湾岸ボカロフォギア~story of urban highway circuit~   作:ヘリーR

30 / 30
さて、R乗り、それぞれの動き。その後編です!


act.29「Various Skylines 2」

 黒木から話を聞いた翌日、三玖は『ステップランブル』に向かい、一連の話を伝えた。

 

 「へえ……話には聞いていたけど、なかなかひどいことするのね」

 

 頬杖をつき、目を細めて嘆息する鳴。

 

 「知ってたんですか? 鳴さん」

 「私達も元はサーキットレーサーだからね……今だって、サーキット関連の情報はあらゆるツテから届いてくるわ。チューニングショップとして、その手の雑誌は毎回購読しているしね」

 「彼らの情報も、しっかり僕らのところには届いてるってワケ。まあ、UHC進出は知りようがなかったんだけど」

 

 階が3人分のコーヒーを淹れて持ってきた。糖分が欲しいのか、鳴のコーヒーにはガムシロップ2つとフレッシュがついている。

 

 「ありがと。……なんだか頭の痛い話よねぇ。あんなのがしっかり記録は残すんだから困っちゃうわよ。ガムシロ、ガムシロ……」

 

 どうやら鳴には思うところがあるらしい。ガムシロップ×2には、そういった事情もありそうだ。容赦なくコーヒーにガムシロップとフレッシュを入れながら、鳴は続ける。

 

 「35Rで谷田部350km/h……そこから一気に話が増えたのは間違いないけど、その前からたまに話は来てたのよ。………レースになると、素行の悪い集団ってね」

 「……サーキットでも?」

 「無理やりな進路妨害は結構あったらしいわよ? ペナルティもあるから、普通そこまでしないと思うんだけど……ああ、ひどいのは『CLUB』所属のチームが複数同時にレース出たときとか。偶然に見せかけてるらしいけど、明らかに2台で挟み込んでミスを誘ったり。本人たちは偶然って言い張るけど、何度もやってるし、やられた当事者は分かっちゃうのよねぇ」

 「……………」

 

 三玖は落ち着いた顔でコーヒーを飲んでいる。以前の偽物騒動では怒りをあらわにしていた彼女だったが―――。

 

 「……すました顔してるけど、分かるわよ。あなたが今ご立腹ってことは」

 「……バレちゃいますか」

 

 今回は内に秘めている。鳴にはあっさり看破されてしまったが、付き合いの長さから来るものだろう。

 

 「そんな人たちが、ペナルティなんて基本存在しないUHCに来る。なら……どういうバトルになるか、想像できてしまって」

 「間違っても同じ土俵には乗らないでね。アイツらが自滅するなら話は別だけどさ」

 「分かってます。……車は、大事な相棒ですから。そんなことはできません」

 

 三玖の言葉に、鳴も階も笑みを浮かべる。彼女の車への真摯な姿勢に安心した様子だ。

 

 「それはそうと、まさか話だけってことでもないだろう? 何か頼み事があるのかい?」

 

 

 「……はい。突拍子もないこと聞きますけど、直線がより速いのはどちらですか?」

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 「うーん……なんか久しぶりだなぁここ走るの。少しテンション上がっちゃってるよ」

 

 その夜。青いスープラが湾岸線を駆け抜けていた。後ろにはシアン色の33Rがついてきている。

 

 

◇◆◇

 

 『まだコースは決まってないですけど、R同士のバトルですし、湾岸→みなとみらい→横羽→新環状(C1・深川区間)→湾岸のハイスピードバトルになると思うんです。そう仮定して、どちらかに仮想敵として走っていただきたくて』

 

◆◇◆

 

 

 「馬力は同じだから、重量と空気抵抗で有利な僕が相手させてもらってるけどさ。良かったのかい、姉さん?」

 

 階が助手席の鳴に尋ねる。そこには焦りも緊張もない。現在進行系で時速300km前後を出している車に乗っているとは思えない気楽さであった。

 

 「直線で速い方はどちらか……と聞かれて、なんで無理矢理私のアリスト出すのよ。愚問すぎるわ」

 「ハハ……姉さんのことだから、走りたがるかなと思って」

 「あんた本当私のこと馬鹿にしてるわよね……。そこまで我儘じゃないわよ。子供かっての」

 「そうやってそっぽを向くあたり子供っぽいよね」

 「あんた後で覚えてなさいよ」

 「………………失言だった………」

 

