スマホのアラームで目を覚ましたあたしはすぐ、自分に身に起こっている異変に気がついた。
「どうして、あたし......」
それは、頬を伝う涙。パジャマの袖で拭っても、また自然と溢れてくる。キャンプでの不規則な睡眠が原因、昨夜も遅くまで寝付けませんでしたし。それにしても、これはいったい何なのでしょうか。
そう、まるで大切な物をなくしてしまった時のような切ない気持ち、心にぽっかりと穴が空いてしまったみたいな。悲しい夢でも見ていたのだろうか。思い出そうとしても、そこだけ抜け落ちてしまっている様な感覚で上手く思い出せない。
「う~ん......あっ!」
考えごとをしている間に、登校時間が迫っていた。急いで支度を済ませて、預かったカギを持って家を出る。時間がなくて食べ損ねた朝ごはんは、星ノ海学園の購買のサンドイッチ。ホームルームが始まる前にジュースで流し込んで、午前の授業を受ける。午前最後の授業は、英語。
「あら。チャイムが鳴ったわね。ここまでにしましょ。それから今日の授業内容も期末試験の範囲だから、ちゃんと勉強しておくこと。いいわね?」
「ええー!」
不満の声が飛び交う。何やら、中間試験の時のデジャブを感じる、と思っているとこれまた以前と同じ様に授業終わりのタイミングで、スマホにメッセージが届いた。協力者の
どうやら新しい能力者が見つかったらしい。今からだとあと二十分ほど、お昼を調達する時間はありそう。
「おにー」
「あくまー!」
「うるさいわね、範囲広げるわよ! クラス委員、号令!」
「は、はい、起立!」
みんな揃って挨拶をして、昼休みに入った。あたしは隣の席の
「あら、
お昼を片手に生徒会室へ歩いていると、英語の授業を担当している
「こんにちは」
「今から、お昼なの?」
「任務が入ったので。生徒会室で済ませようかと」
「そう、大変ね」
「いえ、お気遣いありがとうございます。それでは、急ぎますので――」
軽く会釈をして、横を通り過ぎようとしたところで声をかけられた。
「根詰めすぎちゃダメよ」
「え?」
「最近、ちゃんと寝てないでしょ? 授業中も珍しく上の空だったわよ」
図星をつかれた。確かに、授業に集中できていませんでした。でも能力者保護は生徒会の使命、最優先事項。弱音を吐いていては生徒会長は務まらない。学業との両立をしっかりしないと、ですね。
「すみません、気をつけます」
「別に、叱ってる訳じゃないわ。ただ、何か想うことがあるんじゃないかと思って。生徒会以外のことで」
空港で見送ってから、もう12時間以上が経っている。予定通りなら、アメリカに到着しているはず。今、どの辺りに居るんでしょうか? まあ、さすがに大学にはまだ着いてないでしょうけど。
「あったみたいね、心当たり」
「あ、いえ、まあ......」
「失礼します」
急がないとお昼を食べる時間がなくなってしまいます。
「
「はい?」
再び呼び止められ、振り返る。
「あたしは、あなたの、あなたたちの味方だから。覚えておきなさい」
あたしは明確な返事はせずに会釈を返して、生徒会室へ急いだ。
今のは、いったいなんのことだったんでしょうか。
「能力は――“崩壊”」
生徒会の協力者で、特殊能力者を発見できる能力者である
新しく見つかった能力――“崩壊”。物理的なのか、精神の崩壊なのか詳しくはわかりませんが、能力の名前からして危険な能力な気がしてならない。
「“崩壊”ですか、何やら危険な響きですね。場所は――」
あたしと同じ懸念を感じている
「おや、これは......」
「どうしましたかー?」
「いえ、能力者の居場所は、我々が住む併設のマンションです」
「マンション?」
あたしも席を立ち、地図を確認する。地図上の星ノ海学園併設マンションに水滴が残っていた。
「ちょっといいか?」
部屋の隅で腕を組んでいた
「なんでしょう?」
「“崩壊”の能力者はおそらく、僕の妹だ」
「
「
「なるほど、辻褄は合いますね」
今日は登校していないくて、家で療養中。のほほんとしている、
「わかりました。ではお見舞いを兼ねて、
「待て。相手は病人だ。一斉に押し掛けると、
「では、そうしましょう。二人は、念のため他に欠席している生徒がいないか調べてください」
「了解いたしました。では
「はーいっ」
別の生徒である可能性を拭いきれないため、そちらの方は
あたしと
「ちょっと様子を見てくる。呼びに来るから、ここで待っていてくれ」と言われたので、玄関前で出てくるのを待つことに。そこへ、
でも、さっきの
玄関から、
「入ってくれ」
「おじゃましまーす」
家の中へ上がらせてもらい、
「
「こんにちは、体調はいかがですか?」
「この通り、もう平気なのです!」
「薬で一時的に熱が下がってるだけだ、おとなく寝ていろ」
「むぅ~、
それでも
「
「大勢で来ると疲れると思いまして。今日は、あたしだけです」
「そうなのですかー、
ああー、野球の時の約束っすね。
「
「ケーキをご馳走していただいたお礼に、あゆの料理を振る舞う約束をしていたのですー」
「そんな約束してたのか。残念だったな、また今度体調のいい時にしろ。僕から伝えておくから」
おでこに手を乗せて、
「はいなのですぅ~」
「悪夢の内容を聞き出してください。“崩壊”の能力の手がかりになるかもしれません」
玄関の外、部屋の前で廊下の手すりに両腕を乗せた
「聞いていますか?」
「ああ、聞いてるよ。なあ、
「なんですか?」
「もし僕が、未来から“
――未来......なるほど、そう言うことですか。
「信じますよ」
「そっか、なら話しは早い。明後日、
「死」という強烈なワードに少し動揺してしまいそうになる。でも、すべて合点がいきました。
「そうだったんですね。それは必ず成し遂げなければいけません」
「ああ......」
「お前と
「未来のことなので身に覚えはありませんが。どういたしまして」
――で、いいんですよね。あの人が、
けれど何やら、どこか申しわけなさそうな
「どうしました?」
「僕は、お前に謝らないといけないことがあるんだ」
「なんのことっすか?」
「お前は、お前たちは......いや、やっぱりなんでもない。僕が、話すことじゃなかった。忘れてくれ」
「そうっすか」
言いかけた口を噤んだ――あたしたちの間に、何かあったのかもしれない。言葉にすることを躊躇う程の事情、いったい何を意味しているのだろう。
「あ、そうだ。
「なんでそれを最初に言わないんっすか! それが一番大事っしょっ!」
まったく、いったいなんのために過去に戻って来たんだか。
あきれて出そうになったため息を飲み込む。
「わ、悪い。えっと、で作戦なんだけど――」
未来で立てたという作戦を詳しく聞き、あたしは腕を組んでうなづく。
「なるほど、わかりました。二人にも協力を頼みましょう。作戦に必要な物は、あたしが手配しておきます。あなたは先ず、
「ああ、わかってる。家に戻ったらすぐにでも奪うつもりだ」
「お願いします。ではまた明日学校で、おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
自分の家に帰ったあたしは、机の上にスクールバッグを置いて、制服もままベッドに腰をおろす。
「あたしたちの間に、何があったんですか?」
スマホの画面に表示されているあの人、
――今は、
今度の作戦が上手く行ったあかつきには、報告を兼ねて聞いてみようと、あたしは決意した。