Charlotte ~時を超える想い~   作:ナナシの新人

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Episode30 ~対峙~

 会場の照明が落ちて、液晶モニターに大きく『ZHIEND(ジエンド)』の文字が浮かび上がったステージの真ん中にスポットライトが当たり、ボーカルのサラ・シェーンが姿を現す。そして、バックバンドの演奏が始まり、いよいよライブの幕を開け。

 

「はじまるっ!」

 

 演奏が始まる前のテンションとはうってかわって、奈緒(なお)のテンションは沸々と上がっていく。彼女はずっと楽しみにしていた生演奏に集中していたが、俺は乙坂(おとさか)のことが気になって時折目をやっていた。オープニングから数曲が終わり、サラがマイクを手に持ちMCを始める。

 

『次はここ、愛すべきジャパンの地で世界初お披露目の曲をやるぜッ!』

「おおっ、新曲!」

 

 思いがけないサプライズに、奈緒(なお)のテンションは更に上がった。

 

『いくぜ! Trigger(トリガー)!!!』

 

 サラが曲名を叫ぶ。激しい曲調の新曲「Trigger(トリガー)」の演奏が始まり、その激しい演奏と力強い演奏と相まって会場中が熱気に包まれる。そして、演奏がサビに差し掛かった時だった。

 今までずっと座ってZHIEND(ジエンド)の演奏を聴いていた乙坂(おとさか)が、不意に立ち上がった。どこか、ようすがおかしい。

 

奈緒(なお)さん......!」

「――えっ?」

 

 肩を揺さぶり声をかけられた奈緒(なお)は俺を見る、直後――。

 

「うっ......うわぁーっ!」

 

 サラの歌声に負けないほどの叫び声が会場に響き渡った。その声の主は――乙坂(おとさか)。突然大声を上げ、頭を抱えて、その場に倒れこんだ。

 

乙坂(おとさか)!」

乙坂(おとさか)さんっ!?」

 

 突然の事態に演奏は止まり、どよめく場内。俺と奈緒(なお)は人混みをかき分け、急いで乙坂(おとさか)の元へ駆け寄った。倒れている彼を確認すると完全に意識を失っていた。

 

乙坂(おとさか)、大丈夫か!?」

乙坂(おとさか)さんっ!?」

 

 声をかけても反応がない。運営スタッフが慌てて駆け寄ってくる。

 

「大丈夫ですか!? 担架持ってきます!」

「お願いします、それから救急車も――」

 

 救急車の要請を頼もうとする俺に奈緒(なお)は、俺にだけ聞こえるように小声で訴える。

 

「ダメです。組織の病院に直接連絡をして――」

「大丈夫、任せてください。救急車をお願いします」

「は、はい、わかりました!」

 

 運営スタッフと協力して慎重に、乙坂(おとさか)を担架に乗せる。その時ふと視線を感じた。ステージを見ると、サラが俺たちの方をじっと見つめていた。

 視力を失い、見えていないハズなのに。

 どうしてか、彼女の目は、俺にこう言っているに思えた。

 

 ――うまくやれよ、と。

 

           * * *

 

「傷病者は!?」

 

 乙坂(おとさか)を医務室へ運んで間もなく、救急車と救急隊が到着した。

 

「こちらです!」

「どうも、失礼します。ふむ......特に目立った外傷はないな、呼吸も安定している、だが意識はない。どういった状況で?」

「突然、頭を抱えて倒れこみました」

「頭を!? おい、すぐに脳外科がある病院に連絡......」

 

 頭と聞いてすぐに別の隊員にすぐに指示を出そうとしたところへ割り込む。

 

「待ってください! 彼は、持病を持っています。この病院へ搬送してください」

 

 先日、手の火傷の治療を受けた病院の情報を表示させた携帯の画面を見せて話す。組織の息が掛かっているこの病院なら科学者に捕まることはない。

 

「お知り合いですか!?」

「はい、同じ学校の友人です。以前も同じ症状で倒れたことがありました。この病院には彼の、乙坂(おとさか)の主治医がいます。ですので、こちらへお願いします」

「そうでしたか、わかりました。大至急この病院に連絡をしてくれ!」

「了解です! ライブ会場で収容した傷病者は、持病があり――」

 

 指示を受けた別の救急隊員は無線で傷病者、乙坂(おとさか)の容態を例の病院に連絡を入れる。

 

