湾岸ボカロフォギア~story of urban highway circuit~   作:ヘリーR

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 かなり間をおいての投稿になりました。
 これからもこれくらいのペースの投稿になるかもしれないです。


act.8「チューナー、その言葉」

 《ガングニール》、《イチイバル》の話をした後、『ステップランブル』を出た恵未と寧亜は、エイトに乗って『蜻蛉屋』へと向かった。

 腕のあるチューナーは、自分のチューンした車の音を把握している―――『蜻蛉屋』の近くに来ただけで、神居が店先に出てきた。そのまま指定された通りの場所にエイトを停める。

 

 「最近はよく来るな。どうした?」

 

 エイトから二人が降りるや否や、神居が訊ねる。

 

 「寧亜ちゃんの相談もあって、私、エイトを運転してみたの。そのときに感じたことなんだけど、ステアリングがすごい固くて」

 「何? そいつはまた変わったことだな。寧亜、少し見せてみろ」

 「う」

 

 寧亜が退いた運転席に神居が座り、ステアリングを回す。丹念に、時にはゆっくり、時には素早く。

 

 「む………確かに固いな。わかった、直そう。それまで部屋に入ってゆっくりしていろ」

 「う」

 「はーい」

 

 神居がさっそく工具を取り出しているのを背に、恵未と寧亜は『蜻蛉屋』の部屋に入っていった。

 

 据え置きのコーヒーメーカーでカフェオレを淹れ、席に座る。

 

 「良かったね、寧亜ちゃん。ステアリング直してもらったら、また走りに行ってみようよ」

 「う。しーわん、もっと速く走る」

 

 その後はしばらく他愛もない話を続けていたのだが、途中から寧亜は恵未が『蜻蛉屋』奥のガレージを気にしていることに気づいていた。

 思いきって訊いてみる。

 

 「………ね、恵未」

 「ん? なぁに?」

 「………もしかして、えふしー?」

 「…………………うん」

 

 そう。

 そのガレージの中には、恵未のFC―――――《草薙竜》が眠っている。

 

 「………ただの不調じゃないでしょ。一体、何があったの?」

 「……………」

 

 恵未の表情が暗く沈む。

 

 「あ………ごめん」

 「いや、別にいいの。いつまでも引きずってる私が悪いんだから」

 

 そう言って恵未は、FCのエンジンがもう長く持たないこと、神居が代わりのREを探してくれていることを話した。

 

 「じゃあ、今、えふしー、走れない?」

 「……うん。そういうことになるね」

 

 話している間に恵未の表情は落ち着いてきたが、それでもやはり、自分の愛車に乗って走れないことは苦痛なのか、一抹の暗さは抜けきらない。

 しかし同時に、その目には固い信念が、決意が映っていた。

 そう―――――《草薙竜》は必ず蘇るという信念が、そしてその《草薙竜》に乗って、再び走るという決意が。

 

 「でも、私は走るよ―――絶対に。神居がFCを直してくれる。そしたら、またUHCを走る。だから……今は、待つときなんだ」

 「…………」

 「それまでは、寧亜ちゃんの特訓にとことん付き合う。そして、またFCが復活したら、速くなった寧亜ちゃんと一緒に走ってみたいな」

 「恵未………」

 「……ゴメンゴメン!なんだか、暗い話になっちゃったね。……ほら、神居も来たよ」

 

 恵未に言われて寧亜が振り返ると、工具を手元でくるくると回し遊びながら二人のもとにやって来る神居の姿が見えた。

 

 「直ったぞ。だが人によってちょうどいいステアリングの固さは違うから、少し回してみてくれ」

 「ん」

 

 寧亜はエイトのもとまで行き、運転席に座りステアリングを回す。

 

 「………う。ちょうどいい」

 「そうか。ならよかった」

 「よーし、じゃあ今日もまた走りに行く、寧亜ちゃん?」

 「う!」

 「全く……走りが好きなのは構わんが、たまには休みを取れよ? 寝不足で倒れられたら困る」

 「む……そうだね。気を付ける」

 「う。気を付ける」

 

 そうしてその後神居も入れ雑談を交わし、恵未と寧亜は『蜻蛉屋』を後にした。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 時間も過ぎ、所変わって、UHCの海ノ上SA。

