会場の照明が落ちて、液晶モニターに大きく『
「はじまるっ!」
演奏が始まる前のテンションとはうってかわって、
『次はここ、愛すべきジャパンの地で世界初お披露目の曲をやるぜッ!』
「おおっ、新曲!」
思いがけないサプライズに、
『いくぜ!
サラが曲名を叫ぶ。激しい曲調の新曲「
今までずっと座って
「
「――えっ?」
肩を揺さぶり声をかけられた
「うっ......うわぁーっ!」
サラの歌声に負けないほどの叫び声が会場に響き渡った。その声の主は――
「
「
突然の事態に演奏は止まり、どよめく場内。俺と
「
「
声をかけても反応がない。運営スタッフが慌てて駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか!? 担架持ってきます!」
「お願いします、それから救急車も――」
救急車の要請を頼もうとする俺に
「ダメです。組織の病院に直接連絡をして――」
「大丈夫、任せてください。救急車をお願いします」
「は、はい、わかりました!」
運営スタッフと協力して慎重に、
視力を失い、見えていないハズなのに。
どうしてか、彼女の目は、俺にこう言っているに思えた。
――うまくやれよ、と。
* * *
「傷病者は!?」
「こちらです!」
「どうも、失礼します。ふむ......特に目立った外傷はないな、呼吸も安定している、だが意識はない。どういった状況で?」
「突然、頭を抱えて倒れこみました」
「頭を!? おい、すぐに脳外科がある病院に連絡......」
頭と聞いてすぐに別の隊員にすぐに指示を出そうとしたところへ割り込む。
「待ってください! 彼は、持病を持っています。この病院へ搬送してください」
先日、手の火傷の治療を受けた病院の情報を表示させた携帯の画面を見せて話す。組織の息が掛かっているこの病院なら科学者に捕まることはない。
「お知り合いですか!?」
「はい、同じ学校の友人です。以前も同じ症状で倒れたことがありました。この病院には彼の、
「そうでしたか、わかりました。大至急この病院に連絡をしてくれ!」
「了解です! ライブ会場で収容した傷病者は、持病があり――」
指示を受けた別の救急隊員は無線で傷病者、
「自分と彼女が付き添います。彼の家族へは、こちらから連絡を入れておきました」
「わかりました、ではお願いします。ストレッチャー!」
携帯を操作するふりをしながら小声で、
「うまくいったでしょ」
「はい。ですが、どうして......?」
「病院からだと、時間がかかりますから」
「あ、なるほど」
病院に直接要請して往復するよりも最寄りの消防署の救急車で搬送してもらった方が断然速い。
救急車が指定した病院に収容されると、すぐに検査が行われた。検査の結果は、異常はなくただ眠っているだけとのこと。
「大丈夫なんですかね?」
「きっと大丈夫ですよ。おそらく、
「なんですか?」
「確証はありませんけど、今日で見つかると思います」
「何がっすか?」
「
探し人である二人に名前を出したことで、
「なるほど、組織の息が掛かっている病院に
「正直、こういった形で利用することになってしまって申し訳なく思いますけど」
「今は、
「そう、ですね」
「うわあぁーッ!?」
再び叫び声をあげて、
「わぁっ! もう、驚かさないでくださいよー。危うく倒れるところだったじゃないっすか!」
「はぁはぁ......
「気分は、いかがですか?」
「
「病院っすよ。ライブの途中で倒れたんすよ、覚えてますか?」
心配そうに訊ねる
「......
「ほう、思い出したか」
ノックもなしに病室の扉が開き、一本に束ねた長髪を右の肩口から前に垂らした男子が入って来た。
「......誰だ?」
「フッ、“特殊能力発見"の能力者と言えばわかるか?」
「おお~、あなたですか。乾いてるとイケメンだな」
――釣れた。探していた一人、
「
「ん? この姿で会うのは、初めてのはずなんだがな......」
「お前は、兄さんのことを知ってるんだろ?」
「まーな、よく知っている」
「教えてくれ、すべてを......!」
「落ち着け。こっちもそのつもりで来た。黙ってついてくれば、お前が疑問に思っていることはすべて氷解する。そして、助けに行くんだ。妹さんを――」
「え? 今、なんて......?」
色々と混乱しているんだろうけど、ちゃんと演じてくれている。ありがたい。
「お前が、妹さんを助けに行くんだ。
「死んだ人間をどうやって助けられるんだっ!」
「今のお前なら、
「兄さんの能力――」
「どうした?」
――まずい、上手く演じてくれていたけど。ここらが限界か。
「あの、シュンスケさんって、あの
助け船を出そうとしたところで、
「ああ、そうだ」
「ええ~!? あなた、あの人の弟だったのか? ぜんぜん似てないな」
「ど、どうだっていいだろっ!?」
やや呆れ顔でタメ息をついた
「外に車を待たせてる。行くぞ」
「あの、あたしたちも行っていいですか? ずいぶんとご無沙汰していますので。挨拶をしたいのですけど」
「別に構わないが、お前は......」
