Charlotte ~時を超える想い~   作:ナナシの新人

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Episode27 ~後悔~

 目が覚めると、ベッドで横になっていた。

 見覚えのある天井、年期が入ったくすんだ天井、懐かしい天井。いったいどうして俺は、ここに居るのだろう? そんな疑問が頭に浮かぶ。

 

「ここ、は......ッ!?」

 

 想定外の出来事に驚いて飛び起きる。

 これは、いったいどういうことなのだろうか。今自分が置かれている状況を把握することすら出来ず。ただただ戸惑うことしか出来なかった。

 

 冷静に事態を把握することが出来るようになったのは、しばらく経ってからのことだった――。

 

           *  *  *

 

 誰かに呼ばれている。

 体に感じるわずかな振動と一緒に聞こえる声。優しい声、心地良い声。誰だろう、俺を呼んでいるのは――。徐々に意識が覚醒していく。まぶたをゆっくりと開いて周囲を見回す、生徒会室。どうやら俺は、話の最中に眠ってしまったらしい。

 

「大丈夫っすか? 少しうなされていたていましたけど......」

 

 すぐ傍で、奈緒(なお)が心配そうな表情(かお)をしていた。

 

「大丈夫ですよ。すみません、話の途中に寝てしまって」

「いえ。今日も熊耳(くまがみ)は現れないようでしたので、もうみんな帰りました。あたしたちも帰りましょう」

 

 うなづき手分けして生徒会室の戸締まりをして、星ノ海学園の校門をくぐる。彼女の自宅がある併設マンションの方へ向かって歩道を並んで話をしながら歩く。

 

「おつかれみたいですので、スタミナの付く料理を食べましょう」

「と言いますと?」

「お肉に決まってるじゃないっすか!」

 

 間髪入れずに、とても魅力的な笑顔で答えた。

 

「ですよね」

「はいっ。と言うことでさっそく、スーパーへ寄って帰りましょー」

 

 マンションの前を素通り。最寄り駅近くのスーパーマーケットへ行くことになった。目的のスーパーに到着、買い物カゴを乗せたショッピングカートを押して、さっそく精肉コーナーへ。

 

「どれにしよっかな~。やっぱり、牛肉っすかね~? でも、スタミナ満点の豚肉も捨てがたいっすし」

 

「う~ん......」と難しい顔でメニューと相談しながら牛と豚、鶏肉のパックを見比べて悩んでいる。

 

友利(ともり)と、宮瀬(みやせ)か?」

「んー?」

 

 不意に名前を呼ばれた俺たちは、同じタイミングで振り向く。前にも同じようことがあったような気がする。どことなく既視感を覚えながら声の主を確認すると、乙坂(おとさか)だった。

 

「ああー、あなたでしたか」

「お前ら何してるんだ? こんなところで」

「夕食の買い物ですよ。乙坂(おとさか)さんもですよね?」

「ああ、僕も同じだよ。夜飯の調達に来たんだ」

 

 そう言うと乙坂(おとさか)は、出来合いの弁当とお茶のボトルが入ったカゴを軽く持ち上げて見せた。カゴに視線を落とした彼女は、彼に問いかける。

 

「いつも、お弁当なんですか?」

「ん。まあ、そうだな。自分で作るのもな」

 

 彼女はチラッとこちらに目配せ。言いたいことはすぐにわかった。返事をする代わりにうなづいて答える。

 

「そうですか。では、そのお弁当は戻してきてください。たまには温かい食事をしないとダメです」

「いや、食べてるぞ」

「カップ麺とか古典的なこと言わないっすよね?」

「そ、そんなわけないだろ?」

 

 思い切り目を泳がせ、顔を背ける。図星だったみたいだ。

 

「出来合いの弁当ばかりだと体壊しますよ。ほら、置いてきてください」

乙坂(おとさか)さん」

「......わかったよ」

 

 押しきられた乙坂(おとさか)は、弁当をしぶしぶ戻しにいった。

 

「さて。では、あたしたちは買い物を再開しましょう」

「献立は決まりましたか?」

「ん、そっすね~」

 

 再び「う~ん......どうしよっかな~」と、悩みながら食材を見て回る。そして。

 

「うん、トンカツにしましょう」

「トンカツですか。パン粉とか調味料、見てきますね」

「はーい、お願いしまーす。あ、パン粉は油分カットのでお願いします」

 

