特殊能力発見能力者の
「どうして、“とうもろこし”ばかりなんだ?」
先日、野球の帰りに買い物をしたのと同じスーパーで食料の買い出し中、あたしの後ろをショッピングカートを引いている
「なんでって、バーベキューっていったら“焼きとうもろこし”は定番っしょ。表面にお醤油を塗って、炭火で焼くと美味しくないですか」
「まあ、それは同意するけど。でも、炭火焼きって結構煙でるからバレないか?」
「ニオイに釣られて、逆に向こうから近づいて来てくれるかもしれませんよ」
それが、本当の狙い。
いくら居場所と能力を特定したとはいえ、それはあくまでも発見当時の居場所。
「このくらいあれば十分ですね。あとは、ステーキ用のお肉~、スペアリブ、ウインナーっと。あっ、その前に他の野菜も見とかないとですね」
精肉コーナーへ行く前に、同じ野菜売り場で根菜、緑黄色、葉物と。栄養価の高い野菜と日持ちする野菜を選んで、カゴの中に入れていく。
「へぇ、案外バランス良く買うんだな」
「まぁ、最近はですけど......」
チラッと振り向くと、
そして、その笑顔で思い出す。
あたしが、野菜もしっかり食べようと思った、あの出来事を――。
「はい、次! メインのお肉コーナーへいきますよーっ」
「ちょっと待て。僕も欲しいものがあるんだ。持ってくるから待っていてくれ」
「仕方ないなー、じゃあ早くしてください」
一時的にショッピングカートを預かって、
「これはまた」
「どうしたんですかー?」
「いえ、いつもでしたら効率重視で待たずに先に行くような方ですので。珍しいこともあるのだなと思いまして......」
なんかスゴく失礼なことを言われた気がするんですが、気のせいっすかね。振り向いて、軽く睨むような視線を
そこへちょうど、ししとうのパックを持ってきた
「ししとー? 辛くないっすかー?」
「その辛さがいいアクセントになるんだよ」
「ふーん、まあ別にいいですけどー」
受け取ったししとうのパックをカゴに入れて、後ろの二人にも食べたい物がないか訊ねる。特にこれと希望はないとのことでしたので、メインの精肉コーナーでお肉を見る。消費期限が長く美味しそうなお肉、野菜、飲み物も買って次のお店へと向かう。ディスカウントショップやドラッグストアを回り。最後は、昨日ホームセンターであらかじめチェックしておいたテントやコンロを、サービスカウンターの店員さんに頼んで台車に乗せてもらう。買い物をしている間に、タクシーを手配して待機していた
都会を離れ、人里離れた山道を目的地へと走るタクシー。助手席に座っているあたしは、今のうちにメールを打つ。送信相手は、
彼からの返事は、「わかりました。今、学園を出るところです。また連絡しますね」とすぐに返ってきました。今から星ノ海学園を出て、一度自宅に戻って準備をしてから来るとなると。あたしたちの現地到着から、三、四時間遅れと言ったところでしょうか。都心からかなり離れた山奥ですし。
それからタクシーで移動すること一時間あまり。登りやすそうなところでタクシーを降りる。
「さてと。それでは男性は、バーベキューコンロとテントを持ってください。食材は、あたしと
「テントって......まさか、泊まりなのか!?」
「現れるまで張り込むって言ったじゃないですか」
「確かに言ってたけど......」
「あの~、着替え持ってきてないんですけど......?」
「それは問題ありません。管理人室に預けた荷物を、宮瀬さんが持ってきてくれる手はずになっています。先ほどメールで、お願いしておきました。ほら、昨日のっすよ」
「あっ、そうでしたかー。それでしたら安心ですっ」
「僕たちのは?」
「着替えなくても死なないっしょ」
「――なっ!?」
「さぁ、行くぞー」
まるで苦虫を食い潰したよう
そしてあたしたちは、草木が生い茂る鬱蒼とした山に足を踏み入れた。
