湾岸ボカロフォギア~story of urban highway circuit~ 作:ヘリーR
と、疑問に思いながら執筆した第三話です。
三玖がステップランブルを出てからのこと。
まだ残っている輪に鳴は話しかける。
「………で、輪?あなたは何の用?詰まるところ、蓮の走りを見て欲しいとか、そんなところかしら?」
「うぅ。鳴さんはするどいなぁ。全くもってその通りです」
「いや、三玖に絶好調とか言ってたし。いつもハイテンションなあなただけど、いつも以上に興奮してたし。見たら分かるわよ」
「えぇ!?わたし、そんな分かりやすいですか!?」
「私はこの世界であなたほど分かりやすい人に会ったことがないわ……」
「そ、そんなぁー。でも、分かりやすいって純粋ってことだもんねっ!白無垢のように純粋だもんねっ!」
「立ち直り早っ!あと、若干強引な論!」
「…………」
「…………」
急な沈黙。
どうやら、話が一段落したようだ(?)。
「………じゃあ行きましょうか」
「やったぁ!」
要望が通って輪は子供のようにガッツポーズをとる。
そこへ、
「あの~、お二人さん」
と、階が会話に参加してきた。
「行くのは良いけど、誰の車で行くんだい?輪ちゃんが自分の車で行くんだったら、僕らは僕の車で行けるけど、輪ちゃんがここに車をおいていくんなら、姉さんの車じゃないと行けないよ?」
「言われてみればそうね……輪、どうするの?」
「私は自分の車で行きます。そのままサーキットから蓮と一緒に帰るつもりなんで」
「OK。じゃあ、姉さん、僕の車の助手席で良いかい?」
「良いわよ。ふふふ、あなたの運転の批評してあげる」
「ひゃあ、これはトンダ鬼教官を乗せ」
「なんですって?」
「いえなんでもありません」
……というわけで、3人はサーキットへ出発したのだった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
その後、サーキットに到着した3人。
レースが行われているわけでもないのに、力試しやチューニングの確認をするために各々自由にコースを走っている。
そんな「サーキット
「あ、来た来た!鳴さん、蓮が出てきましたよ!」
「分かってるわよ。チューニングを施しているのは私たちよ?音だけでも分かるわよ」
「うぅ~、なんかバカにされた気分…」
勝手に不満を抱いている(?)輪はさておき、蓮はコースに出てきて第1コーナーを曲がりきったところから加速していく。
蓮の車はマツダ・RX-7(FD3S)。ターボ搭載のロータリー車としては最後のモデルであり、FCの後継だ。
蓮はロータリーに小さい頃から興味があり、RE車に乗ろうと兼ねてから思っていたが、他にも魅力的な車を知っていくにつれて、その思いが揺らぎつつあった。
その思いを再び確固たるものにしたのは、蓮より一足早く走り屋の世界に踏み込んでいった三玖から聞いた、かのFC――《草薙竜》へ抱いた憧れであった。
まだその《草薙竜》の走りを直接見たことはないが、それでも、元々RE好きだった蓮に憧れを持たせるには十分だった。
第2コーナーは細かなS字カーブ、抜けたところにすぐヘアピンカーブが現れる。
蓮は軽量車種であるFDのコーナリング性能を駆使し、適度なアクセルワークとハンドル操作で難なくS字を切り抜ける。
切り抜けたところでブレーキング、ギアを落としながらハンドルを切り、テールを滑らせて――つまりドリフトだ――ヘアピンをクリア。
「あら、かなり上達してるじゃない。これなら確かに、UHCでもそこそこやっていけそうね」
「ああ、すごいよ……蓮には才能があると思ってたけど、まさかここまで早く上達するとは……まだこのサーキットを走りはじめて2ヶ月も経ってないだろ?」
「はい。……ところで階さん、さっき蓮『には』才能があるって言いましたよね?私は?私は才能ないんですか?」
「へ?いや、確かに言ったけど、別に輪ちゃんと比べてのことじゃないよ。まあ、蓮の方が早く伸びるだろうなとは思ってたけど……」
「うわーデリカシーない!階さんひどい!言わなきゃ良いところを言っちゃうんだもん、そんなんじゃ一生お嫁さんはできないよーだ!」
「なっ!?ちょっと待て、僕は輪ちゃんを否定してないぞ!蓮の方が早く伸びると言っただけ、裏を返せば、輪ちゃんは後半から伸びる晩成タイプってことだぞ!別に悪いことは1つも言ってない!」
