湾岸ボカロフォギア~story of urban highway circuit~   作:ヘリーR

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 タイトルに狂宴とありますが、特に狂いません。
 なんとなく語呂が良いけど、共演だとなんか違うな……と思ったところから天啓のごとく頭に浮かんだタイトルです。
 ……もしや僕のほうが狂っているのでしょうか?


act.20「黒赤狂宴――猛る獅子、唸る蜻蛉」

 海ノ上SAを出発する14台。

 出口に至るまでに、神居は後ろから敵車を確認する。

 

 (ZR1コルベット3台、カマロSS2台、ヴァイパー3台、チャージャー2台……か)

 

 どれもアメリカンマッスルカーの筆頭を飾る車種だ。しかし、神居は怯むことなく、冷静に状況を分析していく。

 

 (俺のワンエイティは550馬力、感じからして奴らはノーマルのままだから……コルベットとヴァイパーは600馬力超、カマロとチャージャーは400〜450馬力といったところか)

 

 もともとハイパワーマシンでは決してない180SX。手を入れたことで軽量FRマシンには十分すぎるほどのパワーを発揮するようにはなっているが、それでもコルベットとヴァイパーには敵わない。

 

 「まあ、様子見だな……。まさか、踏み切れないとは言うまいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……彼らを、どう分析する? キャロル」

 

 《ダウルダブラ》の車内でも、神居が考えていたことと同じことを階がキャロルに尋ねる。

 キャロルの回答は、冷たいものだった。

 

 「分析するまでもないですね。何も迫力や魔力を感じない。もともとハイパワーだから、ノーマルのままでも勝てると思ってるとんでもない奴ら。UHCをナメきった連中としか」

 「辛辣だなぁ……まあ、僕も似たような所感だけどさ。ところで、完成した、と言っていたね。薄々感づいてはいたけど……あの時の『エンジンに手を入れる』って、そういう意味だっだんだね」

 

 階がキャロルに問うは「完成」の意味。鳴も階も、キャロルがオリジナルエンジンの開発をしていたことは知っていた。彼女のアテンザの「完成」は、同時にそのエンジンの完成も意味する―――。

 

 「ええ、そういうことです。オリジナルV4ツインターボエンジン『チフォージュ·シャトー』、完成です。あとはまあ、今回踏み切って耐久性を見るくらいですね」

 「なるほどね。どのあたりからガチ踏みするつもりだい?」

 「……割とすぐだと思いますよ」

 

 湾岸線に出る。少しずつアクセルを踏む足に力を入れていく。

 

 「ベタ踏みなんて―――湾岸線が一番お誂え向きに決まってるじゃないですか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「よっしゃ、かっ飛ばすぜぇー!」

 

 先頭で湾岸線へと飛び出したは青いZR1コルベット。すぐにアクセルを奥まで踏み込み、V8エンジンの快音を響かせて速度を上げていく。

 

 「コルベットは湾岸線じゃトップクラスの車だぜ! あいつらの中でついてこれるとしてもR33くらいだ……ろ………?」

 

 余裕はすぐに消え失せた。

 フルアクセルで加速を続けるZR1をあっさりと抜き去っていったのは、仲間のヴァイパーやコルベットではなく。

 

 ―――つい先程までバカにしていたアテンザだったからだ。

 

 「………はぁ!!??」

 

 驚きのあまり目を見開く。信じられない光景が、目の前にあるのだ。

 腹がよじれるほどバカにした車が、そのダークピンクのボディが、自分の前を走っている。

 それは、コルベットのドライバーからすれば、許容し難いことだった。

 

 「ふ、ふざけんな! おいZR1、もっと速く! 加速してくれ……!」

 

 乗り手に叱咤されずともZR1はまだ加速を続けている。その加速力は紛れもなく、アメリカの誇るOHVエンジンのものに違いなかった。

 だが―――前を行くダークピンクのボディは、それを凌駕する加速でグイグイと引き離していく。まるで自分たちのことなど眼中にないかのように。

 

 「……ま、マジか……………。ッ、後ろはどうなってやがるんだ!?」

 

 既に見失いかけているアテンザのテールライトに呆然としたものの、なんとか冷静さを取り戻し、ミラーで後方の様子を確認する。

 すぐ後ろを走っているのは、仲間の黒いヴァイパー。その後ろに黄色のコルベット、三玖のR33、白いヴァイパーを挟み鳴のアリストと続く。

 

 「あの一番ヤル気に満ちてたポニテ野郎は………」

 

 アリストから少し離れ仲間のシルバーのコルベット。その後ろにカマロやチャージャーが連なっている。

 そこからさらに少し遅れた場所に赤いヴァイパー、そのすぐ後ろにワンエイティのヘッドライトを視認した。

 