道なき道、獣道をひたすら進むこと二時間弱。ようやく開けた草原に出た。雑誌の写真と今居る草原から見える山々の景色を見比べて、同じ場所で間違いないことを確認出来た。
「よっし、到着! 暗くなる前にテントを張りましょう」
星ノ海学園を出発して数時間。目的地に到着したあたしたちは休むこともなく、手分けしてテントを張り始める。
「あ、そっちは井戸があるんで危ないっすよー」
「――えっ? おわぁーっ!?」
不意に、
「い......今、下手したら落ちるところだったぞ!?」
「だから言ったじゃないっすか。井戸があるって」
「もっと早く教えて欲しかったんだがっ!」
「
「同意です! あちらはいかがでしょうか、平坦な場所があります!」
「よし、そうしよう!」
身をもって危険を経験した
そして、無事にテントを張り終えた。
平原をひととおり見て回りテントに戻っている途中、制服のポケットに入れたスマホが鳴った。
「はい、
『おつかれさまです。
「おつかれっす」
電話の相手は、
「どの辺りですか?」
『今さっき、山道に入ったところですよ』
あたしたちと同じ場所でタクシーを降りて、徒歩で山を登るとなると二時間前後と言ったところでしょうか。
『夕食は、お気になさらずに』
「わかりました、そうさせてもらいます。森の中は暗くなると思いますので、お気をつけて」
『はい。ああそうだ、甘い物を持って行きますね』
「えっ、マジっすかっ? ありがとうございますっ。お待ちしてまーすっ」
もう午後5時を回っているのに、日の長い夏の空は青いまま。人によっては少し早いかもですけど、重い荷物をもって獣道を登って来たわけですから、みんなもお腹は空いているでしょう。お礼を伝えて通話を終えたあたしは、テントに戻ると、さっそく夕食の準備に取りかかった。
「よし、準備おっけ~。
「はい?」
少し首を傾げた
「――チッ、着火材とか買わねぇのなって思ってたらそう言うことかよ。人をライター扱いすんなよなー!」
不満を漏らしながらも
「
「さっき電話をくれました。まだ二時間以上かかるそうなので、先に食べていてくれていいそうです」
「そうなのか」
「では我々は、お言葉に甘えさえていただきましょう」
「だな!」
と言うことで、人数分のとうもろこしを網の上に乗せて炭火で焼く。焦げ目が付き始めた辺りで醤油を塗ると、食欲をそそる芳ばしい匂いと一緒に白い煙がもくもくと立ち上ぼり出した。
「やっぱり煙でバレるだろ、これ......?」
「んん~っ。“焼きとうもろこし”おいしいなぁ~っ。やっぱこれっすよねー。ささっ、みなさんもどうぞー」
こんがりといい具合に焼き上がったとうもろこしをみんなにもすすめる。
「ここは、
突然意識が戻り、少し戸惑う
「これ、わたしがいただいていいんですか?」
「もちろんですっ!」
「ありがとうございますっ」
受け取ったとうもろこしをほうばる。
「はわぁ~、これおいしい~っ」
「確かに、うまいな。芳ばしくて」
「でしょ、でしょ~! 焼きとうもろこしは、任せてくださいっ。あとはお肉に~、お野菜~っと」
網に残っているとうもろこしは一旦別の容器に取り上げて、別の食材を焼き始める。焦げた醤油の匂いとはまた違った、とても魅力的な匂いが周囲に広がる。この匂いと煙に釣られて来てくれると、とてもありがたいんですけどねー。まあ初日ですし、来ないとは思いますけど。
「スペアリブ、うっまっ!」
「ウインナーの噛んだときのジューシー感!」
「肉だけじゃなくて、間に野菜も挟んで食べろー」
「わぁ~、このお肉もすごくおいしいっ」
「肉は、タレが決め手なんすよ!」
「野菜を食べてるのは、僕だけじゃないか......」
あたしたちが肉類を中心に食べていると、
「なに一人で食べてるんですか、分けてください」
