「結局、今日も現れないかー」
「そうみたいですね」
今日も
結局、あの日からなにも進展はなく、ただ時間だけが過ぎ去っていく。
「
「そうですか」
「手がかりなしのようですね。今日も解散にしましょう」
「はい、わかりましたー。それではお疲れさまでーすっ」
「我々も帰るとしましょう。どうですか
「ん? ああ、そうだな......」
扉が閉まり、生徒会室で二人きりになると「はぁ......」と、
「お疲れですか?」
「あ、いえ、明後日は“
「あぁ......」
「わかってるんすけどねー。でも、やっぱ行きたかったなー」
頭の後ろで手を組んで名残惜しそうな
「よかったんですか?」
「なにがっすか?」
逆に聞き返されてしまった。
俺が聞きたいことは見透かされているんだ思った。だから俺は、違う提案をすることにした。
「いいえ、なんでもないです。デートしましょうか?」
「――えっ?」
「ライブの代わりにはならないかもですけど――」
「......します、しましょうっ」
「よかった。じゃあ決まりですね。どこ行きましょうか?」
「そうっすね~」
さっきまでの顔が一転して嬉しそうに腕を組んで考えて考え込む。
「ショッピングだと放課後の寄り道とかわんないですし......」
「そうですね。とは言っても遠出は
そうこうしているうちに下校時間を知らせる放送が校内に響き渡った。
「日曜日までに一緒に考えましょうか」
「はい、そうしましょう」
急いで戸締まりして生徒会室を後にし、
最寄り駅への道を歩くいると先日夕食の買い物をしたスーパーの近くで、
「
「ん? ああ、
「夕食の買い出しですか?」
「ああ、弁当を買いにな」
「そうでしたか」
――ちょうど、いい機会なのかも知れない。
「暇だったら一緒に夜飯行きませんか?」
「まぁ、別にいいけど?」
「じゃあ行きましょう」
以前
「めちゃくちゃ高そうなんだが! しかも会員制とか書いてあるぞ!?」
店構えを見て、
「そう見えても値段は良心的なんですよ」
「ほんとかよ......」
疑いの眼差しを向けてくる
「どうですか?」
「ぶっ飛んだ値段のもあるけど、日替わり定食なら500円のワンコインからあるのかっ!」
「意外でしょ?」
「ああっ」
「年間費の分、食事の価格は良心的なんです。それにおかわり自由です」
「マジか!? 豪華な弁当よりも安上がりになりそうだ!」
互いワンコインの日替わり定食を注文。運ばれてきた定食を食べていると、
「この前は、ありがとな」
「なんのことですか」
「
「ああー、そのことですか。むしろこちらが強引に押し掛けたんですけど」
「いや、あのうざいくらいの賑やかさがさ......ありがたかった」
心からそう思っているのが解るほど、とても穏やかな声だった。
「それにしても、
「そうですか? 初めて会ったときから、あまり変わらない気がしますけど?」
「いや、
いつも調査に使っているビデオカメラで特殊能力を使用した証拠映像を撮られ、それを奪い取ろうとしたところ
「へぇー、そうなんですね」
「......お前、信じてないだろ?」
「信じてますよ? 一度話の腰を折った
「あれは
「もともと優しい人ですよ。彼女は」
きっと誰よりも特殊能力者のことを案じている。だからこそ、時には説得に暴力を使うことになっても止めるんだ。
「そうか......、お前が言うならそうなんだろうな。
――中学入学前。ちょうど
「もしかしたらお前といる時の
「......どうですかね。俺は、今の彼女しか知らないから」
「そっか、そうだよな......。なぁ......」
こちらが本題だったんだろう。
「本当に見つかると思うか......?」
「見つけるんですよ、必ず」
「けど......」
「どんな犠牲を払ってでも救うんだろ? あれは、嘘だったのか?」
「――ッ! いや、僕は
「だったら余計なことを考えるな。例えなにが起きようとも『必ず助けだす』。今は、それだけを考えろ」
「ああ、わかった。すまなかった」
そう言うと