 別行動を取って、指定されたパン粉と食用油などの材料、胡椒などの調味料を探していると、また同じように声をかけられた。弁当とお茶を元の売り場に戻し、手ぶらになって戻ってきた乙坂(おとさか)

 

「ひとりなのか? 友利(ともり)は?」

「食材を見てますよ」

「そっか。悪いな」

「はて? 何のことでしょう?」

「......いや、なんでもない」

「そっすか、じゃあ行きましょう」

 

 近くにカゴがなかったため半分持ってもらう。既に食材を選び終えていた奈緒(なお)と、レジ付近で合流。

 

「お待たせしました」

「あ、来ましたか」

「これでよかったですか?」

「はい、問題ありません。ありがとうございまーす」

 

 食材を傷めないように、カゴの中へ入れる。

 

「で、何を作るんだ?」

 

 カゴの中を覗き込もうとした乙坂(おとさか)を阻止するように、奈緒(なお)はすっと死角にカートを移動させた。

 

「なんだよ?」

「出来てからのお楽しみっす。ほら、レジへ行きますよー」

 

 レジで会計を済まして、併設マンションの乙坂(おとさか)の部屋へ向かう。来た道を買い物袋を持って歩き、マンション入り口に着くと見知った顔がいた。黒羽(くろばね)

 こちらに気がついた黒羽(くろばね)は、笑顔でパタパタと早足で駆け寄ってくる。見慣れた制服姿ではなく、ライブの後の時のようなラフな格好をしている。

 

「あれ~? みなさん、お揃いでどうしたんですか~?」

柚咲(ゆさ)か」

「これから乙坂(おとさか)さんの家で晩ご飯を作るんすよー」

「あ、そうなんですねー」

「ところで、黒羽(くろばね)さんは?」

「えっと、マンションの周りを走っていました」

「オフなのに大変なんだな、アイドルって」

「お疲れさまです。奈緒(なお)さん」

 

 声をかけると、彼女はすぐに俺が言いたいことを察してくれた。

 

黒羽(くろばね)さんも夕食がまだでしたら、一緒にどうですか?」

「えっ? わたし、お邪魔していいんですかっ?」

「もちろんですよ」

 

 俺の言葉の後に「いいっすよね?」と、奈緒(なお)は家主の乙坂(おとさか)に目を向けて確認をとる。「ああ、別に構わないよ」と乙坂(おとさか)が頷いたことで、黒羽(くろばね)も一緒に夕食を食べることが決まった。

 

「食材の買い足しに行ってきますね」

「お願いします。あたしは先に下準備をしておきますので」

「じゃあ、僕も......」

 

 一緒に買い出しに行くと名乗り出た乙坂(おとさか)を、奈緒(なお)は呼び止める。

 

「あなたが居ないと家に入れないっしょ」

「あ、それもそうか」

「それでしたら、わたしがお手伝いします」

 

 二人のやり取りを見て、黒羽(くろばね)が名乗りをあげた。

 

「そもそも、わたしの分ですし」

 

 彼女から発せられる無言の視線が痛い。

 

「えっと。あの――ったく、これならいいだろ!?」

 

 見かねた姉の美砂(みさ)が、黒羽(くろばね)へ降りてきた。奈緒(なお)は少しおもしろくなさそうに言う。

 

美砂(みさ)さんがいいなら、別にいいっすけどー」

「めんどくせぇーな。おい、さっさと行くぞー!」

「とりあえず、行ってきますね」

 

 先に歩き出した美砂(みさ)の背中を追って、先ほどのスーパーマーケットへと急いだ。道中、美砂(みさ)と話す。

 

「こうして、二人で話をするのは初めてですね」

「ん? ああ、そうだな......」

黒羽(くろばね)さんは――」

美砂(みさ)でいい、あいつらもそう呼んでるし。ややこしいだろ?」

「そうですか。では、美砂(みさ)さんで」

「で、なんだ?」

「意識的に出ないようにしてましたよね」

 

 図星を突いたからしく、美砂(みさ)は足を止めた。空気がほんの少しだけ重くなった。

 

「......チッ、気づいてたか」

「そりゃ気づきますよ」

 

 緊急事態とはいえ、黒羽(くろばね)を自宅に泊めた時も美砂(みさ)は出てこなかった。普通なら心配して出てくるだろう。これで気づかない人は相当鈍感な人間だと思う。彼女はやや声のトーンを落として、ゆっくりと打ち明けた。

 

