Charlotte ~時を超える想い~   作:ナナシの新人

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Episode24 ~仮説~

「おはよーございまーす」

「おはようございます。行きましょう」

「はーい」

 

 後日の朝七時前。併設マンションの入り口で待ち合わせをして、少し早めの登校。途中学園前のコンビニで、朝食と昼食を調達してから正門を潜り、教室で机の上に置いた資料の束を前にしての会話。

 

「では、この彗星の粒子が作用して問題を引き起こしているんですか?」

「ええ」

 

 教室で奈緒(なお)と特殊能力について話していると、乙坂(おとさか)が登校してきた。先日たったひとりの肉親の妹さんの通夜と葬式を終えてたばかりで心身共に厳しいだろうけど、告別式の最中一切涙を見せず、立派に喪主を務めきった。

 

「あっ、乙坂(おとさか)さんっ! お帰りなさいです!」

「おかえりなさいませ、乙坂(おとさか)さん」

 

 乙坂(おとさか)の姿を見つけた黒羽(くろばね)はすぐさまは小走りで、高城(たかじょう)は彼女の後に続いて出迎えにいった。

 

「いろいろ心配かけて悪かった。葬式の時のお礼もちゃんと言えなくて......なっ!?」

 

「俺たちのゆさりんを」や「俺だっておかえりって言ってほしい!」と呟き、嫉妬に狂う野郎共の殺気を帯びた視線に、乙坂(おとさか)はたじろいでいる。極力意識しないように努めていたけど、俺の時もあんな感じだったのだろか。

 

「そんな謝られるようなことではありませんよ」

「そうですよ~」

「そっか、ありがと」

 

 二人との挨拶を済ませた乙坂(おとさか)が、こちらに気がつき近づいてくる。

 

「おはようございまーす」

「おはようございます。お疲れさまでした」

「おはよう。お前たちもありがと。それで何を見てるんだ?」

 

 乙坂(おとさか)は、奈緒(なお)が持っている資料へ視線を向ける。

 

「特殊能力に関する資料。すごいんすよ、これ!」

 

 彼女は、見ていた資料を手渡す。その資料を受け取った乙坂(おとさか)は目を通すと、無言で固まってしまった。

 

「どうしました?」

「読めないんだが」

 

 資料は基本全文英語、カルテに至ってはドイツ語。専攻していない人に読めというのは無理難題。俺も最初の頃は何一つとして理解できなかった。英語の成績のいい彼女にも、ひとつひとつ解説を交えて話していた。

 

「興味があるなら訳しますよ」

「遠慮しておく。どうせ分からないし。どんなことが書いてあるんだ?」

「簡単にいうと特殊能力発症のメカニズム、どういった能力があるのか、などですね」

「すごいじゃないか! これで、例の能力者を見つけたのか?」

「それは、また別の方法です。これはあくまでも、特殊能力に関する研究データです。時間ですね、続きは放課後にしましょう」

 

 予鈴が鳴り、ホームルームのあと午前の授業を受ける。そして、昼休みを迎えた。

 

「では、先に学食に行っています!」

「あ――」

 

 高城(たかじょう)は、乙坂(おとさか)が返事をする前に瞬間移動を使って、ガラス窓を突き破り教室から消えていった。それを見ていた乙坂(おとさか)は、やれやれといった様子でタメ息をついてから高城(たかじょう)のあとを追いかけて学食へ向かった。

 

「あたしたちは、生徒会室へ行きましょう」

「あ、はい」

「ほら、黒羽(くろばね)さんも行きますよー」

「あ、はーい」

 

 クラスメイトに囲まれる前の黒羽(くろばね)と、コンビニの袋を下げた奈緒(なお)と一緒に教室を出て、三人で生徒会室に向かう。教室を出る前途轍もない殺気を背中に感じた気がするが、きっと気のせいだと信じたい。生徒会室に着き、昼食を食べながら朝の続きを話す。

 

「現時点での手がかりは、名前と能力だけっすか」

「そうなります。名前からして日本人、あるいは日系人の可能性が非常に高いです」

「あの~、お二人は何のお話をしてるんですか~?」

 

 弁当を食べ終えた俺たちの話を、不思議そうな顔で聞いている黒羽(くろばね)からの質問に答えたのは、奈緒(なお)

 

