Charlotte ~時を超える想い~   作:ナナシの新人

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Episode31 ~温もり~

 アメリカで行ってきた研究、本来の能力、あとから身に付けた能力(チカラ)、長い時間をかけて歩んできた過去。その全てを話し終えた。俺の過去を知っている奈緒(なお)以外の三人の反応は、三者三様だった。

 

「俺の“時空移動(タイムリープ)"が、お前を巻き込んだのか......」

「特殊能力を得る投薬だと? まさか、そんなモノが存在するのか......!」

 

 隼翼(しゅんすけ)は重苦しく、熊耳(くまがみ)は信じられないといった感じで戸惑い。足下に視線を落として聞いていた乙坂(おとさか)は顔を上げて、奈緒(なお)に問いかけた。

 

「......友利(ともり)は、知っていたのか?」

「はい、知っていました」

 

 予想通りの答えだったのか、「そうか......」と呟くように言って、再び足下に視線を戻した。それから誰も言葉を口にすることなく、沈黙が訪れる。

 数分間の沈黙を破ったのは、隼翼(しゅんすけ)だった。

 

「......それで、元凶を見つけたお前は、どうするつもりなんだ?」

 

 彼の隣に立っていた熊耳(くまがみ)が、警戒を強める。

 

「別に、何も」

「長年、俺を探していたんだろ......? 正直、俺自身も、何度やり直したか覚えていないくらいだ。お前にとっては、本当に終わりの見えない時間だっただろう」

「まあ、見つけ出したら、とりあえず一発殴ってやろうと思っていましたけど」

「それなら、どうしてだ?」

 

 俺は目を閉じて、ゆっくり、深くひとつ呼吸してから彼の疑問に答える。

 

「俺はずっと、私利私欲のために“時空移動(タイムリープ)"を繰り返しているんだと思っていました」

 

 スポーツで良い結果を残したいとか、志望校に受かりたいとか、思い人が居て振り向いてもらいたいとか。そう言った個人的な私利私欲で、能力を乱用しているんだと思っていた。

 

「あなたの話を聞いて、違うと知った」

 

 いや本当は、もうずっと前にわかっていた。奈緒(なお)から聞いた話や、星ノ海学園の生徒会のあり方で。本気で、能力者を保護するために活動していることはわかっていた。

 ただ、認めたくなかっただけだ。もし認めてしまったら、俺が歩いていた時間を、生きてきた意味を否定してしまうような気がしたから......。

 それは全部、俺の弱さ。

 でも今は、素直に受け入れられている。それはきっと、隣に大切が人が居てくれるから。

 

隼翼(しゅんすけ)さん、あなたは俺と同じだ」

「どういう意味だ?」

「歴史を変えてでも、人の(ことわり)に触れてでも助けたい人がいる。それは痛いほどわかりますから......」

 

 ――俺にも、助けたい人がいる。

 きっと俺だけじゃない。誰もが誰かを、何かを想って生きているんだ。

 

「納得いきませんか?」

「ああ。知らなかったとは言え、俺の"時空移動(タイムリープ)"が、お前を巻き込んでしまったのことは紛れもない事実だ。人生を狂わせちまった、それは償わせてくれ」

「正直最初は恨みました。けど今は、感謝しています」

 

 今も隣に居て、ずっと手を繋いでいてくれている大切な人を見る。示し合わせたように同じタイミングで彼女も俺を見た。小さくうなづいて、視線を隼翼(しゅんすけ)に戻す。

 

「大切な人と出逢うことができました」

 

 隼翼(しゅんすけ)に向けた言葉じゃない。これは、奈緒(なお)に向けて言った言葉。その想いは伝わり、繋いでいる手に少し力を入れて握ってくれた。

 

「それにあなたは、もう十分すぎる代償を支払っているじゃないですか」

 

 視力を失い、愛する弟妹(きょうだい)との関係を絶った。十分過ぎる代償。責める気など起こらない。

 

「......そっか、すまない」

 

 本当に申し訳なさそうな顔で謝罪の言葉を述べた。

 

「あぁ~、そうだ。ひとつだけありました」

「なんだ? 遠慮なく言ってくれ、俺に出来ることならなんでもする」

「あなただけにしか出来ないことです。すべてが終わったら、乙坂(おとさか)さんと歩未(あゆみ)さんを抱きしめてあげてください。心から」

「――わかった、約束する」

 

