「おはよーございまーす」
「おはようございます。行きましょう」
「はーい」
後日の朝七時前。併設マンションの入り口で待ち合わせをして、少し早めの登校。途中学園前のコンビニで、朝食と昼食を調達してから正門を潜り、教室で机の上に置いた資料の束を前にしての会話。
「では、この彗星の粒子が作用して問題を引き起こしているんですか?」
「ええ」
教室で
「あっ、
「おかえりなさいませ、
「いろいろ心配かけて悪かった。葬式の時のお礼もちゃんと言えなくて......なっ!?」
「俺たちのゆさりんを」や「俺だっておかえりって言ってほしい!」と呟き、嫉妬に狂う野郎共の殺気を帯びた視線に、
「そんな謝られるようなことではありませんよ」
「そうですよ~」
「そっか、ありがと」
二人との挨拶を済ませた
「おはようございまーす」
「おはようございます。お疲れさまでした」
「おはよう。お前たちもありがと。それで何を見てるんだ?」
「特殊能力に関する資料。すごいんすよ、これ!」
彼女は、見ていた資料を手渡す。その資料を受け取った
「どうしました?」
「読めないんだが」
資料は基本全文英語、カルテに至ってはドイツ語。専攻していない人に読めというのは無理難題。俺も最初の頃は何一つとして理解できなかった。英語の成績のいい彼女にも、ひとつひとつ解説を交えて話していた。
「興味があるなら訳しますよ」
「遠慮しておく。どうせ分からないし。どんなことが書いてあるんだ?」
「簡単にいうと特殊能力発症のメカニズム、どういった能力があるのか、などですね」
「すごいじゃないか! これで、例の能力者を見つけたのか?」
「それは、また別の方法です。これはあくまでも、特殊能力に関する研究データです。時間ですね、続きは放課後にしましょう」
予鈴が鳴り、ホームルームのあと午前の授業を受ける。そして、昼休みを迎えた。
「では、先に学食に行っています!」
「あ――」
「あたしたちは、生徒会室へ行きましょう」
「あ、はい」
「ほら、
「あ、はーい」
クラスメイトに囲まれる前の
「現時点での手がかりは、名前と能力だけっすか」
「そうなります。名前からして日本人、あるいは日系人の可能性が非常に高いです」
「あの~、お二人は何のお話をしてるんですか~?」
弁当を食べ終えた俺たちの話を、不思議そうな顔で聞いている
「
「
とても驚いた顔を見せた。そう言えばまだ話していなかった。
「話していませんでしたね」
「はい、あたしも忘れてました」
「そんな大事なこと忘れないでくださいよー!」
とても驚きながら可愛く抗議する
「えっと~。つまり~“
口元に人指し指を当てながら答えた。
「正解、100点の回答ですよ」
「やった~! ゆさりん、ほめられました~!」
「痛々しいので減点です」
「はわわぁ~!?」
「あ、あはは......」
ちょっと騒がしい昼休みが終わり、放課後を迎える。
生徒会室に集合し、本格的な話し合いに入る。
「では、今回の任務について本格的に話します」
「協力者を待たなくてよろしいのですか?」
話しを切り出した
「今回は、上からの指令ではありません。生徒会の独自の判断で、
「な、なんと! いったいどういうことでしょうか!?」
要約して経緯を説明し、本格的に話し合いに入る。
「本題に戻します。先ずは、これを見てください」
「どうぞ」
「え~と?」
「これは、能力者についての情報のようですね」
「こいつを見つけ出せれば......」
「先ほど話した通り、今件は独断です。
「オトサカさん?」
「シュンスケさん、ですか?」
示し合わせたように
「何だよ?」
「お知り合いかな~? と思いましてー」
「知らないぞ」
「本当ですか?」
「ウソを言う必要ないだろ。探してるんだから」
「シュンスケと言う名の人に心当たりがあります」
「本当か!?」
「はい。兄の入院先の病院を無償で提供してくれた方です」
「
「
「どんなだ?」
「
「いや、さっきも言ったけど知らないぞ? 親戚にも居ないし――」
「本当に心当たりはありませんか?」
「あ、ああ、僕と
何かを言いかけた
「思い当たりましたか?」
「......
