Charlotte ~時を超える想い~   作:ナナシの新人

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Episode18 ~自覚~

 最初に感じたのは、異様な眩しさ。次に、猛烈な倦怠感。

 

「起きたみたいだね」

 

 すぐ近くで声がした。よく知っている声だった。声がした方へ顔を向けようと動かそうとしたが、顔は思うように動かなかない。顔だけじゃない。腕も、足も、声すらもまともに発声できない。まるで自分の体じゃないみたいな奇妙な感覚。かろうじて目だけは動かせた。

 まだ眩しくてよく見えない目を細めて見た視線の先に映ったのは、点滴から伸びる透明のチューブが繋がった細い腕。自分のものとは思えない痩せ細った腕に想う。

 ――俺は、いったいどれだけの時間を......。

 疑問に答えてくれたのは、よく知る声の主。親友の声。

 

「半年近くも眠っていたんだから思うように動かせないのも無理はないよ」

 

 ――半年......それじゃあ......。

 

「詳しい話は、体が快復してからにしよう。今は、それだけを考えて――」

 

「ドクター呼んでくるよ」と言って、徐々に遠ざかっていく足音。

 やたら眩しく感じる真っ白な天井、一定の感覚で聴こえる機械音、医薬品の臭いが鼻につく。

 

 ――俺が今までやってきたことは、いったいなんだったんだ......。

 

 もう終わらせたい、今すぐ楽になりたい。そんなどうしようもない負の感情が、心の中を掻き回す。医療用ラックにガーゼかかなにかを切るためのハサミがあった。あれで終わらせられるのだろうか。だけど、体は動かず、なにも出来ないもどかしさが、心をより虚しくさせた。

 まともにしゃべれるようになったのは、一週間以上経ってからだった。

 

          * * *

 

 翌朝、カーテンの隙間から差し込む朝日で自然と目が覚めた。枕元にセットした目覚まし時計よりも30分ほど早い時間。体を起こし、軽く伸びをしてから窓を開けると、都会とは思えないほど爽やかな風が寝室の中を駆け抜けていく。今日一日の始まりを告げる、朝。テラスに出て、空を見上げる。雲ひとつない青空が高層ビルが建ち並ぶ向こうまで広がっていた。

 まだ涼しく清々しい夏の早朝。そんな陽気とは裏腹に、俺の気分は晴れどころか、どんよりとした薄暗い雲に覆われているように沈んでいた。理由は、分かっている。今朝見た夢のせいだ。アメリカで生活していた頃の夢。あまり思い出したくない記憶。帰国してからしばらくして見ることも少なくなっていた夢。いつからだろう。最近になってまた、ときどき見るようになった夢。

 少しなまぬるくなってきた風を肌に感じながら、ひとつ大きく息を吐いて、部屋に戻り、登校の準備を始める。

 最寄り駅から星ノ海学園へ向かう通学路で、学園に併設するマンションの玄関から出てきた乙坂(おとさか)とばったりと出くわした。簡単な朝のあいさつを交わし、教室に入ると「おはようございます。先日はおつかれさまでした」と既に登校していた高城(たかじょう)がさっそく、あいさつにきた。あいさつを返し、自分の席に座った乙坂(おとさか)は、彼と雑談を始め。スクールバッグを置いた俺は、人だかりが出来て賑やかな黒羽(くろばね)の席の横を通って、いつものようにビデオカメラを弄っている奈緒(なお)のところへ向かった。

 

友利(ともり)さん、おはようございます」

 

 彼女は手を止めて、顔を上げた。

 

「おはようございまーす」

「昨日は、ありがとうございました」

「こちらこそ、ごちそうさまでした。いろいろ付き合ってもらって――」

 

 そう言って、彼女は俺の顔から目をはずし、火傷を負っている左手に視線を落とした。まだ多少の腫れと痛みは残っているが、我慢できないほどの痛みじゃない。処方された軟膏がよく効いて、包帯をする必要もないほどに回復している。

 ――もう大丈夫、と軽く握り開いて見せると、少し表情が和らいだ気がした。

 

「例の件進展はありましたか?」

「いえ、今のところ何も。と言うか、いつも前触れも唐突にくるので」

「そうなんですね」

 

