Charlotte ~時を超える想い~   作:ナナシの新人

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Episode32 ~決意~

 スマホのアラームで目を覚ましたあたしはすぐ、自分に身に起こっている異変に気がついた。

 

「どうして、あたし......」

 

 それは、頬を伝う涙。パジャマの袖で拭っても、また自然と溢れてくる。キャンプでの不規則な睡眠が原因、昨夜も遅くまで寝付けませんでしたし。それにしても、これはいったい何なのでしょうか。

 そう、まるで大切な物をなくしてしまった時のような切ない気持ち、心にぽっかりと穴が空いてしまったみたいな。悲しい夢でも見ていたのだろうか。思い出そうとしても、そこだけ抜け落ちてしまっている様な感覚で上手く思い出せない。

 

「う~ん......あっ!」

 

 考えごとをしている間に、登校時間が迫っていた。急いで支度を済ませて、預かったカギを持って家を出る。時間がなくて食べ損ねた朝ごはんは、星ノ海学園の購買のサンドイッチ。ホームルームが始まる前にジュースで流し込んで、午前の授業を受ける。午前最後の授業は、英語。

 

「あら。チャイムが鳴ったわね。ここまでにしましょ。それから今日の授業内容も期末試験の範囲だから、ちゃんと勉強しておくこと。いいわね?」

「ええー!」

 

 不満の声が飛び交う。何やら、中間試験の時のデジャブを感じる、と思っているとこれまた以前と同じ様に授業終わりのタイミングで、スマホにメッセージが届いた。協力者の熊耳(くまがみ)が今、星ノ海学園へ向かっているという内容。

 どうやら新しい能力者が見つかったらしい。今からだとあと二十分ほど、お昼を調達する時間はありそう。

 

「おにー」

「あくまー!」

「うるさいわね、範囲広げるわよ! クラス委員、号令!」

「は、はい、起立!」

 

 みんな揃って挨拶をして、昼休みに入った。あたしは隣の席の黒羽(くろばね)さん、学食へ行くか話している乙坂(おとさか)さんと高城(たかじょう)にも用件を伝えて、お昼を調達してから生徒会室へ向かった。

 

「あら、奈緒(なお)ちゃんじゃない」

 

 お昼を片手に生徒会室へ歩いていると、英語の授業を担当している仲村(なかむら)先生と廊下でばったりと出くわした。

 

「こんにちは」

「今から、お昼なの?」

「任務が入ったので。生徒会室で済ませようかと」

「そう、大変ね」

「いえ、お気遣いありがとうございます。それでは、急ぎますので――」

 

 軽く会釈をして、横を通り過ぎようとしたところで声をかけられた。

 

「根詰めすぎちゃダメよ」

「え?」

「最近、ちゃんと寝てないでしょ? 授業中も珍しく上の空だったわよ」

 

 図星をつかれた。確かに、授業に集中できていませんでした。でも能力者保護は生徒会の使命、最優先事項。弱音を吐いていては生徒会長は務まらない。学業との両立をしっかりしないと、ですね。

 

「すみません、気をつけます」

「別に、叱ってる訳じゃないわ。ただ、何か想うことがあるんじゃないかと思って。生徒会以外のことで」

 

 仲村(なかむら)先生の心配は、生徒会の指命とはまったく違うことで。そして、思い当たってしまった、日本を飛び立つ直前に預かった自宅のカギのこと、あの人のことを――。

 空港で見送ってから、もう12時間以上が経っている。予定通りなら、アメリカに到着しているはず。今、どの辺りに居るんでしょうか? まあ、さすがに大学にはまだ着いてないでしょうけど。

 

「あったみたいね、心当たり」

「あ、いえ、まあ......」

 

 仲村(なかむら)先生は「行かなくていいの?」と言って、あたしに優しく微笑みかけてながら軽く首をかしげた。

 

「失礼します」

 

 急がないとお昼を食べる時間がなくなってしまいます。

 

奈緒(なお)ちゃん」

「はい?」

 

 再び呼び止められ、振り返る。

 

「あたしは、あなたの、あなたたちの味方だから。覚えておきなさい」

 

 あたしは明確な返事はせずに会釈を返して、生徒会室へ急いだ。

 今のは、いったいなんのことだったんでしょうか。

 

「能力は――“崩壊”」

 