歩未(あゆみ)ちゃんを救うための方法ですよ」

歩未(あゆみ)ちゃん? えっ......えぇーっ!?」

 

 とても驚いた顔を見せた。そう言えばまだ話していなかった。

 

「話していませんでしたね」

「はい、あたしも忘れてました」

「そんな大事なこと忘れないでくださいよー!」

 

 とても驚きながら可愛く抗議する黒羽(くろばね)に、これまでの経緯をかい摘まんで説明する。

 

「えっと~。つまり~“時空移動(タイムリープ)"という能力を持つ能力者さんを見つけて、それで過去に戻って、歩未(あゆみ)ちゃんが校舎の崩壊に遭わないようにしようというでしょうか~?」

 

 口元に人指し指を当てながら答えた。

 

「正解、100点の回答ですよ」

「やった~! ゆさりん、ほめられました~!」

「痛々しいので減点です」

「はわわぁ~!?」

「あ、あはは......」

 

 ちょっと騒がしい昼休みが終わり、放課後を迎える。

 生徒会室に集合し、本格的な話し合いに入る。

 

「では、今回の任務について本格的に話します」

「協力者を待たなくてよろしいのですか?」

 

 話しを切り出した奈緒(なお)へ、高城(たかじょう)のからの質問。昼食を共にしていた乙坂(おとさか)からは聞いていないらしい。

 

「今回は、上からの指令ではありません。生徒会の独自の判断で、歩未(あゆみ)ちゃんを救うために行動します」

「な、なんと! いったいどういうことでしょうか!?」

 

 要約して経緯を説明し、本格的に話し合いに入る。

 

「本題に戻します。先ずは、これを見てください」

「どうぞ」

 

 奈緒(なお)がテーブルに広げた資料と同じ資料を、三人に手渡す。

 

「え~と?」

「これは、能力者についての情報のようですね」

「こいつを見つけ出せれば......」

 

 乙坂(おとさか)は、この場にいる誰よりも真剣な表情で資料に見入っている。妹を救える唯一の可能性、当然の反応。

 

「先ほど話した通り、今件は独断です。熊耳(くまがみ)からもたらされたものではありません。ですので、現時点で把握出来ているのは能力と名前だけになります。名前からして日本、または日系の男子である可能性が非常に高いと踏んでいます。保有する能力は、時空移動(タイムリープ)。名前は、SHUNSUKE OTOSAKA.」

「オトサカさん?」

「シュンスケさん、ですか?」

 

 示し合わせたように黒羽(くろばね)高城(たかじょう)は、能力者を同じ姓を持つ乙坂(おとさか)に目をやった。

 

「何だよ?」

「お知り合いかな~? と思いましてー」

「知らないぞ」

「本当ですか?」

「ウソを言う必要ないだろ。探してるんだから」

 

 乙坂(おとさか)は、二人の疑問を完全否定。三人のやり取りに構わず、奈緒(なお)は話しを続けた。

 

「シュンスケと言う名の人に心当たりがあります」

「本当か!?」

「はい。兄の入院先の病院を無償で提供してくれた方です」

友利(ともり)のお兄さんの......」

 

 乙坂(おとさか)は、深刻そうな表情を浮かべた。事情を知っている。ともあれ今は、話しを進めることを優先。

 

友利(ともり)さんの言うシュンスケさんと同一人物かは不明ですが。オトサカという名の人物に関して、ひとつ仮説を立てました」

「どんなだ?」

 

 乙坂(おとさか)が食い付いてくる。高城(たかじょう)黒羽(くろばね)は、少し話においてかれたように呆然として。奈緒(なお)に至っては、どういう訳かやや眉をひそめた。

 

乙坂(おとさか)さんと歩未(あゆみ)さんの近しい関係者である可能性が高いと踏んでいます」

「いや、さっきも言ったけど知らないぞ? 親戚にも居ないし――」

「本当に心当たりはありませんか?」

「あ、ああ、僕と歩未(あゆみ)は二人兄妹(きょうだい)――」

 

 何かを言いかけた乙坂(おとさか)は、やや伏し目がちになり考え込んでいる。おそらく、俺の言った心当たりがあったのだろう。

 

「思い当たりましたか?」

「......歩未(あゆみ)が、もう一人家族が居たような気がするって言っていた。それに僕も、夢の中で子どもの頃の僕と歩未(あゆみ)が歩いてて、その隣にもうひとり誰かが一緒にいたような。そんな気がすることがあって......」