 まだ夕方だが、3台の車がやって来た。

 1台はシアン色のR33。

 1台は黄色いFD。

 そしてもう1台は赤いトヨタ・アリストだ。

 R33―――《青桜》から降りてきたのは、もちろん三玖。

 FDからは蓮。助手席からも輪が降りてきた。

 そしてアリストからは、彼らの車のチューニングを担う姉弟の姉の方、鳴が降りてきた。

 アリストは4ドアセダンでありながらスープラと同じ2JZエンジンを積んでおり、『セダン版スープラ』と称される。

 スープラ使いの階、アリスト使いの鳴。姉弟、似た車に乗っている。

 無論、その速さは一級品であり、やはりレーサーであったことも相まってかなりのものだ。今回、3台と4人は蓮のレベルアップのため車の少ない夕方にUHCを走りに来たのだが、三玖はともかく、蓮は鳴についていくのに必死だった。

 

 「………鳴さん、少し速いです」

 

 おとなしい蓮もさすがに音を上げたのか、しかめ面で鳴に不平を言う。

 

 「なぁに言ってんの? UHCを速く走りたいんなら、あれくらい頑張ってついてきなさい」

 「む………わかりました」

 

 しかしその不平に対して鳴が返した言葉は正論であり、蓮もそれ以上の反論はできなかった。

 

 「……でも、確かに今回、私は少し意地悪して速めに走ったわ。苦しかったとしても、あれについてこれたのは、やっぱり蓮の才能あってのことでしょうね」

 

 しかし鳴もわざと速めに走ったようで、うなだれ気味になった蓮をフォローする。

 

 「………頑張ります」

 

 蓮はそのフォローを誉め言葉と受け取ったのか、少し不機嫌そうな顔で言った。照れ隠しだろう。

 

 「……さて、ひとっ走りしたら小腹が空いたわね。何か、デザートでも食べましょうか」

 

 言うと鳴は、三玖たちの返事も待たずにすたすたとフードコートに向かっていく。三玖たちは慌てて追いかける。

 

 各々好きなデザートをひとつ買い、手頃な席に座り食べ始める。

 

 「蓮、だいぶUHCに適応してきたわね。そこらへんの雰囲気組なら圧倒できるわ」

 「……そうですか」

 「私から見てても蓮くんはすごいと思う。まだUHC走り初めてから日が浅いとは到底思えないもん」

 「三玖さん……ありがとうございます」

 「すごいなー、蓮。私も早くUHC走ってみたいなぁ」

 「そういう輪は、ちゃんとサーキット走ってる?」

 「走ってますよー。もう箱根にも行き始めてます!」

 「「……え?」」

 

 鳴と三玖が揃って疑問符を頭に浮かべる。

 

 「半分嘘ですよ。箱根を走りはしたけど、ただのドライブ程度。まだアタックはしてない。そういうことです」

 

 蓮が真実を告げる。

 

 「……な、なんだ。ビックリした。もう、輪、ややこしいこと言わないで頂戴」

 「え~……じゃあ早くホントのことにします」

 「良い返事じゃない。期待してるわ、輪」

 「はい!頑張ります!」

 

 すると、まだ早い時間にも関わらず、海ノ上SAに新たなエンジン音が聞こえてきた。

 

 「……? こんな時間に走ってくる人、他にいるのね」

 

 そう言って四人はSA入り口の方を見やる。

 入ってきたのはダークピンクのマツダスピード・アテンザ。ボンネットには4本のストライプ―――左から赤、青、黄、緑のストライプがかかっている。

 

 「あのカラーリング………まさか」

 「……?」

 

 鳴には思い当たる節があるようで、一層目を細めて睨み付けるようにアテンザを見る。

 アテンザは3人の車の隣に停まった。

 果たして、降りてきたのは。

 長い金髪を三編みにまとめ、メリハリのある体をした、右目の下にホクロのある女性。そう―――――

 

 「―――――――キャロル………」

 「「「!!」」」

 

 鳴が呟いたその名を聞いた3人は驚愕する。

 キャロル・マールス・ディーンハイム。

 赤青姉弟の後輩にして、天才チューナー。

 彼女は先客の3台―――アリスト、FD、R33を一瞥すると、三玖たちのいるフードコートへと歩を進める。

 フードコートへ向かえば、必然的に彼女たちは出会う。

 事実、鳴たちの元に、ミルクセーキとミニパンケーキを持ってキャロルがやってきた。

 しばし黙ったまま視線を交わす。

 沈黙を破ったのはキャロルだった。

 

 「……お久しぶりです、鳴先輩。隣、座ってもいいですか?」

 「久しぶりね、キャロル。ええ、座って構わないわよ」

 「ありがとうございます」

 