 生徒会の協力者で、特殊能力者を発見できる能力者である熊耳(くまがみ)はテーブルの地図上に一滴の水を落とし、何事もなかったかのように生徒会室を出ていった。

 新しく見つかった能力――“崩壊”。物理的なのか、精神の崩壊なのか詳しくはわかりませんが、能力の名前からして危険な能力な気がしてならない。

 

「“崩壊”ですか、何やら危険な響きですね。場所は――」

 

 あたしと同じ懸念を感じている高城(たかじょう)は席を立ち、水滴が示した場所を確認。

 

「おや、これは......」

「どうしましたかー?」

「いえ、能力者の居場所は、我々が住む併設のマンションです」

「マンション?」

 

 あたしも席を立ち、地図を確認する。地図上の星ノ海学園併設マンションに水滴が残っていた。

 

「ちょっといいか?」

 

 部屋の隅で腕を組んでいた乙坂(おとさか)さんが、珍しく真面目な表情(かお)をして会話に割り込んできた。ただならぬ雰囲気を感じ取ったあたしも、真面目に聞くことにする。

 

「なんでしょう?」

「“崩壊”の能力者はおそらく、僕の妹だ」

歩未(あゆみ)ちゃん......根拠は?」

 

 乙坂(おとさか)さんは水滴が落ちた地図を指差して、妹の歩未(あゆみ)ちゃんが能力者である可能性が高い理由を話す。

 

歩未(あゆみ)は今日、風邪で学校を欠席している。こんな時間帯に家にいるってことは、妹で間違いない」

「なるほど、辻褄は合いますね」

 

 今日は登校していないくて、家で療養中。のほほんとしている、黒羽(くろばね)さんに視線を移す。メカニズムは不明ですが、兄弟姉妹は発病しやすい傾向にあることは事実、可能性としては十分あり得る。

 

「わかりました。ではお見舞いを兼ねて、歩未(あゆみ)ちゃんが能力者になってしまったか探ってみましょう」

「待て。相手は病人だ。一斉に押し掛けると、歩未(あゆみ)の負担になる。友利(ともり)、お前だけにしてくれ」

「では、そうしましょう。二人は、念のため他に欠席している生徒がいないか調べてください」

「了解いたしました。では柚咲(ゆさ)さん、我々は職員室で出欠席名簿を借りて手分けして調べましょう」

「はーいっ」

 

 別の生徒である可能性を拭いきれないため、そちらの方は高城(たかじょう)黒羽(くろばね)さんにお願いして、先に終わるであろう二人に生徒会室のカギを預け、四人一緒に生徒会室を後にして調査に向かう。

 あたしと乙坂(おとさか)さんは、向かいのコンビニでレトルトのお粥とスポーツドリンク、なめ茸、デザートにプリンを買って、あたしたちが生活している併設のマンションへ。

「ちょっと様子を見てくる。呼びに来るから、ここで待っていてくれ」と言われたので、玄関前で出てくるのを待つことに。そこへ、高城(たかじょう)からメッセージが届いた。高等部の名簿を調べ終え十人ほどが今日、病気や家の都合で欠席しているという情報と、今から中等部の方を調べるという内容。これで、歩未(あゆみ)ちゃん以外の可能性も出てきた。

 でも、さっきの乙坂(おとさか)さんの目からは、とても強い意思、決意の様なものを感じた。何か重大なことを成し遂げよういう強い決意を感じさせる、そんな目をしていました。

 玄関から、歩未(あゆみ)ちゃんと同じ中等部の男子一人と女子二人の計三人が出てきた。三人は歩未(あゆみ)ちゃんのクラスメイトで、お見舞いにきていたそうで。そしてほどなくして、乙坂(おとさか)さんが呼びに来た。

 

「入ってくれ」

「おじゃましまーす」

 

 家の中へ上がらせてもらい、歩未(あゆみ)ちゃんが休んでいる部屋へ。パジャマ姿の歩未(あゆみ)は、布団で横になっていた体を起こした。

 

友利(ともり)のお姉ちゃんなのですー」

「こんにちは、体調はいかがですか?」

「この通り、もう平気なのです!」

「薬で一時的に熱が下がってるだけだ、おとなく寝ていろ」

「むぅ~、有宇(ゆう)お兄ちゃん、大袈裟なのです~」

 

 それでも乙坂(おとさか)さんの言うことを素直に聞いて、布団に横になった歩未(あゆみ)ちゃんは、部屋のドアの方を見つめている。

 

友利(ともり)のお姉ちゃんだけなのですか?」

「大勢で来ると疲れると思いまして。今日は、あたしだけです」

「そうなのですかー、宮瀬(みやせ)のお兄さんとの約束を果たせればと思ったのですけど~」

 