 相変わらずの姉弟漫才(?)を繰り広げているうちに、鶴見つばさ橋を抜ける。海ノ上SAを過ぎ、大黒ジャンクションをみなとみらい方面へ。

 緩やか、かつ長い旋回区間が多いハイスピードエリア、みなとみらい。パワーに頼りすぎればラインが破綻し、コーナー重視に性能を振りすぎれば置いていかれる。緻密なバランス調整が重要なエリアだ。

 

 「湾岸線では思いの外互角だったね。馬力はこっちが上だけど……ドラッグの差かなぁ」

 

 片や大型の箱型ウィングをつけた80スープラ、片やウィングレスの33R。ニスモ400R風のエアロを装着している三玖のRは、ボディ下回りの空力こそ控えめのディフューザーなどでしっかりしているものの、やはりウィングの有無の差は大きい。

 しかし、それはコーナーにも言えること。

 

 「その差は……こういうところで覆さないとね……!」

 

 ウィングが後輪を地面に押さえつけ、しっかりグリップさせる。的確な瞬間ブレーキ、ハーフアクセルも加えアンダーから弱オーバーへの絶妙なマシンコントロールを見せる階。フロントヘビーなFRの特性をうまく利用した器用なコーナリング。

 三玖は改めて、その凄さを実感する。

 

 (一瞬の軽いブレーキでフロントに荷重を乗せ、フロントヘビーで回らない頭をインに刺す……勢いでドリフト姿勢になるところを、ハーフアクセルでその直前に留める………。自分のマシンを知り尽くしてるからこそできること)

 

 ウィングが後輪を押さえていなければ、おそらくそのままドリフトすることになっていただろう。無論それだけではなく、四輪それぞれの動きを掴み、状態を把握するだけの感性もありきのプロの技である。

 

 「私に、その感性はまだない……。そこはこれから。でも、マシンコントロールのスキルは……真似する必要はない」

 

 アテーサE-TSによってFR的な挙動もできるとはいえ、スープラと33Rでは異なる点は多い。駆動方式、エンジンの回転特性、そして―――空力性能。

 

 「私は、私の走り方―――Rの、《青桜》の走り方を極めれば良いんだ」

 

 四輪がアスファルトを掴む。弱アンダーの姿勢のまま、速度を乗せてコーナーに入る。

 アテーサによる駆動配分を信じ、アクセルはほぼ踏み抜いたまま。だがそれは、機械に頼りきりの弱い信じ方ではなく、自らのRと会話できるための信じ方。踏みっぱで行けるというRの声―――本来なら聞こえないはずの声―――に耳を傾けられる三玖だからこその選択。

 

 階のように四輪から伝わる情報をひとつひとつ情報として受け取れるだけの技量はない。だが、『車の声』という概念的でありながら確かなものを受け取れる才がある。それは、ほんの一握りのドライバーしか持ち得ないもの。

 盲信ではない。受動的とも違う。《青桜》と称されるドライバーとマシンは、ひとつにして2つ。2つにしてひとつ。

 馴れ合いでも妥協でもない。互いを『個』として認め合い、尊重し合う《青桜》の()()()。だからこそ分かり合える。信じ抜ける。

 まさにそれは、唯一無二の相棒というに相違なく。

 

 

 せまるシアンの車体。バックミラーを明るく照らす33Rのヘッドライトに、階は震える。

 それは歓喜か、はたまた驚愕か。少なくとも恐怖ではない。

 

 「姿勢制御面で負けちゃってるなこれ? コーナーの度に近づいてきてる。四駆の暴力……というには、強引でもなさそうだけど」

 

 それはつまり、ウィングの差を生かせていないということ。それをひっくり返すだけのアドバンテージが、向こうにあるということだ。

 

 「このまま行くと……横羽入る頃に横並びかな」

 

