湾岸ボカロフォギア~story of urban highway circuit~ 作:ヘリーR
頑張ってキープしたいですね……したいですね…………。
黒木が元木から宣戦布告を受けた日、夜が明けて午前7時。
『S.O.N.G.』拠点、キャロル自室にて―――。
Prrrrrrrrr…
「……厶、電話か。……黒木さん?」
携帯を取り、通話ボタンを押す。
「もしもし? 早い時間からどうしたんですか?」
『おはよう、キャロル。ちょっと急を要する事態になってね。……君のチームに、34R乗りがいただろう?』
「……ええ」
『その子と一緒に、今日の午後5時に新辰巳PAに来てくれないか?』
「……分かりました。本人には都合をつけてもらいます」
『よろしく頼む。………ああ、それから』
「?」
『《青桜》にも、同様に伝えてほしい。あいにく僕は彼女の連絡先を知らなくてね』
「………ああ、なるほど。なんとなく事情は察しました。こちらから連絡しておきますよ」
『ありがとう。じゃあ、午後5時に新辰巳で』
電話が切れる。耳から携帯を離し、ひと息。
「……Rか。なんというか、業の深い車だよな……」
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新辰巳PA。新環状エリア―――その一部を形成する9号深川線と湾岸線の境界に位置するパーキングエリアである。
首都高の頃は「辰巳第一PA」「辰巳第二PA」に分かれていたが、現在はUHC辰巳ジャンクションの真下で合併され、1つの大きなPAとなっている。
大きさはそれなりだが、海ノ上SA―――かつての大黒PA―――と違い、フードメニューの提供がないため、あまり人は集まらない。黒木がここを指定したのは、如何なる理由あってのことか。
午後5時。
時間も相まって、人一人いなかったそこに、数台の車が集まってきた。
33Rが2台。34Rが1台。そしてアテンザと―――FD。
集まるが開口一番、
「なんで先輩がここにいるんだよ!?」
とクリスの絶叫(?)が響いた。
クリスの言う『先輩』とは、FDの持ち主、風鳴翼のことである。『S.O.N.G.』の先輩なのは当然のこと、学生時代においても頼れる先輩であった。学業の成績に関しては後輩の圧勝であったようだが。
なお、翼は高校卒業後アーティストの道へ本格的に進んだことは知っての通りだが、クリスは推薦で大学に進学している。専攻は声楽、それ以外にも幅広く積極的に学んでいるとか。なんとも勉強熱心、口は悪いが根は優しく真面目なクリスらしい選択である。
「ふふ……教えてやろう。先輩はな、先輩を連れてくるためにここに来たのだ」
「ややこしい言い方しないでくださいよ……」
「(苦笑)は、はじめまして。モデル界では翼さんの先輩にあたる、秋川レイナです。私のRは今メンテに出してるから、翼ちゃんに送ってもらいました」
「……あ。ど、どうも。雪音……クリスです」
初対面だからか、おどおどと自己紹介を返すクリスを見て、レイナは思った。
「………かわいい…………」
「か、かわッ!? ち、ち、ちょっ、はあ!? 初対面なのにいきなりか、可愛いとか、何言ってるんですか!?」
「そうでしょう可愛いでしょう。私の自慢の可愛い後輩です」
「先輩!?」
翼にも追い打ちをかけられ、顔を真っ赤にして慌てふためくクリス。そして。
「………………かわいい(ボソッ)」
「ひゃう!?」
三玖が思わず呟いてしまったそれが、クリスにとどめを刺した。
「ば、バカ! そうやって人をからかうやつは、いつか行いが自分に跳ね返ってくるんだからな!」
少し涙目になりながらキャロルの後ろに隠れてしまった。背の低いクリスが高身長のキャロルの後ろに隠れるのは「子ども感」が増し、翼もレイナも三玖もまた「かわいい」と思うのは必至であったが、そこは言うのを耐えた。
「………思わぬ自己紹介だったな、クリス。とりあえず、本題に移りましょう、黒木さん」
キャロルはクリスをかばう形で話を変える。茶番を続けている余裕はないと分かっているのだろう。
「そうだナ。……僕のかつて所属していたRチューナーの集団、『R200CLUB』から宣戦布告を受けた」
「……! 『R200CLUB』って……あの?」
三玖が問う。R乗りの中で、件の連中はよく知られた存在だ。良い意味でも―――悪い意味でも。
「今じゃサーキットで記録更新連発中だってヤツらだよな? フルチューンのR35が印象的だけどよ」
クリスが畳み掛ける。そして黒木が返す。
「ああ。僕は最近そこら編の情報は集めてなかったから、知らなかったんだけどね」
「黒木さん、それだけじゃないでしょう? 要注意の連中だってことも言っておかなきゃ」
