Charlotte ~時を超える想い~   作:ナナシの新人

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Episode2 ~特殊能力~

 15時。午後の取引を終え、同じタワー内の自宅に戻る前に商業施設が集まる一階の洋菓子屋で茶菓子を購入したのち、客人を迎えるための準備を始める。昼に連絡を寄越した編集者の話では、訪ねてくるのは星ノ海学園の生徒会長だけではなく、他にも数人の生徒会役員を引き連れて訪ねて来るという話だった。

 家を訪ねてくる全員が、自分と同じ高校生。それならこちらも制服の方が話はしやすいだろう、と思い。久しぶりに学校の制服に袖を通しながらおもてなしを考える。

 星ノ海学園の生徒会長は、同い年の女子。名前は、友利(ともり)奈緒(なお)。他の面々は、性別も学年も不明。とりあえず、コーヒーと紅茶を用意しておくことにして。同タワー内の洋菓子店で調達したケーキを箱ごと冷蔵庫に入れ、物置の奥から何ヵ月も前に株主優待で貰ったティーセットの入った箱を引っ張り出し、キッチン備え付けの食洗機に入れて、ダイニングテーブルでコーヒーメーカーとティーバッグ、スティックシュガーなどもてなしの準備を済ませる。

 少しゆっくりしていると、約束の時間の10分前まで迫っていた。

 洗浄、乾燥を終えた食器を並べつつ掛け時計に目をやる。クロークで部屋を訊ねる時間と移動時間を考えれば、五分ほどといったところだろう。しかし――。

 

「星ノ海学園の生徒会、ね」

 

 彼女たちを待っている間に星ノ海学園のホームページを調べたが、特に突出した点もないごく普通の私立学校だった。そんな学校の生徒会が一体どんな用件があるか、正直なところ皆目見当もつかないが、所詮相手は高校生。そこまで警戒する必要はない。

 ソファーに深く身体を預けて、客人の来訪を待つ。そして、ほぼ予想通りの時間にインターフォンが鳴った。どうやら到着したようだ。

 ――大丈夫、上手く出来る。よし、始めるとしよう。

 自身に言い聞かせ、ひとつ深い息を吐いて、席を立ち対応へ向かう。

 

「はい」

『星ノ海学園の友利(ともり)奈緒(なお)です』

「どうぞ」

 

 端末を操作して、オートロックを解除。一呼吸間があってから、ゆっくりと扉が開いた。

 一番最初に目に入ってきたのは、両サイドをヘアゴムで結んだセミロングの髪、大きく綺麗な瞳の少し幼さが残る女の子――この子が、友利(ともり)奈緒(なお)。彼女の後方に、男子二人と女子がひとり居る。

 

「星ノ海学園の生徒会の皆さんですね。お待ちしていました」

「今日は、急な申し出を受けてくださりありがとうございます」

 

 奈緒(なお)は小さく会釈し、丁寧に礼の言葉を述べた。

 

「いいえ。どうぞ、お上がりください」

「失礼しまーす。さあ行きますよ」

 

 人数分のスリッパを用意し、部屋に招き入れる。

 俺の後に続いてリビングに入った奈緒(なお)は「うっわ~、すっげ~!」と、とても興奮した様子で声を上げ、右手に構えたハンディカムを回し始めた。彼女から少し遅れて、三人がリビングに入ってくる。

 

「確かに、これは凄いな」

「壁一面がガラス張りですね。六本木の街を一望出来ますよ」

「わぁ~っ!」

 

 腰まで延びる髪の左側を黒いリボンでアップにした女子はパタパタと、一面ガラス張りの窓へ駆け寄って行った。二人の男子も歩いてだが、同じように窓際に立ち、窓の外に広がる街並みを眺めている。

 

「どうぞ、お掛けください」

 

 テンションが上がっている四人に微笑みかけながら、ソファーの方へ案内。ガラステーブルを挟み、星ノ海学園の生徒会と対峙。さっそく用件を訊ねる。

 

「どういった用件なのでしょうか?」

「はい。その前に――」

 

 奈緒(なお)は簡単に、他の三人を紹介を始めた。サイドアップの女生徒は、黒羽(くろばね)柚咲(ゆさ)。眼鏡を掛けている男子は、高城(たかじょう)丈士朗(じょうしろう) 。掛けていない方が、乙坂(おとさか)有宇(ゆう)という名前。そして年齢は、全員同じ同級生と判明。