「それから、ずっと気になってたんだが」
「なんですか?」
「この能力者、今は能力が使えないって書いてあるんだが......」
資料を指差して言った。
「それについては問題ありません。いくつか方法があります」
「方法? どんな?」
「お前の本当の
「その時になればわかりますよ」
「なんだよ? それ」
「言葉通りですよ。さて、そろそろ出ましょうか」
「あ、ああ......?」
会計を済ませエレベーターで一階へ降り、タワーの外まで
「じゃあな」
駅の方へ向かって歩いていったのを見届けて、俺は自宅へと帰る。シャワーを浴びて、ベッドに横になりながら考えごとをしながら眠りについた。
* * *
「今日も来ませんね」
「はい、じゃあ解散っ!」
「じゃあ僕は帰る」
「おつかれっすー。あっ、明日のライブ、ちゃんと行ってくださいよー?」
「ああ、わかってるよ」
昨日と同じように放課後の生徒会室で、
「俺たちも帰りましょうか?」
声をかけたが、雑誌に目を落としたまま反応が返ってこない。
「
「決めましたっ。お家デートにしましょう!」
バンッ! と机を叩き、急に椅子から立ち上がった。
「お家デート......ですか?」
「はい。家で映画のDVDを見たり、音楽を聴いたり、一緒に料理したりするんですっ」
手元の雑誌を見ながら説明してくれた。
「そうですね、そうしましょう」
「はいっ。と言うことでDVDをレンタルしに行きましょー」
いつもより早く星ノ海学園を出て、レンタルショップへと向かう。その道中、「す、すみません」と少し前を歩く星ノ海学園の男子生徒が慌てた様子で、白い杖をついた女性を避けながら軽く頭を下げた。
その女性を見た
彼女はすれ違いざまに「Why avoid me? Shit!」と、とても不愉快そうな声を発した。――この声、間違いない。
「すまない」
「
「ん?」
彼女に英語で声をかける。
「人違いだったら――」
「お前は、日本人かっ?」
「え? ああ、そうだけど......」
「おおっ、そうか、日本人か! お前は、モダン焼きを知ってるか!?」
女性の言葉が急に日本語になった。カツカツッ! と白い杖を突きながら興奮したようすで俺の目の前まで来てで立ち止まる。
「日本語できるんですか?」
「んなこたぁー、どうでもいいっ! モダン焼きだよ、モ・ダ・ン・焼・き!」
杖を持っていない方の人差し指で俺の胸をつつきながら、モダン焼きを知ってるかしつこく訊いてきた。
「え、ええ、一応知ってますけど?」
「おおっ、知ってんのか! 頼む、食える場所に連れてってくれっ!」
「えっと......」
「いいですよ、お店まで案内します」
「本当かっ? 感謝するぜ!」
「あたしに掴まってください」
「おお、ありがとよ」
「
「いらさぃあせー」
店に入るとイントネーションにクセのあるビジュアルバンドメンバーのようなハデな店員が出迎え、座敷席に案内してくれた。女性は鉄板が埋め込まれたテーブルを挟んで向かいに座り、
「モダン焼きは......メニューにないっすね」
「ないのか!?」
メニューにないと知った女性が思いきり落胆する。
「大丈夫ですよ。作ればいいんですから」
「作れんのかっ!」
「モダン焼き風になっちゃいますけど」
「ああ、それでいい。頼む!」
ちょうど店員がメモ帳を片手にやって来た。
「きまったかぃ?」
「生中!」
女性は、すぐさま手を上げて生ビールを注文した。
「はぁぃよ」
「あたしたちもここで食べましょう。ちょっと早いっすけど」
「そうですね。じゃあお好み焼きと焼きそばを二人前、あとウーロン茶を2つお願いします」
店員は、メモ帳に馴れた手つきで注文を書き込む。
「それと、だし汁を少しいただけますか?」
「はぁぃよ。自分たちで焼くかい?」
「はい」
「はぁぃよ」
厨房に戻った店員は、早速彼女が注文した生中を持ってきた。
「生中とウーロン二つ、おまち! ところで、もしかしてそちらの方は?」
持ってきたジョッキを一瞬で飲みほした彼女が答える。
「ち~っす!
