湾岸ボカロフォギア~story of urban highway circuit~   作:ヘリーR

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 ルビがルビの機能を果たしていないやつ。
 まあ、小説にはよくある話ですよね!


 …………ですよね?


act.21「殲の弦音、魔の咆哮(破滅を呼ぶ嘆きのエキゾースト)

 三玖、鳴、神居がC1へと入った頃、キャロルはすでに、C1の2周目を終え新環状エリアへ入ろうとしていた。

 無理もない。アメ車勢を様子見していた三玖たちと違い、最初から全開で走っていたし、C1でもクーリング走行に入りなどせずタイムアタックのように走っていたからだ。

 

 「うっひゃあ……湾岸線でもかなりの速さだったけど、C1でもしっかりスピード乗せて走れるんだね……相当な完成度に仕上げて来たね、コレ」

 

 助手席で感心しっぱなしの階。本来レース走行を前提には考えられていないアテンザを、この領域まで持っていくのはかなりの技量が必要だろうと思い、尋ねる。

 

 「マツダスピードのGG3Pだから、4WDだよな、これ?」

 「そうですね。さすがにFFでUHCを走ろうとは思えませんでしたし」

 「……エンジンの内容、もっと詳しく教えてもらえないかい?」

 

 『チフォージュ·シャトー』のスペックが気になって仕方がない階。これほどの走りを見せるのだ、どれほどのものか気になるのは、元プロレーサーにしてチューナーの階からすれば当然だろう。

 

 「………2.5リッターV型4気筒ツインターボ、800馬力です」

 「2リッター台の4気筒で800馬力かぁ……まるでランエボじゃないか……」

 

 第3世代までのランエボに搭載されている4G63は、直列4気筒のターボエンジンながら、ポテンシャル高く、チューンメニュー次第で直線でも凄まじいパワーを見せ、GT-Rやスープラすらも食いかねない代物だ。最終第4世代のエボⅩに搭載された4B11は鋳鉄製からアルミブロックに変わったものの、2リッター直列4気筒の基本スペックは変わらないし、初めこそ懸念されていたパワーチューンへの懐の深さの如何も徐々に見直されつつある。

 

 「ボディサイズはともかく、フォルムはランエボに近いですからね、アテンザ。素性はいいんですよ。ただ、どちらかというとラグジュアリー路線でしたから、激しい走行に向けたエンジンやボディじゃあないんですよね」

 「しゃかりきに弄くる車って感じではないよね」

 「ええ。……このアテンザには、かなり手をかけました。溶接スポット増しは当然のことながら、ボディ剛性のアップ。ノーマルでの腰高感を消すための足回りの大幅な変更。空力を意識しつつ、派手すぎないエアロ。そして―――オリジナルのエンジン」

 「ウィングは十分派手だと思うけどね……。でもなぜオリジナルで作ろうと?」

 「まあ、普通は既存のエンジンを換装するでしょうね……でも、RB26や2JZを換装して、それをアテンザと呼べるのか? アテンザで速く走るという目標はそれで達成できたと言えるのか? そう思いまして」

 「……で、オリジナルの、それも普通乗用車にはまず載らないV4、と」

 「そういうことです。だからこそかなりの思い入れがあるし、自分の名付けた名前をしっかりと誇示してるんです」

 

 キャロルのアテンザ、そのロゴの横には、負けじとした大きさで『Daurdabla』と刻まれている。このアテンザがただのアテンザじゃなく、キャロルの培ってきたスキルや車への思いをすべて注ぎ込んだものであることを示すために―――。

 

 「………オレからも質問、いいですか」

 「うん。なんだい?」

 「神居先輩は『FC復活の目処が立った』と言っていましたが……そのFCっていうのは?」

 「うん、そうさ……《草薙竜》、三玖ちゃんと並ぶトップランナーの駆るFCさ」

 