「アタシはお前と初めて会った時、妙な恐さを感じていたんだ。柚咲(ゆさ)はお前のこと優しそうって言ってたけど、笑顔の向こう側に冷めたもんを感じてた」

「女の勘ですか?」

「アタシは一度死んでるから、たぶんそういうのに敏感なんだ」

「確かにそうだったかもしれませんね。死に急いでいた訳ではないですけど」

「けど、今のお前から優しさを感じる。それは、あいつのためなんだろ?」

「そっちも気づいてましたか」

「先に気づいたのは柚咲(ゆさ)だけどな。しっかし、あいつのあんな顔を見れるなんて思わなかったぜ!」

 

 彼女は、とても愉快気に笑った。きっと、生徒会室での奈緒(なお)黒羽(くろばね)のやり取りのことだろう。

 

「よし! 着いたな。で、何を買うんだ?」

「トンカツ用の豚肉と付け合わせキャベツに調味料です」

「おおっ、晩飯はトンカツか! さっさと済ませちまおうぜ!」

 

 美砂(みさ)のテンションが上がった。彼女も肉が好物なんだろうか。今度黒羽(くろばね)に、それとなく訊いてみるのもいいのかも知れない。初めに入口近くの野菜売場でキャベツひと玉をカゴに入れ、続いて精肉コーナーでトンカツ用の厚めの豚肉二枚のパックをカゴの中に入れる。

 

「ん? 一枚多いんじゃねぇーのか?」

 

 黒羽(くろばね)の分だけなら確かに一枚だけいい。

 

「彼も呼ばないワケには行かないでしょう?」

「......誰を?」

 

 絶対分かってていっている。苦手意識があるのかやや嫌そうな表情(かお)をした。

 

「身の危険を感じるんだ」

 

 とても正直だった。黒羽(くろばね)が絡んだ時の高城(たかじょう)のテンションは異常。一緒に夕食なんて言った日には、どんなテンションになるのやら。まあ、どうにかなるだろう。一緒にキャンプもしたことだし。

 

美砂(みさ)さんが出ていれば、安心じゃないですか?」

「それでもいいんだけどよ。やっぱり、柚咲(ゆさ)に食べてもらいてーんだ。柚咲(ゆさ)は、いつもひとりで食べてるからな。一緒にはいるけど、一緒に食べてはやれねーからな......」

 

 普段の強気な美砂(みさ)とは違って、とても優しくも寂しそうな表情(かお)。少し言葉や態度がキツいところはあるけれど、妹思いの優しい(ひと)なんだと改めて思えた。

 

「わかりました。彼が暴走しそうになった際は抑えます」

「そっか、わりーな」

「いえいえ」

 

 そんなやり取りをして、レジで会計を済まし、スーパーを出る。併設のマンションへ向かう前に高城(たかじょう)にメールを入れておいた。携帯をポケットに入れた直後に返信が来た。「ゆさりんと夕御飯!? 是が非でもっ! 大枚はたいても参加させてくださいっ!」と。

 

「お前、ちゃんと責任とれよ?」

「はい......」

 

 少し後悔しそうになった。スーパーを出て少し歩いた頃、美砂(みさ)が唐突に話を切り出した。

 

「ちょっと柚咲(ゆさ)に替わるな」

「あ、はい、どうぞ」

 

 ――ふっ、と彼女の雰囲気が変わる。

 

「あれ? 宮瀬(みやせ)さん? もしかしてわたし、また寝てましたか?」

「きっと運動のあとで疲れていたんでしょうね」

 

 適当に話を合わせておく。

 

「あ、そうだ!」

 

 言葉尻は緩いが、声色は真面目。だから、こちらも真面目に聞く。

 

「なんでしょう?」

「泣かせちゃダメですよ~?」

「はあ?」

 

 なんのことかわからず生返事を返してしまう。

 

宮瀬(みやせ)さんがアメリカにいった日、友利(ともり)さんの瞳、赤かったんですよ~?」

 

 ――ああ、そういうことか......最低だな。

 

「善処させていただきます」

 

 そう返事を返すと、また雰囲気が変わった。

 

「大変だなっ! お前もっ!」

「笑いながら言わないください」

 

 黒羽(くろばね)にはお叱りのお言葉を頂戴し、美砂(みさ)には弄られた。止まっていた足を動かし、再び併設マンションに向かって歩き出す。併設マンション前の信号機の無い横断歩道の前で左右を確認してから渡る。途中で美砂(みさ)の一歩前に出て、彼女の内側を通り歩道に戻る。

 

「ふーん、そういうとこか」

「なんですか?」

 

