湾岸ボカロフォギア~story of urban highway circuit~ 作:ヘリーR
原作との齟齬等を消すため、ブラックバードの車種をRCTから911ターボ3.6(964)に訂正しました。
ちなみにマリアのRGTに関してはそのままで行こうと思っています。
また、act.0の「500馬力はないと」あたりの発言も訂正いたしました。把握のほどよろしくお願いします。
C1内回り。
日本一……いや、世界一難しいとさえ言われる高速道路。今やその機能は失われUHCとなったわけだが、難易度に変化があるわけでもなく。「首都に張り巡らされたサーキット」という異名じみたものがこのコースの難関さを物語っている。
そこを凄まじい速度で駆け抜けていく車が3台。
シアン色のR33が2台と、ダークピンクのアテンザ。横羽線上りからアベレージスピードを下げることもなく突入し、汐留S字も難なくクリアする。
―――しかし。後ろを走る偽《青桜》は、横羽線で感じていた焦りをさらに募らせる。
「クソッ! なぜ気付かなかった……! コーナーで追いつけねぇのに、C1で抜けるわけねえじゃねえか!」
2台の並走が崩れることばかりを意識していたが故に、そもそもコーナーで離されているという当たり前の事実を見落としていた。既に彼は、冷静に物事を見ることができないくらいには焦燥に駆られていたのだ。
そして、そうありながらも。彼を縛り付けるものがひとつ。
「だが、抜くにはここしかねぇ……! 新環状に入られたら、抜きどころが少なすぎる!」
彼自身が発した言葉。「直線でパワーに任せて抜くのは初心者のやること」という前言を、誰が聞いたでもないのに撤回できなかった。
それは彼のプライド。偽物を騙る外道なれど、一抹の矜持を捨て去れるほど、外道になりきれてもいなかった。
彼が《青桜》を騙った理由は、純粋な―――――
―――――でしか、なかったのだから。
江戸橋前の分岐を左へ。C1を一周周り、再びこの場所に来たときに新環状へと入っていくのだろうと、彼は予測した。
彼に残された時間は、あと一周分。それまでに、前の2台を抜かなければならない。
平均速度250km/hレベルのハイスピードレース。C1一周なぞ、3分あれば終わってしまう。それまでに彼は決着を着けなければならなかった。
C1内回りの中で最も難しい江戸橋カーブさえも、三玖とキャロルは並列を崩さずに抜けていく。その後ろをアウトインアウトで走る偽物。さすがに距離は多少縮まったが、それでも抜くまでには至らない。
「数少ない直線で真後ろに着けて……その次のカーブでツッコむしかないか……」
彼は勝負所を一つに絞る。ここで抜けなきゃ諦める。その覚悟は、すぐにできた。
「千代田トンネル入り口……千鳥カーブで、ケリを着ける!」
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―――気を付けろ。嫌な予感がする。
《青桜》が告げる。ドライバーである三玖に告げる。察知した危険を。攻撃の気配を。
(……R? どうしたの? 嫌な予感って……)
―――後ろのやつ、そろそろ仕掛けてくるぞ。千鳥カーブ……できるだけフルスピードで突っ込め。
(フルスピードで……分かった)
江戸橋を抜けてから千代田トンネル入り口までは、大きなカーブがない。ストレートとは言いにくいが、緩やかなカーブが多く、大きな減速は起きない。そこで差を詰める算段を、偽物は立てていた。
一周3分も掛からないハイスピードバトル。千鳥カーブも、すぐに訪れる。
「確かに詰めてきたな、後ろの偽物……。アクセルオフは最小限。踏ん張ってね、R」
―――無論だ。この程度の無茶、いくらでもしてやるさ。
千鳥カーブは左へと曲がる。キャロルのアテンザが左車線、三玖のRが右車線という構図で突っ込んでいく。
2台ともに少しずつ外へと膨らんでいく。しかし、壁にぶつかることもなく、なんとか切り抜けた。
―――刹那。
「………ッ!! …………」
後ろで大きな衝突音が響く。派手過ぎたエアロパーツをばら撒きながら、偽物が壁に突っ込みクラッシュしているのがミラー越しに見て取れた。相棒の助言なければ、カーブ前で減速し盛大にぶつかっていただろう。
「………………」
話を聞いた時はこの上ないほど激昂していた三玖だが、路肩に相棒を寄せ後ろのR33から出てくるスキンヘッドの男を助けに行く。
「………大丈夫ですか?」
運転席側は派手にひしゃげたためドアが開かず、助手席側のドアから這い出てくるスキンヘッドの男。多少の出血はあるが、幸いなことに大事には至っていない。
