湾岸ボカロフォギア~story of urban highway circuit~   作:ヘリーR

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最近ありとあらゆることに対するモチベが下がり、結果相対的に執筆のモチベが爆上がりしております(笑)。
頑張ってキープしたいですね……したいですね…………。


act.28「Various Skylines 1」

 黒木が元木から宣戦布告を受けた日、夜が明けて午前7時。

 『S.O.N.G.』拠点、キャロル自室にて―――。

 

 Prrrrrrrrr…

 

 「……厶、電話か。……黒木さん?」

 

 携帯を取り、通話ボタンを押す。

 

 「もしもし? 早い時間からどうしたんですか?」

 『おはよう、キャロル。ちょっと急を要する事態になってね。……君のチームに、34R乗りがいただろう?』

 「……ええ」

 『その子と一緒に、今日の午後5時に新辰巳PAに来てくれないか?』

 「……分かりました。本人には都合をつけてもらいます」

 『よろしく頼む。………ああ、それから』

 「?」

 『《青桜》にも、同様に伝えてほしい。あいにく僕は彼女の連絡先を知らなくてね』

 「………ああ、なるほど。なんとなく事情は察しました。こちらから連絡しておきますよ」

 『ありがとう。じゃあ、午後5時に新辰巳で』

 

 電話が切れる。耳から携帯を離し、ひと息。

 

 「……Rか。なんというか、業の深い車だよな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 新辰巳PA。新環状エリア―――その一部を形成する9号深川線と湾岸線の境界に位置するパーキングエリアである。

 首都高の頃は「辰巳第一PA」「辰巳第二PA」に分かれていたが、現在はUHC辰巳ジャンクションの真下で合併され、1つの大きなPAとなっている。

 大きさはそれなりだが、海ノ上SA―――かつての大黒PA―――と違い、フードメニューの提供がないため、あまり人は集まらない。黒木がここを指定したのは、如何なる理由あってのことか。

 

 

 

 

 午後5時。

 

 

 時間も相まって、人一人いなかったそこに、数台の車が集まってきた。

 

 33Rが2台。34Rが1台。そしてアテンザと―――FD。

 集まるが開口一番、

 

 「なんで先輩がここにいるんだよ!?」

 

 とクリスの絶叫(?)が響いた。

 

 クリスの言う『先輩』とは、FDの持ち主、風鳴翼のことである。『S.O.N.G.』の先輩なのは当然のこと、学生時代においても頼れる先輩であった。学業の成績に関しては後輩の圧勝であったようだが。

 

 なお、翼は高校卒業後アーティストの道へ本格的に進んだことは知っての通りだが、クリスは推薦で大学に進学している。専攻は声楽、それ以外にも幅広く積極的に学んでいるとか。なんとも勉強熱心、口は悪いが根は優しく真面目なクリスらしい選択である。

 

 

 「ふふ……教えてやろう。先輩はな、先輩を連れてくるためにここに来たのだ」

 「ややこしい言い方しないでくださいよ……」

 「(苦笑)は、はじめまして。モデル界では翼さんの先輩にあたる、秋川レイナです。私のRは今メンテに出してるから、翼ちゃんに送ってもらいました」

 「……あ。ど、どうも。雪音……クリスです」

 

 初対面だからか、おどおどと自己紹介を返すクリスを見て、レイナは思った。

 

 

 

 「………かわいい…………」

 

 「か、かわッ!? ち、ち、ちょっ、はあ!? 初対面なのにいきなりか、可愛いとか、何言ってるんですか!?」

 「そうでしょう可愛いでしょう。私の自慢の可愛い後輩です」

 「先輩!?」

 

 翼にも追い打ちをかけられ、顔を真っ赤にして慌てふためくクリス。そして。

 

 「………………かわいい(ボソッ)」

 「ひゃう!?」

 

 三玖が思わず呟いてしまったそれが、クリスにとどめを刺した。

 

 「ば、バカ! そうやって人をからかうやつは、いつか行いが自分に跳ね返ってくるんだからな!」

 

 少し涙目になりながらキャロルの後ろに隠れてしまった。背の低いクリスが高身長のキャロルの後ろに隠れるのは「子ども感」が増し、翼もレイナも三玖もまた「かわいい」と思うのは必至であったが、そこは言うのを耐えた。

 

 「………思わぬ自己紹介だったな、クリス。とりあえず、本題に移りましょう、黒木さん」

 

 キャロルはクリスをかばう形で話を変える。茶番を続けている余裕はないと分かっているのだろう。

 

 「そうだナ。……僕のかつて所属していたRチューナーの集団、『R200CLUB』から宣戦布告を受けた」

 「……! 『R200CLUB』って……あの?」

 

 三玖が問う。R乗りの中で、件の連中はよく知られた存在だ。良い意味でも―――悪い意味でも。

 

 「今じゃサーキットで記録更新連発中だってヤツらだよな? フルチューンのR35が印象的だけどよ」

 

 クリスが畳み掛ける。そして黒木が返す。

 

