湾岸ボカロフォギア~story of urban highway circuit~   作:ヘリーR

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 お久しぶりです。
 気づけば前の投稿から半年も経っておりました。ちゃんと生きてますよ、はい。
 コロナ渦で時間ができてたくさん投稿できるかもと頭をよぎったりした時もありましたが、年度始めのあれやこれやに、その他なんだかんだいろいろあって時間なんてあるようでないものでしたね。まあ自分にはこうやって気の向いたときにコツコツ書き溜めていくのが性に合ってるんだと思います。読者の皆様、これからもよろしくお願いしますm(_ _)m

 さて、本編は……いや、前書きで多くを語るのはやめておきましょう。それではお楽しみください。


act.26「再誕」

 「君の33R、責任を持って復活させよう―――」

 

 黒木隆之。

 第2世代GT-Rのチューニングショップ『FLATレーシング』の主であり、生粋のRジャンキーである。

 かつては自身の愛車、白いR33GT-Rをあの『悪魔』を撃墜せしめる戦闘マシンへと昇華すべく他を切り詰めた―――その情熱はまさしく『本物』のそれである。

 そんなRのスペシャリストのもとを訪れたのは、偽《青桜》として一時期UHCの話題を掻っ攫ったスキンヘッドの男。名を壱終(いっつい)七秋(ななあき)という。

 

 結果としては愛車を傷だらけにしてしまった彼だが―――その実、動機は車への愛に満ちていた。そこに気付いた三玖とキャロルが差し伸べた救済の手のおかげで、ここに同じR33を愛し、一度はその極点に至ったとも言える男との邂逅を果たした。

 

 「……ところで君、そのスキンヘッドは好んでのことかい?」

 「え……? いや、実は……見くびられないように、ちょっと格好をイカつくしようと……」

 「君はどうやら、根本は優しい人のようだからね。キャロルからもそう聞いている。無理はしない方が良い……格好だけ背伸びしても、しょうがない」

 「そ、そうですか……。じゃあ、スキンヘッドやめようかな……」

 「うん。そのほうが、素の君を見れそうだ。………さて」

 

 黒木は柔らかだった表情を引き締め、七秋のR33に向き直る。

 

 「車体右面があらかたヤラれてしまっているな……。それも直すのはもちろんだが―――君、空いてる日と時間、分かるかい?」

 「そ、そうですね……平日はだいたい19時からなら。休日はだいたい大丈夫ですよ」

 「そうか。せっかくだ、Rチューニングの何たるかを君に教えたい。車体の修理だけでなく、エアロパーツや中身の話までね。君に時間を合わせて、じっくりとこのRを熟成させたい。良いかな?」

 「……はい! よろしくお願いします!」

 

 偽《青桜》として暴れまわっていたころの面影はどこへやら。ともかく丁寧な物腰になってしまっている七秋と、Rのスペシャリスト黒木の手が、ここに組まれるのであった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 「はぁーーー……暇だなぁ………」

 

 日が沈んできた午後6時頃。自宅にてソファにくつろぎ車雑誌を読み耽るは恵未。

 その雑誌の内容はもちろんロータリー特集。彼女を虜にし、故に彼女の宝物である山のようなロータリー特集雑誌をゴロ寝しながら眺めているのだ。

 

 「こうなってみると、改めて分かるなぁ……私、FCで走ることにかなりの時間を掛けていたんだ……」

 

 感傷に浸る。相棒が一時的とは言えいなくなったことで、手持ち無沙汰になった時間。この時間の愛おしさが否が応でも押し寄せてくる。

 そこへ、静寂を破るロータリーサウンド―――。

 

 「……ん、この音は………」

 

 玄関に出てみれば、ベージュ色のRX-8がハザードを点滅させて停まっている。

 

 「寧亜ちゃん。どうしたの? こんな時間に………」

 「………神居が、呼んでる」

 「!」

 

 その後の言葉は不要。恵未は慌ててお気に入りの―――チェック柄のジャケットを着て、寧亜のエイトの助手席に乗る。

 間髪入れずに発進するエイト。その行き先は、もちろん『蜻蛉屋』である―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………来たか」

 

 『蜻蛉屋』の店先にて、缶コーヒーを飲みながら佇む神居。近づいてきたロータリーサウンドを捉え、コーヒーを一気に飲み干す。

 いつぞやのごとくノールックで放り投げた缶がガレージ前のゴミ箱に見事入ったところで、ベージュのRX-8を視認する。

 神居の立っている側の反対にRX-8が停車し、直後に慌てたように開かれる助手席の扉。

 

 「神居! 話って……」

 

 駆け寄ってきた恵未が尋ねる。その目は、普段より幾分か輝いていた。

 