 話をしていると予鈴が鳴った。ほどなくして教室へやって来た担任は出席確認を取り、連絡事項を済ませると授業に入った。黒板に向かって初となる授業。転校する前もほとんどまともに授業なんて受けて来なかったから、どことなく感慨深いものがあった。

 午前の授業が終わり、昼休み。購買で昼食を調達するため教室を出ると、廊下の反対側からこちらへ小走りで来た担任に呼び止めた。

 

「午後の授業のなんだが。今日だけまた引き受けてもらえないか?」

 

 休職していた仲村(なかむら)先生は本日無事に復帰を果たしたが、なんでも別の担当教師に急な出張が入ってしまったとのことだった。当初は自習にする予定だったそうだが、月末に期末試験が控えていることもあっての再依頼。特に断る理由もないため「ええ、構いませんよ」と答えて、再び臨時に引き受けることに。

 

「悪いな、助かる」

 

 担任は「埋め合わせはするから」と慌ただしく、職員室へ戻っていった。教師というのもなかなか多忙なようだ。急いで購買へ行き、運よく残っていたサンドイッチと缶コーヒーを買って、教室へ戻る。食べずに待っていてくれた乙坂(おとさか)高城(たかじょう)と共に、少し遅くなった昼食を食べる。

 

「この光景いつまで続くんだ?」

 

 自分の席に座る黒羽(くろばね)を中心に囲うような形ちで、昼を食べ終えたクラスメイトたちの賑やかな談笑が聞こえてくる。その状況に、乙坂(おとさか)は少し呆れたような声で呟いた。

 

「ゆさりんは、現役のトップアイドルですから無理もありませんよ!」

 

 彼の疑問を拾い、鼻と口から牛乳を垂らしながらアイドル西森(にしもり)柚咲(ゆさ)の魅力を力説する高城(たかじょう)

 

「垂れてますよ」

「おっと、私としたことが。これは失礼しました」

 

 高城(たかじょう)が、ハンカチで口と鼻を拭っていると。教室前方のドアが勢いよく開かれ、見覚えのない顔を含めた女子生徒四人がしかめっ面でズカズカと、教室に入ってきた。

 

「ん? 何事だ?」

「さあ?」

 

 四人は迷うことなくまっすぐ、イヤフォンで音楽を聴きながら頬杖をついて窓の外を眺めている奈緒(なお)の元へ向かっていった。

 

「見当はつきますが、知らない方がいいこともあります」

 

 机に垂れた牛乳を拭き終えた高城(たかじょう)は、俺たちの疑問に目をそらしながら答え。我関せずと言った感じで食事を再開した。

 

「はあ? どういう意味だ?」

 

 乙坂(おとさか)は察していないみたいだが、高城(たかじょう)の態度と言葉で容易に想像はついた。俺は黙ったまま、椅子から立ち上がる。

 

「おや、どうなさいました」

「トイレです。どうぞ続けてください」

「そうですか。ごゆっくり、お気をつけて」

 

 教室を出た俺は、トイレには行かずに校舎裏に身を隠す。この辺りは能力者を監視するため、校内のあらゆるところへ設置されている監視カメラも、人の気配もなく、死角が多くある場所。予想が当たっていれば、おそらくここだろう。出来ることなら取り越し苦労であって欲しいが、それはむなしくも叶わなかった。

 身を隠してからしばらく。やはりと言うか。奈緒(なお)が、先ほどの女子生徒達に引きずられる形で姿を現した。それと意外なことに、乙坂(おとさか)も隠れながら付いてきていた。

 まさかの来客に気を取られていると、リーダー格と思われるロングヘアーの女子が、奈緒(なお)を乱暴に壁に押し付けた。暴力的な行為にもまったく言っていいほど動じず、少しうつむき加減で無表情のまま、いつものようにただじっと音楽プレイヤーで音楽を聴いている。

 校舎の陰に身を隠して様子を伺っている乙坂(おとさか)に目を向ける。物陰から様子を窺うだけで、動く気配は感じなかった。

 

「まずは! リカのぶんっ!」

 