――やっぱり。そうか......。
「なんですか?」
「いえ、なんでもありませんよ」
「サ、サラさん!? サラさんがこんな小汚ない店に来てくださるなんてっ! 感激っす! 明日のライブ観に行きます! それで! その色紙にサ、サインをっ」
「あ、いいよー」
小走りに厨房の奥に行き、色紙とサインペンを持って戻って来た。その色紙とサインペンをサラに手渡す。サラは色紙とペンを受けとると視力を失っているはずなのにスラスラと器用にサインを書いた。
「ありがとうございます! こちらお好み焼きと焼きそばでっす! どうぞ!」
「ありがとうございます。じゃあ作りましょうか」
「はーい」
まずは焼きそばをだし汁で炒め、それをお好み焼きと混ぜて焼き上げ、モダン焼き風に仕上げる。出来上がったモダン焼き小皿に取り分けて、サラに手渡す。
「どうぞ」
「ありがとさん」
サラは器用に箸を使い、モダン焼きを口に運んだ。目をつむりじっくりと吟味している。
「う~ん......うまいっ! これがモダン焼きかっ! さすがジャパン!」
「それはよかったです。
「はい。う~んっ、美味しいな~」
モダン焼きを食べ終わり会計を済ませ店を出ると、サラが唐突に話を切り出した。
「ところでさ、おまえらなにかあったのか?」
「と、いいますと?」
「二人とも、なんかスゲー覚悟みたいなモノを感じる」
「わかるんですか?」
「見えない分、息遣いや声色で分かるんだよ。なんとなくな」
サラの言葉に、
「仲はスゲー良いみたいだし、別れ話って訳じゃないみたいだが。よかったら聞かせてくれないか?」
少し躊躇したが近くの公園に移動して、ベンチに腰をかけて話をする。もちろん能力のことは隠して。
「な、なんてこった......彼女さんのお兄さんと友だちの妹さんが......!」
サラは両手で頭を抱え、まるで自分のことのようにうなだれた。
「
「そうか......。
「さすがにそれは......それに明日ライブでしょ?」
「んなもんはどうでもいい! リハなんてバンメンがどうにかしてくれる! 会わせてくれ、頼むっ!」
手を合わせたサラは、真摯な言葉と一緒に頭を下げた。
「......
「......わかりました。お願いします」
「
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます。行きましょう」
彼女はノックをして病室の扉を開けた、続いて病室に中へ入る。すると、初めて面会に来た時と同じように、
「また鎮静剤が切れてる......」
ただならぬ雰囲気に、サラが少し戸惑いながら訊いてきた。
「
「作曲です。兄はこれでギターを弾いているつもりなんです。唸り声はメロディ......主旋律なんです」
「そうか、そいつはヘビーだな」
サラは
――この歌......初めて
「
不安を感じているのだろう。
「な......お......」
「あっ......はいっ、
俺の手を離し、
「二人にしてあげましょう」
「ああ、そうだな」
サラの手を取り、俺たちは病室の外へ出る。
病室の扉横の壁にもたれながら話す。
「なんだか奇跡でも起きたようだな」
「ええ、あなたの歌声が起こしてくれた奇跡です。ありがとうございます」
「嬉しそうだな、私も嬉しいよ。......お前、死ぬ気だったろ?」
「......そんなことまでわかるんですか?」
「お前の覚悟は、
「......そうだな。死ぬかどうかはわからないけど、もし必要があるなら命を賭ける覚悟はある」
――もうそんなことは、何年も前に覚悟している。
「そいつは
「......誰も悲しまないよ。
「......そっか、お前は私と同じか......。もしその時が来たら、お前は上手くやれよ?」
――そうか、この人も能力者だったんだ。それもきっと......あの能力。
「ああ、そうならないように善処するよ」
サラとの話を終えるのとほぼ同時に病室の扉が開き、
「もう、いいんですか?」
「はい、ありがとうございましたっ」
サラに深く頭を下げて、お礼を言った。
「礼を言うのは私の方だ。充実したいち日を送れてよかったよ」
バスに乗り、電車に乗り換えて最寄り駅へ向かう。その車内。
「そういえば明日、友人がサラさんのライブを観に行くんですよ」
「それ、さっき言ってた妹さんを亡くした友だちのことか?」
「ええ、そうです」
「そうか。だったら、その友だちがいることを意識して歌うよ。ところでお前たちは来ないのか?」
「あたしは、行く予定だったんすけど。その人にチケットを譲ったんです」
「そっか......」
「ちょっと待ってくれっ」
呼び止められ、サラの方を見る。彼女は車の中でスタッフと話しをして、何かを受け取った。スタッフに肩を借りながらこちらへやってくる。
「これやるよ」
スタッフから受け取ったものを、俺たちに手渡してくれた。
「これは......」
「
「関係者席の一番端の席になるけど、よかったら受け取ってくれ」
「いただいていいんですか?」
「もちろんさ。あんたらに聴いてほしい」
「ありがとうございます」
「ありがとうございますっ!」
今度こそ車が走り出すのを見届けて、サラと別れた。併設マンションへの帰り道。隣で上機嫌で鼻唄を歌う
「よかったですね」
「はいっ。あ......でも」
「どうしました?」
「お家デートが......」
「デートは、いつでもできますよ。明日はライブデートにしましょう」
「......はい、そうっすね。楽しみっす!」
併設マンションの入口で明日の待ち合わせの約束をして、この日は自宅へ帰った。