「自分と彼女が付き添います。彼の家族へは、こちらから連絡を入れておきました」

「わかりました、ではお願いします。ストレッチャー!」

 

 携帯を操作するふりをしながら小声で、奈緒(なお)に話しかける。

 

「うまくいったでしょ」

「はい。ですが、どうして......?」

「病院からだと、時間がかかりますから」

「あ、なるほど」

 

 病院に直接要請して往復するよりも最寄りの消防署の救急車で搬送してもらった方が断然速い。

 救急車が指定した病院に収容されると、すぐに検査が行われた。検査の結果は、異常はなくただ眠っているだけとのこと。乙坂(おとさか)が眠るベッド近くのパイプ椅子に座り、目を覚ますのを待つ。

 

「大丈夫なんですかね?」

「きっと大丈夫ですよ。おそらく、一希(かずき)さんの時と同じ症状だと思います。それに......いや」

「なんですか?」

「確証はありませんけど、今日で見つかると思います」

「何がっすか?」

熊耳(くまがみ)とシュンスケ・オトサカ」

 

 探し人である二人に名前を出したことで、奈緒(なお)も気づいた。

 

「なるほど、組織の息が掛かっている病院に乙坂(おとさか)さんが搬送されたとなれば、必ず上に連絡が行く訳ですね」

「正直、こういった形で利用することになってしまって申し訳なく思いますけど」

「今は、乙坂(おとさか)さんが無事に目覚めるのを待ちましょう」

「そう、ですね」

 

 奈緒(なお)は安心させるように手を握ってくれた。いつまでも長い夏の太陽がようやく傾き出し、鮮やかなオレンジ色の西陽が病室に差し始めた頃――。

 

「うわあぁーッ!?」

 

 再び叫び声をあげて、乙坂(おとさか)が目を覚ました。その大きな声に驚いた奈緒(なお)の背中を軽く支える。

 

「わぁっ! もう、驚かさないでくださいよー。危うく倒れるところだったじゃないっすか!」

「はぁはぁ......友利(ともり)?」

 

 奈緒(なお)の顔を見て、しっかりした声で彼女の名前を呼んだ。どうやら意識はハッキリしているみたいだ。

 

「気分は、いかがですか?」

宮瀬(みやせ)、ここは......?」

「病院っすよ。ライブの途中で倒れたんすよ、覚えてますか?」

 

 心配そうに訊ねる奈緒(なお)に、乙坂(おとさか)は頭の中を整理しているのか少し黙ってから口を開いた。

 

「......友利(ともり)宮瀬(みやせ)。やっぱり僕には、僕と歩未(あゆみ)には兄がいるかもしれない。いや......確かに居たハズなんだ」

「ほう、思い出したか」

 

 ノックもなしに病室の扉が開き、一本に束ねた長髪を右の肩口から前に垂らした男子が入って来た。

 

「......誰だ?」

 

 奈緒(なお)は初めて見る顔に警戒し、長髪の男子に訊ねる。

 

「フッ、“特殊能力発見"の能力者と言えばわかるか?」

「おお~、あなたですか。乾いてるとイケメンだな」

 

 ――釣れた。探していた一人、時空移動(タイムリープ)の能力者に近づくための最重要人物である、熊耳(くまがみ)

 

熊耳(くまがみ)、お前もいたぞ。僕の夢の中に......!」

「ん? この姿で会うのは、初めてのはずなんだがな......」

 

 乙坂(おとさか)の言葉が予想外だったらしく、彼はどこか不思議そうな表情をしている。しかし、そんなことは気にすることなく、乙坂(おとさか)は自分の中の曖昧さを払拭するため、熊耳(くまがみ)を問い質す。

 

「お前は、兄さんのことを知ってるんだろ?」

「まーな、よく知っている」

「教えてくれ、すべてを......!」

「落ち着け。こっちもそのつもりで来た。黙ってついてくれば、お前が疑問に思っていることはすべて氷解する。そして、助けに行くんだ。妹さんを――」

「え? 今、なんて......?」

 

 色々と混乱しているんだろうけど、ちゃんと演じてくれている。ありがたい。

 

「お前が、妹さんを助けに行くんだ。乙坂(おとさか)有宇(ゆう)

「死んだ人間をどうやって助けられるんだっ!」

「今のお前なら、隼翼(しゅんすけ)の能力も分かっているんじゃないのか?」

「兄さんの能力――」

「どうした?」

 