 「………ああ、完成したぞ。ついて来い」

 

 案内されるは店裏のガレージ。シャッターの鍵を開けたところで、エイトの持ち主である寧亜も追いつく。

 

 「……心の準備はいいか?」

 「………」

 

 無言で、しかして力強く頷く恵未。それを確認した神居は、一気にシャッターを持ち上げる―――。

 

 現れたのは言うまでもない―――神居によって新生した《草薙竜》だ。

 カラーリングはやや変えられている。唯一オレンジだったフロントバンパーはボディと同じライトグリーンに。その代わりに、ボンネットに2本、細めのオレンジ色のラインが引かれている。

 そして、何より変わったのはエアロパーツだ。フロントバンパー下部はカーボンに、リアには小ぶりのディフューザー、さらにマフラーは4本出しだ。

 

 「もう少しガッツリした空力パーツを付けても良かったが……お前はこれくらいを気に入りそうだったからな。リトラもそのままだ」

 「……流石だね、神居。ドンピシャだよ、そのエアロ」

 

 戻ってきたFCに近づいていく恵未の口元は、歓喜を隠しきれていない。その瞳も、純真な子供のようにキラキラと輝いている。

 

 「……でも、肝心なのは中身。そうでしょ?」

 「……フ。こちらからも、『流石だな』と返させてもらおうか。いいぞ、ボンネットを開けてみろ」

 

 開かれるボンネット。そこに鎮座まします心臓部(エンジン)は、異様な存在感を放っていた。

 

 「……ずいぶんと大きくなってるじゃない。これ……3ローター……いや、まさか」

 「そのまさかだ。4ローターNAペリ仕様……R26Bと同じだ。さすがに13Bを二つドッキングしたものだがな……」

 

 かつてル・マン24時間耐久レースを制したマツダの名作、787B。それの心臓を担ったのが、R26Bというエンジンだ。

 4ローターペリ仕様。NAながら、700馬力を叩き出すモンスターエンジンだ。

 それと同じ仕様として作られたエンジンが、新生《草薙竜》のエンジンルームに納まっている。

 

 「……!」

 

 恵未は戦慄する。まだ起動すらしていない4ローターが、まだかまだかと、いつになったら走り出せるのかと、そう問いかけてきたような気がしたからだ。

 思わず口元が笑みを浮かべる。汗が額を伝う。唾を飲み込み、恵未は神居に尋ねる。

 

 「ねぇ。相当なじゃじゃ馬になってるんじゃない、FC?」

 「そうだろうな。元々ピーキーな性格ではあるが、それとはまた違うピーキーさだろう。フロントヘビーで回頭性は悪くなってるだろうからな。今までのFCに慣れてるお前からすると少し手間取るかもな」

 「………上等じゃん。絶対に乗りこなしてみせるよ。フロントヘビーのじゃじゃ馬になったって、この子は変わらず私の『竜』なんだから」

 「そうでなければ困る。お前に乗りこなせないのでは俺の見立てが崩れるからな。……早速、行くか?」

 「勿論!」

 

 FCの運転席に恵未、助手席に神居が乗り込む。寧亜はエイトで後ろから追う係だ。

 4ローターが待ちわびたように轟音を奏でる。蘇った緑竜が、久しく出ることのなかったUHC(戦場)に向かう―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日は完全に沈み、都会の明かりが綺羅星のように煌めきだした午後7時。まだ車の少ないUHCに響き渡る快音。

 2つのロータリーエンジン。2ローターと4ローターが絶妙にシンクロし、木霊する。

 

 「まずは慣らしだ。踏み抜く必要はない、コイツの『声』を聞いてやれ」

 「OK」

 

 気持ちゆっくりめにC1を流す。コーナーをひとつひとつ丁寧に抜けていく。

 

 (FC……あなたがまたここを走りたいと思っているのは、乗る前から伝わってきた。だから……あなたがまだ、私を認めてくれるのなら―――一度はあなたを壊してしまった私を乗り手として求めてくれるのなら、聞かせてほしい。あなたはここで、どういうふうに走り抜いていきたいの?)

 

 心の中で問いかける。今やサーキット同然とはいえ、ここは元々首都高である。生半可な車との付き合いでは走り続けることはできない。車と乗り手との会話、そして―――乗り手が車をどれだけ理解できるかが、UHCで走る上では欠かせない。

 ―――決して、「車が乗り手を理解する」などと捉えてはいけない。それが間違いであることは、かの《悪魔》がとっくに証明している。

 

 FCの音を、『声』を聴く。言葉とはならないそれは、しかし彼女には理解できた。

 

 (……!)

