Charlotte ~時を超える想い~   作:ナナシの新人

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Episode33 ~少しの勇気~

「......また、ですか」

 

 朝起きたあたしの目から、また涙が頬を伝っていた。

 今まで、こんなことは一度もなかったのに。しかも、二日も続けてだなんて......。自分の体に異変が起きているのではないかと、少しだけ不安が過る。

 

「よし」

 

 こんな時は、ZHIEND(ジエンド)を聴くのが一番。一昨日の夜も、昨日の夜も、ZHIEND(ジエンド)の音楽を聞いたお陰で心が休まりましたし。ベットを降りたあたしは、勉強机に置いてあるパソコンを立ち上げて、ZHIEND(ジエンド)を流しながら登校の準備を始めた。

 

「あれ? 友利(ともり)さん、どうしたんですかー?」

 

 学校は昼休みに入り、生徒会室でお昼ご飯を食べていると突然。黒羽(くろばね)さんが寄ってきた。

 

「何がですか?」

「今日も、目が赤いですよ?」

「ああー、起きたら涙がでていたんです」

宮瀬(みやせ)さんのことですか?」

「違います。どうして、あの人の名前が出てくるんですか? ただ、夢を見ていただけです」

「夢?」

 

 そういえば昨日も、夢を見ていたような......ダメ。やっぱり、上手く思い出せない。深い霧に包まれている様な、不思議な感覚。でもまあ、夢なんて起きたら大抵は忘れているモノですし。

 それなのに、黒羽(くろばね)さんはなぜか食いついてきた。他人の夢の話しなんて対して面白いとは思わないんですけど。

 

「悲しい夢だったんですか?」

「いえ、どちらかというと幸せな夢だったような気がするんですが、よく覚えてないんっすよ」

「幸せなのに涙が出ていたんですか? とっても不思議ですねー」

「そうですねー」

 

 テキトーな返事でやり過ごし、放課後。生徒会メンバー全員が生徒会室に集まったところで昨夜、乙坂(おとさか)さんから聞いた“崩壊"の件を、高城(たかじょう)黒羽(くろばね)さんにも説明する。

 

「と言うことで明日は、歩未(あゆみ)ちゃんを助けるために中等部へ潜入します」

「了解しました!」

「わたしもがんばりますっ!」

「二人とも、すまない......」

「なにを言っているんですか? 友だちではないですか」

「そうですよー」

「......ああ、そうだな、ありがとう。明日は頼むな」

「はい、お任せください!」

「みんなでガンバりましょーっ」

 

 二人とも気合い十分といった感じ、空回りしなければいいんですが。さてと、あたしも準備に取りかかるとしますか。中等部の制服を調達するため、今日はこれで解散にした。

 翌朝、姿見の前で身だしなみを整えているあたしは、いつもの高等部の制服ではなく中等部の制服を身にまとっている。最後にこの制服に袖を通したのは卒業式の時なので、おおよそ四ヶ月ぶりくらい。時間はそれほど経っていないのに、気持ち窮屈に感じるのは成長していると言うことなのでしょうか。

 ――おっと、こんなことしている場合ではありませんね。

 今日は中等部へ潜入するためスクールバッグは持たずに、スマホと家のカギ、それと紙袋を持っていつもより早めに家を出て、同じマンションの黒羽(くろばね)さんの部屋を訪ねる。部屋のインターフォンを押すと、すぐに反応があった。

 

友利(ともり)さん、おはようございますっ」

「おはようございまーす。これ、中等部の制服です」

 

 制服の入った紙袋を渡すと「ありがとうございますっ。ではさっそく着替えて来ますねっ」と言って部屋へ戻っていった。彼女が着替えて出てくるのを外で待つ。そこへ高城(たかじょう)がやって来た。しかも、なぜかスーツ姿で髪も七三分けにしている。

 

友利(ともり)さん、おはようございます」

「その格好は?」

 

 あたしは挨拶を返すのも忘れて、訊いていた。

 

「実は、制服のサイズが合わなくなっていたんです。どうやら鍛え過ぎてしまったようですね......!」

 

 なぜか得意気に、メガネを直しながら答える。

 

「まあそんな訳で教師に変装してみた所存です」

「そーですかー」

 

 一瞬でバレると思いますけど、違和感しかないですし。

 

「お待たせしました~」

 

 着替え終えた黒羽(くろばね)さんが、部屋から出てきた。それと同時に、高城(たかじょう)の動きが止まる。

 

「どうでしょう、変じゃないですか?」

「問題ありません、似合ってますよ。サイズの方はいかがですか?」

「はい、大丈夫ですっ」

「そうですか、それは良かったです」

友利(ともり)さんも、制服似合ってますねー」

「まあ、数ヵ月前まで着ていたので。さて行きますよ」

「はいっ」

 

 中等部へ向かい歩き出したあたしたちを、意識を取り戻した高城(たかじょう)が走って追いかけて来たのは、数分後のことだった。

 中等部の校門前に着くと、ちょうど歩未(あゆみ)ちゃんが校庭へ入っていくところでした。元気よく走っていった妹の後ろ姿を見送っている、乙坂(おとさか)さんの背中に声をかける。