 

「なあ、高城(たかじょう)

「なんでしょうか?」

友利(ともり)は、どうして――」

 

 男子二人はなにやら、小声でヒソヒソ話をしている。どうやら何かいつもと勝手が違うらしい。しかし奈緒(なお)は、特に気にするそぶりを見せず冷静に話しを切り出した。

 

「あなたは、光坂(ひかりざか)高校の学業免除の特待生だそうですね」

「ああー、はい。そうですね。一応」

 

 俺が今、在席している学校である光坂大学附属高校は、陽野森(ひのもり)高校と並び都内で一、二を争う屈指の進学校。しかしなぜ今、そんなことを確認する必要があるのだろうか。

 

「失礼ですが。直近の全国模試や高校の成績を調べさせてもらいました。どれも見事な成績です」

「それはどうも、ありがとうございます」

「それに、投資家としても成功されている」

 

 以前インタビューを受けた雑誌の特集記事をテーブルの上に広げた奈緒(なお)は、まるで反応を探るのように一瞬鋭い目を向けた。何か特別な理由があって接触を試みているのは確からしい。そこで俺はあえて「まだまだですよ」と謙遜して返し、こちらから切り出すことにした。

 

「本題をどうぞ」

 

 見透かされたにも関わらず、彼女は動じない。むしろ真剣な表情(かお)で、俺をまっすぐ見据えた。良い度胸をしている。

 

「あたしたちは、あなたが不正を行為を行って、学業と投資家としての成功を納めていると考えています」

「そうなんですか?」

 

 その想定外の言葉に俺は、奈緒(なお)から視線を外して他の三人に確認を求めた。彼女の言葉を肯定するように先ず一番に高城(たかじょう)が頷き、乙坂(おとさか)黒羽(くろばね)もひとつ遅れて同じように頷いた。どうやら三人とも、彼女と共通の認識を共有しているらしい。奈緒(なお)に視線を戻す。

 

「それでそれは、どういった方法で行っていると考えているんですか?」

 

 否定せずに不正の方法を聞いたことに対して、奈緒(なお)は――釣れた! と言わんばかりに若干口角をあげ、勝ち誇ったような表情を見せる。

 まあ、疑われたら先ず否定から入るのが一般的。おそらく何か確証があって来たんだろうけど。俺は、不正行為を何一つとして行っていない。その証拠にインサイダー取引での容疑はもちろんのこと、事情聴取すら一度も受けたことはない。

 だが、次に彼女から発せられた答えに、俺は――。

 

「――予知能力です!」

「⋯⋯予知能力ですか?」

 

 予知能力。考えもしていなかった言葉を聞いてた俺は、左手を口元に持っていき、少し下に視線を落とした。そのしぐさのせいなのか、彼女は更に続けて追い打ちをかけるようにたたみ掛ける。

 

「あなたは予知能力を使い、事前にテストの内容と株価の変動を把握している」

 

 ――しかし、まさか予知能力とはね。まったく、想定外もいいところだ。

 

「ですが。その能力(ちから)は思春期にのみ発病する突発性の病気のようなもので、いずれ消えて無くなります」

 

 ――使えると思ったが、よりよってこんな面倒な能力(モノ)に化けたものだ。これでは意味がないじゃないか。けど、どうやって能力を知った? 見ず知らずの相手にわざわざ編集者を通してアポを取ってきたくらいだ、何か確信があってのことだろう。

 

「あの! 聞いてますかっ?」

 

 考え事をしていると、奈緒(なお)は不機嫌そうに声を上げた。若干苛立ちを感じているような表情(かお)をしている。

 

「あ、はい、聞いてますよ。どうぞ、続けてください」

「ほんとっすか~?」

 

 目を細めて疑念と抗議の声を上げた彼女は、大きくタメ息をついて仕切り直して話を続けた。

 

「まーいいです。とにかく、このままその能力を使い続けると酷い人生を送ることになります」

「と、いいますと?」

「いずれ科学者に捕まり、実験台にされます」

 

 ――なるほど、それを知っているのか。しかし、一学生(いちがくせい)が知っているのは妙だ。表向きには普通の学園を装いつつも、ある程度情報を保持している組織と繋がっていると見て差し支えないだろう。更には、特殊能力を探知・探査出来る能力者がいる、と。

 