 ああー、野球の時の約束っすね。

 

宮瀬(みやせ)と約束? 何の話だ?」

「ケーキをご馳走していただいたお礼に、あゆの料理を振る舞う約束をしていたのですー」

「そんな約束してたのか。残念だったな、また今度体調のいい時にしろ。僕から伝えておくから」

 

 おでこに手を乗せて、乙坂(おとさか)さんは穏やかな声で言い聞かせる。

 

「はいなのですぅ~」

 

 歩未(あゆみ)ちゃんが納得してくれたところで、本格的に探ることに。近くに座って、歩未(あゆみ)ちゃんと会話。学校のことや体調のこと、世間話を交えながらいろいろ話をしてみました。気になったのは今朝、悪夢を見たという話し。ですが、明確な確証とまではいかず、今日のところは夕食を一緒に食べておいとますることにしました。

 

「悪夢の内容を聞き出してください。“崩壊”の能力の手がかりになるかもしれません」

 

 玄関の外、部屋の前で廊下の手すりに両腕を乗せた乙坂(おとさか)さんは、夜空を見上げて黙り込んでいる。

 

「聞いていますか?」

「ああ、聞いてるよ。なあ、友利(ともり)

「なんですか?」

「もし僕が、未来から“時空移動(タイムリープ)”して来たって言ったら信じるられるか?」

 

 ――未来......なるほど、そう言うことですか。

 

「信じますよ」

「そっか、なら話しは早い。明後日、歩未(あゆみ)は“崩壊”の能力で死んでしまう。それを阻止するために、未来から助けに来たんだ」

 

「死」という強烈なワードに少し動揺してしまいそうになる。でも、すべて合点がいきました。

 

「そうだったんですね。それは必ず成し遂げなければいけません」

「ああ......」

 

 乙坂(おとさか)さんは、ゆっくりとあたしに顔を向けた。

 

「お前と宮瀬(みやせ)には感謝してる。歩未(あゆみ)を喪って塞ぎこんでいた僕に、歩未(あゆみ)を救う道を示してくれた。ありがとう」

「未来のことなので身に覚えはありませんが。どういたしまして」

 

 ――で、いいんですよね。あの人が、宮瀬(みやせ)さんが長い年月をかけて探し続けていた“時空移動(タイムリープ)”の能力を使って戻ってきたのなら、わだかまりも解けたんでしょうし。

 けれど何やら、どこか申しわけなさそうな表情(かお)を浮かべている。

 

「どうしました?」

「僕は、お前に謝らないといけないことがあるんだ」

「なんのことっすか?」

「お前は、お前たちは......いや、やっぱりなんでもない。僕が、話すことじゃなかった。忘れてくれ」

「そうっすか」

 

 言いかけた口を噤んだ――あたしたちの間に、何かあったのかもしれない。言葉にすることを躊躇う程の事情、いったい何を意味しているのだろう。

 

「あ、そうだ。宮瀬(みやせ)が、歩未(あゆみ)を救出する作戦を立ててくれたんだ」

「なんでそれを最初に言わないんっすか! それが一番大事っしょっ!」

 

 まったく、いったいなんのために過去に戻って来たんだか。

 あきれて出そうになったため息を飲み込む。

 

「わ、悪い。えっと、で作戦なんだけど――」

 

 未来で立てたという作戦を詳しく聞き、あたしは腕を組んでうなづく。

 

「なるほど、わかりました。二人にも協力を頼みましょう。作戦に必要な物は、あたしが手配しておきます。あなたは先ず、歩未(あゆみ)ちゃんの能力を本当の能力“略奪”で奪ってください。すべてはそこからです」

「ああ、わかってる。家に戻ったらすぐにでも奪うつもりだ」

「お願いします。ではまた明日学校で、おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

 

 自分の家に帰ったあたしは、机の上にスクールバッグを置いて、制服もままベッドに腰をおろす。

 

「あたしたちの間に、何があったんですか?」

 

 スマホの画面に表示されているあの人、宮瀬(みやせ)さんの名前に向かって問いかけても、当然返事は返ってこない。通話ボタンに伸ばしたかけた指を止める。今、聞く勇気を、あたしは持ち合わせていなかった。

 ――今は、歩未(あゆみ)ちゃんの救出に全力を注ぐことだけに集中しましょう。

 今度の作戦が上手く行ったあかつきには、報告を兼ねて聞いてみようと、あたしは決意した。

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