湾岸ボカロフォギア~story of urban highway circuit~ 作:ヘリーR
3週間の実習が怒涛の勢いで終わり、終われば終わったですべてのやる気を失い虚無期間。1週間の虚無を経て少しずつやる気を取り戻しつつ書き終わったらもう7月。そして迫ってくる院試と卒論。
……ナニコレ。まあ気ままに書いてくから良いんだけどさ。
修羅場。
いきなり現場に遭遇した鳴、三玖、神居から見たそれは、そうとしか言い表せないものだった。
駐車場に停めたアリストから降りた鳴は、ツカツカと早足に当事者の元へと向かっていく。
「……あ、おかえり姉さん。三玖ちゃんに勝っちゃったんだね。3人のレースはどんな感じぐふッ!?」
「その前に答えなさい。なんで留佳ちゃんが泣いてるのよ? あんた、何したの? ん?」
「
「何言ってるかさっぱり分からないわね。そんなにしばかれたいのかしら」
「
「ふーん……やっぱ分かんないわ。とりあえずビンタ一発―――」
「―――まあ待てヨ、嬢ちゃん。そいつは何も悪いことはしちゃいない」
「……? じゃあ、何を?」
鳴の勘違いによる暴走を止めた中年の男は、留佳の泣いている本当の理由を告げる。
「車のことに関して、ひとつ教えてやったのさ。あんたが頬をつねってるその男も、金髪の嬢ちゃんも、俺自身もチューナーだからナ」
「……何を教えたっていうんです?」
「その前に弟さんの頬から手を離してやれ。地味に笑える」
「………」
無言で階の頬から手を離す鳴。それを見て、中年はクックッと喉を鳴らしてから話に入る。
「湾岸線で会ったんだが、どーにも走りがブレブレでな……思うところはあったんだが、そしたらアテンザがシルビアを引っ張っていくもんだから、オレらもついてきたってワケだ」
「へぇ……ところで、そういうあなたは何者なんです?」
鳴の質問も最もだ。何しろ唐突なことだったので、自己紹介をしていない。
「……ああ、そうか。自己紹介がまだだったな。ま、自惚れるわけじゃないが……名前くらいは知ってるだろ。北見淳だ」
「……! 地獄のチューナー……」
「ククク……随分と有名になっちまったもんだなぁ、オレも」
「……じゃあ、あなたは?」
鳴は北見の隣にいたまだ若い青年に尋ねる。整った顔立ちでスッキリした印象の、好青年といった感じだ。
「いや……オレはそんなに有名じゃないですけど……朝倉アキオです。よろしくお願いします」
「赤青鳴よ。こっちは弟の階。よろしくね。……で、なんであなたが北見さんと一緒に?」
鳴の問いかけに北見が再びクククと笑う。
「見てみろヨ、アテンザとシルビア、その2台と並んで停まってるもう1台をナ」
言われてそちらを向いた鳴、そしてつられて見た三玖も驚いた。神居は小さく「まあ、そうだよな」とつぶやき納得している。
「……悪魔のZ………」
「そういうことだ。アキオは今のZのオーナーだ」
もはや伝説と語られし1台。時代を超えて走り続ける魔性のS30Z。
まだ走っていると分かっていても、会ったことに驚きが隠せない。
しかし、今の本題はそれではない。鳴は意識を切り替え話を戻す。
「……で、クルマのこと………もちろん、留佳ちゃんのシルビアのことだと思いますけど……何があったんです?」
「ああ……簡単な話だ。このシルビアは、もうこれ以上は走れない」
「……はぁ?」
頭に疑問符を浮かべる鳴にキャロルが補足していく。
「ボディが歪みきってるんです。あまり補強してなかったんでしょう……有り余るパワーを受け止めきれず、徐々に、ですが確実に、その体を痛めてたんです」
「………確かにあのとき、私と階はエンジンルームに見入ってしまって、ボディの方は見てなかったわ……」
留佳が静かに顔を上げる。目の周りはまだ真っ赤だ。
「……すみません、私がちゃんと車全体を見てほしいと言っていれば……!」
「いえ、あなたは悪くない。ちゃんと全体を確認しなかった私達が悪いんだから。これじゃチューナー失格ね……。ごめんなさい」
頭を下げる鳴。階も横で同じように頭を下げる。
慌てる留佳だったが、問題はここで解決とは至らなかった。
「……ボディだけですか?」
怪訝な顔をして尋ねる三玖。何やら、引っかかるところがあるようだ。
「……どういうこと?」
「私にも分かります。このシルビアが泣いているって。だけど、体の痛みだけじゃない気がするんです。もっと………体の中が、痛いって。そう言っているような気がするんです」
この言葉に驚いたのは留佳だった。