「そんな絵空事を信じろと?」

「まー、そう言うでしょうね」

 

 この切り返しは想定内と言うことらしい。つまり、今までにも同じ活動(こと)をしてきた実績がある。確定だな、探知能力が居る。

 

美砂(みさ)さん、お願いしまーす」

美砂(みさ)さん?」

 

 名前からして女性。でも奈緒(なお)以外の女子は、サイドアップの女子しか居ない。彼女は確か、黒羽(くろばね)柚咲(ゆさ)と紹介されたハズだけど――。

 

「はい? ――ったく、しょうがねぇーなぁ!」

 

 話を振られた、黒羽(くろばね)の雰囲気が一変した。

 彼女がパチンっと指をならすと、人差し指の先端から赤い焔が出現した。炎を自在に操る能力――さしずめ"発火"といったところか。制約次第ではあるが、なかなかレアな部類の能力。

 

「各々違いはありますが。あたしを含めて、ここにいる全員が特殊な能力を持っています。信じていただけましたか?」

 

 ――四人とも特殊能力者。さり気なく三人を流し見る。やはり居るのか、この中に、探知・探査系能力者が。

 

「仮にそうだとして、私にどうしろと?」

「我々の学校――星ノ海学園に転校してください。そして、能力が消えるまで通い続けてください」

 

 どちらに転ぶか分からないが面白い。なにより上手くいけば、あの日から止まっている時間を再び進めることができるかもしれない。

 

「ん? どうしました」

「いいえ、なんでも」

「そっすか。それで、返事の方ですが」

 

 それとは関係なく俺の答えは、話しを聞いた時から決まっている。

 

「わかりました、構いませんよ」

「おっ、マジっすか!」

「あれ? なんだ、すんなり行ったな」

「そのようですね」

「アタシのお陰だな!」

 

 得意気に胸を張る美砂(みさ)? あるいは、柚咲(ゆさ)。二重人格というヤツなのだろうか。とりあえず、最初の穏やかな女子を黒羽(くろばね)、口調の強い時は美砂(みさ)と認識しておくことにして、話を戻す。

 

「理解が早くて助かります。では、さっそく転校手続きの書類を――」

 

 奈緒(なお)は、雑誌を入れていたトートバックから入学案内の封筒を取り出した。その前に伝えることがある。

 

「ですが、あなたたちはひとつ勘違いしている事があります」

 

 その言葉に奈緒(なお)の手が止まり、顔上げてまっすぐ俺を見る。

 

「勘違いとは、何でしょうか?」

「私は、予知能力は持っていませんよ」

「⋯⋯信じてもらえたんじゃないんですか?」

「もちろん信じましたよ。目の前で、美砂(かのじょ)の特殊能力を見せられましたから」

「では、なぜですかー?」

 

 めんどーなヤツだな~、と言いたげに俺に問いかけた。

 

「先ほども言いましたが、()()能力は持っていないからです」

 

 俺の返答を受け、奈緒(なお)の眉尻がつり上がる。女の子がしていい顔じゃない。

 

「ああん!? なんだそりゃ、めんどくせぇーなっ! 燃やすぞっ!?」

「落ち着け! 美砂(みさ)!」

 

 俺の態度に痺れを切らした美砂(みさ)がキレ、手のひらから深紅の炎を発生させ威嚇してきた。乙坂(おとさか)高城(たかじょう)が慌てて止めに入るが止まらない。それどころか、無理に押さえつけようとしているから若干火の粉が舞っている。引火したら惨事になりかねない。

 ――仕方ない、使うか。

 精度にはやや不安が残るが、予知能力など持っていないと信じさせるには絶好の機会。そう思った矢先だった。

 

「火を消してください。スプリンクラーが発動します。そうなれば部屋中は水浸し、もちろんあたしたちも。濡れたまま電車に乗って帰るつもりっすか?」

「⋯⋯チッ、そいつはセンスがねぇな」

 

 奈緒(なお)の説得に素直に従い、美砂(みさ)は火を消した。

 

「水浸し⋯⋯」

「どうした? 高城(たかじょう)

乙坂(おとさか)さん、台風の中継を思い出してください。薄着の女性ばかりを狙う、あの卑猥なカメラワーク! つまり今、スプリンクラーが発動すれば服が透けたゆさり――」

『ひくなっ!』

 

