Charlotte ~時を超える想い~   作:ナナシの新人

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Episode15 ~言葉~

 週末、黒羽(くろばね)のライブ当日。

 土曜日ということで、今日は午前中だけの半日授業、ホームルームも連絡事項のみで放課後を迎えた。

 

「さて、帰るか。現地集合でいいんだよな?」

「ええ、開演一時間前に集合となっています。会場はわかりますか?」

「新横浜駅の近くだろ? 行ったことないけど」

「では、私がご案内いたします。せっかくですからお昼は、横浜(むこう)で食べるというのはいかがでしょうか?」

 

 高城(たかじょう)の提案を聞いて、乙坂(おとさか)の目の色が変わった。

 

「ぜひともそうしよう!」

宮瀬(みやせ)さんは――」

「これから、引き継ぎ資料の最終チェックをしようと思っていますのでお気になさらず」

「そうですか、ご苦労様です。それでは我々は、ひと足先に現地へ向かわせていただきます。"楽園"でお会いしましょう!」

 

 鼻息を荒くしつつ敬礼した高城(たかじょう)乙坂(おとさか)と昼食に何を食べるか話をしながら、教室を出ていった。

 

「おつかれっすー」

「あ、友利(ともり)さん」

 

 支度をしていたところへ今度は、カバンを持った奈緒(なお)が声をかけてきた。

 

友利(ともり)さんは、二人と一緒に行かないんですか?」

「これから用事があるんです。あなたと同じで」

「お互い大変ですね」

「まったくです。では、また後ほど」

 

 教室で奈緒(なお)と別れた俺は、作りかけの資料とスクールバッグを持ち、職員室へ向かった。教職員たちと挨拶を交わして、いつも使わせてもらっている席に座る。この席は、休養中の仲村(なかむら)先生が普段使用している席。キレイ好きのようで、机の上は整頓されている。だけど引き出しの中に、モデルガンが入っていたのにはさすがに驚いた。担任の話しによると、趣味のサバイバルゲームで使用している代物らしい。ともあれ、片付けますか。

 手を組んで腕を前に出し、軽く伸びをしてから机に向かい、資料作りのまとめ作業に取りかかった。

 

           *  *  *

 

友利(ともり)さん?」

 

 午後1時を回り、資料作りを終えて一度自宅へ帰ろうと校舎を出たところ、彼女は正門前の花壇の石垣に座ってスマホに目を落としていた。俺の声に気づいて顔を上げた奈緒(なお)は、スマホを制服のポケットにしまって立ち上がる。

 

「おつかれさまでーす」

「どうしたんですか?」

「用事があったんで待っていました。歩きながら話ます、行きましょう」

 

 要領を得ないが、とりあえず隣に並んで歩く。特に特別な話しもなく、少し歩いて併設マンションに着くと。

 

「着替えて来ますので、ちょっと待っていてください」

 

 ライブへ行く準備をするため彼女は、併設マンションへ入っていく。エントランのベンチに座って、支度が整うのを待つ。女性の身支度は時間がかかるものと思っていたが、奈緒(なお)は10分そこそこで着替えを済ませて戻って来た。袖がフリルのノースリーブブラウス、膝上丈のフリルスカート。夏らしく、そして、とても女の子らしいファッション。

 

「お待たせしました」

「いいえ。似合ってますね」

「えっ? そっすか?」

「ええ、可愛らしいと思いますよ」

 

 素直な感想述べると、驚いたような戸惑うような表情を一瞬見せて、少し戸惑ったように顔を逸らした。

 

「慣れていないのであれですが、その、ありがとうございます」

 

 気恥ずかしさと戸惑い混じりの小さな声でお礼を言って、彼女は顔を上げた。

 

「さあ、行きましょう!」

 

 今度は俺が支度をするため、六本木の自宅へ。

 準備は、あらかじめしてある。リビングで待っていてもらって、寝室で着替えを済ませ、今度は乗り換えのため東京駅へ。東京駅に着いた時にはもう14時を過ぎていた。お互い昼食を食べていないということで横浜方面行きの電車に乗り換える前に、昼食兼夕食の調達。

 