 ――まずい、上手く演じてくれていたけど。ここらが限界か。

 

「あの、シュンスケさんって、あの隼翼(しゅんすけ)さんでしょうか?」

 

 助け船を出そうとしたところで、奈緒(なお)熊耳(くまがみ)に問いかける。事前に示し合わせた訳じゃない。これは、彼女自身の疑問を晴らすための質問。

 

「ああ、そうだ」

「ええ~!? あなた、あの人の弟だったのか? ぜんぜん似てないな」

「ど、どうだっていいだろっ!?」

 

 やや呆れ顔でタメ息をついた熊耳(くまがみ)は、親指で廊下を差した。

 

「外に車を待たせてる。行くぞ」

「あの、あたしたちも行っていいですか? ずいぶんとご無沙汰していますので。挨拶をしたいのですけど」

「別に構わないが、お前は......」

 

 熊耳(くまがみ)は、俺を見る。

 

「あなたが見つけた“予知"能力者ですよ。調査の時も何度もあたしたちを助けてくれています。隼翼(しゅんすけ)さんにも紹介したいんです」

「......そうか。まあ、いいだろう。俺もお前と話したいことがあった。一緒に来い」

 

 熊耳(くまがみ)に聞こえないように、奈緒(なお)にお礼を言う。

 

「ありがとうございます」

「いいえ、行きましょう」

 

 熊耳(くまがみ)の後に続いて病院の外に出ると、彼の言った通り黒塗りの高級車が止まっていてて、隣には短髪のオールバックで黒縁メガネをかけた運転手が腕を組んで待っていた。熊耳(くまがみ)は助手席に乗り、俺たち三人は後部座席に乗る。

 しばらく高速道路を走っていた車は、やがて山中へと入っていった。舗装されていない林道を進み、少し開けた場所に停車した。

 

「ここからは歩きだ。ついてこい」

 

 月明かりを頼りに山道を登り、大きな岩の前に立つと熊耳(くまがみ)はリモコンらしき物を使い操作した。すると巨大な一枚岩が動き出し、地下への入り口が現れた。

 

「......すごいな」

「金だけはあるからな」

 

 地下へと向かう階段を降る。

 

「すっげー! 撮ってもいいっすかっ?」

「ダメに決まってるだろ」

「ちっ」

「なんなんだ、ここは?」

「言わば、特殊能力の研究施設だ」

 

 研究施設と聞いて、乙坂(おとさか)が取り乱す。

 

「それは僕たちにとっても敵じゃないのか!?」

「違う。つべこべ言わずついてこい」

 

 階段を下りきると厳重そうなセキュリティの扉が現れた。熊耳(くまがみ)は扉の前で端末にパスワードを打ち込み、指紋、網膜認証とセキュリティを解除行っていく。すべての作業が終わり、扉が開いた。

 扉の向こうは、エレベーターに直結していた。エレベーターに乗り、さらに地下へと潜っていく。

 

「厳重なんですね」

「最後の砦だからな」

「ところで話とは?」

「ああ、そうだったな。臨時教師を引き受けてくれた件だ。隼翼(しゅんすけ)からも機会があったら伝えてくれて頼まれていてな。助かった、改めて礼を言う」

「いえ、それはどうも」

 

 大した話ではなかった。だけど少しだけ、この組織を束ねる隼翼(しゅんすけ)と言う人物のことが分かってきた気がする。

 エレベーターを降りた俺たちの前は、熊耳(くまがみ)の言う最後の砦である長い廊下が現れた。熊耳(くまがみ)を先頭に廊下を奥へと進む。

 ――目的地は近い。そう感じた俺は声を潜め、隣を歩く奈緒(なお)に話しかけた。

 

奈緒(なお)さん」

「あ、はい、なんでしょうか?」

「俺は、彼らの返答次第で。彼らの......あなたの敵になるかもしれません」

「......大丈夫です」

 

 そう言って、俺の手を取り優しく繋いだ。

 いつもの重ねるだけの繋ぎ方じゃなく、離れないように指を絡めて......。

 彼女の言った大丈夫は、「そんなことにはならない」と言う意味なのか。それとも「どんなことになっても味方でいてくれる」と言う意味なのか、どちらかはわからなかった。

 ただ、手から伝わる温もりは......彼女の優しさは痛いほど伝わってきた。

 

「ここだ」

 

