今回も2話続けて更新しています。
仕事を始めて数時間切りの良いところでひと息つく。背もたれに体重を預けながら、慌ただしくも充実した今日を振り返った。
「念動力に瞬間移動、か......」
前者はレアな能力で応用もかなり効く。後者の方はリスクが高い、任意の場所への直接移動ではなく、初速から目にも止まらぬ超加速で物理的に移動する能力。その証拠に
「ふぅ......」
――よし、続けよう。作業に戻る前に掛け時計を見る。掛け時計の短針は、すでに午前一時を回っていた。眠気と戦うためにキッチンに戻ってコーヒーを入れ直す。出来るのを待つ間窓際へ向かった。窓の向こう側に広がる六本木の街には、まだ多くの光が灯っていた。夜更けの中、いまだに煌々とした街並みを眺めていると、ふとさっきのことを思い出した。
久しく忘れていた、誰かと過ごす穏やかな時間。
――......さて、あと一息、頑張りますか。出来上がったコーヒーをカップにそそぎ仕事場へ戻った。
* * *
翌朝、いつもと同じく職員室で準備を済ませ教室へ向かう。すると既に登校してきてた
「おや、
「おはよう」
「おはようございます。身体の方は大丈夫ですか?」
昨日の試合で負傷退場し病院送りになっていた
「はい、慣れていますのでっ」
「病院送りが慣れるって異常だけどな」
ドンっ、と胸を叩いて得意気に言う
「試合の方は無事勝てたようですね。
「いや、僕だけの力じゃない。みんなが繋いでくれたから勝てたんだ」
「嬉しいこと言ってくれますねっ。病院送りになった甲斐があるというものです!」
「
名誉の負傷だと誇らしげに胸を張る
「なんでしょうか?」
「功労賞ですよ」
「はぁ、それはありがとうございます。開けてもよろしいですか?」
「どうぞ」
封を切り中に入っている長方形の紙を確認した
「どうしたんだ?」
「こ......これは......『How-Low-Hello』のライブチケットじゃないですかっ!! しかも全公演限定10席! 幻のステージバック席ッ!!」
高らかに叫ぶ。クラスメイトの
「それ、すごいのか?」
「すごい所の物ではありません!! いいですか?
「そ、そうか......」
バンバンッ! と何度も机を叩きながら力説する
「こんな素晴らしい物、本当に頂いてもよろしんですかッ!?」
鼻息も荒く眼鏡が曇るほど興奮して確認してきた。「ええ、もちろんですよ」と少し引きぎみに答える。更にテンションが上がった
「私はッ、初めて能力者である事を神に感謝いたしますッ!」
「ひくなっ!」
登校してきた
一先ず、まったく気にするようすもなくチケットを頬ずりしている
「おはようございます。
「はい、おはようございまーす」
「おはよう」
そして、
「昨日は、すまなかったな」
「なんのことっすか?」
わざとらしく惚ける
「
「あたしが、連れ回したんですから当然のことです」
彼女の言葉に、俺は「違いますよ」と訂正を入れる。すると
「ん?」
「私たち、ですよ」
その言葉を聞いた
「......そうか。二人とも
「はーい、どういたしまして」
少し微笑んで言った
* * *
午前の授業が終わり昼休み。一度、職員室に立ち寄ってから教室に戻ると、さっそく
「お疲れさまです。
「いえいえ、ありがとうございます」
「二人とも昼飯にしよう」
「そうですね。では学食へ行きましょう」
「あ、先に行っていてください」
二人に断りを入れてから席を立ち、窓側一番前の席で愛用のカメラを弄る
「
「ん? ああ、おつかれっす。なんですか?」
「よかったら、一緒に学食に行きませんか?」
「そうでしたか。では、またの機会に」
「はい」
席を離れて教室を出て二人が待つ学食に向かう。学食に着くと既に長蛇の列ができていた。
「あいかわらず、すごい人だな......」
「出遅れましたからね、仕方ありません。また売店にでも......」
「昼食は、私が調達してきます。お二人は席の確保をお願いできますか? テキトーでいいですよね」
「ん? ああ、頼む」
「あ、はい。席の確保はお任せください」
少し困惑している二人を置いて、手の空いている学食の店員に話しかける。店員から大きめのお盆を受け取り、二人が待つ席に向かった。
「はい、お待たせしました。どうぞ」
「こ、これはっ!」
「まさか......!」
二人の声が震えている。
「授業が終わると同時に学食へ駆け込まなくては食べられない幻のカレー! 牛タンカレーじゃないですか!?」
「これって限定品なんだろ!? この時間でどうやって手に入れたんだ!?」
二人して興奮して問いただしてきた。
「教員特権で取り置きして貰いました。先週末に頼んでおいたんですよ」
「なんと!? そんな裏技があったとはっ!?」
「職権乱用じゃないかっ!?」
「さぁ~、なんの事だか? とりあえず食べましょう」
「ああっ! そうだなっ! う......うまーい! やっぱカレーはスパイスが効いてないとカレーじゃないよなっ!」
* * *
授業終わり
「
「あ、
声をかけると少し早足でかけよってくる。
彼女がここにいる、と言うことは......。
「もしかして用事終わっちゃいました?」
「いえ、わたし、今からレッスンがあって早抜けさせてもらって」
「そうでしたか、がんばってくださいね」
「はい、ありがとうございますっ。えっと、それでですね......」
「週末にライブがあるんですけど――」
「ライブ?」
――ああ......
