Charlotte ~時を超える想い~   作:ナナシの新人

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細かな修正を行いました。


Episode26 ~チケット~

 彼女が目覚める前に、俺は朝食の準備を始める。電気ポットでお湯を沸かし、その間に簡単な料理とこしらえる。調度品出来上が上がった頃、寝室から眠気眼の奈緒(なお)が姿を現した。

 

「......おはようございまーす」

 

 まだ眠そうだ。それに目も赤い。

 

「おはようございます。朝食出来てますよ」

「ありがとーございます。先に顔洗ってきます」

 

 洗面所から戻ってきた奈緒(なお)と、たわいの無い会話をしながら朝食を食べる。

 

「ごちそうさまでしたっ。あのあたし、一度に部屋に帰って着替えたいんですけど」

「じゃあ準備してきますね」

 

 そう断りを入れて私服に着替える。電車を乗り継いで、彼女の自宅がある星ノ海学園併設マンションへ向かう。奈緒(なお)の部屋に着き、リビングで彼女の身支度が整うのを待つ間、俺は考えごとをしていた。それは乙坂(おとさか)の妹、歩未(あゆみ)を救い出す方法について。

 彼女を救い出すためには、ふたつの大きなハードルを越えなくてはならない。

 一つ目はもちろん、時空移動(タイムリープ)の能力者を見つけ出すこと。正直な所、これは乙坂(おとさか)が鍵を握っている。

 二つ目は、過去に戻ったあと実際に彼女の死を回避しなければならない。

 奈緒(なお)に訊いたところ確実ではないが、歩未(あゆみ)自身が“崩壊"の能力を発動させ、中等部校舎の一部が崩れ落ち、その瓦礫下敷きになったとのこと。

 まずは崩壊が任意か、強制のどちらであるかを調べる必要がある。たとえ乙坂(おとさか)の“略奪"で能力を奪ったとしても、次は彼自身が“崩壊"を発動させてしまう可能性を否定できない。長年の経験上、常に最悪を想定して対策を建てておかなければ大きな代償を支払うことになることが多い。

 

「お待たせしましたー」

 

 その声に引き戻される。顔を上げると目の前に、部屋着に着替えた奈緒(なお)がいた。

 

「いいえ、どうしましょうか」

「そうっすね~」

 

 奈緒(なお)は隣に座り「う~ん......」と考え込み、少し考えてから「じゃあZHIEND(ジエンド)のPVを観ながら考えましょうっ」と提案した。その言葉に頷く、奈緒(なお)は寝室に置いてあるパソコンを持ってきて、テーブルに置き起動させる。パソコンの小さな画面を観るために、さっきよりも身体を寄せてきた。着替える前にシャワーを浴びたのか、スゴく甘い良い香りがする。「どうっすか?」とPVの感想を聞かれた。

 

「楽曲ともマッチしてとてもいいですね」

「おお~わかってるなー! あたし、ZHIEND(ジエンド)のPVを撮るのが夢なんすよっ!」

「あ、そうなんですね」

「はいっ。ZHIEND(ジエンド)の活動を追ったドキュメントでもいいな~って。今は......あんまり撮りたくない映像(もの)ばかり撮ってますけど......」

 

 いつも持ち歩いているカメラを弄りながら、少し悲しそうな表情(かお)をした。そんな彼女の頭にそっと手を乗せて、優しく撫でる。

 

「んっ......なんっすか~?」

「なんとなく。嫌でしたか?」

「......嫌なわけ、ないです」

 

 少し頬を染めながら顔を逸らして恥ずかしそうに言った。PVを見終わると、今度は撮りためたカメラの映像を観ながら、俺が転校してくる前の話をしてくれた。

 

「じゃあ、二人とも転校してきたんですか?」

「そうです。乙坂(おとさか)さんは、能力を使ってカンニングしてた証拠をこのカメラで押さえたんです」

 

 乙坂(おとさか)はかつて、都内屈指の進学校である、陽野森高校に通っていたが。星ノ海学園生徒会長である彼女――奈緒(なお)の策略により星ノ海学園に転校することになった。

 

黒羽(くろばね)さんの時は?」

「大物プロデューサーに追われてるところを救出しましたっ」

 