 奈緒(なお)を押し付けた女子は右の拳を、彼女の顔に向かって振りかぶった。これは洒落にならない。

 ――まずい、しかもグー。間に合うか。

 咄嗟に飛び出し、奈緒(なお)の顔に拳が当たる刹那、伸ばした右手で拳を受けとめる。ギリギリ間に合った。バチンッ! と確かに衝撃音がしたにも関わらず自身の体に痛みが来ないことを不思議に感じたのか、目を伏せていた奈緒(なお)が顔を上げる。

 

「あ――」

 

 目があった瞬間、奈緒(なお)は小さく声を上げた。一瞬の沈黙のあと予定外の出来事に、殴りかかった女子が声を荒げる。

 

「な、なによっ!? あんた!?」

「あれ? 知らないんですか。英語の教師していたんですけど、臨時ですけど」

 

 俺も彼女のことは見覚えはない。

 

「――し、知らないわよっ! あんたは関係ないでしょ!? どきなさいよっ!」

「いや、さすがに無理です。この状況を見過ごすことは出来ません」

 

 知っている顔の取り巻きの一人が「ちょ、ちょっとまずいって......!」と止めに入るが。「そいつのせいで『リカ』と『ユリコ』はっ!」と、友人と思われる名前を口にした。なにか特別な事情があるらしい。けど、俺にも引けない理由はある。

 

「理由はわかりませんが、彼女をキズつけさせる訳にはいかないんですよ」

「どけって言ってるでしょっ!?」

 

 今にも殴り掛かって来そうな女子に対して俺は、奈緒(なお)を庇い背中に隠した。その行為がより一層彼女の感情を高ぶらせてしまい眉がつり上がる。

 

「いいえ、退きません。彼女は......友利(ともり)さんは、俺の大切な人だ。絶対に退かない」

「うっさいっ! 邪魔すんなー!!」

 

 痺れを切らしたロングヘアーの女子生徒は、もう一度右拳を振りかざした。今度は、俺に向けて拳が飛んでくる。その拳を避けなかった。左頬にクリーンヒット。殴られた衝撃で右に流れた顔を戻して、女子生徒を見る。

 

「少しは気が晴れましたか?」

「あ、あんた、わざと――」

「今日のところは、これで退いていただけませんか?」

 

 諭すように声をかける。リーダー格の女子は戸惑いながらも、他の女子に促されて、校舎へと戻っていった。

 一つ息を吐き、振り向く。ややうつむき加減の奈緒(なお)に問いかける。

 

「ケガはありませんか?」

「お陰様で。なんで、ここに来たんですか」

「まあ、なんとなくこうなるんじゃないかと思って。あなたを守るために」

 

 彼女は、うつむいたまま何も言わなかった。

 

「教室へ戻りましょう」

 

 校舎に戻ろうとしたところで、袖を軽く引っ張られる。

 

「ん、どうしました?」

「血がでてます」

 

 指摘された口元に手を当てて指先を見ると、うっすらと鮮やかな赤い血がにじんでいた。

 

「本当だ。歯に当たったんですね、たぶん」

「動かないでください」

 

 ポケットからハンカチを出した奈緒(なお)は、つま先立ちをして口元の血を拭ってくれた。

 ――そして「ありがとうございました」と、小さな声でお礼の言葉が聞こえた。

 折りたたんだハンカチをしまった彼女のスマホに着信が入った。

 

「あ、協力者が現れます。急いで、生徒会室へ行きましょう」

「ええ」

 

 スマホの画面を確認し、俺に振り向いて言った彼女はもう、星ノ海学園生徒会長の凛々しいいつもの友利(ともり)奈緒(なお)だった。

 

           * * *

 

 生徒会室に入ると三人は既に集まっていて、俺たちと協力者の到着を待っていた。

 

「はわっ、どうしたんですかっ?」

 

 ソファーに座っていた黒羽(くろばね)が心配そうに寄ってくる。どうやら、口元に少し血が残っていたのを見つけられてしまったみたいだ。

「昼ご飯を食べてる時に、噛んでしまったんですよ」とテキトーにごまかす。すると黒羽(くろばね)は、「そうですかー。もしかしてケンカじゃないかと思って心配しちゃいましたよー」と、安心したように笑顔を見せた。結構するどくて、ちょっとビックリした。

 

「あ、そうだ。ちょっと待っててくださいねー」

 