 力説する高城(たかじょう)に、奈緒(なお)美砂(みさ)はぴったり声を揃えてツッコミを入れ。さらに美砂(みさ)には、「もう二度と柚咲(ゆさ)に近づくな!」と言われ必死に頭を下げて謝罪している。その様子にタメ息をつき呆れる奈緒(なお)乙坂(おとさか)

 ――もう、話どころじゃないな。

 ソファーから立ち上がり、俺は窓辺へ歩いていく。日が落ち始めた東京の街並みを眺めながら、彼女たちに提案を持ちかけた。

 

「今日は、ここまでにしましょう」

「⋯⋯そうだな、そうですね。今日のところは失礼します。行きましょう」

 

 俺の言葉をあっさり受け入れた奈緒(なお)は、三人にも帰ることを促した。あまりにも潔く引く彼女に、乙坂(おとさか)は問いかける。

 

「いいのか?」

「状況証拠だけで物的証拠は何もありませんから。仕方ないっしょ?」

 

 その奈緒(なお)の言葉の後に「は? なんで?」と、乙坂(おとさか)の声が聞こえた。

 その直後――強烈な違和感が身体を襲う。まるで体が支配されるような、とてつもない感覚に思わず笑いが込み上げてくる。

 必死に平静を保ちつつやや視線をずらすと、窓ガラス反射して、戸惑っている奈緒(なお)乙坂(おとさか)の姿が見えた。

 さっきのやり取りから見ておそらくコイツは、乙坂(おとさか)の能力か。冷静を装い振り返る。

 

「外まで見送ります」

「あ、いえ、大丈夫です。ここで失礼します」

「そうですか。では、お気をつけて」

 

 早足で部屋を出ようとする背中を声をかける。

 

友利(ともり)さん」

「ん、何ですか?」

「また」

「......はい」

 

 奈緒(なお)に声をかけたあと、訪てきた時と同じように微笑んで四人を玄関まで見送る。四人は玄関を出てエレベーターに向かうが、その途中で黒羽(くろばね)は振り返り、どこか観察するように俺を見つめてきた。

 不思議に思った俺は首を少し傾げて、黒羽(くろばね)に声をかける。

 

「どうしました?」

「あの~、前にどこかでお会いしたことありませんか?」

 

 話し方も雰囲気も部屋に来た時と同じに戻っていた。どうやら柚咲(ゆさ)になったらしい。やっぱり二重人格なんだろうか。

 それはとりあえず置いておいて、左手をアゴへ持っていき記憶を辿る。だがいくら記憶を辿っても、彼女に見覚えはない。

 

「いえ、初対面だと思いますよ」

「そうですか? じゃあわたしの勘違いですね、すみませんっ」

「いいえ。これから人通りも多くなります、お気をつけてお帰りください」

「はい、ありがとうございますっ」

 

 ペコっと頭を下げると奈緒(なお)たちの方に駆けていった。

 彼女がエレベーターに乗り、扉が閉まるのを確認してから俺は部屋に戻る。リビングのソファーに座って目を閉じ、先ほどのことを思い返す。彼女たちの用件は、俺の予測を遥かに越えたものだった。ただの私立高校だと思っていた星ノ海学園が、まさか特殊能力者を見つけ出し転校させることを目的としていたなんて。そんなことは頭の片隅にすら存在しなかった。

 ――それにしても“略奪"とは、本当に驚いた。

 これ程の能力(ちから)は、米国(むこう)でもお目にかかれなかった超レアな能力。 

 それに柚咲(ゆさ)、そして美砂(みさ)と呼ばれていた女子。多重人格なのか、特殊能力なのかはわからなかったけど。“発火"もユニークな能力だ。

 あとの二人⋯⋯奈緒(なお)と、眼鏡をかけた男子生徒高城(たかじょう)と言ったか、いったいどんな能力を保有しているのか興味がでてきた。また笑いが込み上げてくる。可笑しなモノだ。かつては憎しみさえ覚えていた特殊能力(チカラ)のハズが、こんなことを考えるなんてな。

 

「――よし」

 

 ポケットから携帯を取り出して、編集者から聞いた番号へショートメールを打つ。題名と用件を打ち終え、送信ボタンを押す。返信は来なかったが、代わりに約束のインターフォンが鳴った。ソファーを立ち応対。玄関のロックを解除すると、ゆっくりドアが開いた。

 玄関に立っていたのは、ショートメールを送った相手――友利(ともり)奈緒(なお)

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