湾岸ボカロフォギア~story of urban highway circuit~ 作:ヘリーR
寒くなってきましたね。前の話を投稿した時は確か猛暑の時期だったんですよね……。気が付くと季節が変わってる今日この頃。何事も楽しんで暮らしていきたいものです(切実な願望)。
「かなりの意気消沈ぶりだな……」
帰ってきたアメ車勢からは、バトル前には溢れていた覇気とかそういった類のものがことごとく消え去っていた。
「……大方、俺らに負けた憂さ晴らしをしようとしてさっきのやつに仕掛けたが、全くバトルにならなかったとか、そのあたりだろ」
神居の予測は寸分違わず正しかった。青コルベットの男は車から降りるとトボトボと鳴たちの方へ歩いてきて、口を開いた。
「………あの70スープラは、アンタらの知り合いか?」
ここで彼女らの頭の中には疑問符が浮かぶ。
「70スープラ……? いえ、知り合いにはいないわ。80乗りならここにいる私の弟がそうだけど」
「そうか……いや、いいんだ。俺らの負けだ。完全敗北。……それじゃ、俺達は帰ります…………」
最後には意識的なのか無意識なのか、敬語になって彼らは帰っていった。
「70スープラ、か……。さっきの音がそれなのか………?」
アメ車勢が海ノ上SAを出て見えなくなってから、キャロルがボソリとつぶやいた。
普通ならば周りから「そんなわけない、何を言っているんだ」と言われるだろう言葉だが、今回ばかりは否定する者はいなかった。
何しろ、状況証拠が揃いすぎている。
「ククク……。そう言わざるを得ないナ、これは。1LR-GUE換装の70スープラ……本当ならコイツはまたしても文字通りのモンスターだぜ」
「本来のエンジン、1JZの音は一切聞こえなかったし……ええ、私もそう考えるわ」
地獄のチューナー北見、そして元プロレーサーの鳴。双方も賛同している。
「混迷を極めてきたな、この場所も。面白くなりそうじゃないか」
神居が目を細めながら呟く。
気が付けば空が白み始めていた。
「む……もうこんな時間か。帰り時だな。………すみません、バトルは今度にお預けで」
「そうですね。今日はランデブー走行で各自帰路につきますか」
明け方の曙光にその身を輝かせながら、夜を飾った車たちは快音を響かせ去っていった―――。
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―――都内、とある建物の、とある一室―――。
その部屋はかなり大きく、壁一面に大きなスクリーンがあり、その他何やらハイテクを思わせるコンソール的なものが複数配置されている。いわば、オペレータールームらしき部屋だ。
左右に配置された2機のコンソール、その前に座り作業を進める2人の人物。
うち、右側のコンソールを使っていた女性が後ろを振り向き、後方中央のスペースに腕組み仁王立ちしていた赤いシャツの偉丈夫に声をかける。
「司令。一課の方から近況の情報が寄せられました」
「……む。向こうから情報が来るとは珍しいな。何か面白いものでも見つかったか……映してくれ」
コンソールに向き直った女性が何かしらの操作を施すと、壁のスクリーンに分かりやすくまとめられた文章が映し出された。
「……ほう、《青桜》の偽物が……。だがこいつは解決されたようだな。他には……むッ!?」
偉丈夫は目を見開き驚愕の表情を見せる。
「1LR-GUE換装の70スープラ……だとォ……ッ!?」
驚愕の表情はすぐに消え、年不相応に目を輝かせ文面を追う。
「ほう、ほう………《火焔の天使》。興味深いな……」
「……司令。もしや行かれますか?」
「………ああ。こんなに昂ぶるのは久しぶりだな。かなりの変わり者だ、直接目で見て確かめねば男が廃るッ!」
「では車を準備します。『あの車』で問題ないですか?」
「ああ。むしろ、ソイツ以上の適役はいないだろう」
「了解しました。18時までに各種機能の確認を終えてガレージに出すよう、了子さんに連絡しておきます」
「頼む」
偉丈夫は強い足取りでオペレータールームを出ていった。それを見届けた2人のスタッフは苦笑いを浮かべ肩を竦めるのだった―――。
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偉丈夫が《火焔の天使》の情報を見ていた頃とほぼ同時刻。都内、某テレビ局。