 ポーチから小さめの絆創膏を出して手渡してくれた。お礼を言って貰った絆創膏を貼りながら横目で、乙坂(おとさか)を見る。椅子に座り、どこか思い詰めたように顔をしていた。

 そうこうしていると突然、バタンッ! と、勢いよく生徒会室の扉が開いた。現れたのは、全身ずぶ濡れの長髪の男子生徒。どこかで見たことがあると思ったら以前出会い頭にぶつかりそうになった男子。

 奈緒(なお)を見る。彼女は小さく頷いで答えた。この男子が、例の探知能力者――熊耳(くまがみ)で間違いないようだ。

 熊耳(くまがみ)は、生徒会室中央部のテーブル一面に貼られた地図の前に立ち、濡れた指先から一滴の水滴を落とした。

 

「能力は......“空中浮遊"」

 

 それだけ告げると踵を返し、生徒会室を出ていった。俺はもう一度、奈緒(なお)を見る。奈緒(なお)も俺を見ていた。自然と目が合うと、ドヤっとしたり顔を向けてきた。

 

「空中浮遊か、また定番な能力だな」

「ですね。えーと、場所は......都心を外れた山中のようですね」

 

 高城(たかじょう)が、水滴の落ちた場所を言う。どうやら、水滴が能力者の居場所を示しているようだ。

 

「よしきた~! これだっ!」

 

 奈緒(なお)は、雑誌をテーブルに叩きつけた。テーブルに広げられた雑誌は、昨日見せてもらった「フライング・ヒューマノイド」の記事。

 

「いやー、前から目を付けてたんっすよー」

「この写真の黒い影が能力者だって言うのか?」

「はい。憶測ですが、ここで飛ぶ練習をしてるのだと思います。ですので、この場所で張り続ければいずれ姿を現すハズです」

「張り続ければっていつまでだよ?」

「もちろん姿を現すまで。決まってるっしょ?」

「私たちは、それで構いませんが。ゆさりんは?」

 

 奈緒(なお)乙坂(おとさか)の会話に割って入った高城(たかじょう)が、素朴な疑問を言った。けど、それは心配ないだろう。

 

「わたしも大丈夫ですよー。しばらくお休みをいただいていますのでっ」

「と言うことです。さっそく買い出しに行きましょう」

 

「行きましょう」と言いたいところだけど、そうもいかない。先約に担任の頼まれごとがある。

 

「すみません。急な出張が入ったそうで午後の授業を受け持つことになっているんです」

「そうですか、わかりました。ではあたしたちは、先に現場へ行っています」

 

 奈緒(なお)の許可を貰えて、とりあえずひと安心。一度全員で教室へ戻って、帰り支度を済ませた四人はすぐに調査へ出掛けていった。俺は職員室で受け持つ学年とクラスを聞き、担当する教室へと向かった。

 5時限目の授業を滞りなく終え、次は6時限目。これで本当に最後の授業だ。

 

「最後は......2-Bか」

 

 二年生の教科書に持ちかえて教室へ入る。

 入り口に近い席で楽しそうにだべっていた二人の女子が、俺に気づいた。

 

「あれ? 宮瀬(みやせ)くんだー」

「どうしたの?」

「先生が急な出張で。今日だけまた臨時です。お願いしますね」

「あ、そうなんだー」

「よろしくねー」

 

 教壇へ向かって歩きながら、教室全体を見渡す。すると、いつも空席だった席に、面白くなさそうな表情(かお)の女子生徒が片肘をついて座っていた。ふと彼女と目があう。

 

「なっ!? あ、あんたっ!?」

「あぁ~、どうも」

 

 あの空席の主は、昼休み奈緒に絡んできたロングヘアーの女子だった。彼女の声に何事かとクラスがざわめく。

 

「静かにしてくださーい。授業を始めますよ?」

 

 手を叩いて呼びかけた俺に注目が集まった。そこで、また今日だけ教壇に立つこと伝えて授業に入ろうとしたところで。教卓の目の前の席の女子が「どうしたのー?」と口元の絆創膏を指差し訊ねてきた。その質問に、ロングヘアーの女子生徒が少し気まずそうな表情を見せる。おそらく告げ口されると思ったのだろう。

 

「いや~、ちょっと考え事して歩いていたらぶつけちゃったんですよ」

「えぇ~、そうなの? 気をつけなきゃだめだよ~?」

「はい、気を付けます。それでは始めますね」

 