キャロルから不穏な補足が入る。黒木は苦笑いしながら、続ける。
「元々チームメイトだった身としては、複雑な気分なんだけどね。……サーキットでは、そんな醜態は晒さないんだろうが。かつて首都高を彼らも走っていた。だがその走りは、いささか許容しがたいものもあってね。
―――気に食わないのがいると、執拗なブロックでクラッシュに追い込む。そういうことをやっていたんだヨ」
「「!!」」
三玖とクリスの顔が一気に険しくなる。
「特にJPPの園田サンはその気が強くてね。あまりいい話は聞いたことがない。……何はともあれ、そんな彼らだが、首都高がサーキットになったことで、縄張りだと言わんばかりにやってくるわけだ。僕としては、一度は降りたあの人たちにUHCを明け渡すのは真っ平御免。第2世代―――スカイラインGT-Rを各種1台は揃えてこいとのことで、こうして協力をお願いしに来たんだ」
「だから私にも連絡が来たんですね。急に連絡寄越すんだから、ビックリしちゃいましたヨ」
「しょうがないだろう。今もUHCを走ってる32R乗りなんて、君しか思いつかなかったんだからナ」
「あら嬉しい。私は黒木サンに全面協力しますヨ。二人はどうするの?」
すんなり要請を受け入れたレイナが三玖、クリスに問う。
全員、答えなど最初から決まっている。
「私はもちろん、協力します。自分で言うのもなんですけど……UHCでも名の通った身ですから。ましてR乗り指定なら、観客に徹するなんてありえません」
「あたしも協力する。あんまホメられた走り方をしないってんなら、なおさらな。いっちょ揉んで、サーキットに追い返す!」
「………ありがとう。勝負の日時は、1週間後。夜9時に海ノ上SAだ。―――なんとしても勝つ」
皆が頷く。1週間後に向け、それぞれが動き始める―――。
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新辰巳PAを出た足で、レイナが翼に向かってもらったのは、32Rをメンテに出しているというショップ。
「……なるほど。あの連中が、また戻ってくるんだナ。で、こちらも受けて立つと」
『YM Speed』。首都高圏のチューニングショップでは、名声を二分する大御所だ。現在でこそ『ステップランブル』がかなり台頭してきて、ショップではなくとも『S.O.N.G.』のように「走り屋なら知っている」名チューナー、あるいはチームが出てきているが、それでも人気は衰えるところを知らない。
レイナから一連の話を聞かされ渋い顔をしているのは、そのボスである山本和彦。整えられた口髭が絶妙に『シブいオヤジ感』を出している。
「そーゆーコト。だから山本サン、メンテついでに、久しぶりに本格的に手入れちゃってくださいヨ」
「まさかレイちゃんがここまでのめり込むなんてねぇ………今更だけどサ」
レイナはずっとこのショップに世話になっている。かの《悪魔のZ》を追う―――抜くのではなく、ついて行くためのチューンが施された彼女のRは、裏を返せば他のチューンドは優に喰えるポテンシャルを秘めている。
「本格的にとか言うけど、もうこれ以上手を入れるところなんてないヨ。レイちゃんも今以上の馬力は求めてないだろう?」
「ま、そうなんですけどネ。ボディ周りがしっかりしてくれれば、それでOKです」
「じゃ、もう大丈夫だ。また勝負の前日に持ってきてヨ。これから走り込むつもりだろう? 最後の仕上げはとっとかなきゃナ」
「さすが、分かってるゥ」
メンテを終えた白い32Rは既に『YM Speed』のガレージを出て待機している。軽い足取りでレイナが乗り込み、蒼いFDとともに颯爽と出ていった。
「……変なウワサもあった連中だ。何もなければ良いんだがナ……」
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所変わって、『S.O.N.G.』の拠点―――。
「えっ!? クリスちゃん、《青桜》と一緒に走るの!?」
「……まあ、そういうことになった。だが事情が事情だからな、あまり羨むなよ」
クリスとキャロルから話を聞いた響たち。当然、響は驚き、羨むことになる。
「……当日、隣乗っちゃダメ?」
「少しでも重量増すのは避けたいから却下だ」
「まるで私が重いみたいにッ!?」
「お前じゃなくても乗せねぇって! 話を大きくするな、バカッ!」
「いったーーいッ!?」
響の背中に炸裂するクリス渾身のビンタ。割と日常茶飯事な光景である。
「食いしん坊なのに、太らない響さん。羨ましいデス……。アタシはすぐにお腹がプニってしまうデスよ」