「神奈川県のスーパーアリーナであるんですけど、是非見に来ていただけたらと思って」
「神奈川?」
――あれ? 渡したチケットは確か......。
「あ、都合悪いですか? 急ですもんね......」
「いえ、そうじゃなくて。
言い終わる前に
「関係者席ですので、ノリとかぜんぜん気にしないで大丈夫ですっ」
「そうなんですか? じゃあぜひ観に行かせていただきます」
「はいっ。えっと、ちょっと待ってくださいねー」
バッグからチケットの入った白い封筒を取り出した。
「はい、どうぞですっ」
「ありがとうございます」
「えへへ~」
「ところで、レッスンの方は?」
「......え? はわぁっ、そうでした! もう行かないとっ。それじゃあまた明日ですっ」
「また明日、お気をつけて」
「はーいっ」
急いでいると言っていた割りにはまだ少し余裕があるのか、振り向いて笑顔で手を振っていた。彼女の姿が見えなくなるまで見送った俺は、生徒会室へ急いだ。
「それで、今日はなにをしていたんすかー?」
生徒会室に入ると、生徒会長の席で肩肘をついた
「引き継ぎの資料を作るために学年とクラスごとに資料まとめていたんです」
「ああ、そっか。英語の先生、来週から復帰するんだったな」
「ええ、ちょうど中間テストが重なったので。結構な量なんですよ」
「それは大変ですね。ご苦労様です」
「だな」
「いえいえ」
気づかってくれた二人と同じく彼女も納得してくれた。
「仕方ないですね。さて、それでは行きましょう」
「どこへですか?」
「能力者の調査です。今回は急を要する内容ですので現場へ向かいながら説明します。それに今度の調査には、あなたの
――俺の能力が必要か、まだ彼女にも打ち明けていない俺の能力が......。
* * *
目的地へ向かっている間に能力者について聞かせてもらった。
今回のターゲットは“電撃”の能力者。どんな形で電撃を発生させるのかまでは分からないが、穏やかな能力じゃないことは確かだろう。
「人通りが多いな......」
探知能力者が提示した情報を元に降り立った場所は、大勢の人々か行き交う都心の駅だった。
「これでは能力者を絞り込むのは難しいですね......」
「とりあえず怪しい
「ですね。では私は、駅の西側を調査します」
「待て。相手の能力が具体的に分からない以上、尾行は禁止です。怪しい人間を見つけたらまずは写真。その後、情報の共有を最優先で」
「了解しました。それでは、行って参ります!」
敬礼した
「あたしは駅北へ行きます」
「では、
「はい、お願いしまーす」
辺りを見回してみる。時間が時間だけあって一般もさることながら学生の姿も多い。これは骨が折れそうだ。
とりあえず駅前を見渡せて、学生も多いカフェのテラス席に座って注意深く観察しながら、店員さんと世間話をしつつそれとなく聞いてみたり、近くの席の女子たちがしている噂話に耳を傾けてみたが、これといった情報は得られなかった。
「ん?」
携帯がメール受信した。送信者は
「これが能力者ですか」
「はい、間違いないと思います。しっかし――」
「自ら怪しいと公言しているようなモノですね」
「
「ああ、間違いない。マネージャーと話してる
「なるほど」
――ファンか? いや、この鋭い視線は違う気がする。
「ストーキングだなんて許せませんねぇ......」
彼女の大ファンの
「ファンとは限らないっすよ。はい、
俺たちをよそに、
「よろこんでいるところ申し訳ないのですが、
電話は、
やはり電撃の能力者が、
* * *
「あなたはどう見ますか? 今回の件」
用事があったためお互い学校に戻った俺と
「能力者のバックに身内がいるのは間違いないでしょうね」
能力者が
「黒幕は、芸能関係者。
「あたしも同意見です。それも芸能界でそれ相応の権力を持つ人物と思われます」
「ええ、間違いありません。なにか心当たりがないか、
「いえ、その必要はありません」
「なんとなく見えてきましたから」と、心当たりがあったのか意味深に言って席を立った。
「とにかくあたしたちに出来ることは、ライブ本番での犯行を未然に防ぎ、能力者を確保することです」
「そうですね」
「はい。では帰りましょう」
「もう少し資料作りを進めたいので、お先にどうぞ」
「そうっすか、大変っすね。じゃあお先に失礼しまーす」
「あ、そうだ。これ、よかったらどうぞ」
生徒会室に来る前に学食で受け取ったビニール袋を彼女に差し出す。
「ん? なんすか?」
「学食のカレーです」
「はぁ、ありがとうございまーす」
「また明日」
「はい、また明日。おつかれさまです」
戸締まりをして生徒会室を一緒に出て、俺は彼女を見送ってから職員室に戻り、引き継ぎの資料作りに戻った。