 「……ハッ、最後尾かよ! あんだけ息巻いてた割には遅えじゃねえか! いいぞ赤ヴァイパー(新入り)、そのまま抑えとけ!!」

 

 ミラーから目を離し、既にアテンザのテールライトなど遙か彼方の前方を睨みアクセルを踏み続ける―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後尾。

 

 「ふむ。カマロもチャージャーも離れていくな。ちゃんと踏めているようじゃないか―――」

 

 赤いヴァイパーとマットブラックの180SXの状況は、青コルベットのドライバーが思ったのとはかけ離れたものだった。

 ヴァイパーが180SXを抑えているのではない。

 

 「―――お前を除けばな」

 

 180SXがヴァイパーを突っついているのだ。

 

 「俺のワンエイティは勿論、カマロやチャージャーよりもパワーはあるはずだ。俺をナメているのか……それとも、踏み切れないのか、どっちだ?」

 

 ヴァイパーのリアと180SXのフロントの距離差、わずかに5センチ。ここが普通の高速道路や一般道であれば、煽り運転だと訴えられかねないが……ここはUHC。高速道路の形をしたサーキットである。

 元プロレーサーの神居にとって、至近距離でのテールトゥノーズなど慣れたものなのだ。

 

 「さあ、どちらだ? 踏むか避けるかしなければ、俺はしばらくお前のすぐ後ろを走り続けるぞ?」

 

 

 

 

 

 赤ヴァイパーの運転手―――青いコルベットの男いわく「新入り」は、歯をガチガチと鳴らし額に冷や汗を流しながらバックミラーと前を交互に見ていた。

 

 「な、何なんだよコイツゥ……! こっちはもう踏み切れないってのに、なんでそんなにひっついてくんだよぉ……!」

 

 前のカマロたちは離れていく一方で、後ろから突っつかれ続けアクセルを踏む足が震える。もっと踏まなければならない状況だが、彼はそれ以上踏む勇気がなかった。

 

 「む、無理だぁ! 許してくれぇ!」

 

 左に車線変更しアクセルを抜く。後ろにいたマットブラックのボディは、興味を失ったかのように赤いヴァイパーを抜き去っていった。

 

 「……フン。600馬力が泣くぜ。踏み切れないなら勝負なぞしないことだな」

 

 ため息をつき、神居はミラーから目を離し前のカマロたちを睨む。

 

 「さて、気が付けばもう大井Uターンか。そろそろ鳴と三玖ちゃんも踏み始めるんじゃないか……?」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 ヴァイパーとコルベットを前、間にヴァイパーを挟み、後ろにもコルベット、さらにその後ろにカマロやチャージャーという、囲まれたような状況にある鳴と三玖だったが、特に気にしてもいなかった。

 

 「これは言わなかったけど……今回、コイツらを軽くあしらうのは当然のこととして、私は三玖とバトルがしたいのよねぇ」

 

 独りごちる鳴。完全復活した《青桜》を見届けるべく、今はR33の後ろに付けている―――間にヴァイパーを挟んではいるが。

 少しアクセルを踏む足に力を加える。780馬力の2JZが猛々しい音を上げて加速。前の白いヴァイパーと横並びになる。

 

 「4速9000回転、メーター読み280km/h……か。600馬力って、そんなもんしか出なかったかしら」

 

 隣のヴァイパーをチラッと見やると、こちらを睨みつけていた。

 目線を外すと、ヴァイパーが加速。どうやらまだ踏み切っていなかったらしい。

 

 「ま、そりゃそうよね……600馬力っていったら、あの『悪魔』と同じだものね。もっとスピード出せなきゃ困るわよ」

 

 クラッチを蹴り5速へシフト。移植されたゲトラグ製6速ミッションの小気味いいシフトショックののち、さらなる加速を開始する。

 

 「三玖、そろそろ踏みなさいな。もうすぐ大井Uターン……短い横羽線で、どれくらい抜けるかしらね?」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 「大井Uターン……か」

 

 Uターン直前のトンネル内で、三玖はつぶやく。前を走る敵車は、コルベットが2台、ヴァイパーが1台。うち青のコルベットは他の2台よりも離れている。

 

 「ん、鳴さんも少し踏んできたかな……。そろそろ、か。行くよ、R」

 

 ―――おうよ。全開、ドンと来いだ。

 