『好きなものはご飯&ご飯』ながら、しっかり引き締まった腹筋をキープする響に対して、自分のすぐにプニるお腹を気にする金髪娘。バッテン印の髪飾りが可愛らしい彼女の名前は
「切ちゃんは痩せ過ぎたらダメ。プニっとしてひんやりな、二の腕とお腹は私が守る。というわけで、晩御飯できあがりです。お残し、ダメ、絶対(キリッ)」
そんな切歌を全肯定する黒髪ツインテールの小柄な娘。台所から出てきた彼女は
全員で食卓を囲み、『いただきます』を唱えて始まる和やかながら騒がしいひと時。
「そもそも切ちゃんは自分の体型を卑下しすぎ。その絶妙なプニ具合は私の癒しだし……」
「……だし、なんデスか、調?」
「(じーーーーー)私にはない、立派な胸がある」
「デデッ!?」
「………(唐突に響の二の腕をつまむ)」
「うひゃあ!? ちょっと未来、急にやめてよぉ!」
「良い引き締まり具合。私は響の鍛えられた腕も好きだよ?」
「え? え、えへへ……照れるなぁ……」
「それでいて胸がある。秘訣はなんですか、響さん」
「う、う~ん? 聞かれても……分からないよね、切歌ちゃん?」
「そうデスよ。特に特別なことはやった覚えがないのデス」
「………最近、未来さんも少し大きくなってませんか?」
「……そうかなぁ? あまりそんな気はしないけど」
「あれ? でも未来、最近下着がキツくなっt「響?」………あ」
「…………(絶望の表情で自分の胸に手を当てている)」
「ああああ……調、しっかりするデス! 小さくたって私は調がいつでも一番デスよ!」
「そうだよ? 私の胸だって大きくなってない。気のせい。ね?」
((有無を言わさぬ口調だ(デス)……!))
(こいつら……人前でイチャイチャと……)
「共に強く生きよう、月読……。私とて辛いのだ……マリアも雪音も、極致に至った大きさをしているというのに………ッ!!」
「先輩!?」
「翼はそれでいいのよ。慎ましさも美しさの1つ。あなたはそれで完成されているの」
(それって慰めになってないような……)
「くっ……! 強者の余裕というわけか……! 言ってくれるなマリア……!」
(ほら、やっぱり……これどうすんだよ、収まりつかねえぞ………)
「…………おい」
ドスの聞いたキャロルの声に、皆が静まり返る。諌める声を期待したクリスであったが―――。
「……サイズの話なら、なぜオレに言及しない? ここにあるだろう! 立派な! 2つの! 山がッッ!!」
「なんで話をデカくするんだよ―――――!?」
残念ながら、外れたようだ。この日の『S.O.N.G.』の食卓は、下世話な話が飛び交い続けたとさ―――。
「………なあ、ちょっと良いか?」
慌ただしい食事の時間が過ぎ、調、切歌、マリアは食器の片付けへ、響、未来、翼はデザートの買い出しへ。リビングのテーブルにはクリスとキャロルだけが残っている。
「……なんだ? 大方、例の話に関することだろうが」
「……軽量化をしたい」
「……………ほう?」
片眉を上げて続きを待つキャロル。理由を知りたいのだろう。
「相手はなんだかんだ言って、最新型の35Rだろ? できることはしておきたい」
「なるほどな。具体的には?」
「ボンネットとミラーのカーボン化、あとはリアフェンダーにダクトをつけてほしい。あたしのRはああいうエアロだからな……パラシュート効果の影響を軽減したいんだ」
「ああ……オレのアテンザのように、リアフェンダーをつけた弊害を消すためのダクトだな」
クリスの34Rはエアロが独特だ。D1仕様のER34のような外観をしている。見た目は綺麗にまとまり、文句なしのドレスアップなのだが―――純正にあったディフューザーを外している分、空力的には利点が少ない。
「アンタのチューニングがあれば、ノーマルの35Rなんざ屁でもねぇ。だけど、今回はサーキットできっちり結果残してるヤツの35Rだ。パワーは良くて互角、確実に有利なのは軽さだけだと思ってる。なら、そのアドバンテージをさらに広げておいて損はないだろ?」
「違いないな。わかった、明日1日は車をガレージに入れといてくれ。幸いパーツにはアテがある……明後日の昼には試走できるだろうよ」
そこには、矜持があった。最新の35Rではなく、自身の好きな車で走ることへのプライド。そして、UHCを走り続けている者としてのプライド。
クリスもレイナも、そこに妥協はない。かつて去った脅威を迎え撃つため、最善を尽くす―――!
そろそろ切歌と調を出そうと思って出したら、調と未来と翼が暴走しました(笑)。お詫びに切歌と響とマリアとクリスが何でもしてくれるそうです。変なことは頼まないほうが良いとは思いますけどね(笑)。
さて、次回は決戦へ向けての準備編、後編です。お楽しみに!