 席の奥へ移動した鳴の隣にキャロルは腰掛ける。

 三玖たちは黙ってその様子を見ていたが、内心ではかなり緊張していた。

 

 (見ただけで分かる………この人、すごい……)

 

 何がすごいかはわからない。だが、そんな形容しがたいものを、三玖ならず輪、蓮も感じていた。

 

 「……自己紹介をしよう。俺はキャロル・マールス・ディーンハイム。鳴先輩、階先輩とは大学のサークルが同じだった。チューナーとして働いてはいるが、自分で走ったりもする。以後よろしくな」

 「は、はい。初春三玖です。よろしくお願いします」

 「山吹蓮です。よろしくお願いします」

 「や、山吹輪です。よろしくお願いしますっ!」

 

 各々、簡潔に自己紹介を済ませた。

 

 「……キャロル、アテンザ買ったのね」

 「はい、あのデザインが気に入って。純正のままなら性能はそれほど高くないですが、そんなものはチューニング次第でなんとかなりますし。何より、走り屋たるもの、性能だけで車を選んじゃいけないでしょう?」

 「…ええ、そうね。好きな車を自分ピッタリにカスタマイズしてこそ、走り屋だものね」

 

 そんな話をしているうちに全員デザートを食べ終わったようだ。

 席を立ち、車の元へ向かう。

 

 「せっかくだし、車の見せ合いっこしましょうよ」

 「いいですね。なら、俺のアテンザから見ていってください。俺はさっき、パッと3台を見てますから」

 

 5人はキャロルのアテンザを囲む。

 大きく開かれたフロントのエアインテークは心臓部に空気を送り込むのに十分過ぎる大きさだ。リアフェンダーも付けられ、なおかつダクトが開いている。

 とても安定した走りができそうなエアロだ。

 そんな中、鳴はある違和感に気付いた。

 

 「……キャロルにしては珍しく、ウィングを着けてないのね」

 「……? 鳴さん、ウィングを付けてないのはそんなに不自然なんですか?」

 

 三玖が鳴に問う。

 

 「ふふ。それはね……」

 

 鳴曰く、キャロルは空力系へのこだわりがかなり強いらしく、特にウィングは必ず装着するという。ウィングのない状態でもかなり安定感がありそうなのはあながち間違いではない。

 空力パーツはウィングだけではない―――他のパーツをしっかり揃えているならば、それなりの安定感はあろう。

 

 「別に意図して外している訳ではないです。今、とびきりのウィングを新調している最中ですから。これは一時的なものです」

 「ははぁん、なるほど。で、どうだった? ウィングレスで走った感じは?」

 「やはり、少し不安定かと。超高速域での接地感が若干緩いです」

 「ふぅん……」

 

 一通り話が終わったので、次は鳴のアリスト、そして蓮のFDを見る。

 キャロルはこれといった言葉を紡ぐことなく、満足げに車を眺めていた。

 そして三玖のR33だが――――。

 

 「これが三玖のR33。現在のUHCのトップランナー、《青桜》よ」

 「め、鳴さん。トップランナーなんて、そんな……」

 

 鳴の誉めに恐縮する三玖だが、そんな《青桜》を見るキャロルの顔は、少しばかり険しくなっていた。

 

 「………キャロル?どうしたの?」

 「……ウィングレス、か」

 「……!」

 

 ウィングレス。

 キャロルが先ほど苦言を呈したばかりの仕様だ。

 

 「これでUHCトップランナーか………かなりの腕があるんだな、初春」

 「ひぇっ!?……は、はい。ありがとうございます」

 

 突如名字呼び捨てで呼ばれ驚いた三玖だったが、自身が誉められていることに気づき、礼を述べる。

 

 「………もし、これでウィングを着けたら、どうなるんだろうな?」

 

 笑みを浮かべたキャロルの口から紡がれた言葉に、三玖は震撼する。それは隣にいた輪や蓮、鳴もわかった。

 

 「……今回は、ありがとうございました。それではまた」

 「……え、ええ……」

 

 三玖の動揺が伝わっているせいか、鳴の返事もややたどたどしいものとなってしまったが、キャロルは気にせずアテンザに乗り込む。

 

 呆然としている三玖の目の前を、轟音を響かせて通りすぎたダークピンクのアテンザは、海ノ上SAを出てどこかへと去っていった。




 キャロルの言葉に揺れる三玖……。
 一体どう動くか!?次回をお楽しみに!
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