アメリカで行ってきた研究、本来の能力、あとから身に付けた
「俺の“
「特殊能力を得る投薬だと? まさか、そんなモノが存在するのか......!」
「......
「はい、知っていました」
予想通りの答えだったのか、「そうか......」と呟くように言って、再び足下に視線を戻した。それから誰も言葉を口にすることなく、沈黙が訪れる。
数分間の沈黙を破ったのは、
「......それで、元凶を見つけたお前は、どうするつもりなんだ?」
彼の隣に立っていた
「別に、何も」
「長年、俺を探していたんだろ......? 正直、俺自身も、何度やり直したか覚えていないくらいだ。お前にとっては、本当に終わりの見えない時間だっただろう」
「まあ、見つけ出したら、とりあえず一発殴ってやろうと思っていましたけど」
「それなら、どうしてだ?」
俺は目を閉じて、ゆっくり、深くひとつ呼吸してから彼の疑問に答える。
「俺はずっと、私利私欲のために“
スポーツで良い結果を残したいとか、志望校に受かりたいとか、思い人が居て振り向いてもらいたいとか。そう言った個人的な私利私欲で、能力を乱用しているんだと思っていた。
「あなたの話を聞いて、違うと知った」
いや本当は、もうずっと前にわかっていた。
ただ、認めたくなかっただけだ。もし認めてしまったら、俺が歩いていた時間を、生きてきた意味を否定してしまうような気がしたから......。
それは全部、俺の弱さ。
でも今は、素直に受け入れられている。それはきっと、隣に大切が人が居てくれるから。
「
「どういう意味だ?」
「歴史を変えてでも、人の
――俺にも、助けたい人がいる。
きっと俺だけじゃない。誰もが誰かを、何かを想って生きているんだ。
「納得いきませんか?」
「ああ。知らなかったとは言え、俺の"
「正直最初は恨みました。けど今は、感謝しています」
今も隣に居て、ずっと手を繋いでいてくれている大切な人を見る。示し合わせたように同じタイミングで彼女も俺を見た。小さくうなづいて、視線を
「大切な人と出逢うことができました」
「それにあなたは、もう十分すぎる代償を支払っているじゃないですか」
視力を失い、愛する
「......そっか、すまない」
本当に申し訳なさそうな顔で謝罪の言葉を述べた。
「あぁ~、そうだ。ひとつだけありました」
「なんだ? 遠慮なく言ってくれ、俺に出来ることならなんでもする」
「あなただけにしか出来ないことです。すべてが終わったら、
「――わかった、約束する」
力強い返事だった。必ず果たしてくれる、そう思えた。まあ
そして、
「さあ、
「作戦を立てましょう」
「
ようやく顔を上げた。
「そうですね、あたしもそれがいいと思います。事前に計画を立てておけば、過去へ戻ったあとも円滑に進みます」
「
「いい友だちをもったな、
「中等部の見取り図はありますか?」
「
「ああ、ちょっと待ってろ」
「
崩壊の詳しい状況をよく知らなかった。現場保護のため規制線が張られていて中に入れなかったし、中等部校舎の約半分がブルーシートで覆われていたため外からでは詳細は分からなかった。本人から聞くのも酷な話と思って避けていたが、今更ながら忍び込んででも観ておくべきだったと後悔する。正直、こんなに早く訪れるとは思っていなかった。
「ここです。正門から向かって左側の角です」
崩壊現場を指で差す。場所は校舎の左端。
「なるほど、どういった状況で崩壊したか分かりますか?」
「いえ、あたしたちが現場に着いた時にはもう崩れてしまっていましたので......」
崩壊した現場の状況と助けられなかったことを思い出したのか、二人の表情が曇った。
「そうですか。校内の監視カメラの映像は?」
望みは薄いが、念のために一応聞いておく。
星ノ海学園は保護した特殊能力者たちのために、
「警察に押収されちまってる。現場検証って名目でな」
「バックアップは必ず取ってください。常に最悪を想定して動かなければなりません」
期待してはいなかったが、
「了解、組織を優先したとはいえ迂闊だった。
「モニタールームでリアルタイムで観ていた。映像が途切れた崩壊直後の詳しい状況は、
組織の創設メンバーの一人。いつもこの時間帯には、ここへ帰ってきているらしいのだが。
「
出来れば直接本人から聞きたかったが、聞けるだけありがたい。
「
「
「女子に追われてた? それに、カッターって......!」
様子からして、
「その女子生徒は誰か、特定できていますか?」
「いや、そこまではな。なにせ生徒数も多いし、映像も遠くではっきりとはな。だが、髪はお前くらいの長さで白いヘアバンドをしていた」
