「......また、ですか」
朝起きたあたしの目から、また涙が頬を伝っていた。
今まで、こんなことは一度もなかったのに。しかも、二日も続けてだなんて......。自分の体に異変が起きているのではないかと、少しだけ不安が過る。
「よし」
こんな時は、
「あれ?
学校は昼休みに入り、生徒会室でお昼ご飯を食べていると突然。
「何がですか?」
「今日も、目が赤いですよ?」
「ああー、起きたら涙がでていたんです」
「
「違います。どうして、あの人の名前が出てくるんですか? ただ、夢を見ていただけです」
「夢?」
そういえば昨日も、夢を見ていたような......ダメ。やっぱり、上手く思い出せない。深い霧に包まれている様な、不思議な感覚。でもまあ、夢なんて起きたら大抵は忘れているモノですし。
それなのに、
「悲しい夢だったんですか?」
「いえ、どちらかというと幸せな夢だったような気がするんですが、よく覚えてないんっすよ」
「幸せなのに涙が出ていたんですか? とっても不思議ですねー」
「そうですねー」
テキトーな返事でやり過ごし、放課後。生徒会メンバー全員が生徒会室に集まったところで昨夜、
「と言うことで明日は、
「了解しました!」
「わたしもがんばりますっ!」
「二人とも、すまない......」
「なにを言っているんですか? 友だちではないですか」
「そうですよー」
「......ああ、そうだな、ありがとう。明日は頼むな」
「はい、お任せください!」
「みんなでガンバりましょーっ」
二人とも気合い十分といった感じ、空回りしなければいいんですが。さてと、あたしも準備に取りかかるとしますか。中等部の制服を調達するため、今日はこれで解散にした。
翌朝、姿見の前で身だしなみを整えているあたしは、いつもの高等部の制服ではなく中等部の制服を身にまとっている。最後にこの制服に袖を通したのは卒業式の時なので、おおよそ四ヶ月ぶりくらい。時間はそれほど経っていないのに、気持ち窮屈に感じるのは成長していると言うことなのでしょうか。
――おっと、こんなことしている場合ではありませんね。
今日は中等部へ潜入するためスクールバッグは持たずに、スマホと家のカギ、それと紙袋を持っていつもより早めに家を出て、同じマンションの
「
「おはようございまーす。これ、中等部の制服です」
制服の入った紙袋を渡すと「ありがとうございますっ。ではさっそく着替えて来ますねっ」と言って部屋へ戻っていった。彼女が着替えて出てくるのを外で待つ。そこへ
「
「その格好は?」
あたしは挨拶を返すのも忘れて、訊いていた。
「実は、制服のサイズが合わなくなっていたんです。どうやら鍛え過ぎてしまったようですね......!」
なぜか得意気に、メガネを直しながら答える。
「まあそんな訳で教師に変装してみた所存です」
「そーですかー」
一瞬でバレると思いますけど、違和感しかないですし。
「お待たせしました~」
着替え終えた
「どうでしょう、変じゃないですか?」
「問題ありません、似合ってますよ。サイズの方はいかがですか?」
「はい、大丈夫ですっ」
「そうですか、それは良かったです」
「
「まあ、数ヵ月前まで着ていたので。さて行きますよ」
「はいっ」
中等部へ向かい歩き出したあたしたちを、意識を取り戻した
中等部の校門前に着くと、ちょうど
「おはようございます」
「ん? お前たちか、おはよう」
「
「ああ、熱も下がったからな。ところで、お前はなんだ?」
あきらかに一人浮いている
「見てわかりませんか?」
「ああ、わからん」
「そうですか、ではお教えしましょう! 私は、どう見ても中学生には見えないとの判断で教師に変装です!」
眼鏡をクイッとあげて、ビシッと姿勢をただし、ネクタイを直す仕草をして見せた。
「そ、そうか......」
妙なテンションの
「あなたの分の制服も用意してますけど?」
「いや、僕はこのままでいい。
「そうですか、わかりました。ですが、教師に見つかると厄介ですので慎重にお願いします」
「ああ、わかった。じゃあみんな、頼むな」
「はいっ。
「おおー! 因みに命を救うおまじないはありません!」
「すみませんっ!」
「さぁーこっちでーす。裏口から行きましょう」
「あ、ああ......」
この場にそぐわない緊張感皆無な二人に対し、どう反応していいか困っている
「“崩壊"は、奪いましたか?」
「ああ、昨夜奪った」
「そうですか、これで“崩壊”に巻き込まれることはなくなりましたね。名前の方は?」
「
「わかりました。彼女の尾行は任せてください。二人もいいっすね?」
先ほどまでとは打って変わって、二人とも真面目に返事をした。裏口から校舎へ入り、それぞれ行動を開始する。
「おい、お前はここの生徒か!?」
「は、はい、この学校の教師ですがっ、なにかっ!」
「まったく見覚えがないな。怪しいヤツだな、職員室まできてもらえるかっ!」
「い、いや、いや、その......はいっ! 行きますともっ、だから......!」
はい、
一瞬で中等部の教師にバレて、職員室に連行されて行きました。まあこれは想定内です。むしろ囮役になってくれて行動しやすくなりました。これを狙っていたんですかね。
とにかくあたしと
「あれ? キミ、もしかしてゆさりんじゃね?」
「えっ? いえ、違いますよ~っ」
男子生徒に指摘され、わざとらしく口笛を吹きながらごまかそうとしていますが、そんなごまかしが通じる訳もなく。あっと言う間に大勢の生徒たちに囲まれて大騒ぎになった。当然教師が対応に来る。あたしは、この騒ぎに乗じて
クラスの前に無事到着。教室の扉を開けて、近くにいた女子生徒に話しかける。
「
「
探してくれている間に教室内を確認する。窓側の席で女子と話をしている
「あっ、いた。
「......はい?」
呼び掛けに、ひとりの女子が顔を上げた。
あの子が、
中等部一階の廊下。未来で“崩壊”が起こったと言う昼休み。あたしは能力を使って、
「あれ?
そこへ、
「あなたが、来たせいだ......」
「え? なにが?」
「
「
――男子の名前?
「
なるほど、そう言う理由でしたか。片想いをしている男子が、自分じゃない別の子にアプローチをしているのが気に入らないと。ようするに嫉妬ですね。まあ気持ちは分からなくはないですけど。ですが、それを
――って、どうしてあたし、あの子の気持ちがわかるだなんて......おっと。
最上階に追い詰められた
「あなたのせいだ......」
「ち、違うよっ!」
「だから......あなたが痛い目にあうのっ!」
カッター持った右手を振り上げ、
「だ、だれ!?」
突然現れた
「
「ちょっと脅させてもらう......!」
「えっ? えっ!? なっ、なにが......っ!?」
連続して起こる突然の出来事に
――あとはあなたの仕事です、
この場を
「いかがでしたか? 作戦の方は」
「もう大丈夫です」
「そうですか」
「よかったです~」
「お疲れさまでした。今日は、これで解散にしましょう」
「午後の授業がありますけど?」
「サボっても内申に影響はありませんので」
「そうですね、
ひと足先に中等部の敷地を出て二人を見送り、スマホを取り出す。そして報告をするために、電話帳のアプリで
表示されてた名前を見て、少し緊張してきた。
でも......未来でなにがあったのか、あたしは知りたい。
胸に手を当て、ひとつ深呼吸をして、少し勇気を出して、あたしは通話ボタンをタップした。