空中浮遊の能力者、スカイハイ
「おそらくですが、何らかの原因で二人の記憶が曖昧になっているのだと考えられます」
「もし、本当に兄弟だとしてもどうして、記憶が曖昧になっているんだ? そんな大事なこと忘れるわけがない」
「記憶喪失の要因は大きく分けて、二つのケースがあります。一つは身体的、もう一つは精神的。前者は頭を打つなどした場合、後者は心に何か強いショックを受けた場合です」
「う~ん、どっちも心当たりはないな」
「それでしたらやはり、
「かもですね~、兄弟のことを忘れるなんて普通ありえませんし」
「だよな。結局、手掛かりなしからのスタートかよ」
あからさまにがっかりと項垂れた
「心当たりがないなら、別の要因ですね」
「ええ、可能性は非常に高いと思います」
「はあ?」
俺と
「身体的でも、精神的でもないのなら、別の要因しかないっしょ。つまり、
「特殊な要因......? それって、まさか――!」
例に挙げた二つ以外の特殊な要因と聞いて、三人ともその可能性に気づいた。
「これも憶測になってしまいますが、二人の記憶が特殊能力によって操作されている可能性があります。そして、何かをきっかけに閉ざされた記憶に綻びが生じ、少しずつ思い出し始めた」
「きっかけ......? あ、そう言えば――」
どうやら、思い当たる節があったらしい。
「どんな些細なことでも構いません」
「気のせいかも知れないけど、
「
「いや、
「なんと!?」
「ゆさりんのファンだったとは聞いていましたが、それほどまでとは! それは、ぜひとも語り合いたかったーッ!」
興奮して会話を妨げた
「放っておいて、続けてください」
「あ、ああ......それで僕より先に、夢で見ていたみたいだ。言い始めたのは、今年に入ってからだったと思う」
「なるほど......」
横目で
「どう思いますか?」
聞こえなかったのか反応がない。もう一度話しかける。
「
「なんすか?」
「いや、どう思うのかなと......」
「ま、そうっすね。話を聞く限り、二人とも歌がきっかけになってるかと」
「同意見です。シュンスケさんの連絡先は?」
「連絡先は知らされていません。会ったのも助けていただいた時だけです。活動目的など一通りの説明を聞いて、あとは
「そうですか」
彼女から視線を外し、再び
「
「そう言われてもどうすれば......そうだ!
「最初に考えました。何度試しても連絡はとれません。
「そ、そうか......。それで僕は、どうすればいい?」
「とりあえず、
「どうして、寝る前に?」
「夢で見るなら、就寝前の方がより印象を植え付けられるっしょ」
「そういうことです」
「ああ、そっか。わかった、そうする」
「では今日は、ここまでにしましょう。
スマホの着信を確認した
「どう思いますか?」
「おそらくですが、あたしが知っているシュンスケさんと同一人物だと思います」
「ですよね。ただ......」
「なんですか?」
「同一人物であるなら、親族の
「何もアクションを起こさないのが気になる、ですか?」
「普通なら、残された
「何か事情があるんでしょう」
「でしょうね。二人の記憶から、自分の存在を抹消しなければならないほどの事情が」
「やっぱり、そうなりますよね。うーん、でもなー」
眉をひそめた
星ノ海学園の運営、病院を無償で提供出来る財力、能力者を束ねる統率力も持ち合わせている。組織内に記憶操作の能力者を抱えていてもなんら不思議はない。彼女が気になっているのは、何故完全に関係を絶つ必要があったのか。おそらく表に出たくない、もしくは出られない。
ひとつ息を吐き、仕切り直してから話しかける。
「考えても仕方ないですし、帰りましょうか」
「そうっすね。帰りましょう」
戸締まりをして、生徒会室を出る。併設マンションへの帰り道で質問された。
「ところで、どうして分かったんですか?」
「
「はい。プライバシーに関わることなので、詳しい家庭環境は話してませんでしたし」
「
ただ単にしっかり者とも最初は思えたけど、ショッピングカートの中は冷凍しておけば日持ちする食品や割り引き商品、徳用の洗剤などが目に入った。
「なるほど。記憶の方は?」
「
「どうって、普通にお兄ちゃん......あっ!」
気がついたみたいだ。
「そうですよね。普通、二人兄妹ならあまり名前を付けてお兄ちゃんとは呼ばないですよね。だから
「そんな些細なことから。やっぱ、さすがの洞察力っすね」
先ほどから一つ疑問に思ってたことを、
「ひとつ質問してもいいですか?」
「なんすか?」
「何で不機嫌だったんですか?」
何故かまた、彼女は目を細めた。なにやら釈然としないご様子。
「それ、訊きますか? 別にいいっすけどー」
「あっ......」
――ああ、そういう事か。
「どこか寄り道して行きましょうか?
「ん。さ、行きましょー」
笑顔になった
その手を握り返す。彼女の横顔は、ほんの少しだけ恥ずかしそうに見えた。