 《青桜》と違い、中々遭遇することのなかったもう1台。それが置かれている状況を階から聞かされる。

 

 「なるほど……どうりで、立花たちが中々会えなかったわけだ……」

 「まあ、そういうことになるね。もう少しで復活するみたいだけど……神居くんのことだ、エアロは一新される気がするなぁ」

 「神居先輩はトータルのエアロパーツとしてはオレより空力に厳しいですからね。ボディ補正のついでにより空力重視のエアロに変えることは十分あり得るでしょうね」

 

 ウィングに人並外れたこだわりを持っているのがキャロルなら、トータルバランスとしての空力エアロに人並外れたこだわりがあるのが神居だ。それは、彼の180SXのエアロからも分かる。

 ワイヤー吊り下げ式のフロントスプリッター、大型リアディフューザーに、戦闘機じみた形状の小ぶりなGTウィング。

 もし大型のリアウィングを着けていたら、リアのダウンフォースが強くなりすぎフロントが浮く可能性もあった。無意味に派手なのではなく、しっかりと意味を有するエアロなのだ。

 そんな神居が蘇らせる《草薙竜》の姿を想像しながら、新環状エリアを走り抜けていく―――。

 

 ―――が、そんな思索に耽る時間は、すぐに終わりを告げた。

 

 「………とんでもないやつに出会いましたね、これ」

 「ああ……ここを走る車で、これは2台とないだろうからね。間違いない」

 

 前方に確認したのは、ミッドナイトブルーのS30Z。

 醸し出す雰囲気は本物のそれ。間違うことなどあり得ない、魔性のL28サウンド。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――悪魔のZ――――――――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ハァ……楽しみにとっておきたかったが、出くわしておいて引っ込むほどオレももったいぶりはしない―――」

 

 スピードを下げることなくZに迫っていくアテンザ。悪魔の咆哮と、殲琴の弦音がぶつかり合い、混ざり合う。

 

 「―――勝負だ、悪魔のZ! 伝説の北見チューン、オレが撃墜(おと)してやろう!!」

 

 

 

 

 

 

 「……後ろのアテンザ、只者じゃないですネ、北見サン」

 「ああ……聞き慣れない音だ。純正エンジンでないことは確かだが……まるきり正体が掴めない」

 「……………」

 

 アキオはアクセルを踏む。アテンザにそう簡単には抜かれまいと、Zが加速していく。

 

 「……ヤルのか?」

 「Zが踏めと言ってきたので……。どうやら俺以上に、Zがバトルしたがってますよ、このアテンザと」

 「……ク、クク………コイツをそこまでヤル気にさせるとは、本当に何者だ?」

 

 

 加速が途切れない。300km/hを超えたところで、2台が並ぶ。

 両者ともにフルアクセル。度胸比べで決着が着くほどヤワなドライバーではない。

 純粋なパワーの、技術の勝負。

 

 新環状を抜け、湾岸エリアへ。一進一退の攻防を続けるまま、ゴールである海ノ上SAは迫ってくる―――!

 

 

 

 

 ―――が、そのまま終わることを良しとしなかったのは、神か悪魔か、はたまた全く別の何かか。

 

 320km/hレベルで走る2台の前に現れた、もう1台。

 

 「あれは…………!」

 「知ってるんですか、階先輩?」

 

 桃色の、小柄なボディ。

 

 「ククク……前にブラックバードの横に乗っていたとき、会ったことがあるナ」

 「……かつてのZに似てますね」

 

 泣き続ける、SR20サウンド。

 

 「ああ……以前うちに来たんだ。スペックは申し分なかったけど……三玖ちゃんが『泣いていた』と言っていた意味………今なら分かる………!」

 

 「破滅へと向かうかのようなエキゾースト……なるほど、確かに前のコイツにソックリだ」

 

 

 

 泣き止まぬまま走り続ける桃色のS15シルビアが、『魔』と『殲』に彩られた空間へ『嘆き』の音色を響かせる―――!