「決まりましたか?」

「糸を引っ張ると温かくなる牛タン弁当~! は前に食べたし、別のにしよっかなー? あなたは、何にするんですか?」

「そうですね」

 

 売店のショーケースに目をやる。ショーケースには、奈緒(なお)が言っていた牛タン弁当を始めとした肉系の弁当。カニやイクラなどの海産系。幕の内弁当や、炊き込みごはんの純和風弁当など目移りしそうなほど数多くのサンプルが展示されている。移動時間や移動方法を考えると、手軽に食べられるサンドイッチかおにぎり辺りが無難だろうか。

 

「あ、時間なら気にしなくて大丈夫っすよ。移動は、新幹線ですので」

 

 得意気な表情(かお)をして、ポーチの中から東京駅から新横浜駅行きの新幹線の乗車券を二枚取り出した。

 

「どうしたんですか、それ?」

「上が用意してくれたんです、詳しいことはのちほど。まずはお昼を選びましょう」

 

 購入した弁当と飲み物を持って、駅構内のフリースペースのテーブルで向き合って座る。美味しそうに弁当を食べながら奈緒(なお)は、新幹線の乗車券について教えてくれた。

 

「英語教師代理を引き受けてくれた件の謝礼です。お礼を伝えて欲しいと頼まれました」

 

 ――入れ違いにならないように正門で待っていたのか。

 奈緒(なお)は箸を置いて、背筋を伸ばし。そして、ぺこっと頭を下げた。

 

「お疲れさまでした。とても助かりましたし、とても分かりやすかったです。ありがとうございました」

 

 お礼の言葉。穏やかな声色から言わされている言葉じゃないことがひしひしと伝わってくる。だから俺も、自分の言葉で答える。

 

「どういたしまして」

「はい、伝えておきます」

 

 昼食を食べ終え、同じ構内のカフェに立ち寄り食後のコーヒーをふたり分買って、新幹線のホームへ上がる。15時過ぎ発の列車に乗車切符に記された席を探す。

 

「おお~っ、豪華っすねっ。さすが、グリーン車!」

 

 休日と言うこともあって自由席はほとんど埋って込み合っていたが、通常料金や指定席よりも更に値が張るグリーン車車内の乗客はまばらで、俺たちの他に数人しか乗車していない。奈緒(なお)は窓側の席座り、俺は通路側の席に座る。車内に車掌のアナウンスが流れ、列車は走り出した。

 奈緒(なお)は、アイスカフェラテを飲みながら四つ折りにした用紙に目を通している。この用紙は切符と一緒に受け取った、電撃の能力者に関する報告書。

 

「う~ん、なるほど......」

「何か掴めましたか?」

「上がコネを使って今回当選したファンクラブ会員を調べてくれましたが、写真の男に該当する人物はいなかったようです。あたしたちと同じく、関係者席のチケットを使うとみて間違いないでしょう。一応共犯者と思われる芸能関係者を監視しているそうです」

 

 監視対象は、当初の予想通り全員が権力を持つ芸能関係者。大手プロダクション、ライバル事務所のトップ、某テレビ局の大物プロデューサーが監視対象になっているそうだ。

 

「それと、能力者(ターゲット)の詳しい情報は残念ながら得られていません」

「そうですか」

「あなたの、あの能力(チカラ)でも未然に防ぐことはやっぱり難しいんですか?」

 

 事情を知る前の質問とは、少し違ったニュアンスで同じ質問。

 

「やってできないことはないですけど、おそらく厳しいと言うのが正直なところです。先日話した通り、私の――」

「“俺”でいいっすよ。あたしは、あなたの事情を知っているんですから気兼ねなくどうぞ。疲れるっしょ? いろいろと」

 

 優しい言葉で気づかってくれる。

 

「安心してください。あなたの過去の話や本来の能力(チカラ)のことは報告書にはいっさい記入してませんので」

 

 奈緒(なお)が言った報告書は、星ノ海学園の存在理由が特殊能力者の保護を目的としているため、個人の身体的特徴や病気に有無、家族構成から家庭事情までが事細かに書かれている代物らしい。

 

「協力者が見つけた通り、“予知能力者”として報告を上げておきました」

「いいんですか......?」

 