「......もしかして、あの子でしょうか」
心当たりがあったのか、
「心当たりがあるんですか?」
「はい。風邪をひいて欠席していた
「
「
「妹さんは、恨みを買うような
「カッターを持った女子生徒と特徴が似ている、
女子生徒は一時的に置いておき、実際に
「まずは、
「そうだな......。なにがファクターになるかわからない。
「ああ、わかった」
俺も
事前に“略奪"で奪っておけば、とりあえずは“崩壊"が発動することはなくなり、
あとは、なぜ“崩壊"が発動したかを知りたい。そして出来れば、
「次にですが。崩壊が起こった日......なにがあったかを知る必要があります」
「中等部に潜入しましょう」
「出来ますか?」
「はい、中等部に通っていた時の制服があります」
それなら周囲に警戒されることなく潜入できるな。
「僕も行く。
「ほう、頼もしいな」
真剣な顔で言った
「茶化すなよ。
「ああっ!」
「
「屋上に出られる扉があります。ですが普段は、安全面を考慮して施錠されていて外へは出られないハズです」
「なるほど......」
俺より早かったとはいえ、
「
「はい、あたしの能力を使えば見つかることはありません」
「能力?」
「あ、そういえば話していませんでしたね。あたしを見ていてください」
少し距離を取った
「あれ? 消えた」
「いや、僕には見えてる」
――
その言葉を合図にしたように、
「これがあたしの能力、“不可視"です。ただし対象は意識したひとりに対してだけっす」
「なるほど、尾行にはうってつけですね」
――正にステルス、ごきげんな能力だ。タイマンなら最強の能力だろう。
「では尾行は、
「はい、任せてください」
そして最後に、“
「
「
「それだと、
「なにか問題があるのか?」
「アメリカにいる可能性があります。事件が起こる前に渡米してしまったので」
「なら、アメリカに行く前に戻ればいいんじゃないか? いざとなったら“共鳴”って能力で“崩壊”もくい止められるんだろ?」
「まあ状況によりますけど。ですが、アメリカで調べたいことがあります。
「......最悪、
「わかりました。その時は、あたしたちで必ず守りきります」
「お願いします。では最後に確認します。
「ああ、わかった」
「よし、決まったな!
「わかったよ。兄さん」
「あとは任せたぞ、
「ああ、
二人は必ず妹を救い出す、その決意を固めた。
彼らの決意に、俺も覚悟を決めた。
――必ず訪れる未来、別れの未来。
隣にいる
「これでお別れです」
「......はい」
「顔を見せてください」
「......むりっす。わかってたけど......」
彼女の足元に、涙の粒が溢れ落ちた。
そう、わかってた。こうなることは......最初から。それでも一緒に居ることを望んでくれた。
「......早すぎます」
「仕方ないです。わかっていたことです」
「わかってます......。でも、とまらないっす......」
俺は、周りの目など気にもせず。
あの日の夜のように彼女を抱きしめ、優しく頭を撫でる。
「約束、守れなくてごめん」
「そうですよー。まだ、おうちデートしてないんすよ......」
「......うん」
「一緒に、DVD観て......」
「......うん」
「一緒に、料理して......」
「......うん」
「また一緒に、星空みたかったです......」
「......うん」
「だから、約束してください」
「約束?」
「はい」
抱きしめた腕の中で、俺にだけ聞こえる小さな声――。
「また、あなたの彼女にしてください」
「......いいんですか?」
「あなたじゃないと、いやっす」
「約束、します。必ず守ります」
「はい――」
「
「......はい」
「あなたのことが好きです、愛しています」
「はい、あたしもです」
苦しくならないように抱きしめる。
優しく、それでも強く、心から抱きしめた。
「
「だけど僕は、お前たちに......」
「
手探りに
「二人の覚悟を、想いを無駄にするなッ!」
「覚悟......そっか、これが――。兄さん、僕は行くよ、
「ああ、そうだ。行け、
視界が歪む、“
俺は腕の中の彼女を、
* * *
――ここは、どこだ......?
辺りが暗い、しばらくして目が慣れてきた。
柔らかな色の間接照明が灯っている。どうやら飛行機のシートに座っているようだ。座席のモニターで日付を確認する。“空中浮遊”の能力者を対処した日、日本時間の早朝。なら“崩壊”が起きるのは二日後か。
――......わかってたけど。
さっきまで確かに腕の中にあった温もりは、もう余韻すら残っていなかった。