 

 まずは、これまで通りに操作してみる。やはりというべきか、回頭性が以前より鈍く、うまくインにつけない。

 

 「くぅ……! やっぱり重いね! 全然頭が入っていかないよ」

 「エンジンはなるだけ後方に配置したがな……3ローターとは勝手が違う。どう頑張っても、やはりフロントヘビーにはなるだろう」

 「でもこれ、乗りこなしたら楽しいだろうなぁ……!」

 「……既に、楽しそうに見えるが?」

 「うん、楽しいよ。だって、また走れるんだから!」

 「………フッ。頑張った甲斐があったな。楽しんでもらえるのが一番嬉しいからな、チューナーとしては」

 

 ステアリングを切るタイミング、アクセルオフ、ブレーキング、どれもが以前とは違う動作を求められる。

 コーナーに入るたびに、そのアプローチの仕方を少しずつ変えていく。このFCが最も速く走れるやり方を探る。不敵な笑みを浮かべながらそれを平然とやってのける恵未を見て、神居は思う。

 

 (この速度域……ベタ踏みじゃない状態でも、かなり苦戦しているのは分かる。だが同時に……やはり、FCとの会話を心から楽しんでいることも分かる。

 

 

 

 

 

 ―――楽しめるのなら、いずれ必ず乗りこなすだろう。この『竜』は、お前に乗ってほしかっただろうからな―――)

 

 ペリフェラルポートの独特な快音が鳴り響く。全開とは到底言えない速度域でも、醸し出す迫力は787Bのそれと寸分違わない。

 

 

 

 

 徐々に、恵未(ドライバー)FC(クルマ)の歯車が噛み合い始める。高回転に特化した4ローターNAペリの特性を活かすように、アクセルの開度が大きくなっていく。

 

 「………!」

 

 思わず、神居も息を呑む。

 

 (早い……もうリズムが合ってきている…………。そう時間はかからないだろうと踏んでいたが、まさかこれほどとは……)

 

 恵未がアクセルを開けていくにつれ、竜の新たな心臓もその咆哮を大きくしていく。ふとすれば乗り手を酔いしれるほどに軽快だ。

 

 『……二人とも、聞こえる?』

 

 ダッシュボード上に固定した無線機から声が入る。後方を走っている寧亜の声だ。

 

 「ああ、問題ない。何か気づいたことがあったか?」

 『多分、神居が一番感じてると思うけど。えふしー、どんどん速くなってる』

 「……外から見てもやはり分かるか」

 『こーなーの抜け速が、どんどん上がってる。最初は加減しないと追突しそうだったのに、今はもうその心配ない』

 「………だとさ、恵未。運転の当事者としては、どうだ?」

 

 神居から問われた恵未は不敵な笑みを崩さぬままに答える。

 

 「追突の心配がないだなんて、言ってくれるじゃん。さっきからビリビリプレッシャーを感じるよ」

 

 寧亜はC1におけるコーナリング技術としては1、2を争う腕を持つ。ああは言うものの、実際はコーナーの度にスレスレのテールトゥノーズの状況を作り出している。

 

 「……逆に言えば、さすが4ローターってところだよね。トルクバンドさえ外さなきゃ、短いストレートでも離せるんだから」

 

 ストレートでFCが突き放し、コーナーでエイトが差を詰める。それを繰り返す。

 だがそれは、FCが前にいるからこそであると、恵未は理解していた。

 

 「寧亜ちゃん! 前譲るよ、思いっきり走って!」

 『………本気?』

 「本気も本気。何なら置いていってくれて構わないから!」

 『……分かった。頑張ってね、恵未』

 

 赤坂ストレートで横を開け、エイトを前に行かせる。即座に加速を開始したエイトに、緑竜は食らいつけるか。

 

 「さあ、行くよFC……あなたの力、まだまだこんなもんじゃないでしょ―――」




 というわけで、《草薙竜》こと恵未のFCが4ローターペリの新エンジンを積んで復活です。心臓部(エンジン)が変わっているので、今回のサブタイは「再誕」なんです。
 エアロパーツは湾岸6から追加されたエアロセットJを参考にしています。あまり人気のあるイメージはないですが、個人的には結構好きです。ゴツめの角ばったエアロも似合うのは、FDにはないFCの利点だと勝手に思ったり。

 そして黒木サンを出そうと思ったらそのまま出演継続が決まりネームドキャラに昇進してしまいました、今はまだスキンヘッドの七秋。主人公·初春三玖の漢字をそれぞれ逆にし(初→終、春→秋、数字は10から引いて三→七、玖(九)→壱(一))、並べ替えた名前になります。我ながら結構安直(笑)。性格も一変していますが、以前は無理してああいうキャラを演じていたと思っていただければ。これもある意味、演じていたものから素の自分へ、という意味で「再誕」ですね。

 それでは、また次回もお楽しみに!
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