 黒羽(くろばね)の時と同様にテキトーにはぐらかして授業を始める。その後、最後の授業を終えて教室を出た。少し教室から離れたところで背中越しに、「ちょっと待ちなさいよっ!」と声をかけられた。振り向く。俺を呼び止めたのは、あの女子だった。

 

「なんでしょうか?」

「......その......なんで――」

「なんで庇ったのか、ですか?」

 

 彼女は、ゆっくり頷いた。

 

「教師ですから。さっきまでですけどね」

 

 深くひとつ息を吐き、彼女をまっすぐ見据える。

 

「あなたの事情はわかりません。彼女を責めるなともいいません。ですが、彼女にもそうしなければならない事情があったんだと思います。わかってあげてくれとはいいませんけど。憶えておいてください」

 

 彼女は、なにも答えない。

 

「それでは、失礼しますね」

「......待って――」

「なんですか?」

「......ケガさせて......ごめん」

「あなたが怒ったのは、友だちを思ってのことなんでしょ?」

 

 黙ったまま、小さく頷いて答えた。

 

「それならいいです。ああ~そうだ、一つだけ。授業は出た方がいいと思いますよ?」

「ちょっ......それ、今いうっ!?」

「あははっ」

 

 俺は笑って職員室へ戻った。

 スライド式のドアを横に引いて室内に入る。

 

「失礼します」

「あっ、宮瀬くん。おつかれさま」

「おつかれさまです」

 

 最初に労ってくれたのは、今日復帰した仲村(なかむら)先生。続けて担任も労いの言葉をかけてくれた。

 

「ねぇ。宮瀬(みやせ)くん、借りていいかしら?」

「どうぞ」

 

 棚に教科書を戻しているうちに仲村(なかむら)先生と担任の間で、当人の俺の意思は関係なく取り引きが成立していた。勝手に決めないでいただきたいのだけれど。抗議する前に担任は、「ホームルームも出席扱いにしとく。そのまま帰ってくれていいからな」と言って、そそくさと職員室を出ていってしまった。

 

「こっちで話しましょ」

 

 有無を言う間もなく職員室横の応接室へ連行されてしまった。無駄に豪華なテーブルを挟んで向かい合って座る。

 

「中間の成績みたけど、みんな上がってるわね。主に女子が」

「あはは......」

 

 淹れてくれたインスタントコーヒーをいただきつつ、苦笑いでやり過ごす。

 

乙坂(おとさか)くんと柚咲(ゆさ)ちゃんは、単語。高城(たかじょう)くんはリスニングが課題と......。この資料も的確だし。なにか、お礼をしないといけないね」

「別にいいですよ。充実した日々を送れましたから」

「欲がないわね。なにかないの?」

「そうですねー」

 

 左手をアゴに添え、目を閉じて少し考えてみる。|

 

「じゃあ、ひとつお願いしてもいいですか?」

「なんでもいいわよ」

友利(ともり)さんのことをお願いします」

友利(ともり)って......奈緒(なお)ちゃん?」

「はい」

 

 高城(たかじょう)の様子からして、今日みたいなことも稀にあるのだろう。今回の調査が終れば俺は、しばらく日本を離れることになる。もしその間に、同じようなことが起きたら――守ってあげられない。

 

「ふーん......わかったわ。任せなさい」

「お願いします」

 

 話は、これで終わり。お茶のお礼を伝えて席を立つ。

 

「ねぇ、宮瀬(みやせ)くん、ひとつ聞いてもいいかしら?」

「あ、はい、なんですか?」

「あなた――」

 

 ――ああ、そうか......俺は......。

 この時、仲村(なかむら)先生に聞かれたことで初めて自覚したんだ。これが、そう言う気持ちなのだと――。

 

「もちろんです」

「そう......重いわよ? あの子が背負っている物は」

「はい、わかっています」

「そう、頑張りなさいっ」

 

 応接室を出ると携帯が振動した。画面を確認するとメールが届いていた。送信者は、話題に上がっていた奈緒(なお)。内容を読んで返信。その後すぐ、彼女から届いたメールに書かれていた頼まれごとを果たすため、星ノ海学園を後にした。

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