 虚偽の報告をすると言うことは、彼女が唯一信頼している相手に対する裏切り行為と取られても言い訳もできない重大な選択(こと)。しかし奈緒(なお)は、俺の問いに「構いません」と躊躇なく答えた。

 

「あの夜の(こと)は、あたしの胸の中だけにしまっておきます」

「......ありがとうございます」

 

 感謝の言葉を伝え、俺は改めて質問に答える。

 

「物体を通しての間接的なのか、それとも目標への直接的な作用なのかさえ分かれば、能力で対処できるんですけど」

 

 難しい表情(かお)で、奈緒(なお)は腕を組んだ。

 

「『一瞬電流にようながもの走って、周囲の灯りが全部消えた』。美砂(みさ)さんが言っていた状況では、どちらとも取れますね」

「ええ。ですが、ある程度予測できる方法はあります」

「えっ、マジっすかっ?」

「能力者が座る関係者席の位置で――」

「なるほど。黒幕の権力で、能力を使いやすい席を確保している可能性が高いわけですね」

 

 さすが頭の回転が速い、俺の言いたいことをすぐに察した。でもこの方法には、ひとつ難点がある。いくら関係者席に絞り込めているとは言え、暗闇の中で能力者を特定するのは至難のわざということ。

 

「そこは、高城(たかじょう)が見つけ出すのを期待しましょう。不自然な挙動をとる輩はすぐに判別できると息巻いていましたし」

 

 黒羽(くろばね)の大ファンだからこそ、ファンとは違う空気を嗅ぎ分けられる、と。

 

「あのハイテンションには普段なら引いているところですが、今回は役立ちそうです」

「頼もしいですね」

「......まあ、そっすね」

 

 すっと窓の外へ顔を向けた。

 そのしぐさに思わず笑いそうになる。

 

「なんすか......?」

「いえいえ、なんでもありませんよ」

『ご乗車ありがとうございます。まもなく新横浜――』

 

 大きな目を細めて微妙な視線を向けられていたところへ、ちょうど到着を告げるアナウンスが流れた。お互いに降りる支度を済ませる。

 

「スゴい人ですね」

 

 列車を降りてホームに出ると、まるで通勤ラッシュの時のように大勢の人たちで溢れ返っていた。その人たち中でよく目に止まるのは、黒羽(くろばね)のバンド「How-Low-Hello」のグッズを身に付けている人たち。アイドルがボーカルを務めるライブと言うことで男性ファンの比率の方が高いかと思っていたが、女性ファンもかなり多い。

 ライブ会場へ向かうファンの流れにまかせて歩き、会場前の物販ブース付近で先に来ていた乙坂(おとさか)高城(たかじょう)と無事合流することができた。

 

「けど、ホントものすごい人の数だな。この人たち、みんな柚咲(ゆさ)のライブを観に来てるんだよな?」

「そういう訳でもありませんよ。公式サイトでは販売していないライブ会場限定のグッズもありますから。中には、残念ながら抽選に外れてしまったファンの方が雰囲気を共有したいがためだったり、ライブ会場限定のグッズを目当てに足を運んでいたりします。何せ待望の復帰ライブですからね」

「ふーん、そういうものなのか」

「ということですので、私も――」

「ムダ話してないで最終確認するぞー」

「な、なんと無慈悲なタイミング!」

「ほら、行くぞー! お二人も来てください」

 

 若干涙ぐんでいる高城(たかじょう)を強制連行して歩く奈緒(なお)に着いていく。ライブ会場を少し離れた人もまばらなベンチ前で、彼女はチケットを取り出した。

 

「全員、チケットとは忘れずに持ってますね?」

「はい、もちろんです!」

 

 代表して、高城(たかじょう)が高らかに答えた。

 

「いいですか? 今回の犯人は、複数犯と思われます」

「どうして、そんなことが分かるんだ?」

「簡単なことです。セキュリティがしっかりしている芸能人が使うスタジオに気づかれずに浸入できるとは考えにくいからです」

 

 先日、そして今日話した内容の要点をまとめ、裏で手引きしているであろう黒幕の犯人像を伝えた。

 