 大物プロデューサーのスマホを間違えて持ち帰ってしまったことにより、黒い交際が発覚するのを恐れたプロデューサーに追われていたところを、四人の個々の能力を巧みに使い脅したらしい。「あたしは、脅す作戦を立てるのが大の得意ですのでっ」と笑顔で得意気に言ったあと、さらに映像を巻き戻した。

 

「今のは?」

 

 見覚えのない人が写った。

 

「ああ、有働(うどう)さんっすね」

 

 画面を一時停止すると、袴姿の少年が写っていた。

 

有働(うどう)さん?」

「“念写"の特殊能力者です」

「“念写"......」

「撮った相手の下着姿を写す、エッチな能力っす」

 

 ――下着姿、か。制約次第ではあるけど、汎用性の高い能力だな。

 

「あたしも撮られたんすよー」

 

 そう例えば、服だけではなく壁を透視でたりするのなら情報収集などに役に立つ。

 

「需要なんて無いのに」

 

 仮に下着姿までが制約だったとしても、対象の所持品などを調べられる。諜報活動なんかに使えそうな能力だ。

 

「......聞いてますか?」

「あ、はい。なんですか?」

 

 奈緒(なお)は目を細めて、「興味ないっすか......いや、知ってたけど」と、なにやら自虐しているようだった。

 

「それで、彼も星ノ海学園に転校を?」

「いえ、福山(ふくやま)さんの時と同様に、乙坂(おとさか)さんが“略奪"で奪いました」

「そうですか」

 

 どこまで透視できるのか試して見たかったけど、それなら仕方ない。

 

「............」

「どうしました?」

「なんでもないっすっ!」

「そうですか?」

 

 奈緒(なお)はカメラの電源を切って、ケーブルを繋いでカメラの充電を始めた。隣に座り直すと「今度は、あなたの話を聞かせてください」と話を振ってきた。

 

「う~ん、と言われても前に話した通りですよ?」

 

 彼女に本来の能力を打ち明けた時にCA大学時代の話もした。だから、改めて話すようなことはもうなにもない。

 すると奈緒(なお)は、「恋人はいなかったんすか......?」と真剣半分、不安半分にそんな感じに訊いてきた。「いませんでしたよ」と、正直に答える。――実際、そんなことを考える余裕はなかった。

 

「ほんとっすか~?」

 

 どこか嬉しそうに疑ってくる。

 

「ずっと研究室に籠っていましたから。そもそも恋人なんていたら日本に帰国してませんよ。それに――」

「それに?」

「そばに居たいって思えたのは、あなたが初めてです」

「......そ、そうっすか。それはまた奇特な方で......」

 

 頬を染めて顔を背けた。けど、直ぐに復活した。

 

「お昼を食べに行きましょう」

「え、けど......」

 

 時計を見る。まだ、9時になったばかり。

 

「ほらほら、行きますよー」

「あ、はい」

 

 有無も言わさず、手を引っ張られて連行された。結局、あちこちと買い物に付き合わされて休日は終わった。

 

 それから結局、昨夜の話はどちらも口にしなかった。

 

 ――いや、お互いに言葉にするのが怖かったのかもしれない。

 

 

           * * *

 

 

 翌日の昼休み。久しぶりに男三人学食で昼食を食べることになった。乙坂(おとさか)に、記憶の進行具合を訊ねる。

 

「夢の方は、どうですか?」

「ん? ああ、そうだな。前よりは少しだけ鮮明になった気がするけど、相変わらず顔は靄がかかったみたいで上手く思い出せない」

「そうですか」

 

 ――どうやら、まだ時間が必要のようだ。

 

「いったいどこの誰が、なんのために乙坂(おとさか)さんの記憶を操作したんでしょうね?」

「それが解れば苦労しないんだけどな」

 

 乙坂(おとさか)と会話をしていた高城(たかじょう)のスマホが震動した。

 

「おや......友利(ともり)さんからです」

「まさか、熊耳(くまがみ)の呼び出しかッ!?」

 

 乙坂(おとさか)が大きく反応した。

 俺も高城(たかじょう)も、同く反応をする。

 

「ありえますね。急ぎましょう」

「はい! なんでこんな時にパスタを頼んだんでしょうか!? 私はっ!」

「ああ、くっそ! まったくだっ!」

「............」

 