 センサーに手を置くとセキュリティが解除され、一番奥の扉がゆっくりと自動で開いた。

 

「入れ」

 

 熊耳(くまがみ)に促され、乙坂(おとさか)にが最初に中に入り、俺たちも続いて部屋に入る。部屋の中には誰も居なかった。

 

「誰も、居ない......?」

有宇(ゆう)か、久しぶりだな」

 

 声のした方向を見ると入口付近で、どこか乙坂(おとさか)に似た男子が壁にもたれ掛かって立っていた。彼が、乙坂(おとさか)隼翼(しゅんすけ)乙坂(おとさか)の兄で。そして“時空移動(タイムリープ)"の能力者――。

 

隼翼(しゅんすけ)

 

 これが能力を使えない理由、やはり視力を失っているらしい。隼翼(しゅんすけ)はサラと同じように、熊耳(くまがみ)の肩を借り、もう片方の手で杖をつきながら移動する。

 隼翼(しゅんすけ)熊耳(くまがみ)は、話をしながら奥の机へ移動。その姿を乙坂(おとさか)は、じっと見つめている。

 

「思い出していないのか?」

「ああ、どうやら前泊(まえどまり)が消した記憶は思い出していないようだな」

「記憶を消したって? なんのことっすか?」

 

 質問をした奈緒(なお)は俺を見た。言葉には出さず、うなづいて返事をする。少し名残惜しそうに手を離した奈緒(なお)は、隼翼(しゅんすけ)の元へ歩いて行く。

 

「その声は、奈緒(なお)ちゃんか。随分とご無沙汰だな」

「はい、助けていただいた時以来です。あの日、あなたが示してくれた道を今も歩み続けています」

「そっか」

 

 隼翼(しゅんすけ)は、手探りで奈緒(なお)の頭に手を乗せ撫でながらお礼を言う。

 

「おかげで助かってるよ。よくやってくれている」

「......ありがとうございます」

 

 隼翼(しゅんすけ)に礼を言った奈緒は、どこか複雑な表情(かお)をして隣に戻ってきた。

 

「で? 有宇(ゆう)は? 俺がお前の兄貴なんだぜ? 感動の再会だ。抱きついてきたりしないのかよ?」

「混乱してるんだ。疑問だらけで......」

「んだよ、寂しいなー。つってもまー自業自得か」

 

 隼翼(しゅんすけ)は、机の角に腰をかけるように座った。

 

「じゃあ全部話してやるとするか、なぁ? プー」

「ああ」

 

 熊耳(くまがみ)のキャラからは似合わないニックネームに「プー!?」と、奈緒(なお)乙坂(おとさか)の驚きの声が重なった。隼翼(しゅんすけ)は二人の反応に笑いながら、話し始めた。

 

「では、長い長い。俺の“時空移動(タイムリープ)"の話を始めようか」

 

 “時空移動(タイムリープ)"......やはり彼が、俺が長い年月をかけて探していた能力者――。

 

           *  *  *

 

 隼翼(しゅんすけ)が話した体験談は想像を絶するの物語だった。弟の乙坂(おとさか)、妹の歩未(あゆみ)を救うだけではなく、日本全国も特殊能力者をずべて保護するために何度も“時空移動(タイムリープ)"を繰り返し、今の保護システムを作り上げたとのことだ。

 そして、その代償として、視力と愛する弟妹との関係を断ち切った。

 

「はい、おしま~い」

 

 とてつもなく重い話なのに当の本人は手を叩きながら軽いノリで言ってのけた。

 

「“時空移動(タイムリープ)"を繰り返して、今の教育機関を作っただなんて......すごい!」

 

 奈緒(なお)は心からの賛辞の言葉を、隼翼(しゅんすけ)に送った。

 

奈緒(なお)ちゃんのお兄さんは、間に合わなくてごめんな」

「いえ、今は順調に回復に向かってますので大丈夫です」

 

 乙坂(おとさか)は、神妙な表情で呟く。

 

「能力で消されていたのか、兄さんとの記憶は......。それに、視力までなくして......」

「試してみたけど、やっぱり飛べなかった......。俺の能力、“時空移動(タイムリープ)"は目で見てきた時間(モノ)を巻き戻して過去に跳ぶ能力。だから目に光が射さないと飛べないんだ。でも、まだやり残したことがある。それは、絶対に達成しなくちゃならない俺たちの約束だろ?」