 「ああ。僕は最近そこら編の情報は集めてなかったから、知らなかったんだけどね」

 「黒木さん、それだけじゃないでしょう? 要注意の連中だってことも言っておかなきゃ」

 

 キャロルから不穏な補足が入る。黒木は苦笑いしながら、続ける。

 

 「元々チームメイトだった身としては、複雑な気分なんだけどね。……サーキットでは、そんな醜態は晒さないんだろうが。かつて首都高を彼らも走っていた。だがその走りは、いささか許容しがたいものもあってね。

 

 ―――気に食わないのがいると、執拗なブロックでクラッシュに追い込む。そういうことをやっていたんだヨ」

 「「!!」」

 

 三玖とクリスの顔が一気に険しくなる。

 

 「特にJPPの園田サンはその気が強くてね。あまりいい話は聞いたことがない。……何はともあれ、そんな彼らだが、首都高がサーキットになったことで、縄張りだと言わんばかりにやってくるわけだ。僕としては、一度は降りたあの人たちにUHCを明け渡すのは真っ平御免。第2世代―――スカイラインGT-Rを各種1台は揃えてこいとのことで、こうして協力をお願いしに来たんだ」

 「だから私にも連絡が来たんですね。急に連絡寄越すんだから、ビックリしちゃいましたヨ」

 「しょうがないだろう。今もUHCを走ってる32R乗りなんて、君しか思いつかなかったんだからナ」

 「あら嬉しい。私は黒木サンに全面協力しますヨ。二人はどうするの?」

 

 すんなり要請を受け入れたレイナが三玖、クリスに問う。

 

 

 全員、答えなど最初から決まっている。

 

 「私はもちろん、協力します。自分で言うのもなんですけど……UHCでも名の通った身ですから。ましてR乗り指定なら、観客に徹するなんてありえません」

 「あたしも協力する。あんまホメられた走り方をしないってんなら、なおさらな。いっちょ揉んで、サーキットに追い返す!」

 

 「………ありがとう。勝負の日時は、1週間後。夜9時に海ノ上SAだ。―――なんとしても勝つ」

 

 皆が頷く。1週間後に向け、それぞれが動き始める―――。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 新辰巳PAを出た足で、レイナが翼に向かってもらったのは、32Rをメンテに出しているというショップ。

 

 「……なるほど。あの連中が、また戻ってくるんだナ。で、こちらも受けて立つと」

 

 『YM Speed』。首都高圏のチューニングショップでは、名声を二分する大御所だ。現在でこそ『ステップランブル』がかなり台頭してきて、ショップではなくとも『S.O.N.G.』のように「走り屋なら知っている」名チューナー、あるいはチームが出てきているが、それでも人気は衰えるところを知らない。

 

 レイナから一連の話を聞かされ渋い顔をしているのは、そのボスである山本和彦。整えられた口髭が絶妙に『シブいオヤジ感』を出している。

 

 「そーゆーコト。だから山本サン、メンテついでに、久しぶりに本格的に手入れちゃってくださいヨ」

 「まさかレイちゃんがここまでのめり込むなんてねぇ………今更だけどサ」

 

 レイナはずっとこのショップに世話になっている。かの《悪魔のZ》を追う―――抜くのではなく、ついて行くためのチューンが施された彼女のRは、裏を返せば他のチューンドは優に喰えるポテンシャルを秘めている。

 

 「本格的にとか言うけど、もうこれ以上手を入れるところなんてないヨ。レイちゃんも今以上の馬力は求めてないだろう?」

 「ま、そうなんですけどネ。ボディ周りがしっかりしてくれれば、それでOKです」

 「じゃ、もう大丈夫だ。また勝負の前日に持ってきてヨ。これから走り込むつもりだろう? 最後の仕上げはとっとかなきゃナ」

 「さすが、分かってるゥ」

 

 メンテを終えた白い32Rは既に『YM Speed』のガレージを出て待機している。軽い足取りでレイナが乗り込み、蒼いFDとともに颯爽と出ていった。

 

 「……変なウワサもあった連中だ。何もなければ良いんだがナ……」

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 所変わって、『S.O.N.G.』の拠点―――。

 

 「えっ!? クリスちゃん、《青桜》と一緒に走るの!?」

 「……まあ、そういうことになった。だが事情が事情だからな、あまり羨むなよ」

 

 クリスとキャロルから話を聞いた響たち。当然、響は驚き、羨むことになる。

 

 「……当日、隣乗っちゃダメ?」

 「少しでも重量増すのは避けたいから却下だ」

 「まるで私が重いみたいにッ!?」

 「お前じゃなくても乗せねぇって! 話を大きくするな、バカッ!」

 「いったーーいッ!?」

 

 響の背中に炸裂するクリス渾身のビンタ。割と日常茶飯事な光景である。

 

 「食いしん坊なのに、太らない響さん。羨ましいデス……。アタシはすぐにお腹がプニってしまうデスよ」

 

 『好きなものはご飯&ご飯』ながら、しっかり引き締まった腹筋をキープする響に対して、自分のすぐにプニるお腹を気にする金髪娘。バッテン印の髪飾りが可愛らしい彼女の名前は(あかつき)切歌(きりか)。夕飯時ということで、配膳を手伝っている。