「こんなものしか持ってないですけど……放っておくよりはマシだと思います」
そう言って三玖が偽物に渡したのは、数枚の絆創膏とひと巻の包帯。こんなものというには、十分すぎるほどの準備万端さ……否、用心深さというべきか。
「どう、して……?」
男は問う。名を騙られ、評判を落とされようとしていたその相手に、なぜそこまで親切にしてやれるのか。
答えは、単純なものだった。
「……確かに、あなたのしたことは許せません。だけど、それとこれとは話が別です。怪我している人がいたら助けるし、困ってる人がいたら声を掛けます。それが……何者にも優しくしてあげれることが、大切なことだって信じてるから」
「………ッ……………………!」
頭に包帯を巻かれながら、男は涙をこぼす。それは感激か、はたまた後悔か。
「救急車とレッカーは手配しておいた。全く……つくづく優しいやつだな、初春」
「い、いえ……別に、私は…………」
照れながらも、包帯を巻く手は止めない三玖を見て、キャロルは微笑をこぼす。しかし直後には厳しい顔つきで、男のほうを見た。
「……教えてもらおうか。なぜ、こんなことをしたのか」
キャロルの関心はあくまで理由。《青桜》の偽物を騙り、その名を陥れようとした理由を問う。
男から出たのは、衝撃の言葉だった。
「最初は、ただの憧れだったんだ……俺も、R33が好きだったから。GT-Rの中では不人気な33で、UHCのトップに立てるような人、すごいなって……」
ローレルと共通のシャシー、居住性を確保した引き換えに、32の頃のキビキビ感が消え、内装はスポーツカーらしからぬもの。そして、操作性の重さ。登場時から、逆風に吹かれ続けてきたのが、BCNR33型GT-Rだ。それでトップクラスのドライバーとなった《青桜》に、憧れを抱いたのが、悲劇の始まりだったという。
「ちょうど貴女の名前が広まってきた頃に、俺は貯めた金でこのRを買ったんだ。そのタイミングも、悪かったのかもしれない」
「……………」
「バカにされたよ。『《青桜》じゃあるまいし、何R33なんか買ってんだよ。リスペクトかなんかか? いやいや、お前みたいなやつは無難に32か34にしとけ』って。ただR33が好きなだけなのに、すべて《青桜》と比べられて、けなされるんだ。見返してやると思いながら、いつしか……憧れは、嫉妬に変わってたんだ」
彼が《青桜》を騙った理由。それは純粋な―――――
―――――憧憬でしか、なかったのだ。
しかし憧れは、周囲の環境によって嫉妬へと容易に変化する。紙一重の差しかない、裏表の感情だ。
「黒だったRをシアン色にオールペンして、いろんな車をクラッシュさせて、UHCトップランナーの名を貶めてやろうと思った。そして、貶めた後には元の黒にカラーを戻して、奴らを見返してやろうと……」
「………なるほど」
包帯を巻き終え、黙って聞いていた三玖が何かを決意する。
「怪我もしてますし、ちょっとクラっとするかもしれませんけど…………踏ん張ってください」
「へ?」
瞬間、鳴り響く音。
―――三玖が、渾身のビンタを男の頬に放った音だった。
「……………これで、今回のことは許します。あなたの悪意を形作ったのは、周りの人たちってことが分かったから」
「………………………」
「好きな車なら、良いじゃないですか。バカにされても乗り換えないだけ、あなたは素晴らしい人だと思います。これからは、その車への愛情を……嫉妬を晴らすための武器なんかにすり替えないで」
「………ッ……、はい………ッ! 貴女のような優しい人を……、俺は貶めようとしてたのか…………。本当に…………すみませんでした…………ッ!!」
大粒の涙をボロボロと流しながら、男は自分の行為を反省し、謝罪する。その様子を見て、三玖は柔らかな微笑を浮かべるのだった。
その後ろから、キャロルが1枚の名刺らしきものを男に渡す。
「……Rに関してなら、このショップに行くといい。きっと、お前に有益なことをたくさん教えてくれるだろうよ」
「…………ここは………」
その名刺には―――
「安心しろ、そのショップのオーナーはR33乗りだ。さぞ話も盛り上がるだろうさ」
『FLAT RACING 黒木隆之』
と、書かれていた―――――。
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レッカーに運ばれるR33と、救急車に乗せられ去っていく男を見送った後、キャロルと三玖は当初の予定通りのルートを走り一旦海ノ上SAに戻ってきた。
入って見えたのは、10台ほどいるだろうか、シボレー·カマロやコルベットといった、大パワーアメリカンマッスルカー。