歩未(あゆみ)を助ける......でも、どうやって? 兄さんはもう、“時空移動(タイムリープ)"を使えないんでしょ?」

「それはな、有宇(ゆう)。お前の本当の能力、“略奪"を使って、俺の“時空移動(タイムリープ)"を奪ってだ」

 

 パチンッと指を鳴らした隼翼(しゅんすけ)は、乙坂(おとさか)の声がする方へ指を差した。

 

「“略奪"? 確か夢でもそんなこと......」

「能力者の能力を奪い取る。それがお前の本当の特殊能力(チカラ)なんだよ」

「な、なんだよ、それっ!」

 

 気絶している間に夢で見た能力。そして隼翼(しゅんすけ)から告げられた本来の能力に戸惑っている乙坂(おとさか)に、奈緒(なお)は真実を告げた。

 

「あたしと高城(たかじょう)、それに宮瀬(みやせ)さんも知っていました。あなたの本当の能力のことを――」

高城(たかじょう)宮瀬(みやせ)も......? そうか......能力者は能力が使えない、“略奪(これ)"がお前の言っていた方法ってことなんだな!?」

 

 俺は、黙ったまま頷いた。

 

「ん? なあ、宮瀬(みやせ)って誰だい?」

 

 初めて聞く俺の名に、隼翼(しゅんすけ)は首をかしげた。

 

「臨時教師を引き受けてくれたヤツだ」

 

 隼翼(しゅんすけ)の近くで、壁に寄りかかっていた熊耳(くまがみ)が答える。

 

「ああ~、そうかそうか」

「ついでに俺が見つけた“予知”能力者でもある」

「"予知"能力? スゴいな、会ってみたいなー」

「ここにいますよ」

「えっ!? 居るのか?」

 

 この場に居ると知って、隼翼(しゅんすけ)は驚いた。

 

「ああ、そういえば今まで一言も発していなかったから気づかなかったんだろう」

 

 俺は少し前に出て、乙坂(おとさか)隼翼(しゅんすけ)に話しかける。

 

「はじめまして、宮瀬(みやせ)(しょう)です」

乙坂(おとさか)隼翼(しゅんすけ)だ、よろしくな! で、“予知"能力者だって? 確か、奈緒(なお)ちゃんからの報告書じゃ――」

「いいえ、“予知”能力は持っていません」

「ん? どういうことだ?」

 

 熊耳(くまがみ)を見た。いや実際は見えていないから顔を向けただけだが。熊耳(くまがみ)は、こちらに向かい歩きながら答える。

 

「いや、間違いなく“予知"能力者だ。俺が見つけたんだからな」

 

 自信を持って言ってのける。

 

「だよなっ」

「それは、探知系能力対策の能力“偽り"で擬装した能力が“予知"能力だっただけのことです」

「俺対策の、“偽り"だと......!?」

「ちょ、ちょっと待て! ってことは......お前は特殊能力を......?」

「ええ、複数保有しています」

「いや、あり得ない! 有宇(ゆう)の“略奪"以外に、能力を複数持つ方法は見つかっていない!」

 

 隼翼(しゅんすけ)は、特殊能力を複数持つと言う俺の言葉に声を荒げる。その通りだ。俺が大学にいた頃にも、一人の人間が複数の能力を保有する事例はなかった。

 

「身に付けたんですよ。命を賭けて......」

「な、なんだと......!?」

 

 隣に来た奈緒(なお)は心配そうに、俺を見上げて手を繋いでくれた。

 

宮瀬(みやせ)さん......」

「大丈夫、ありがとう」

 

 隼翼(しゅんすけ)と前に立ち、対峙する。

 そう、すべてはこの時のために俺は生きてきた。

 

乙坂(おとさか)隼翼(しゅんすけ)......俺は、ずっとあんたを捜していた」

「どうしてだ......?」

 

 眉を潜め、険しい表情で俺の方へ顔を向ける。

 

「お前は、俺の運命を狂わせた元凶だ」

「俺が、お前の運命を......? どういう意味だ」

 

 俺の言葉を聞いた熊耳(くまがみ)は警戒して、隼翼(しゅんすけ)を守ろうと彼の隣に立った。

 

 気にせずに目を閉じて、大きくひとつ深呼吸をし、ゆっくりと話し始める。

 

 俺の過去を。そして未来で起きた、あの出来事を――。

 

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