彼女が目覚める前に、俺は朝食の準備を始める。電気ポットでお湯を沸かし、その間に簡単な料理とこしらえる。調度品出来上が上がった頃、寝室から眠気眼の
「......おはようございまーす」
まだ眠そうだ。それに目も赤い。
「おはようございます。朝食出来てますよ」
「ありがとーございます。先に顔洗ってきます」
洗面所から戻ってきた
「ごちそうさまでしたっ。あのあたし、一度に部屋に帰って着替えたいんですけど」
「じゃあ準備してきますね」
そう断りを入れて私服に着替える。電車を乗り継いで、彼女の自宅がある星ノ海学園併設マンションへ向かう。
彼女を救い出すためには、ふたつの大きなハードルを越えなくてはならない。
一つ目はもちろん、
二つ目は、過去に戻ったあと実際に彼女の死を回避しなければならない。
まずは崩壊が任意か、強制のどちらであるかを調べる必要がある。たとえ
「お待たせしましたー」
その声に引き戻される。顔を上げると目の前に、部屋着に着替えた
「いいえ、どうしましょうか」
「そうっすね~」
「楽曲ともマッチしてとてもいいですね」
「おお~わかってるなー! あたし、
「あ、そうなんですね」
「はいっ。
いつも持ち歩いているカメラを弄りながら、少し悲しそうな
「んっ......なんっすか~?」
「なんとなく。嫌でしたか?」
「......嫌なわけ、ないです」
少し頬を染めながら顔を逸らして恥ずかしそうに言った。PVを見終わると、今度は撮りためたカメラの映像を観ながら、俺が転校してくる前の話をしてくれた。
「じゃあ、二人とも転校してきたんですか?」
「そうです。
「
「大物プロデューサーに追われてるところを救出しましたっ」
大物プロデューサーのスマホを間違えて持ち帰ってしまったことにより、黒い交際が発覚するのを恐れたプロデューサーに追われていたところを、四人の個々の能力を巧みに使い脅したらしい。「あたしは、脅す作戦を立てるのが大の得意ですのでっ」と笑顔で得意気に言ったあと、さらに映像を巻き戻した。
「今のは?」
見覚えのない人が写った。
「ああ、
画面を一時停止すると、袴姿の少年が写っていた。
「
「“念写"の特殊能力者です」
「“念写"......」
「撮った相手の下着姿を写す、エッチな能力っす」
――下着姿、か。制約次第ではあるけど、汎用性の高い能力だな。
「あたしも撮られたんすよー」
そう例えば、服だけではなく壁を透視でたりするのなら情報収集などに役に立つ。
「需要なんて無いのに」
仮に下着姿までが制約だったとしても、対象の所持品などを調べられる。諜報活動なんかに使えそうな能力だ。
「......聞いてますか?」
「あ、はい。なんですか?」
「それで、彼も星ノ海学園に転校を?」
「いえ、
「そうですか」
どこまで透視できるのか試して見たかったけど、それなら仕方ない。
「............」
「どうしました?」
「なんでもないっすっ!」
「そうですか?」
「う~ん、と言われても前に話した通りですよ?」
彼女に本来の能力を打ち明けた時にCA大学時代の話もした。だから、改めて話すようなことはもうなにもない。
すると
「ほんとっすか~?」
どこか嬉しそうに疑ってくる。
「ずっと研究室に籠っていましたから。そもそも恋人なんていたら日本に帰国してませんよ。それに――」
「それに?」
「そばに居たいって思えたのは、あなたが初めてです」
「......そ、そうっすか。それはまた奇特な方で......」
頬を染めて顔を背けた。けど、直ぐに復活した。
「お昼を食べに行きましょう」
「え、けど......」
時計を見る。まだ、9時になったばかり。
「ほらほら、行きますよー」
「あ、はい」
有無も言わさず、手を引っ張られて連行された。結局、あちこちと買い物に付き合わされて休日は終わった。
それから結局、昨夜の話はどちらも口にしなかった。
――いや、お互いに言葉にするのが怖かったのかもしれない。
* * *
翌日の昼休み。久しぶりに男三人学食で昼食を食べることになった。
「夢の方は、どうですか?」
「ん? ああ、そうだな。前よりは少しだけ鮮明になった気がするけど、相変わらず顔は靄がかかったみたいで上手く思い出せない」
「そうですか」
――どうやら、まだ時間が必要のようだ。
「いったいどこの誰が、なんのために
「それが解れば苦労しないんだけどな」
「おや......
「まさか、
俺も
「ありえますね。急ぎましょう」
「はい! なんでこんな時にパスタを頼んだんでしょうか!? 私はっ!」
「ああ、くっそ! まったくだっ!」
「............」
サンドイッチを食べながら悪戦苦闘する二人を眺めて、食べ終わるのを待ってから急いで生徒会室へ向かった。
「おっせぇなー! お前ら何座だ!?」
生徒会室に入ると、生徒会長席に行儀悪く足を組んだ
「申し訳ありません。昼食がパスタだったので、かきこむのにいささか時間が掛かってしまいました」
「......まぁ、いいです」
「どうしました?」
「いえ、いつもなら激しい罵倒が飛んでくるモノでしたので......」
「それより用件は?
やや興奮気味に
「いえ、今回はあいつは現れません」
「そう、か......」
明らかにうなだれた。代わりに何の用件か聞こうとしたら「では、なんの用件でしょう?」と
「これです!」
「これは......
「
「はい、その通りですよ」
「その
「いや、お前が見に行けばいいじゃないか?」
「そりゃ、あたしだって行きたいです。前から楽しみにしてましたから! ですが......」
彼も彼女の視線には気がついているが察していない様子。
「なんだよ?」
「はぁ~、察し悪いなー!」
「つまり
めんどくさそうにタメ息をつく
「え!? 僕に? なんで?」
「脳ミソ詰まってんすか? あなたの記憶を取り戻すきっかけになるかも知れないっしょ?」
「あ、そ、そうか......」
「と言うことで、あなたが見に行ってくださいっ」
机に置いたチケットを
「......わかった、行かせてもらうよ」
「はい。あと首尾よく助けたら、あたしに
「やるかっ!」
と、最終的に不毛な話で終わり。それぞれ生徒会室を後にし始める。生徒会室を出る前に
「
「なんですか?」
「よかったですねーっ」
「はあ? なにがっすか?」
「......なっ!?」
――いったい、なにを話していたのだろうか。
残された
「どうしたんですか?」
「な、なんでもないっす! さぁ、あたしたちも教室へ戻りましょう!」
なぜかとても慌てている彼女に背を押されて、生徒会室を出て教室に戻る。よく見えなかったけど、彼女の頬は少し紅かった気がした。
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