 力強い返事だった。必ず果たしてくれる、そう思えた。まあ乙坂(おとさか)の方は、戸惑って動揺していたけど。それは兄弟の問題だからノータッチにさせてもらおう。

 そして、隼翼(しゅんすけ)は話題を本題に変えた。本来の目的である、崩壊の能力に巻き込まれた妹の歩未(あゆみ)を助けるための話へ。

 

「さあ、有宇(ゆう)。俺の能力を奪え、使えなくても能力自体は失われていないハズだ。お前が過去に飛んで、歩未(あゆみ)を助け出すんだ」

 

 乙坂(おとさか)は視線を落としたまま、深く考え込んでいるようだった。本当に上手く行くか不安なんだろう。もし失敗すれば、もう一度あの絶望を味わうことになる。

 

「作戦を立てましょう」

宮瀬(みやせ)?」

 

 ようやく顔を上げた。

 

「そうですね、あたしもそれがいいと思います。事前に計画を立てておけば、過去へ戻ったあとも円滑に進みます」

友利(ともり)......すまない」

「いい友だちをもったな、有宇(ゆう)

 

 乙坂(おとさか)にかけた声は、とても嬉しそうに聞こえた。一度仕切り直し、歩未(あゆみ)を救出する作戦を立てるため状況整理を始めた。

 

「中等部の見取り図はありますか?」

熊耳(くまがみ)、頼む」

「ああ、ちょっと待ってろ」

 

 熊耳(くまがみ)は後ろの棚からファイルを取り出して、テーブルの上に中等部の見取り図を広げた。俺たちは、見取り図を囲むようにして立つ。

 

奈緒(なお)さん、どこが崩壊したんですか?」

 

 崩壊の詳しい状況をよく知らなかった。現場保護のため規制線が張られていて中に入れなかったし、中等部校舎の約半分がブルーシートで覆われていたため外からでは詳細は分からなかった。本人から聞くのも酷な話と思って避けていたが、今更ながら忍び込んででも観ておくべきだったと後悔する。正直、こんなに早く訪れるとは思っていなかった。

 

「ここです。正門から向かって左側の角です」

 

 崩壊現場を指で差す。場所は校舎の左端。

 

「なるほど、どういった状況で崩壊したか分かりますか?」

「いえ、あたしたちが現場に着いた時にはもう崩れてしまっていましたので......」

 

 崩壊した現場の状況と助けられなかったことを思い出したのか、二人の表情が曇った。

 

「そうですか。校内の監視カメラの映像は?」

 

 望みは薄いが、念のために一応聞いておく。

 星ノ海学園は保護した特殊能力者たちのために、隼翼(しゅんすけ)たちが買収したと言っていた。高等部の校舎には特殊能力者の状況を把握するため大量に監視カメラが設置されていた。おそらく中等部の方も同様のハズ。

 

「警察に押収されちまってる。現場検証って名目でな」

「バックアップは必ず取ってください。常に最悪を想定して動かなければなりません」

 

 期待してはいなかったが、隼翼(しゅんすけ)の返答は想像通りの答え。

 

「了解、組織を優先したとはいえ迂闊だった。有宇(ゆう)、戻ったら伝えてくれ。でも、俺の相棒が観ていた。な、プー」

「モニタールームでリアルタイムで観ていた。映像が途切れた崩壊直後の詳しい状況は、目時(めどき)から聞いている」

 

 組織の創設メンバーの一人。いつもこの時間帯には、ここへ帰ってきているらしいのだが。

 

目時(めどき)は今、他の仲間たちと別行動をしている。今日はまだ戻っていないんだ」

 

 出来れば直接本人から聞きたかったが、聞けるだけありがたい。

 

熊耳(くまがみ)さん、教えてください」

隼翼(しゅんすけ)と弟の妹は、カッターナイフを持った女子生徒に追われて、ここの最上階に追い込まれた」

 

 奈緒(なお)が指を差したところと同じ場所を差した。

 

「女子に追われてた? それに、カッターって......!」

 

 様子からして、乙坂(おとさか)も初耳だったらしい。それにしても刃物(カッター)か、確かに穏やかじゃないな。

 

「その女子生徒は誰か、特定できていますか?」

「いや、そこまではな。なにせ生徒数も多いし、映像も遠くではっきりとはな。だが、髪はお前くらいの長さで白いヘアバンドをしていた」

 

 奈緒(なお)の外見と比較して、カッターを持った女子生徒の特徴を話した。俺は二人に、なにか心当たりがないかを訊いた。

 

「......もしかして、あの子でしょうか」

 