「あなたが見つけた“予知"能力者ですよ。調査の時も何度もあたしたちを助けてくれています。
「......そうか。まあ、いいだろう。俺もお前と話したいことがあった。一緒に来い」
「ありがとうございます」
「いいえ、行きましょう」
しばらく高速道路を走っていた車は、やがて山中へと入っていった。舗装されていない林道を進み、少し開けた場所に停車した。
「ここからは歩きだ。ついてこい」
月明かりを頼りに山道を登り、大きな岩の前に立つと
「......すごいな」
「金だけはあるからな」
地下へと向かう階段を降る。
「すっげー! 撮ってもいいっすかっ?」
「ダメに決まってるだろ」
「ちっ」
「なんなんだ、ここは?」
「言わば、特殊能力の研究施設だ」
研究施設と聞いて、
「それは僕たちにとっても敵じゃないのか!?」
「違う。つべこべ言わずついてこい」
階段を下りきると厳重そうなセキュリティの扉が現れた。
扉の向こうは、エレベーターに直結していた。エレベーターに乗り、さらに地下へと潜っていく。
「厳重なんですね」
「最後の砦だからな」
「ところで話とは?」
「ああ、そうだったな。臨時教師を引き受けてくれた件だ。
「いえ、それはどうも」
大した話ではなかった。だけど少しだけ、この組織を束ねる
エレベーターを降りた俺たちの前は、
――目的地は近い。そう感じた俺は声を潜め、隣を歩く
「
「あ、はい、なんでしょうか?」
「俺は、彼らの返答次第で。彼らの......あなたの敵になるかもしれません」
「......大丈夫です」
そう言って、俺の手を取り優しく繋いだ。
いつもの重ねるだけの繋ぎ方じゃなく、離れないように指を絡めて......。
彼女の言った大丈夫は、「そんなことにはならない」と言う意味なのか。それとも「どんなことになっても味方でいてくれる」と言う意味なのか、どちらかはわからなかった。
ただ、手から伝わる温もりは......彼女の優しさは痛いほど伝わってきた。
「ここだ」
センサーに手を置くとセキュリティが解除され、一番奥の扉がゆっくりと自動で開いた。
「入れ」
「誰も、居ない......?」
「
声のした方向を見ると入口付近で、どこか
「
これが能力を使えない理由、やはり視力を失っているらしい。
「思い出していないのか?」
「ああ、どうやら
「記憶を消したって? なんのことっすか?」
質問をした
「その声は、
「はい、助けていただいた時以来です。あの日、あなたが示してくれた道を今も歩み続けています」
「そっか」
「おかげで助かってるよ。よくやってくれている」
「......ありがとうございます」
「で?
「混乱してるんだ。疑問だらけで......」
「んだよ、寂しいなー。つってもまー自業自得か」
「じゃあ全部話してやるとするか、なぁ? プー」
「ああ」
「では、長い長い。俺の“
“
* * *
そして、その代償として、視力と愛する弟妹との関係を断ち切った。
「はい、おしま~い」
とてつもなく重い話なのに当の本人は手を叩きながら軽いノリで言ってのけた。
「“
「
「いえ、今は順調に回復に向かってますので大丈夫です」
「能力で消されていたのか、兄さんとの記憶は......。それに、視力までなくして......」
「試してみたけど、やっぱり飛べなかった......。俺の能力、“
「
「それはな、
パチンッと指を鳴らした
「“略奪"? 確か夢でもそんなこと......」
「能力者の能力を奪い取る。それがお前の本当の
「な、なんだよ、それっ!」
気絶している間に夢で見た能力。そして
「あたしと
「
俺は、黙ったまま頷いた。
「ん? なあ、
初めて聞く俺の名に、
「臨時教師を引き受けてくれたヤツだ」
「ああ~、そうかそうか」
「ついでに俺が見つけた“予知”能力者でもある」
「"予知"能力? スゴいな、会ってみたいなー」
「ここにいますよ」
「えっ!? 居るのか?」
この場に居ると知って、
「ああ、そういえば今まで一言も発していなかったから気づかなかったんだろう」
俺は少し前に出て、
「はじめまして、
「
「いいえ、“予知”能力は持っていません」
「ん? どういうことだ?」
「いや、間違いなく“予知"能力者だ。俺が見つけたんだからな」
自信を持って言ってのける。
「だよなっ」
「それは、探知系能力対策の能力“偽り"で擬装した能力が“予知"能力だっただけのことです」
「俺対策の、“偽り"だと......!?」
「ちょ、ちょっと待て! ってことは......お前は特殊能力を......?」
「ええ、複数保有しています」
「いや、あり得ない!
「身に付けたんですよ。命を賭けて......」
「な、なんだと......!?」
隣に来た
「
「大丈夫、ありがとう」
そう、すべてはこの時のために俺は生きてきた。
「
「どうしてだ......?」
眉を潜め、険しい表情で俺の方へ顔を向ける。
「お前は、俺の運命を狂わせた元凶だ」
「俺が、お前の運命を......? どういう意味だ」
俺の言葉を聞いた
気にせずに目を閉じて、大きくひとつ深呼吸をし、ゆっくりと話し始める。
俺の過去を。そして未来で起きた、あの出来事を――。