグリーンなのだが、ボンネットはカーボン製で、フロントバンパー部はオレンジ色に塗装されている。大きなGTウィングも目を惹く。

 《青桜》と並ぶもう一台、《草薙竜》である。

 

 1ヶ月ほど前にこのFCはエンジンブローを起こし、それからエンジンの調整と強化、それに伴うボディ剛性のアップなど、大幅な改造を施している。

 バランスが悪くては元も子もないので、現在走らせながら調整中というわけだ。

 

 二人が2台に乗るそばから、周りからの視線がかなり強い。

 それほどまでに彼女たちはここUHCで有名なのだ。

 

 2台の車のエンジンがかかる。

 スカイラインGT-Rシリーズに特有のRB26エンジンの音と、FCのロータリーエンジンの音が共鳴する。

 その音を聴いて周りの観衆が盛り上がる。

 

 そんなことには慣れっこなのか、2台は気にすることなく海ノ上SAを出発した。

 

 SAを出てすぐ、恵未のFCが加速していく。

 遅れることなく三玖もR33のアクセルを踏む。

 

 加速が止まり、現在メーターが指す速度は220㎞。三玖のR33は3速で5000回転弱だ。

 

 海ノ上SAは湾岸エリアのちょうど真ん中辺りにある。

 2台は今そこを出て、新環状エリアを経由し再び湾岸線に入り、同じく海ノ上SAまで一周する。

 その間、三玖はずっと恵未のFCの後に付き、様子を見るのだ。

 

 10㎞ほど走ったところで再びFCが加速する。250㎞辺りでギアを4速に上げる。

 265㎞で加速が止まる。

 

 新環状に入り、再び加速。トップギアに入り、メーターの針は300㎞を回った。

 

 すると、FCの走りが乱れ始める。

 直進時であっても車体が左右に揺れ、かなりナーバスになっている。

 

 (ッ!まずい!)

 恵未は冷静にまずハザードランプを点灯させる。

 三玖はそれの意味を察し、ひとつ隣のレーンに移動して減速する。

 それを見て、恵未もFCを減速させた。

 

 一気に3速230㎞まで落とした。

 

 「やっぱ300㎞を超えるとまだダメかぁ…」

 

 そんなことを思っていた、その時。

 後ろから新たなエキゾーストノートが聴こえてきた。

 かなりの速度で音が近づいてくる。

 

 「後ろから何か来る……速い!」

 

 三玖はバックミラーを覗き見る。

 写っていたのは、カーボンボンネットに、ボディはイエロー、黒の派手な炎柄のステッカーを車体前面に貼った――

 

 「―――エボ8!」

 

 三菱ランサーエボリューションⅧGSR(CT9A)。俗に言うエボ8だ。

 

 「こんな速いエボ8、今まで見たことないな……勝負したいのは山々だけど、今日はそうも行かないんだ」

 

 すると、

 エボ8は三玖たちの意思を察したかのように、勝負を仕掛けることなく早々と抜いていった。

 

 そのとき、二人は見逃さなかった。

 ボンネットと同じくカーボン製にされたトランク、そこに備え付けられたデュアルフラップ(二重板)の派手なGTウィング。

 そんな目立つ容姿のなか、トランクに描かれた車名――『LANCER EVOLUTION Ⅷ』の下に刻まれた、『Gungnir』の7文字を。




キャラ紹介(簡単に)
・初春 三玖
元ネタ:初音ミク

・碧屋 恵未
元ネタ:GUMI

容姿に関しては、二人とも元ネタの方で考えてくれれば差し支えないです。
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