 心当たりがあったのか、奈緒(なお)が呟いた。

 

「心当たりがあるんですか?」

「はい。風邪をひいて欠席していた歩未(あゆみ)ちゃんのお見舞い来ていたクラスメイトの中に、特徴が似ている子が居ました」

歩未(あゆみ)の見舞い? あっ! 歩未(あゆみ)を睨んでた、女子(アイツ)か!?」

歩未(あゆみ)を睨んでた?」

「妹さんは、恨みを買うような性格(タチ)じゃなさそうだったがな」

「カッターを持った女子生徒と特徴が似ている、歩未(あゆみ)さんを睨んでいたクラスメイトですか。彼女には注意しましょう」

 

 女子生徒は一時的に置いておき、実際に歩未(あゆみ)を救出する方法の算段に入った。

 

「まずは、歩未(あゆみ)さんを崩壊に巻き込ませないことが最重要です」

「そうだな......。なにがファクターになるかわからない。有宇(ゆう)、過去に戻ったら先ずはお前の“略奪"で、歩未(あゆみ)の“崩壊"を奪え」

「ああ、わかった」

 

 俺も隼翼(しゅんすけ)の意見に賛成。

 事前に“略奪"で奪っておけば、とりあえずは“崩壊"が発動することはなくなり、歩未(あゆみ)が巻き込まれることもなくなる。

 あとは、なぜ“崩壊"が発動したかを知りたい。そして出来れば、乙坂(おとさか)高城(たかじょう)タイプの任意発動能力か、俺の“継承"のような強制能力のどちらであるかを知りたい。もし後者であったなら次は、不意に乙坂(おとさか)が巻き込まれる可能性がある。

 

「次にですが。崩壊が起こった日......なにがあったかを知る必要があります」

「中等部に潜入しましょう」

「出来ますか?」

「はい、中等部に通っていた時の制服があります」

 

 それなら周囲に警戒されることなく潜入できるな。

 

「僕も行く。歩未(あゆみ)は僕が守る」

「ほう、頼もしいな」

 

 真剣な顔で言った乙坂(おとさか)を、熊耳(くまがみ)は若干茶化すように言った。

 

「茶化すなよ。乙坂(おとさか)さん、歩未(あゆみ)さんはあなたに任せます。崩壊を止められても、追われていたことは事実です。現場......歩未(あゆみ)さんが追い詰められた最上階で待ち伏せしてください」

「ああっ!」

奈緒(なお)さん、最上階になにがあるかわかりますか?」

「屋上に出られる扉があります。ですが普段は、安全面を考慮して施錠されていて外へは出られないハズです」

「なるほど......」

 

 俺より早かったとはいえ、乙坂(おとさか)も星ノ海学園に転校してきたばかりだと以前奈緒(なお)から聞いた。なら妹の歩未(あゆみ)も同様。施錠されていることを知らずに、最上階へ行ったということも考えられる。

 

奈緒(なお)さん、女子生徒を尾行できますか?」

「はい、あたしの能力を使えば見つかることはありません」

「能力?」

「あ、そういえば話していませんでしたね。あたしを見ていてください」

 

 少し距離を取った奈緒(なお)を見ていると、突然彼女の姿が消えた。

 

「あれ? 消えた」

「いや、僕には見えてる」

 

 ――乙坂(おとさか)には見えているのか。

 その言葉を合図にしたように、奈緒(なお)が同じ場所に姿を現して戻ってくる。

 

「これがあたしの能力、“不可視"です。ただし対象は意識したひとりに対してだけっす」

「なるほど、尾行にはうってつけですね」

 

 ――正にステルス、ごきげんな能力だ。タイマンなら最強の能力だろう。

 

「では尾行は、奈緒(なお)さんにお願いします」

「はい、任せてください」

 

 そして最後に、“時空移動(タイムリープ)"で戻る時間軸を決める。

 

乙坂(おとさか)さんが、"時空移動(タイムリープ)"で戻る時間軸ですが......」

歩未(あゆみ)が能力を発症する日でいいんじゃないか?」

「それだと、宮瀬(みやせ)が......」

「なにか問題があるのか?」

 

 隼翼(しゅんすけ)の提案はもっとだ。いつ能力に目覚めるかは個人差がある。まあ事件が起きた当日に奪うのがもっとも確実ではあるけど。と思っていると、奈緒(なお)が代わりに理由を説明してくれた。

 