「さあ今日も始まりました、ドライブGOGO! どうもこんにちは、城島洸一です」
「秋川レイナです」
自動車番組、『ドライブGOGO』の収録が行われていた。
「レイナちゃん、今回は特別ゲストがいるんだって?」
「はい! 最近人気急上昇中の、あの歌姫です!」
「お、誰かな? 気になりますね〜。では早速登場していただきましょう、ゲストはこの方です!」
フレームインしてきたのはスラッとした長身、スレンダーなモデル体型のクールビューティ。そう―――。
「こんにちは。風鳴翼です」
―――『S.O.N.G.』の一員、《天羽々斬》の主、風鳴翼その人である―――。
「―――カット! 以上で収録は終わりです、お疲れ様でした!」
ディレクターの威勢の良い声が響く。翼をゲストとして迎えた『ドライブGOGO』の収録が完了したのだ。
「お疲れさまです」
翼は城島、レイナ、そしてその他の撮影スタッフたちに会釈して早々にスタジオを出ようとした―――しかし、呼び止められた。
「あっ、ちょっと! 良ければこのあとちょっと話さない? 休憩スペースで、少し」
呼び止めたのは、番組の華とも言える人物、秋川レイナ。人気モデルであり、この番組に出演していることから予測はつくが、車に対してもそれなりに造詣が深い。
「せっかくだ、車の話、もっとしようと思ってね」
その後ろから現れたのは番組のメインパーソナリティ、城島洸一。外車の評論家として確立された人気を誇る。
対し翼は、番組で紹介された通り、新進気鋭の歌手である。その類まれな歌唱力は、いとも容易く日本の人々を虜にしたのだ。
「……私で良ければ」
「やった! じゃあ、早速行きましょ!」
________
「―――番組中でも聞いたけど、翼ちゃん、FD乗ってるんだって?」
席に座って開口一番、レイナが翼に尋ねる。収録中は抑えていたウズウズが解放されたかのように前のめりで聞いてきた。
「はい、まあ………それが何か?」
問を返されたレイナは、ニヤニヤ顔で城島の方を向く。
「だそうですよ、城島サン?」
「おいおい、よしてくれ……まあ、僕もそれが気になって、こうして話しに来てるわけだけど」
「……?」
二人の会話に翼は接点が見つけられない。困惑した表情を浮かべている。
「……今でこそ、外車評論家として名前が通っているけどね。こう見えて僕も、チューニングカーに魅了された人間なのさ」
「………なんと」
「そして、乗っていたのはFC3S……君が乗っているFDの先代モデルだ」
「………驚きました。まさかあの城島さんが、ロータリーに乗っていたとは」
「もともとロータリーからこの世界に入った人間だ、起源はどちらかと言えばそちらにあるんだがな……ハハ」
「では、今もFCに?」
「いや、FCはとあるプライベーターの人に預けてあるんだ。たまに乗りに行くくらいかな。外車評論家がバリバリの国産チューニングカーに日常から乗っていたら、苦情が来そうだろ?」
「ハハハ……確かに」
「今回、君を呼び止めたのは他でもない……そのFDの横に、乗せてほしいと思ってね」
城島が真面目な表情になり翼の顔を見つめる。その目は、真剣そのものだ。
「……いいですよ。ぜひ、忌憚ない感想を聞かせていただきたいですね」
「よし、そうと決まれば」
「しかし、レイナさんは?」
レイナはなぜか笑顔だ。何か、楽しみを見つけたと言わんばかりの顔だ。
「私は大丈夫だから、早く行ってきたら?」
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UHC、横羽線。夕陽が差し込むザラついた路面を蹴って、イノセントブルーの低いボディが疾駆する。
《天羽々斬》の名を冠したFD3S。そのホイールベースの短さと軽さ故に超高速域の直線区間ではやや不安定さを見せるが、同時にコーナリングの鋭さは抜群だ。それはたとえ路面の狭く、ザラついた横羽線でも変わりない。
「おおおッ、横に乗っているだけでも分かる、この鋭いコーナリング、立ち上がり、そして独特のサウンド―――これだよな、ロータリーといえばァ」
城島が実況者のごとくテンション高く語る。職業病かと思うほど喋り倒す彼の声を聞きながら、翼は苦笑いを浮かべていた。
「先程から随分と興奮してますね……本当にロータリー好きなんですね」
「まあね。俺の原点と言ってもいい存在だからな」
「……なぜ、ロータリーを選んだんです?」