 果たしてそれは現実となった。生麦ジャンクション前最後のコーナーで、数瞬早くステアリングを切った33Rがスープラのインにノーズを差し込む。

 そのままサイドバイサイドで狭い横羽線へ突入。練習であるはずのバトルは、さらなる熱を帯びていく―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 一方、『FLAT RACING』のガレージ内。

 

 来たるバトルに向けて、愛機に手を入れる黒木の姿があった。

 

 「……今は何を?」

 

 所在なさげに見ていた七秋は思わず問いを発してしまう。黒木は目線をエンジンルームから離さずに答える。

 

 「少し、仕様を変えておこうと思ってね。大幅な変更は間に合わないが……」

 「それは、なぜです?」

 「向こうの最新型(35R)に勝てる……とは言わずとも、負けない要素は多めに得ておきたい。低〜中回転域のトルクは、おそらくこちらが負けているからね。せめて中回転域くらいのトルクはもう少し太くしておかないと、コーナー後の立ち上がりで置いていかれかねないだろう?」

 「……置いて、いかれるかもしれませんね………」

 「それにだ。向こうはパドルシフトでギアチェンジのラグが少ない。馬力は良くて互角、トルクと加速力はこちらの負け。確実に勝てるのは軽さだけだ。焼け石に水かもしれないが……それでもやれることはやっておきたいのさ。……よし」

 

 顔を上げ、ボンネットを閉じる。調整が終わったようだ。

 

 「データ取りだ。手伝ってくれるかい、七秋クン?」

 「へ? ……良いですけど、俺そこらへんさっぱりですヨ」

 「問題ない。助手席でPCの画面見といてくれればそれでいいさ。表示するのは馬力とトルクのグラフくらいなモンだから、気づいたことがあれば言ってくれるくらいで助かるとも」

 「……わかりました。何が分かるかも分かんないですけど、頑張ります」

 

 ガレージを出発する黒木R。向かうは湾岸線。大黒JCTから上る果てしない直線―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「―――さて。ひとまず踏み抜いてみようか」

 

 UHCに入り、湾岸線エリアへ突入するや否や、躊躇なくベタ踏みする黒木。とてつもない加速Gに七秋は少し身体が強張ったが、黒木は涼しい顔だ。

 

 「3速8000……シフトアップ。4速6000……7000……8000……9000……5速シフト―――」

 

 ワープホールに入ったかのように流れていく景色。アザーカーを避けるスラロームの必要性がなくなったこの世界では、街灯の光と夜の闇が目まぐるしく入れ替わり、過ぎ去っていく。

 

 すべてが止まったようにすら見えるその世界で、ただひとつ駆け抜ける白い機影。

 

 「320km……330………340……には、少し届かないかな」

 

 ゆっくりとアクセルを抜く。唸っていた心臓部(RB26)が余韻に浸るように音を落ち着かせていく。

 

 「こうして走ってみると相手の凄さがわかるナ。350km/hか……」

 「……これ、勝てるんですかね」

 「なんとも言えないナ。立ち上がりで勝てればあるいは……といったところか。最高速10km/h程度なら、ある程度離していれば逃げ切れるかもだ」

 「………」

 「……このまま、新辰巳に一度入ろう。そこでグラフを見ようじゃないか」

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 目線は戻り、横羽線へ突入した青いスープラとシアンの33R。依然並走。互いに譲らぬままC1に近づきつつあった―――。

 

 大井の合流を過ぎ、さらに先。もう少しで浜崎橋というところで。

 

 「……………」

 

 階は、アクセルを緩めた。

 

 「……! なぜここで減速を……? ……まさか」

 

 ふとメーターを見る。タコメーターでもスピードメーターでもない―――水温計。

 

 「………ッ」

 

 慌ててアクセルを緩める。水温計は95度を示していた。まだ走れはするが、そのまま行けば湾岸線で確実にエンジンがタレる。

 そのまま、クーリング走行でC1に入り、江戸橋を右―――新環状方面へ。新辰巳PAに向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新辰巳PAには、既に先着がいた。白い33R―――黒木たちである。

 

 今更ながら、新辰巳PAに改修されるにあたり上り・下り両線から入れるようになっている。現在ここに来る者は、どこに向かうかよりも、どこを走るかが重要であるがゆえに。距離に応じた料金制が廃止されているためできることである。