「……! 分かるんですか……『声』が?」
「え、はい……まあ。これまでは私のR意外の声は分からなかったですけど、不思議とそのシルビアはすぐに気づきましたよ」
「……教えてください! 一体、どこが、どこが悪いんですか!?」
その言葉に答えたのは、三玖ではなかった。
「体の中って言ってるんだ。おそらく、エンジンだろ」
言いながらシルビアの元へと向かうのは神居だ。
「俺にはその声とやらは聞こえないが……。ひとまず、ボンネットを開けてもらえるかな?」
「は、はい」
留佳もまたシルビアの元へ駆けていき、ボンネットを開く。
ボンネットの中を見た神居は、留佳や三玖が言う『声』の正体にすぐ気付いた。
「………鳴、階。SR20に触れた経験は?」
「そういえばないわね……。前に見せられたときは、やたら大きなターボを2つ着けてたから、一人でよくこれだけ手を加えられたなと思ったのよ。階もそうでしょ?」
「そうだね。800馬力と聞いたときも、このターボなら納得だと思ったんだ」
「………それだ。それが原因だよ」
神居の言葉に、鳴も階も驚く。いまいち言いたいことが分からないといった様子だ。
「本来ならシングル装着するようなビッグタービンを2つも着けておきながら……
「なっ!?」
「嘘でしょ……?」
二人とも信じられないという表情だ。そして三玖もまた、神居が言ったことに驚きを隠せない。
「分かるものなんですか……? 見ただけで?」
神居はため息をひとつ。そして再び口を開く。
「俺の愛車はレーサー時代からずっとワンエイティだぞ。何年SR20に触れてきたと思ってる? エンジンの各部強化が行われてるかどうかくらいは、ひと目見りゃ分かる」
唖然とする3人。そこにおずおずと、留佳が口を挟んだ。
「そ、それで……その、エンジンは、大丈夫なんでしょうか……?」
「……………各部強化を一切行わずにビッグタービンをツイン装着で800馬力。むしろ、今まで走ってこれたのが奇跡だ。100km/h前後のクルージングならまだしも、次全開走行をすればすぐさまこのエンジンはパワーを受け止めきれず崩壊する。もはや直せる範囲でもない」
「………そう、ですか……」
力なくうなだれる留佳。自分のせいで車を痛めつけていたことを実感してしまったのだから、その絶望は言葉にせずとも現れる。
そしてそれに救済の手を伸ばそうとするのもまた、神居だった。
「……SR20の扱いなら慣れている。君が望むなら、新しいSR20を探して載せ換えた上で、多少のチューニングは施せるが……どうする? 君の選択に委ねよう」
留佳はしばらく思案した後に、返答を告げる。
「……クルージングなら、自走は可能なんですよね?」
「ああ」
「私の地元……広島なんですけど。そこの友達に、頼もうかなと思います。もともと私をこの世界に誘ってくれたのもその友達だし……、約束があるんです」
「……約束?」
「『まずは自力で頑張れるだけ頑張って、どうしようもなくなったら来てほしい』。そういう約束をしてるんです」
「………なるほどな。そういうことなら、俺も引き止める道理はあるまい。その約束、果たしてやれ」
「……は、はい!」
留佳がこれからやるべきことを見つけたところで、待ちきれないといった体で北見が尋ねてきた。
「答えは出たナ。一段落済んだところで、話を変えてもいいか?」
「……なんですか? 藪から棒に。気になることでもあるんです?」
鳴は北見の唐突な話題変換の申し出に少し不機嫌そうに返す。北見は気にせず続ける。
「ククク……あまりそう機嫌を悪くするなヨ。その通り、ひとつ気になることがあるんだ―――そこの、アテンザの得体が知れなくてナ」
「………鋭いですね。さすがは地獄のチューナーと言ったところですか」
北見の問いかけにはアテンザの持ち主であるキャロルが答えた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「800馬力を叩き出すオリジナルのV4ツインターボエンジン、か……。ククッ、こりゃとんでもないやつが現れたナ」
キャロルからアテンザに関していくつか説明を受けた北見は、脱帽といった感じで乾いた笑いを漏らす。
「エンジンスワップってだけならまあざらにいるが……オリジナルってのはもうチューナーの域じゃあねえよナ。そいつぁ、メーカーの仕事だぜ」
「周りと同じなのが嫌なだけですよ。アテンザを選んだ理由にはそれもありますし、オリジナルを積んだのもありふれたエンジンスワップじゃ面白くないからです。どうせなら、やれるところまでやってみよう……そうして完成したのがこのアテンザです」