「単純さ。……今でこそ、上はたくさんいるけど。速いエンジンだからだよ、ロータリーが」
「……速い、エンジン」
「ああ。君がFDに乗るより、そして俺がFCに乗り始めるよりも遥か前……。サバンナGTがハコスカと勝負を繰り広げていた頃は、今の『GT-R vs RX-7』のバトル構図とは真逆の様相を呈していたんだ」
「………つまり、ストレートでサバンナが抜き、コーナーでハコスカが差を詰める、と」
「そーゆーこと。ロータリーは決して遅いエンジンじゃない。俺は、そこに惹かれたんだ」
「なるほど……」
話しながらも翼は運転に対する意識を緩めない。ステアリング、シフトチェンジ、アクセル調節―――すべてをしっかり的確に行っている。
「……噂をすれば。後ろから1台来てますね。白い、R32」
200km/h超で流す蒼いFDのバックミラーに、R32がその白いボディを夕陽に少し赤く輝かせながら映り込んだ。
「ハハハ……ありゃレイナちゃんだ」
「えッ!?」
「彼女はここが首都高だった頃から走ってるよ―――当時は、『Rのヴィーナス』なんて呼ばれてたっけか」
「………ということは」
「ああ、速いよ。ハナからこうするつもりだったんだろうね」
近づいてくるR32の纏う空気感は好戦的だ。バトルをしたいという意思が、ひしひしと二人に伝わってきていた。
「R32……考えてみれば、私はR32とは走ったことがないですね」
「お、それは意外だナ……。俺もレイナちゃんもUHCにはあまり来ていないけど……32Rはあまり走ってないのかい?」
「そうですね……まだ私は会ってないですが、現在のトップランナー、《青桜》は33。仲間に1人R乗りがいますが、彼女は34ですから」
「……R乗りには雰囲気組も多いからナ。本気で32Rに乗るやつは減ってきてるかもしれないナ」
「雰囲気組はこんなところには来ませんからね」
「ああ、もはや首都高でなく、ある種サーキットと化したここに来るのは、本気で走り続ける者か、自分が速いと勘違いしているならず者……そうだろ?」
「ええ……間違いなく」
話している間に後方のRB26の轟音は近づいてくる。官能的な直6サウンドと空気を切り裂くような甲高いロータリーサウンドが絶妙なデュエットを奏でる。
「……踏みます。心の準備は?」
「必要ないさ……とっくの昔に終わってる」
「……では―――参る!」
アクセルを一気に奥まで踏み込む。ロータリー特有の高周波サウンドが苛烈さを増していく。
同時に、地の底から鳴るような重低音も獰猛に響いていく。
赤かった空は徐々に藍へと色を変える。
「狭い横羽線、オールクリア……久しぶりに本気出しちゃおっかナ」
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日がほぼ沈んだ午後6時30分頃。海ノ上SA。
男が1人、車のそばに立ち缶コーヒーを飲んでいる。
その車は赤い70スープラ。大きい箱型ウィング以外はほぼノーマルの外装だ。シルバーのBBS·LMホイールが、ボディの赤をきらびやかに引き立てている。
「……ふぅ」
渋い顔で小さなため息を1つ。ここ最近の自分に降り掛かった災難を思い返し頭を掻く。
「掛かってくるやつはどいつもこいつも思わせぶりな高級外車……それでもって見掛け倒しだからな……はぁ」
ボソッと独りごちる。自分の存在が噂になっていると知ったのはごく最近のことだが、そこからの短い間でやたらとバトルを申し込まれてきた。
しかし―――どれも圧勝。スタートから20秒としないうちにバックミラーから消えてしまうのだから拍子抜けもいいところである。
「ん……この音は」
哀愁漂う雰囲気で佇む彼の耳に、特徴的な音が聞こえてきた。
「フラット6……ポルシェか?」
その音は近づいてきて、海ノ上SAに入ってきた。そして―――彼のスープラの右隣に停めた。その正体は、意外なものだった。
「珍しいな……アルシオーネか」
スバル·アルシオーネSVX。スバル車ならインプレッサがほとんどのこの界隈ではかなり異端な存在と言えるが、3.3リッター水平対向6気筒エンジンのEG33は、インプレッサに搭載されるEJ20よりは確実に強大なトルクを誇る。もともとのタマ数こそ少ないが、発売当時よりチューニング技術の進んだ今、決して遅い車ではない。
降りてきたのは赤いシャツを着た偉丈夫。ただ車から降りてきただけなのになぜか空気が重い。ものすごい圧がある。