 トンネル出口の前でフルスロットル。ギアは少し待って4速からファイナルの5速へ。前を走っていた黄色のコルベットと黒のヴァイパーをあっけなくかわす。

 そのまま大井Uターン1つ目のカーブへ。目一杯アウトにラインを取り、ブレーキング。ギアを1つ落とし、ハーフアクセルを駆使しながら難なくクリア。

 すかさずアクセルを踏み込みほんの1、2秒なれどフルスロットル。2つ目のカーブは1つ目より少し強めに減速し、アクセルをこまめに調節しつつアウトインアウトの理想ラインで抜けていく。

 

 「C1に入るまでの短い直線区間……ここであのコルベットを仕留める」

 

 先程まで50メートル以上離れていた青コルベットとの距離は20メートルほどに縮まっている。 

 

 再びギアを5速に入れる。フルチューンのRB26が咆哮を上げて加速していく―――コルベットとの距離は、すぐにゼロに等しくなった。

 狭い横羽線での並走。すぐ後ろから2JZの轟音が聴こえてくるので鳴のアリストが臨戦態勢なのはミラーを見ずともわかる。ほどなく、R33が前に出た。

 

 「……分かってもらえるといいんだけど。UHCは、そんなに甘い場所じゃないって」

 

 冷や汗ダラダラで見つめてくるコルベットの男を尻目に、容赦なく突き放す。後ろから聴こえてくる音は変わらず2JZのものだ。

 

 「……ねえ、R。もしかして、鳴さん……」

 

 ―――ああ。闘気がしっかり伝わってくるとも。ヤル気だ。負けんなよ。

 

 「…………」

 

 コクリと頷き、C1外回りへ突入。

 RB26と2JZ―――日本が誇る最上級の直6エンジン2機が激しく脈動する―――!

 

 

 

 

 

 

 「………さて。C1に入ったわけだけど」

 

 アリストの中で鳴は変わらず独りごちる。本来の敵である外車勢はすべてミラーに映らなくなるほど離れた。ここからは、鳴個人の都合だ。

 前を走るシアン色のR33。UHCトップランナー《青桜》の後ろに付け、その丸目4灯のリアランプを見つめる。ハザードは点かないが、その後ろ姿は完全に戦闘モードを示していた。

 

 「ふっふっふー……すっかりヤル気じゃないの。ここから先はアナタと私のバトル……そして」

 

 鳴は分かっていた。この場にいる2台だけで、バトルは終わらないことを。

 

 「キャロルのアテンザ……はさすがに無理でしょうけど。後ろの(·)も加わることになるわよ、きっと―――」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 「な、なんだよ、あいつら………」

 

 離れていくR33とアリストのテールライト。横羽区間、間違いなくアクセルは奥まで踏んでいた。なのに、自分のコルベットは置いていかれるばかりの現実に、全身から流れる冷や汗が止まらない。

 C1に入り、ますます置いていかれているのが否が応でも分かる。元々直線で勝ち逃げするつもりだったのもあるし、彼らはアメリカンマッスルカーの巨体を狭いC1で振り回すことに慣れていなかった。

 

 「もう抜き返すのは絶望的……せめて、せめてあのワンエイティだけは被せてでも抜かさせねえぞ……!」

 

 ミラーを覗く。少し離れた位置にヴァイパーやコルベットがいる。

 ……が、その後ろから猛スピードで近づいてくるリトラクタブル特有の四角いヘッドライトを、青コルベットの男は見逃さなかった。

 

 「んなななななな………! もう来やがったってのか……!」

 

 ミラーに映る四角いヘッドライトは滑らかな軌道ですんなりとヴァイパーたちをオーバーテイクし、自分のすぐ後ろに迫ってきた。

 次は汐留S字。なんとしても前に出してはならない。その思考のみが男の頭の中にあった。

 

 「……オラァ!」

 

 1つ目の左カーブで切れ角大きめにハンドルを切る。180SXのラインをブロックした―――つもりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 「甘いな。考えが見え見えなんだよ」

 

 神居は前のコルベットがカーブに差し掛かるタイミングで数瞬アクセルを抜き、タイミングを遅らせる。

 その上で、コーナー外側へと位置取りアクセルを少しずつ踏み返しながら外壁ギリギリで汐留S字の1つ目をクリア。

 青いボディを反対側の壁にぶつけそうになり急ブレーキをかけスピンするコルベットを傍目に見ながらハーフアクセルを使い2つ目もクリア。

 

 チンピラ達とのバトルは、これを持って終わりを迎えた―――が。

 

 「……さて。もはやただのクルージングでは済まないだろ。走りに情熱をかける者どうし、これからが本番だろう――― 《赤獅子》、それに《青桜》?」

 

 それで満足しないのは、神居達本人が最も自覚していたことである―――。




 この1話で終わらせるはずが、終わりませんでした。いや、終わったと言えば終わりましたが。終わりませんでした(謎)。
 あと2話くらい引っ張るかもしれません。
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