 サンドイッチを食べながら悪戦苦闘する二人を眺めて、食べ終わるのを待ってから急いで生徒会室へ向かった。

 

「おっせぇなー! お前ら何座だ!?」

 

 生徒会室に入ると、生徒会長席に行儀悪く足を組んだ奈緒(なお)から罵倒の言葉を頂戴するはめに。その隣には既に生徒会室に来ていた黒羽(くろばね)が、苦笑いをして気まずそうに立っている。

 

「申し訳ありません。昼食がパスタだったので、かきこむのにいささか時間が掛かってしまいました」

「......まぁ、いいです」

 

 高城(たかじょう)が、どこか不思議そうな表情(かお)をして眼鏡を直す。それが気になり声をかける。

 

「どうしました?」

「いえ、いつもなら激しい罵倒が飛んでくるモノでしたので......」

「それより用件は? 熊耳(くまがみ)が来るのかっ!?」

 

 やや興奮気味に奈緒(なお)に問いかける、乙坂(おとさか)

 

「いえ、今回はあいつは現れません」

「そう、か......」

 

 明らかにうなだれた。代わりに何の用件か聞こうとしたら「では、なんの用件でしょう?」と高城(たかじょう)が訊いてくれた。

 

「これです!」

 

 奈緒(なお)は、バーン! と音が出るほど机に長方形の紙を置いた。置かれた紙を高城(たかじょう)が確認する。

 

「これは......ZHIEND(ジエンド)のライブチケットですね」

ZHIEND(ジエンド)って、乙坂(おとさか)さんの記憶を取り戻すきっかけになるかもって言う?」

 

 黒羽(くろばね)は口元に人差し指を当てながら聞く。

 

「はい、その通りですよ」

「そのZHIEND(ジエンド)のライブチケットが、ここに1枚あります。これをどうするかが問題です」

「いや、お前が見に行けばいいじゃないか?」

「そりゃ、あたしだって行きたいです。前から楽しみにしてましたから! ですが......」

 

 奈緒(なお)は、乙坂(おとさか)を見る。

 彼も彼女の視線には気がついているが察していない様子。

 

「なんだよ?」

「はぁ~、察し悪いなー!」

「つまり奈緒(なお)さんがいいたいのは、今回は乙坂(おとさか)さんに譲るということですよ」

 

 めんどくさそうにタメ息をつく奈緒(なお)の代わりに、買いつまんで説明する。

 

「え!? 僕に? なんで?」

「脳ミソ詰まってんすか? あなたの記憶を取り戻すきっかけになるかも知れないっしょ?」

「あ、そ、そうか......」

「と言うことで、あなたが見に行ってくださいっ」

 

 机に置いたチケットを乙坂(おとさか)の胸に押し付ける。少し躊躇したが、それを受け取った。

 

「......わかった、行かせてもらうよ」

「はい。あと首尾よく助けたら、あたしに歩未(あゆみ)ちゃんをください」

「やるかっ!」

 

 と、最終的に不毛な話で終わり。それぞれ生徒会室を後にし始める。生徒会室を出る前に黒羽(くろばね)が笑顔で、奈緒(なお)に寄っていった。

 

友利(ともり)さんっ」

「なんですか?」

「よかったですねーっ」

「はあ? なにがっすか?」

 

 黒羽(くろばね)は、奈緒(なお)の耳元で何かを囁いているみたいだ。

 

「......なっ!?」

 

 奈緒(なお)が驚いた表情になった。対照的に黒羽(くろばね)はますます笑顔になって、「やっぱり~っ」と、どこか嬉しそうに教室へ戻っていった。

 ――いったい、なにを話していたのだろうか。

 残された奈緒(なお)に話しかける。

 

「どうしたんですか?」

「な、なんでもないっす! さぁ、あたしたちも教室へ戻りましょう!」

 

 なぜかとても慌てている彼女に背を押されて、生徒会室を出て教室に戻る。よく見えなかったけど、彼女の頬は少し紅かった気がした。

 




ZHIEND(ジエンド)のライブチケットの枚数変更理由は、後々のリメイク版でシナリオ修正に加える予定です。
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