 訊いた直後、俺の真横をスクーターが通り過ぎた。

 

「原付き、か」

「結構飛ばしてましたね」

 

 法廷速度を遥かに超えるスピードを出していた。美砂(みさ)は足を止め、猛スピードで走り去っていくスクーターを寂しそうに見つめている。

 

「スクーターがどうかしましたか?」

「......聞いてないのか?」

「何をです?」

「アタシが......」

 

 口をきゅっと結んで話すのを躊躇している。おそらく美砂(みさ)の死の理由に関係することだったのだろう。彼女の様子から見て、バイク絡みの交通事故。

 

「無粋でしたね。すみません」

「......ツ」

「はい?」

 

 小さくて上手く聞き取れなかった。

 

「......ダチとニケツして単独で事故った」

 

 バツが悪かっただけか。返事をせずに黙りこむ俺に、美砂(みさ)がキレた。

 

「っんだよっ!? 文句あんのかっ!」

「なんで、美砂(みさ)さんがキレるんですか?」

 

 舌打ちをして、簡単に経緯(いきさつ)を話してくれた。彼女は生前は、両親に反発して少しばかりやんちゃをしていたらしい。そして半年ほど前、仲間の原付きで二人乗りして事故に遭い亡くなってしまった。

 

柚咲(ゆさ)はアタシになついてたから、スゲー辛い思いをさせちまったし。親不孝ばっかで......。まったく、センスがねぇぜ......」

「後悔してるんですね」

「ああ......」

 

 話を聞き終わった頃、乙坂(おとさか)の家の前に到着。ちょうど大きめの荷物を持た高城(たかじょう)もやって来た。

 

「ゆさりん! と宮瀬(みやせ)さん、お疲れさまです」

 

 テンションに差を感じた。どうやら高城(たかじょう)にとって、俺はついでみたいだ。

 

「ゆさりんじゃねぇよ!」

 

 美砂(みさ)は牽制するように言い放つ。思わぬ出来事に高城(たかじょう)はたじろいだ。

 

「み、美砂(みさ)さん!?」

「アタシじゃ文句あんのかっ! あぁん!?」

「い、いえ、ありません......」

 

 美砂(みさ)の迫力に気圧される高城(たかじょう)

 

「で、お前何を持ってきたんだ?」

「これですか? あとのお楽しみしですよ。ふふふ......」

「なんだよ、もったいぶりやがって」

「えっと、とりあえずお邪魔しましょう」

 

 乙坂(おとさか)家のインターフォンを押す。中からの反応を待っていると、高城(たかじょう)が小声で訴えてきた。

 

「ところで宮瀬(みやせ)さん、話が違うじゃないですか」

黒羽(くろばね)さんとは書きましたけど、柚咲(ゆさ)さんとは書いてませんよ?」

「謀りましたね!?」

 

 批難を聞き流しているとドアが開き、家主の乙坂(おとさか)が顔を出した。

 

「お前も来たのか」

「はい、お邪魔させていただきます!」

「別にいいけど、上がってくれ」

「邪魔させてもらうぜ」

「キッチン、お借りしますね」

 

 食材の入ったビニール袋を持って、俺はキッチンへ行く。奈緒(なお)は既に下ごしらえを終わらせていた。

 

「あ、おつかれさまっすー」

「いえ、手伝いますね」

「はーい、おねがいします」

 

 二人で五人分のちょっと遅い夕食を作り始める。リビングの方では三人の盛り上がっている声が聞こえてきた。トンカツを揚げながら隣を見ると追加で買ってきた豚肉を、奈緒(なお)が調理していた。その過程を見ていると少し気になることがあった。

 

「なにしてるんですか?」

「ちょっと......これでよしっと。もう揚がったんじゃないっすか?」

 

 鍋に目を戻す。いい感じにこんがりときつね色に揚がっていた。キッチンペーパーで余分な油を切り、千切りにした大量のキャベツを横に添える。

 

「出来ましたよー」

 

 テーブルにご飯と味噌汁も一緒に用意して、奈緒(なお)はリビングで盛り上がっている三人に声を掛けた。テーブルに着いた三人は、出来上がった料理を見て声をあげた。

 

「なんとっ」

「ああ、スゴいな......」

「うまそうだなっ!」

「はいはい、手洗ってきてください」

 

 奈緒(なお)の指示に素直に従い、三人は手を洗って席につき料理を食べ始めた。

 