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 「……もう、長くないよね。シルビア……」

 

 愛おしそうにシルビアのハンドルを優しく握りながら、つぶやく留佳。

 後ろから迫ってくるただならぬ気配を纏った2台をミラーで確認して、アクセルを一気に踏み込む。

 

 「ねえ、そろそろ教えてよ。あなたが、悲鳴を上げる理由を―――」

 

 目から涙が溢れる。どれだけ愛車との距離を詰めようとしても、その愛車が本心を語らない。

 何がいけないのか、どれだけ走って、語りかけても分からない。

 

 嘆きのエキゾーストを奏でながら、加速する800馬力のモンスターSR20。

 しかし、後ろの2台は近づいてくるばかり。

 

 「……ッ! どうして………!?」

 

 軽量なボディに800馬力のエンジン。ストレートの加速はスープラにすら勝るものであることはわかっている。

 しかし、それが合わせ持つ弊害に彼女は気付いていなかった。

 

 「ククク……軽いが故に有り余るパワーをちゃんと伝えられていないナ」

 

 軽量車種の代表であるFDにも見られがちな現象。超高速域では軽いがために浮力を抑えられず、パワーロスが激しいのだ。

 

 「だが……それだけではないナ」

 

 北見は気付く。前のシルビアが何に苦しんでいるのか。

 階もまた、その異変に気付いていた。

 

 「浮くとかそういう次元を超えている……もはや、まっすぐ走れてないじゃないか!」

 

 そう、走行ラインがブレているのだ。

 小型軽量なシルビアが最高速である程度ブレるのは仕方のないことだが、それ以上に走れていないのは階のスープラが抜かれた経験から分かる。

 

 「……制御しきれないパワーは破綻を生みますよ。どうします、階先輩?」

 「……一度、横に並んでくれ」

 

 コクリと頷き、アテンザをシルビアの右に並べるキャロル。

 それを確認した階は、少し大振りにアクションを取り、留佳が気付くよう願う。

 

 ―――果たして留佳は、幸いにもそれに気付いた。

 

 「……階さん!? なんで、アテンザの助手席に……、……?」

 

 階は左手の人差し指で前を示し、その後に手招きするような動きを取った。その後、アテンザはシルビアの前に出る。

 

 「ついて来い……ってことかな?」

 

 少し速度を落としアテンザの後ろにつける。するともう1台―――ミッドナイトブルーのS30Zもシルビアの後ろへ移動してきた。

 ほどなくアテンザの左ウィンカーが点滅を始めた。

 

 「ここは……海ノ上SA」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 「シルビアがアテンザの後ろに動いたナ……。何か合図でもされたか?」

 「この様子だと、次の海ノ上SAに入っていきそうですネ。どうします、北見サン?」

 「ククッ……ついていくしかないだろ、こんなの」

 

 北見はこぼれてしまう笑みを抑えきれない。心の内に湧き上がる興奮はそれ以上に高鳴っていた。

 

 「あまりにも、気になることが多すぎる。聞かないわけにはいかないだろ―――」




 キャロルのアテンザ―――『殲』琴·ダウルダブラ。
 アキオのS30Z―――悪『魔』のZ。
 そして留佳のS15―――『嘆』きのシルビア。

 この3つの要素を入れたかったので、あのようなタイトルになっております。



 キャロルがオリジナルエンジンを載せた理由を語る場面に関して、「だったらオリジナル載せた場合もアテンザとは言えんだろ」ってツッコミが飛んできそうですが……。
 『他車種にはないエンジン』というのがポイントだと思っていただければ。RB26を載せたらもうそれは中身GT-Rだろっていうのを避けたかった、というように受け取ってもらえると助かります。オリジナルって点を考慮して『ダウルダブラ』の強調も強めですし。

 次回は再び三玖、鳴、神居に視点が戻ります。お楽しみに!
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