 

 「おや。これは思わぬ遭遇だナ。せっかくだから意見交換でもするか。……七秋クン?」

 

 先程まで一緒にPCを眺めていた七秋は顔を見られないように俯き、両手で顔を覆っている。無理からぬことである。

 そんなことは知らぬままに三玖たちは黒木たちのもとへ近づいてくる。

 

 「こんばんは。黒木さんも走っていたんですね……ん? あなたは確か……」

 「………ど、どうも。あれ以来ですね………」

 

 両手を下ろせば、気まずそうな顔で挨拶。やはり無理からぬことである。

 

 

___________

 

 

 「……なるほど。キャロルも意地悪だナ。言ってくれてもいいものを」

 「キャロルさんはどうやって伝えていたんですか?」

 「自分と《青桜》とバトルした33Rがクラッシュしたので直してほしいとしか」

 「………あぁ……………」

 

 思わぬところで掘り返された黒歴史。いや黒歴史というほど時間は経ってはいないのだが、黒いことには変わりない。おまけに黒木には新事実の内容である。

 

 「……キャロルなりの気遣いではあったのかもしれないナ。『R200CLUB(連中)』の件があるから、僕にそういう話はするものじゃないと思ったんだろう」

 「いや……なんかホント……すみません……」

 「謝ることはないだろう。君は彼らとは違って自分を省みた。そして直そうとしている。なら、君をけなす理由は僕にはない」

 「………ありがとう、ございます」

 

 七秋に関する話はこれにて解決。続くのは、来たる決戦に向けての意見交換。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「オーバーヒートか……。確かに、やや緩急をつけて水温油温の様子も見ながらでないと危ないかもナ。問題は、向こうの冷却性能か」

 

 黒木、七秋と赤青姉弟は初対面だったので軽く自己紹介を交わした後、冷静に三玖たちから聞いた話を分析し、その先を考える黒木。元プロレーサー姉弟も彼に同意する。

 

 「今や和製スーパーカーの代表格として常に進化を続けているのが35Rよね。ラジエーターもインタークーラーも、さぞかし良いものをつけてるでしょうね」

 「持久戦に持ち込まれたらこっちが不利なのは間違いなさそうだ。かといって様子見でもしようものなら、その間に離されてしまうかな」

 

 理論だけなら既に万事休すとすら言える状況に、3人は頭を抱える。狙える勝ち筋は少なく、しかも容易ではない。

 

 「…………勝負は、C1、深川区間です」

 

 三玖がポツリと言った一言。そこに、4人の考えが交錯する。

 

 「……だいたいわかるけど、一応聞いておくわ。その心は?」

 「確実に相手に勝っているのは軽さ。そして最後の湾岸区間で前にいなければ負けなら、軽さで勝負できるのは湾岸直前のこのエリアだけです」

 「だけど、C1に入るまでに離されてしまったら追いつけないかもだ。みなとみらい、横羽区間をどう潜り抜けるつもりだい?」

 「……それは…………」

 

 

 

 

 「………いや。そこにあるかもしれないナ、突破口は」

 

 黒木が三玖の考えを少し補正していく。脳内のシミュレーションに過ぎないが、確実に勝ち筋を見出していく。

 

 「彼らならもしかすると、だ。それに、こちらもある程度の対策は施せる」

 「………どういうことです?」

 

 黒木の口角が吊り上がる。敵をよく知る黒木だからこそ、見えた打開策―――。

 

 

 

 

 

 

 「勝負するのは、全自動の機械じゃないということさ―――――」




いくらなんでもガムシロ2つは鳴さん考えすぎでは?と、思わなくもないです。身内でもないわけですし(笑)。

まあ、「車を大切にする」というスタンスは師弟で共通していて、それをないがしろにする人への対し方が異なるって感じです。
怒る三玖と悩む鳴。
立ち位置や年齢による差だと思ってくれれば。


ピンポーン


……おっと誰か来たようです。だいたい察しは付くので階くんを出しておきましょう。それで万事平和に収まります。



ハーイ(ガチャ)
ダレガトシトッテルデスッテェー!?
ボクナニモイッテナイヨー!



…………ほらね? それではまた次回!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。