「晩成って、いつ来るんですか!?お婆さんになってからじゃ遅いんですよ!」
「ちょっと待て誰がお婆さんになるまで待たないとダメって言った!?僕の言ってる晩成は、遅くとも3年後、早ければ半年後のことを言ってるんだ!」
「それ晩成って言うんですか!?」
「う………」
階が言葉に詰まった。
この口論、輪の勝利。
「………そうねぇ~、階はこのサーキットを今の蓮と同じタイムで走れるようになるまで、2年くらい掛かったものね」
「ええ!?階さん超ド下手!」
「それは言い過ぎだ、ひどいな輪ちゃん!って言うか姉さん、それ誰にも言わない約束じゃなかったっけ!?」
「え?言うなって頼まれたけど約束はしてないわよ」
「……………」
「ああ、それから輪、階はね、お嫁さんができるどころか彼女いない歴イコール年齢よ?」
「だっ!?ちょ、姉さん!?それこそ言ったらいけないって!」
「約束してないわ」
「…………………」
階、完全敗北。
膝から崩れ落ちる。
「う、もういいし、どうせ僕は一生独り身で寂しく死んでいくもんね……」
と、こんな口論をしている間に、蓮のFDがサーキットを一周し、ピットに戻っていったようだ。
「あ、戻ったわね。さて、じゃあ蓮に会いに行きましょうか」
「はい!」
「独り身はいやだ……せめて死ぬときは誰かに看取られて………」
うちひしがれて独り言をブツブツ呟いている階は置いて、輪と鳴は蓮のもとへ行った。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「おーい、蓮~!」
ピットに車を入れ、降りてきた蓮は自分を呼ぶ聞き慣れた声を耳にする。
「……なんだ、輪か。相変わらずテンション高いな。どうしたんだ?」
「ひどいなー。蓮がどんどんうまくなってるから、鳴さんと階さんに見に来てもらったんだよ。二人も誉めてたよ」
「……そうか」
「何その生返事!嬉しくないの!?あ、分かった、照れてるんだ!ヒュー、蓮の照れ屋さん!」
「勝手に一人で話を進めるな。そこがお前の悪い癖だ。ところで、二人は?」
「ん?あれ、ホントだいない」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ~~」
鳴の声が聞こえてきたかと思うと、やっとピットに姿を現した。
「もう、輪ったら、急に走り出すんだもの。あの元気さには叶わないわ」
「まあ、輪からお転婆を取ったら何も残りませんからね」
「え!?ひどいよ蓮!それは言い過ぎたよ!私からお転婆取っても、臨機応変さが残るもん!」
「どんな自己評価だ……」
輪の言葉に、蓮は頭を抱える。
「……それはともかく、鳴さん、階さんは?」
「ん?ああ、あいつはしばらくほっといていいわ」
「そうですか……」
怪訝に思いながらもそれ以上深くまで踏み込んで聞かないのは、蓮の聡明さ故だろう。
デリカシー皆無の階とは違う。
「それにしても、蓮、速くなったわね」
「いえ、そんなことはないですよ。今日初めて来た―――」
そこまで言いかけたとき、観客席から歓声が上がる。
「うおお、なんだあのシルビア!」
「はえぇ!あのストレートスピード、シルビアのそれじゃないぞ!」
あまりの歓声に3人がピットを出てメインストレートを覗くと、ピンク色のシルビアが物凄いスピードで駆けていった。
「……僕が言いたかったのはあのシルビアですよ。今日初めて来たのに、タイムは桁違いに速い。おそらく、腕のあるチューナーが、自分のチューンの出来映えを見るために来たんじゃないかと僕は思ってますが……」
「……残念ながら、あのシルビアは初めて見るわね。知り合いの可能性は低いわ」
「そうですか……」
鳴が腕時計を見ると、時間はちょうど昼の一時を指していた。
「私と階は、お昼食べたらそのまま帰るけど、二人はどうする?」
「お、もう昼御飯か。確かにお腹空いたな~、どこで食べる、姉さん?」
「……………」
「……………」
「……………」
「「「いつの間にっ!?」」」
「いつの間に、ってひどいな。僕はさっきからここにいたよ?」
階、復活。
立ち直りが早いのは輪だけじゃない。
「別にどこでも構わないわよ。なんならあんたの言ってた美味しいステーキ屋に行きたいわね」