「う、うまい!」

「衣はサクッとしていて、中はとても柔らかくジューシーですね!」

 

 美味しそうに食べる二人の向かいで無言で俺に目を向けた美砂(みさ)は、クイッとアゴで指示を出す。わかってますよ......。

 

高城(たかじょう)さん、飲み物を用意するのを手伝ってもらえますか?」

「はい、お任せください」

 

 高城(たかじょう)は席を立ち、飲み物を用意するのを快く手伝ってくれた。まったく良心が痛むな。

 

「お湯を沸かすのを忘れていました」

「では、私がやりましょう。乙坂(おとさか)さん、こちらの電気ケトルを使わせていただいても?」

「好きに使ってくれて構わないよ」

「了解いたしました」

 

 ケトルに水を注いでいる間に、テーブルの方を確認する。

 

友利(ともり)さん、すっごくおいしいですっ」

「そうっすか」

 

 上手くいった。ポットをセットし電源を入れている高城(たかじょう)に話題を振る。

 

「盛り上がっていたようでしたけど、何をしていたんですか?」

「よくぞ聞いてくれました! 私が持参した、似天同46の配管工カートをプレイしていたんです!」

 

 あの荷物の正体は据え置きのゲーム機か。

 

「レトロゲームですよね?」

「はい、我々の産まれるよりも前、今から約20年近く前のゲームです。乙坂(おとさか)さんは、携帯ゲーム機を持っていないそうでしたので、両親の持ち物を拝借してきました。最新作と比べると使用キャラのバリエーションや、グラフィック、操作性などの面において作り荒い部分は多々ありますが、プログラムの穴を利用したショートカットも多数存在し、最下位から逆転優勝を狙えること等もあり、今だ根強い人気を誇っているんですよ」

「へぇ、そうなんですか」

 

 高城(たかじょう)の力説に生返事を返しつつ、沸いたお湯を適温に冷まして急須に注ぎ、濃い目にお茶の入れる。氷で冷やした冷茶を作ってテーブルに戻ると、美砂(みさ)に戻っていた。

 

「どうぞ」

「ありがとうございまーす」

「ごちそうさまでしたっ! 乙坂(おとさか)高城(たかじょう)、勝負の続きやるぞ!」

 

 美砂(みさ)は冷茶を飲み干すと、二人を急かすように言った。

 

「またやるのか?」

「少々お待ちを!」

 

 急かされた高城(たかじょう)乙坂(おとさか)は、残ったおかずを急いでかき込み、冷茶で流し込んだ。

 

「ごちそうさまでした。とてもおいしかったです」

「ほんとうまかった。ありがとな」

「いえ、お粗末様っす」

「片付けはしておきますので、どうぞ」

「悪いな、なにからなにまで......」

「いえいえ」

 

 奈緒(なお)にお礼を言って、二人は美砂(みさ)の待つリビングへ。俺は奈緒(なお)の正面の席につく。

 

「では、あたしたちも食べましょう」

「そうですね」

「ちょっと冷えちゃったっすけど」

「でも、おいしいですよ」

「そうっすか? それならよかったです」

 

 少し冷えてはいたけど、味はしっかり付いていた。きっと奈緒(なお)は、こうなることを最初から見越して追加の豚肉にしっかり下味を付けていたみたいだ。食べ終わり片付けを終えて、ゲームをプレイ中の三人に声を掛ける。

 

「おーい、そろそろおいとまするぞー」

「おや、もうこんな時間ですか。続きはまた後日と行きましょう」

「ああ、そうだな」

「チッ、しかたねーな」

 

 壁時計を見て高城(たかじょう)は同意し、美砂(みさ)は名残惜しそうにしている。乙坂(おとさか)は、ちょっと疲れたようすだ。

 

「お騒がせしました」

「いや、久しぶりにいい気分転換になった。ありがとな」

 

 玄関先で見送られ、俺たちは外に出る。

 

「うまかったぜっ! じゃあな!」

「では私も、ここ失礼します。ごちそうさまでした」

 

 美砂(みさ)高城(たかじょう)は、それぞれ自宅へと帰っていった。二人を見送ったあと奈緒(なお)は俺を見る。

 

「時間があるようでしたら少し寄って行ってください。期末試験のところで教えて欲しいところがあるんです」

「はい。あ、そうだ。プリンを買っておきました」

「おお~! 気が利くっすね、行きましょーっ」

 

 上機嫌になった奈緒(なお)の一歩後ろついて歩き、彼女の部屋へと向かった。

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