「あ、ああ......」
横にしゃがんで話しかける。
「野菜しか食べてないじゃないっすか。ほら、お肉も食べてください」
仕方なく自分の紙皿のお肉を
「あぁ......いただきます。うまいな!」
「でしょ、このタレも市販のをブレンドして作ったんすよっ。ん?」
普通に話かけているだけなのに、
「どうしたんすか?」
「あ、いや、なんか嬉しそうに話すなって思って......」
夏の長い日も暮れて、辺りはすっかり夜になった。賑やかなテントを一人離れたあたしは、森の奥の先の高台へ来ていた。遠くには、きらびやかな都会の夜景が広がっている。
二つ並んだ座りやすそうな平たい岩の右側の方に腰をかけ、音楽プレイヤーで「
――あたしが、嬉しそう......ですか。
まあ自分が作った
だけど、もう誰も信じないと心に決めて。人との関わり合いを極力断ち切ったあたしが、そんなことをまた素直に感じるようになったのは、いつからだろう。ついこの間まで、他人からどう思われようとなにも感じなかったのに......。
ちょうど今、聴いていた曲が終わりに差し掛かった時、うしろの茂みが動いた音が聞こえた。一定の間隔で聞こえる。誰かが近づいてくる気配。
「――なにか?」
振り向いた先にいたのは、
「い、いや! え~と、その......いつも音楽聞いてるだろ。どんなのを聞いてるのかなって......」
「これですか?」
制服の胸ポケットから紫色の音楽プレイヤーを取り出して、その画面を見せる。
「“
「知らないな。有名なのか?」
「世界的には人気な、兄が好きだった海外のバンドです」
「......そうか」
事実を話しただけなので特に気にしてませんが。
「どうしました?」
「えっと......それ、ちょっと聴かせてもらっていいか?」
「はあ? ま、別にいいですけど」
音楽プレイヤーを
夜空から外した視線を隣に戻す。
「いかがですかー? 感想のほどは」
「なんていうか......こう、広い場所に一人で立ってるような不思議な気分になる」
「おお~! なかなかわかってるじゃないっすか~!」
あたしは思わず、彼の肩に軽くパンチを入れた。
「“
いつも持ち歩いている、ビデオカメラの電源を入れる。
「景色がどこまでも広がっていくイメージで......」
録画した動画を再生すると
「今は、こんなチンケなカンニング魔なんて撮ってますけど。いつか、“
外したイヤフォンから漏れる好きな曲にリズムを取りながら鼻歌を歌う。
「それ、プレイヤーごとあげますよ」
「いや、さすがにそれは......」
「能力の仕事で結構貯金あるんで、新しいの買いますから問題ないっす」
「そうか......。じゃあ貰っておくな」
「はーい」
テントへ戻って行く、
そしてあたしは、また夜空を見上げる。
小さな子どもの頃、家族でこんな風に夜空を見たことあった気がする。
「キレイですね」
想い出に浸っていると、
「はい。とてもキレイです」
「隣、いいですか?」
「どうぞ」
声の主。
遥か遠くに見える大都会の夜景と夜空に広がる満天の星々、今日は空気も澄んでいて、まるでミルクを流したような天の川が夜空をに輝きを放つ。ミスマッチなのに幻想的で、それでいてどこか儚さを感じる風景をあたしたちは、しばらく二人並んで静かに眺めた。
「そろそろ行きましょうか。お菓子の他に、ケーキも持ってきましたよ」
「えっ、マジですかっ、早く行きましょー!」
先に立ち上がったあたしは、彼の手を取って急かす。掴んだ手から伝わる温もり。火傷を負った左手にはもう包帯は巻かれていない。その代わり口元には小さな絆創膏。あたしを庇って負ったケガ。
――ああ、そうだったんですね......。
いつも自分をかえりみず、他の誰かのために傷つくこともいとわない人。
この人と出会ってから、あたしは少し変わったんだ。