 

 空中浮遊の能力者、スカイハイ斎藤(さいとう)の時に言っていた夢の話し。その話を思い出して、この仮説を立てた。

 

「おそらくですが、何らかの原因で二人の記憶が曖昧になっているのだと考えられます」

「もし、本当に兄弟だとしてもどうして、記憶が曖昧になっているんだ? そんな大事なこと忘れるわけがない」

 

 乙坂(おとさか)の疑問に少し考えて、言葉に出す。

 

「記憶喪失の要因は大きく分けて、二つのケースがあります。一つは身体的、もう一つは精神的。前者は頭を打つなどした場合、後者は心に何か強いショックを受けた場合です」

「う~ん、どっちも心当たりはないな」

 

 乙坂(おとさか)の態度からして確かに心当たりはないよう。だとすれば、ほぼ確定。奈緒(なお)に視線を移す、彼女は頷いて答えた。

 

「それでしたらやはり、乙坂(おとさか)さんの気のせいなのでしょうか」

「かもですね~、兄弟のことを忘れるなんて普通ありえませんし」

「だよな。結局、手掛かりなしからのスタートかよ」

 

 あからさまにがっかりと項垂れた乙坂(おとさか)とは裏腹に、俺と奈緒(なお)は正反対の答えに行きついた。

 

「心当たりがないなら、別の要因ですね」

「ええ、可能性は非常に高いと思います」

「はあ?」

 

 俺と奈緒(なお)のやり取りに、三人は意味がわからないといった様子。

 

「身体的でも、精神的でもないのなら、別の要因しかないっしょ。つまり、()()()要因ってことです」

「特殊な要因......? それって、まさか――!」

 

 例に挙げた二つ以外の特殊な要因と聞いて、三人ともその可能性に気づいた。

 

「これも憶測になってしまいますが、二人の記憶が特殊能力によって操作されている可能性があります。そして、何かをきっかけに閉ざされた記憶に綻びが生じ、少しずつ思い出し始めた」

「きっかけ......? あ、そう言えば――」

 

 どうやら、思い当たる節があったらしい。

 

「どんな些細なことでも構いません」

「気のせいかも知れないけど、ZHIEND(ジエンド)の楽曲を聴いてから、三人で居る夢が鮮明になった気がする」

ZHIEND(ジエンド)ですか。歩未(あゆみ)さんも、ZHIEND(ジエンド)を聴いていたんですか?」

「いや、歩未(あゆみ)柚咲(ゆさ)の、ハロハロのファンで、よく聴いていた。テレビでも、スマホでも、部屋にデカイポスターを何枚も貼ってる」

「なんと!?」

 

 黒羽(くろばね)がボーカルを務める「ハロハロ」のファンと聞いた高城(たかじょう)が、ハイテンションで割り込んできた。

 

「ゆさりんのファンだったとは聞いていましたが、それほどまでとは! それは、ぜひとも語り合いたかったーッ!」

 

 興奮して会話を妨げた高城(たかじょう)にローキックを入れた奈緒(なお)は、何事もなかったように話の続きを促す。

 

「放っておいて、続けてください」

「あ、ああ......それで僕より先に、夢で見ていたみたいだ。言い始めたのは、今年に入ってからだったと思う」

「なるほど......」

 

 横目で黒羽(くろばね)を見ると、俺の視線に気がついた黒羽(くろばね)は首かしげを頭にクエスチョンマークを浮かべた。今度は奈緒(なお)に視線を向け、意見を仰ぐ。

 

「どう思いますか?」

 

 聞こえなかったのか反応がない。もう一度話しかける。

 

友利(ともり)さん?」

「なんすか?」

 

 奈緒(なお)は目を細めて、どこか不機嫌そうに答えた。

 

「いや、どう思うのかなと......」

「ま、そうっすね。話を聞く限り、二人とも歌がきっかけになってるかと」

「同意見です。シュンスケさんの連絡先は?」

「連絡先は知らされていません。会ったのも助けていただいた時だけです。活動目的など一通りの説明を聞いて、あとは熊耳(くまがみ)からの連絡を受けて、調査に向かうだけでしたので」

「そうですか」

 

 彼女から視線を外し、再び乙坂(おとさか)に向き合う。

 