 

 「切ちゃんは痩せ過ぎたらダメ。プニっとしてひんやりな、二の腕とお腹は私が守る。というわけで、晩御飯できあがりです。お残し、ダメ、絶対(キリッ)」

 

 そんな切歌を全肯定する黒髪ツインテールの小柄な娘。台所から出てきた彼女は月読(つくよみ)調(しらべ)。『S.O.N.G.』一の料理上手、ゆえにおさんどん担当である。

 全員で食卓を囲み、『いただきます』を唱えて始まる和やかながら騒がしいひと時。

 

 「そもそも切ちゃんは自分の体型を卑下しすぎ。その絶妙なプニ具合は私の癒しだし……」

 「……だし、なんデスか、調?」

 「(じーーーーー)私にはない、立派な胸がある」

 「デデッ!?」

 

 「………(唐突に響の二の腕をつまむ)」

 「うひゃあ!? ちょっと未来、急にやめてよぉ!」

 「良い引き締まり具合。私は響の鍛えられた腕も好きだよ?」

 「え? え、えへへ……照れるなぁ……」

 「それでいて胸がある。秘訣はなんですか、響さん」

 「う、う~ん? 聞かれても……分からないよね、切歌ちゃん?」

 「そうデスよ。特に特別なことはやった覚えがないのデス」

 「………最近、未来さんも少し大きくなってませんか?」

 「……そうかなぁ? あまりそんな気はしないけど」

 「あれ? でも未来、最近下着がキツくなっt「響?」………あ」

 

 「…………(絶望の表情で自分の胸に手を当てている)」

 「ああああ……調、しっかりするデス! 小さくたって私は調がいつでも一番デスよ!」

 「そうだよ? 私の胸だって大きくなってない。気のせい。ね?」

 ((有無を言わさぬ口調だ(デス)……!))

 

 

 

 

 (こいつら……人前でイチャイチャと……)

 

 「共に強く生きよう、月読……。私とて辛いのだ……マリアも雪音も、極致に至った大きさをしているというのに………ッ!!」

 「先輩!?」

 「翼はそれでいいのよ。慎ましさも美しさの1つ。あなたはそれで完成されているの」

 (それって慰めになってないような……)

 「くっ……! 強者の余裕というわけか……! 言ってくれるなマリア……!」

 (ほら、やっぱり……これどうすんだよ、収まりつかねえぞ………)

 

 

 「…………おい」

 

 

 ドスの聞いたキャロルの声に、皆が静まり返る。諌める声を期待したクリスであったが―――。

 

 「……サイズの話なら、なぜオレに言及しない? ここにあるだろう! 立派な! 2つの! 山がッッ!!」

 「なんで話をデカくするんだよ―――――!?」

 

 残念ながら、外れたようだ。この日の『S.O.N.G.』の食卓は、下世話な話が飛び交い続けたとさ―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………なあ、ちょっと良いか?」

 

 慌ただしい食事の時間が過ぎ、調、切歌、マリアは食器の片付けへ、響、未来、翼はデザートの買い出しへ。リビングのテーブルにはクリスとキャロルだけが残っている。

 

 「……なんだ? 大方、例の話に関することだろうが」

 「……軽量化をしたい」

 「……………ほう?」

 

 片眉を上げて続きを待つキャロル。理由を知りたいのだろう。

 

 「相手はなんだかんだ言って、最新型の35Rだろ? できることはしておきたい」

 「なるほどな。具体的には?」

 「ボンネットとミラーのカーボン化、あとはリアフェンダーにダクトをつけてほしい。あたしのRはああいうエアロだからな……パラシュート効果の影響を軽減したいんだ」

 「ああ……オレのアテンザのように、リアフェンダーをつけた弊害を消すためのダクトだな」

 

 クリスの34Rはエアロが独特だ。D1仕様のER34のような外観をしている。見た目は綺麗にまとまり、文句なしのドレスアップなのだが―――純正にあったディフューザーを外している分、空力的には利点が少ない。

 

 「アンタのチューニングがあれば、ノーマルの35Rなんざ屁でもねぇ。だけど、今回はサーキットできっちり結果残してるヤツの35Rだ。パワーは良くて互角、確実に有利なのは軽さだけだと思ってる。なら、そのアドバンテージをさらに広げておいて損はないだろ?」

 「違いないな。わかった、明日1日は車をガレージに入れといてくれ。幸いパーツにはアテがある……明後日の昼には試走できるだろうよ」

 

 

 

 そこには、矜持があった。最新の35Rではなく、自身の好きな車で走ることへのプライド。そして、UHCを走り続けている者としてのプライド。

 

 クリスもレイナも、そこに妥協はない。かつて去った脅威を迎え撃つため、最善を尽くす―――!




そろそろ切歌と調を出そうと思って出したら、調と未来と翼が暴走しました(笑)。お詫びに切歌と響とマリアとクリスが何でもしてくれるそうです。変なことは頼まないほうが良いとは思いますけどね(笑)。

さて、次回は決戦へ向けての準備編、後編です。お楽しみに!
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