「しっかしまあ、恐ろしい完成度だよなァ……これはオレにはできねぇな」
「……すみません。もう一度、走っていただけませんか?」
突然の提案を投げかけたのはアキオだ。
「……それは、勝負をしたいということですか?」
「そういうことになります。外から見てても、Zがウズウズしてるのが分かるので……」
「……なるほど。そういうことならいいですよ。じゃあ早速走ります? コースはどうしましょうか」
「そうですね…………」
アキオがコース提案をしようと口を開きかけたその時、海ノ上SAの外から甲高いサウンドが響き渡ってくる。
その音はすぐに離れていき、主である車が凄まじい速さで駆け抜けていったことを示していた。
「ほう……キレイな音だ。V型で気筒数多いやつだなこりゃ。アウディか、フェラーリか、ランボルギーニか……」
「……いえ、違いますよ」
北見が音の主を探るが、そこにキャロルが異を唱えた。
「これだけ綺麗な音となると、おそらくはアレですよ。『天使の咆哮』と呼ばれる、ね」
「……ほう、LFAか」
レクサスLFA。国産車で唯一V10エンジンを搭載した、紛れもなく日本が誇るスーパーカーのひとつ。希少な車種ゆえ、出会うことはかなり珍しい。
「あの方向から来たとすると、例のアメ車軍団と会ってるかもしれないですね。そろそろ戻ってくる頃合いじゃないですか、鳴先輩?」
「そうねえ……間違いなく、音は近づいてきてるわよ」
聴こえてくるサウンドは、どこか覇気の抜けたものになっている。アメ車軍団がいかに気が引けてしまったかよく分かる。
「気の抜けた音だ……お前らか、さっきのやつか。相当コテンパンにされたようだナ? ククク……」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
時は少し巻き戻り、失意のもとにノロノロと走る青いコルベットZR1。後ろからも置いていっていたヴァイパーやカマロなど仲間が追いついてきている。
「あークソ、信じられねぇ……ストレスがマッハだぜ………」
青コルベットの主は苦虫を噛み潰したような顔でつぶやく。それほどに、自分たちが喧嘩を売った相手が速かったということ、その事実が自分の中で受け入れられずにいるのだ。
追いついてきた仲間たちが自然と編隊を組む。ツルンで走る時の形が決まっているが故だ。その点、この青コルベットの男にはある程度のカリスマのようなものがあってもおかしくないが―――相手を見る目というところでは、この男も、そして彼について行く連中も、素人同然であった。
そして彼らはまたしても、その「見る目のなさ」を晒してしまうことになる。
「……お、カモが1台いるじゃねえか。憂さ晴らしにぶっ潰すか」
150kmほどで流す彼らの前に見えたのは、さらにゆっくりした速度で流している1台のJZA70スープラ。階が乗っているJZA80スープラの先代に当たるモデルだ。
青コルベットは3回ハザードを点滅させ、それから加速。その意図を読み取った後ろの仲間も加速していく。そして威嚇的なまでの激しいパッシングを前の70スープラに向けて放った。
本来なら、ここで気づいているべきだった―――前を走る車の音が、
加速を始めたアメ車勢は、ものの数秒で再び意気消沈しアクセルから足を離した。
「な…………なんだよ、あれ…………」
消えていく赤いボディは残像を作り出す。それはまるで陽炎のようで。
響き渡る快音。反響し体に染みる、それはまるで天から轟くようで。
「………火を纏った天使……………」
無意識か、否か。彼の発した言葉は、これからそのスープラに出会うものがことごとく口にするものであり、やがて通り名と形を変える―――。
―――――《火焔の天使》。
誰が言ったか、その名がUHCに轟くまでそう時間はかからなかった―――。
三玖たちは北見らと出会い、アメ車軍団は謎の70スープラと出会う。今回のタイトルはそこから取りました。
留佳の出身が広島なのは、まあ後々を考えての設定です。私の地元というわけではありません(笑)。
書いていて思ったんですが、噛ませ役としてこのアメ車軍団がかなり使いやすいなと(笑)。まあ、今後出る予定は今のところないんですがね。
そして再びというかなんというか、バケモンマシーン登場です。いやぁ、規格外の存在を作るのって楽しくて楽しくて。今後もこういったバケモン出るかもしれないです。