乙坂(おとさか)さん、あなたの記憶を取り戻すことが一番の近道だと思います」

「そう言われてもどうすれば......そうだ! 熊耳(くまがみ)は? 熊耳(くまがみ)に聞けば!」

「最初に考えました。何度試しても連絡はとれません。友利(ともり)さんに掛ける時以外は、常に電源を切っているんでしょう」

「そ、そうか......。それで僕は、どうすればいい?」

「とりあえず、ZHIEND(ジエンド)を聴き続けてください。特に就寝前は念入りにお願いします。今の所それしかありません」

「どうして、寝る前に?」

「夢で見るなら、就寝前の方がより印象を植え付けられるっしょ」

「そういうことです」

「ああ、そっか。わかった、そうする」

「では今日は、ここまでにしましょう。熊耳(くまがみ)からの連絡もなさそうですし」

 

 スマホの着信を確認した奈緒(なお)が解散を宣言すると、三人とも生徒会室を後にして帰宅していった。生徒会室で二人になった俺たちは、話し合いの続き。

 

「どう思いますか?」

「おそらくですが、あたしが知っているシュンスケさんと同一人物だと思います」

「ですよね。ただ......」

「なんですか?」

「同一人物であるなら、親族の歩未(あゆみ)さんが亡くなったことは当然知っているはず、なのに――」

「何もアクションを起こさないのが気になる、ですか?」

「普通なら、残された乙坂(おとさか)さんのことが気にならない訳がない」

「何か事情があるんでしょう」

「でしょうね。二人の記憶から、自分の存在を抹消しなければならないほどの事情が」

「やっぱり、そうなりますよね。うーん、でもなー」

 

 眉をひそめた奈緒(なお)は、難しそうな顔で腕を組む。

 星ノ海学園の運営、病院を無償で提供出来る財力、能力者を束ねる統率力も持ち合わせている。組織内に記憶操作の能力者を抱えていてもなんら不思議はない。彼女が気になっているのは、何故完全に関係を絶つ必要があったのか。おそらく表に出たくない、もしくは出られない。

 ひとつ息を吐き、仕切り直してから話しかける。

 

「考えても仕方ないですし、帰りましょうか」

「そうっすね。帰りましょう」

 

 戸締まりをして、生徒会室を出る。併設マンションへの帰り道で質問された。

 

「ところで、どうして分かったんですか?」

乙坂(おとさか)兄妹との関係を完全に絶っていて、記憶を消去したのが彼の抱えた仲間であるか、ですか?」

「はい。プライバシーに関わることなので、詳しい家庭環境は話してませんでしたし」

歩未(あゆみ)さんと初めて会った時、彼女はこう言いました。コンビニは割高ですので、と。急ぎの物だったら多少割高でも近場で済ませますよね。その時、あまり家計に余裕がある方ではないと感じました」

 

 ただ単にしっかり者とも最初は思えたけど、ショッピングカートの中は冷凍しておけば日持ちする食品や割り引き商品、徳用の洗剤などが目に入った。

 

「なるほど。記憶の方は?」

有宇(ゆう)お兄ちゃんと名前つけて呼んだことです。普段、一希(かずき)さんのことをどう呼んでいましたか?」

「どうって、普通にお兄ちゃん......あっ!」

 

 気がついたみたいだ。

 

「そうですよね。普通、二人兄妹ならあまり名前を付けてお兄ちゃんとは呼ばないですよね。だから歩未(あゆみ)さんには、乙坂(おとさか)さんの他にお兄さんがいるんだと思っていました。けど、合宿の時乙坂(おとさか)さんが自分たちは二人兄妹だと言ったのが、ずっと引っ掛かってたんです」

「そんな些細なことから。やっぱ、さすがの洞察力っすね」

 

 先ほどから一つ疑問に思ってたことを、奈緒(なお)に訊いてみる。

 

「ひとつ質問してもいいですか?」

「なんすか?」

「何で不機嫌だったんですか?」

 

 何故かまた、彼女は目を細めた。なにやら釈然としないご様子。

 

「それ、訊きますか? 別にいいっすけどー」

「あっ......」

 

 ――ああ、そういう事か。

 

「どこか寄り道して行きましょうか? 奈緒(なお)さん」

「ん。さ、行きましょー」

 

 笑顔になった奈緒(なお)に手を取られた。

 その手を握り返す。彼女の横顔は、ほんの少しだけ恥ずかしそうに見えた。

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