「なるほど、真犯人は芸能関係者ですか。ゆさりんの活躍を妬む人のしわざ。許せませんね......」

「なんだか、ドラマみたいだな」

「それと、実行犯の電撃の能力者についてですが。能力の有効射程範囲などが未知数のため細心の注意を払ってください」

「注意って、具体的にはどうすればいいんだ?」

「当然ながらまずは見つけることです。そして、見つけ次第乗り移ってください」

「は? どうして?」

 

 乙坂(おとさか)自身は、本当は自分が“略奪”という能力であることを知らないとは言え。彼の能力で目標の能力を奪ってしまうのが一番安全かつ確実な方法であることは間違いない。問題は、悟られずにどう納得させるか......。

 

「あなたが標的に乗り移っている間に拘束するからに決まってるっしょ」

「拘束するって......また高城(たかじょう)の体当たりか!? 実際に痛いのは、僕なんだからな......!」

 

 ――相手に乗り移っているときの痛覚は、乙坂(おとさか)が受けるのか。実に興味深い能力だ。例えば乗り移っている間に、本人または乗り移っている相手が息絶えた場合、彼の精神はどうなるのだろうか等など疑問は尽きない。

 

「瞬間移動の体当たりはしませんので、ご安心を――と言うよりできません。大勢の観客、DVD撮影用のカメラが回っているライブ会場では瞬間移動は使えません。そんな状況で能力を使えば、私は科学者に捕まってしまいます」

「そうか、それもそうだな......」

 

 高城(たかじょう)の話を聞いた乙坂(おとさか)は、ホッと胸をなでおろす。俺が転入する以前に、トラウマになるほどの出来事があったことがうかがえる。

 

「そういうことですので。犯人を特定しても高城(たかじょう)は能力を使えないので、乗り移りしだい壁や地面やフェンスに頭を打ちつけて気絶させてください」

「出来るか!」

「乗り移ってから四秒後に頭を振りおろせば当たる直前に戻れます。大丈夫です、何度でもやり直しはききます」

「僕が言っているのは、そう言う意味じゃないんだが!?」

 

 奈緒(なお)の作戦に猛抗議する乙坂(おとさか)だったが、「柚咲(ゆさ)さんを守るため、力をお貸しください!」と高城(たかじょう)の説得を受けてしぶしぶうなづいた。

 受け付けで貰ったチケットをスタッフに見せて、座席まで案内してもらう。用意されていた座席はアリーナサイドの最前列、黒羽(くろばね)が歌うステージのすぐ近くだった。

 

「では全員! ライブTシャツとペンライトの準備はいいっすね!?」

「はい、もちろんです! いざライブへ!」

「思い切り楽しむ気じゃないのか......?」

「あはは......」

 

 ライブの観客にまぎれ怪しまれずにターゲットを探すため俺たちも、ライブグッズを身に付けて観覧することに。ちなみにこれらライブグッズは、すべて必要で経費で落ちるそうだ。

 開演時間まで会場内を見渡す。ざっと見たところ照明器具や音響器具はもちろんのこと。演出に使うのか、天井付近にまで組まれたパイプなどの通電性の高い金属製の物が目につく。

 ――これはちょっとマズイ、その気になれば会場内のどこからでもステージを狙える。さすがに会場全体をカバーするのは厳しい......。

 突然照明が落ち、アリーナは暗闇に包まれた。 会場全体から表現し難い熱気のようなものがふつふつと沸き上がっていくのを肌に感じる。

 そんな時ふいに袖を軽く引っ張られた。

 隣に顔を向けると、奈緒(なお)が顔を寄せて耳打ちしてきた。

 

「もしもの時は、お願いします」

「――はい」

 

 返事をするとほぼ同時に、暗闇の中先日貰ったアルバムで聴いた曲のイントロが流れ出し。ステージ中央にまばゆいスポットライトが当たり、赤を基調としたステージ衣装に身を包んだ、黒羽(くろばね)が姿を現した。

 彼女の登場にますます盛り上がるライブ会場。

 

『みんなー! ただいまー!!』

 

 とびきりの笑顔の黒羽(くろばね)の挨拶でライブは幕を開けた――。

 

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