「お、いいのかい、姉さん?最近脂っこいものばかりで、太るんじゃない?」
「そんなこと気にしなくて良いわよ。別に食べ過ぎって訳じゃないし」
「でも最近姉さんお腹がポッコリ」
「殺すわよ?お腹もポッコリ出てなんかないわよ!あんたどこ見て言ってんの?」
「す、すみません!」
「はあ、ほんと、階は一言余計なんだから。で、蓮、輪。二人はどうするの?」
「私は蓮に任せますけど……蓮はどうしたい?」
「僕は少し箱根の方へ走りに行きたいけど。輪、ついてくるか?」
「うんうん、行く行く!蓮の走りもっと間近で見たいし!」
「そうか。というわけで、鳴さん、僕らは箱根に行く道中で昼食にします」
「分かった。じゃあ、ここでお別れね」
かくして、鳴と階、輪と蓮は、それぞれ別の方向を目指してサーキットを後にした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
……と、別れたその後。
階と鳴は階の駆る車でステーキ屋まで行きステーキを食べ(ちなみに階の方が鳴より多く食べた)、その後、夜までUHCを走り込んでいた。
階の車はトヨタ・スープラ(JZA80)。
車体が大きく、ストレートでは抜群の安定感を誇る、所謂直線番長だ。
夜の七時になっても、階のスープラは青いボディを輝かせてUHCを疾走する。
現在彼が走っているのはテクニカルな技能が要される八重洲エリア。スープラは直線番長だが、そこは階の元レーサーとしての腕の見せどころで、有り余るパワーを備えたスープラの巨体を難なく操り、かなりの速さでコーナーなどを走り抜けていく。
八重洲を抜け、C1、新環状エリアを経て、湾岸へ。
湾岸と言えば直線、スープラの特性が最も活かされるエリアだが、テクニカルな八重洲、C1を全速力で走ってきたので、現在は速度を150㎞程まで落として車をクールダウンさせている。
一般車ならば150㎞などクールダウンどころかアクセル全開レベルかもしれないが、ここは走り屋の世界である。
車に関して、一般常識は通じない。
「全く……姉さんが八重洲とC1を全力で走らせるから、スープラが悲鳴をあげてるじゃないか……」
「あら、悪かったわね。でも、レーサー時代はこんなもんじゃなかったでしょ?」
「まあね。まだそこそこ余裕はあるかもだけど、タイヤがすごいすり減ってるよ」
「あ、そっか。あの頃とはタイヤが違うものね。もう、階。そういうの気づいてたら早く言いなさいよ」
「いや、僕もさっき気づいた。………姉さん」
「ええ、気づいてるわ。……後ろから何かが猛スピードで追い付いてくる――」
その車が視認できる程度まで近づいてきたところで、二人は驚愕する。
「こいつは!?」
「昼間サーキットにいたシルビアじゃない!!」
忘れようもない、ピンク色の鋭いシルエット。
スープラに比べると幾分と小さいボディが猛追してくる。
「あんた、どうするの?タイヤが云々言ってたけど……」
「ここは湾岸だし、ほとんど直線だから、タイヤのすり減りくらい、少し無視しても良いと思うんだよねっ!!」
言うと同時に階はアクセルを最奥まで踏み込む。
スープラは急激に加速。3速だったギアも、あっという間に4速、5速を経て6速に入る。
メーターの針は310㎞を指している。しかし――
「―――離れないっ!?」
「むしろ近づいてきてるじゃない!階、ちゃんと奥まで踏んでる!?」
「踏んでるよ!だけど、どうして――」
そんなことを言っている内に、横に並ばれ、追い抜かれてしまった。
階は思わずアクセルを踏む足の力を抜いてしまった。
「嘘だろ……こっちは780馬力、しかもスープラだぞ……ストレートでコーナリングマシンのシルビアが追い抜くには、生半可な馬力の差じゃあ無理だ……」
「800馬力は確定でしょう。でもあの速さなら、もっとあってもおかしくないわね」
言いながら鳴は、さりげなくシルビアの車名ロゴの下を見る。
「一切の表記なし……か。キャロル関係ではなさそうね」
キャロルは関与していない、だがあの速さ。
UHCに桃色の新鋭あらわる。
「いったい何者なんだ、あのシルビア……」
一体あのシルビアは何者なのか!?
もう予測がついてる方もいらっしゃるかもですが、それが的中しているかどうかも含めて、次の第四話をお楽しみに!