「アメリカにいる可能性があります。事件が起こる前に渡米してしまったので」

「なら、アメリカに行く前に戻ればいいんじゃないか? いざとなったら“共鳴”って能力で“崩壊”もくい止められるんだろ?」

「まあ状況によりますけど。ですが、アメリカで調べたいことがあります。歩未(あゆみ)さんの発病時期によりますが、今回は生徒会メンバーで対処してもらう可能性が高いと思います」

「......最悪、宮瀬(みやせ)抜きか」

「わかりました。その時は、あたしたちで必ず守りきります」

「お願いします。では最後に確認します。乙坂(おとさか)さんが、隼翼(しゅんすけ)さんの“時空移動(タイムリープ)"を“略奪"で奪う。そして歩未(あゆみ)さんの能力、“崩壊"が発症する日までに戻り、この作戦を過去の奈緒(なお)さんに伝える」

「ああ、わかった」

 

 乙坂(おとさか)が力強く頷いたところで、隼翼(しゅんすけ)が勢いよく話し出した。

 

「よし、決まったな! 有宇(ゆう)、俺の能力を奪って歩未(あゆみ)を救ってくれ。そしてなにも知らない俺に、歩未(あゆみ)と必ず二人で一緒に、これまでの経緯を説明しに来てくれ」

「わかったよ。兄さん」

 

 乙坂(おとさか)は意識を集中させ、隼翼(しゅんすけ)に対して“略奪"を使う。そして五秒後、彼に乗り移っている間失っていた意識を取り戻した。

 

「あとは任せたぞ、有宇(ゆう)

「ああ、歩未(あゆみ)を救うために......!」

 

 二人は必ず妹を救い出す、その決意を固めた。

 彼らの決意に、俺も覚悟を決めた。

 

 ――必ず訪れる未来、別れの未来。

 

 隣にいる奈緒(なお)に向き合う。けど、彼女はうつむいていた。

 

「これでお別れです」

「......はい」

「顔を見せてください」

「......むりっす。わかってたけど......」

 

 彼女の足元に、涙の粒が溢れ落ちた。

 そう、わかってた。こうなることは......最初から。それでも一緒に居ることを望んでくれた。

 

「......早すぎます」

「仕方ないです。わかっていたことです」

「わかってます......。でも、とまらないっす......」

 

 俺は、周りの目など気にもせず。

 あの日の夜のように彼女を抱きしめ、優しく頭を撫でる。

 

「約束、守れなくてごめん」

「そうですよー。まだ、おうちデートしてないんすよ......」

「......うん」

「一緒に、DVD観て......」

「......うん」

「一緒に、料理して......」

「......うん」

「また一緒に、星空みたかったです......」

「......うん」

「だから、約束してください」

「約束?」

「はい」

 

 抱きしめた腕の中で、俺にだけ聞こえる小さな声――。

 

「また、あなたの彼女にしてください」

「......いいんですか?」

「あなたじゃないと、いやっす」

「約束、します。必ず守ります」

「はい――」

奈緒(なお)さん」

「......はい」

「あなたのことが好きです、愛しています」

「はい、あたしもです」

 

 苦しくならないように抱きしめる。

 優しく、それでも強く、心から抱きしめた。

 

乙坂(おとさか)、飛んでくれ......」

「だけど僕は、お前たちに......」

有宇(ゆう)有宇(ゆう)ッ!」

 

 手探りに乙坂(おとさか)の肩を掴み、隼翼(しゅんすけ)は強い口調で言い聞かせる。

 

「二人の覚悟を、想いを無駄にするなッ!」

「覚悟......そっか、これが――。兄さん、僕は行くよ、歩未(あゆみ)を救うために......!」

「ああ、そうだ。行け、有宇(ゆう)!」

 

 視界が歪む、“時空移動(タイムリープ)”が起こる時の感覚だ。もうすぐに過去に戻る、別れの時を迎える。

 俺は腕の中の彼女を、奈緒(なお)を抱きしめて続けた。意識を失う、その瞬間まで――。

 

           * * *

 

 ――ここは、どこだ......?

 辺りが暗い、しばらくして目が慣れてきた。

 柔らかな色の間接照明が灯っている。どうやら飛行機のシートに座っているようだ。座席のモニターで日付を確認する。“空中浮遊”の能力者を対処した日、日本時間の早朝。なら“崩壊”が起きるのは二日後か。

 乙坂(おとさか)は、上手くやれるだろうか。きっと大丈夫だ。奈緒(なお)がついている。

 ――......わかってたけど。

 さっきまで確かに腕の中にあった温もりは、もう余韻すら残っていなかった。

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