「……うむ。外見はほぼノーマルながら、それと示す『雰囲気』があるな。お前が噂の《火焔の天使》か?」
偉丈夫のその言葉に、男は片眉を上げる。
「今……『雰囲気』と言ったな。分かるのか、あんたは?」
「そうだな。真に速い者だけが持つ、独特なオーラを感じるとも」
偉丈夫の返答に、男は笑みを浮かべた。
「……久々だよ、あんたみたいなやつは。噂が立ってからというもの、外車乗りの勘違い野郎ばかりが詰めかけて来てたんでな。……ああ、俺が《火焔の天使》……そう呼ばれてる」
二人の間には何か通じ合うものがあったようだ。互いに目線を交わし、好敵手的な雰囲気を漂わせている。
「アルシオーネというのはここいらじゃ初めて見たが……。それこそ、売り言葉に買い言葉っつーのか? あんたにもあるな、『雰囲気』ってやつがよ」
偉丈夫が乗ってきたダークブラウンのアルシオーネSVXもまた、ただならぬ雰囲気を持つ。開口部を大きく広げたフロントにダクト付きボンネット、小型のディフューザーを装備したGTカールックのそれは、あえてなのかウィングレスが流線型のボディを際立たせている。車に同じく珍しいガンメタルカラーのOZ·クロノ3もよく似合っていた。
「ふっ。分かるヤツは分かるってな」
「……好感が持てるよ、あんた。車で乗り手を判断してない。……俺は
「こちらは風鳴弦十郎だ。よろしく頼む」
握手を交わす。その固い握手には、互いにライバルと認めるような、そういう気持ちがこもっていた。
―――しかし、新太は笑顔をすぐに消し、鋭い眼光でスープラの左隣に停めてきた2台を睨む。
「……はぁ。またか………」
メルセデスベンツ·SLS AMG GTが2台。片方はシルバーのボディをこれみよがしに輝かせ、もう1台はオールペンなのかメタリックブルーのボディを妖艶に魅せている。見た目こそ迫力十分だが―――。
「……なんの用だ」
新太がため息混じりにSLSから降りてきたいかにもな風貌の男2人に尋ねる。
「そりゃ決まってんだろ。お前が《火焔の天使》だろ? ブチ負かしに来たのさ。古臭え70スープラで調子に乗ってるテメェをな」
「かなり速いっつーからどんなエアロしてんのかと思ったらほぼノーマルかよ! 負けるわけねーじゃん、こんなのによぉ!」
早速イビり倒す二人組。新太はそれを諦念のこもった冷ややかな目で見ていた。
「走る前。口ではなんとでも言えるさ……やるならとっととやろうぜ」
いかにも面倒そうにスープラに乗り込もうとする新太。しかし、そこにストップがかかった。
「……待て。そのバトル、俺も参加していいか?」
弦十郎が割って入ったのである。
「ああ!? んだよオッサン、車種はなんだ?」
「スープラの隣に停めてあるだろう。アルシオーネSVXだ」
「………………………」
「………………………」
二人組が揃って沈黙する。その沈黙は、そう―――。
『そんな車知らない』
―――ということを示していた。
「その沈黙、許可と取るぞ。いいのか?」
「……あ、ああ。構わねえぜ」
そして2人組はそそくさと車に乗り込んでいった。新太と弦十郎も自身の車のコクピットに身を収め、エンジンを始動する。
「ほう……間違いないな。天から響いてくるようなV10の音だ」
地から鳴動するようなフラット6の音を奏でる自身の車のコクピットに座っていながら、その上からさらに響く美麗な高音を耳にして弦十郎は確信を持つ。その目は、これから風変わりなモンスターチューンドと共に走れることへの歓喜と情熱に輝いていた。
一方、70スープラのコクピット。
新太もまた、1LR-GUEの音に紛れて轟くEG33の唸りに心を高鳴らせていた。
「余計なのが2台加わってきたが……それでも僥倖と言うべきだろう。『本物』の走り―――見せてもらおうか」
今回のサブタイトルは《
いつだってこういう幻想的な架空の上位存在は人々の心をくすぐるものです。え? お前だけ? そんなー。
新キャラの新太ですが、新庄雄太郎さんからのリクエストによるオリジナルキャラとなります。元々完全なオリジナルキャラは作る予定はなかったですが、リクエストとなれば話は別。「こんなキャラ考えてみました!」とかあれば、気軽にメッセージを送ってください。構想だけは練られてる第二部で登場したりするかもしれません。そもそも第一部をどう終わらすんだ、いつ終わるんだって話ですが(笑)。