そしてそれらに囲まれるように停められている赤いアリストとマットブラックの180SX。
外には―――十数人のチンピラらしき人物と、鳴、階、神居が向かい相対していた。
少し離れた場所に駐車して、キャロルと三玖は車を降りその元へ向かう。
「………お、三玖ちゃん。それと……久しいな、キャロル?」
どう見たって3人はチンピラに絡まれているところだが、神居はそんなもの微風のごとく気にせずやってきた三玖とキャロルに挨拶を交わす。
「……お久しぶりです。神居先輩。これは、一体………」
「いやさ、恵未のFC復活の目処がだいぶ立ってきたんでな。気分転換がてらこの2人を誘ってクルージングしていたんだが……ここで休憩していたら、車を見るなり馬鹿にしてきたのさ」
缶コーヒー片手に淡々と事の経緯を語る。それを聞いたチンピラどもが、再び騒ぎ出す。
「FC! 今FCって言ったかよ兄ちゃん!」
「今どきそんな古くせえ車に乗り続けてるやついるのかよ! その恵未ってのは、さぞ年食った婆さんなんだろうな!」
FCを、そしてここにはいないが《草薙竜》のドライバーを馬鹿にしたこの発言が、それまで絡みを適当に流そうとしてきていた3人、そして今しがた会話を聞いた2人の機嫌を一気に損ねた。
「へぇ………」
「ふんふん……」
「ほう……」
「……………」
「………今、何つった? てめぇら」
特に神居はあのFC、そして恵未本人にはかなり気を掛けているので、この言葉は完全に心の琴線に触れることとなる。
「だーかーらぁー、その恵未ってのは、さぞや年食った」「よしてめぇら、ボコられる準備は万端だな? 叩きのめしてやるからちとバトろうか」
飲み切り空になったコーヒーの缶をグシャっと握りつぶし、ノールックで後ろに放り投げる神居。その空き缶は、寸分違わずゴミ箱に吸い込まれていった。
「キャロル、三玖ちゃん。ガソリンはまだ残ってるか?」
「ええ、問題なく」
「私も大丈夫です」
再びチンピラが余計な口を挟む。
「ハッ! R33だと? このご時世34か35だろ! よりにもよって失敗作の33とか……プッ、ククッ………」
「それにアテンザだと!? やべぇ腹よじれる! アテンザとか! マジないわ!!」
「……さっきの話を思い出しますね」
「ああ。だが、もっとタチ悪いやつらだな、コイツら。………車種だけで相手を判断して、全く戦闘力を推し量れていない、浅はかなビギナーどもだ」
「ああ!? 姉ちゃん、デケェ口叩くじゃねえかよ!! てめぇらこそ走るとこ間違えてんじゃねえのか? おぉ!?」
「戯言をほざく相手はよく考えておくんだな」
「んだとゴラァ……」
弾ける火花。双方ともに、引き下がる気は毛頭ない。
「……コースは、このまま西に向かい、大井Uターンから羽田線上り、C1外回りに入り2周、江戸橋前で新環状に戻り、ここまで戻ってくる。それでいいか?」
「おお、構わねえぜ」
「てめぇらなんざ最初の直線でぶっちぎりだからな!」
チンピラたちはそう言ってそれぞれの車へと乗り込んでいく。
「階、アンタはキャロルのアテンザに乗せてもらいなさい」
「ん、いいけど……問題ないかい、キャロル?」
「ええ。完成した《ダウルダブラ》の力、見せてやりますよ」
「分かった」
「……三玖。このバトルはチーム戦ではあるけど、互いの連携とかは一切考えないバトルロイヤル形式よ。周りは気にせず、自分の走りたいように走りなさい。復活した《青桜》の走り、私に見せなさいよね」
「鳴さん……分かりました。では、遠慮なく」
「それで良し」
三玖たちも、それぞれの車へと乗り込む。
「さて……久しぶりに本気で走るとするか、ワンエイティ」
「本気で踏むのはいつぶりかしら……その2JZのパワー、余すところなく使わせてもらうわね」
「『チフォージュ·シャトー』の耐久性を見るにはちょうどいい機会だ。確認がてら、軽く捻り潰してやる」
「……R。連戦になるけど、頑張ってね」
轟音が鳴り響く。SAを出て、湾岸線西行きへ。
桜が舞い、殲滅の琴が音を奏でた一夜のUHC。赤き獅子と黒き蜻蛉を加え、再びエキゾーストノートを響かせんと走り出す―――!
お気付きの方もいらっしゃると思いますが、前回act.18と今回act.19のタイトルは繋がります。単なる言葉遊びに過ぎませんがね……。
R33を主軸に据えた話だったので、当初の予定にはなかったのですが黒木の名前をここで出させていただきました。じき登場するはずです。
さらに予定にはなかったのですが赤青姉弟と神居にも急遽ご出演いただき唐突に第二戦開始です。我ながらすさまじい物語進行のぶっ飛び具合だなーと……。
今後ともよろしくお願い致します。m(_ _)m