 

「おはようございます」

「ん? お前たちか、おはよう」

歩未(あゆみ)ちゃんは、無事に登校したみたいですね」

「ああ、熱も下がったからな。ところで、お前はなんだ?」

 

 あきらかに一人浮いている高城(たかじょう)に、乙坂(おとさか)さんは疑問をぶつける。

 

「見てわかりませんか?」

「ああ、わからん」

「そうですか、ではお教えしましょう! 私は、どう見ても中学生には見えないとの判断で教師に変装です!」

 

 眼鏡をクイッとあげて、ビシッと姿勢をただし、ネクタイを直す仕草をして見せた。

 

「そ、そうか......」

 

 妙なテンションの高城(たかじょう)に戸惑う乙坂(おとさか)さんは、高等部の制服を着ていた。

 

「あなたの分の制服も用意してますけど?」

「いや、僕はこのままでいい。歩未(あゆみ)を......兄として助けたい」

「そうですか、わかりました。ですが、教師に見つかると厄介ですので慎重にお願いします」

「ああ、わかった。じゃあみんな、頼むな」

「はいっ。歩未(あゆみ)ちゃんの命、絶対に救いましょー、おお~っ!」

「おおー! 因みに命を救うおまじないはありません!」

「すみませんっ!」

「さぁーこっちでーす。裏口から行きましょう」

「あ、ああ......」

 

 この場にそぐわない緊張感皆無な二人に対し、どう反応していいか困っている乙坂(おとさか)さんをうながして、校舎の裏口へと回る。

 

「“崩壊"は、奪いましたか?」

「ああ、昨夜奪った」

「そうですか、これで“崩壊”に巻き込まれることはなくなりましたね。名前の方は?」

小西(こにし)歩未(あゆみ)のクラスメイトだ。クラスは1-C」

「わかりました。彼女の尾行は任せてください。二人もいいっすね?」

 

 先ほどまでとは打って変わって、二人とも真面目に返事をした。裏口から校舎へ入り、それぞれ行動を開始する。

 

「おい、お前はここの生徒か!?」

「は、はい、この学校の教師ですがっ、なにかっ!」

「まったく見覚えがないな。怪しいヤツだな、職員室まできてもらえるかっ!」

「い、いや、いや、その......はいっ! 行きますともっ、だから......!」

 

 はい、高城(たかじょう)脱落と。

 一瞬で中等部の教師にバレて、職員室に連行されて行きました。まあこれは想定内です。むしろ囮役になってくれて行動しやすくなりました。これを狙っていたんですかね。

 とにかくあたしと黒羽(くろばね)さんは、歩未(あゆみ)ちゃんのクラスへと向かう。

 

「あれ? キミ、もしかしてゆさりんじゃね?」

「えっ? いえ、違いますよ~っ」

 

 男子生徒に指摘され、わざとらしく口笛を吹きながらごまかそうとしていますが、そんなごまかしが通じる訳もなく。あっと言う間に大勢の生徒たちに囲まれて大騒ぎになった。当然教師が対応に来る。あたしは、この騒ぎに乗じて歩未(あゆみ)ちゃんのクラスへ急ぐ。

 クラスの前に無事到着。教室の扉を開けて、近くにいた女子生徒に話しかける。

 

小西(こにし)さんは、いらっしゃいますかー?」

小西(こにし)さんですか? えっと......」

 

 探してくれている間に教室内を確認する。窓側の席で女子と話をしている歩未(あゆみ)ちゃんを見つけた。歩未(あゆみ)ちゃんを意識して能力を使い、視認されないようにしておく。

 

「あっ、いた。小西(こにし)さ~んっ。呼ばれてるよー」

「......はい?」

 

 呼び掛けに、ひとりの女子が顔を上げた。

 あの子が、小西(こにし)さんですか。やっぱり歩未(あゆみ)ちゃんのお見舞いに来ていた女子のひとりですね。顔を確認したあたしは、彼女に気付かれる前に、この場を後にした。

 中等部一階の廊下。未来で“崩壊”が起こったと言う昼休み。あたしは能力を使って、小西(こにし)さんを尾行していた。なにかをポケットに入れて教室を出た彼女は、ひと気の少ない廊下の角を曲がったところで立ち止まった。まるでなにかを待っているように、うつむいたまま微動だにしない。

 

「あれ? 小西(こにし)さん?」

 

 そこへ、歩未(あゆみ)ちゃんがやって来た。

 

「あなたが、来たせいだ......」

「え? なにが?」

 

 歩未(あゆみ)ちゃんはなんのことかわからず、小西(こにし)さんに訊ねる。

 

及川(おいかわ)くんと......」

及川(おいかわ)くんと?」

 

 ――男子の名前?

 

及川(おいかわ)くんと二人きりでお弁当食べたり、付き合っていたハズなのに......。あなたがやって来てからっ。及川(おいかわ)くんが、及川(おいかわ)くんがっ、まるで私のことをまるで忘れたみたいにあなたのことばかりっ!」

 

 なるほど、そう言う理由でしたか。片想いをしている男子が、自分じゃない別の子にアプローチをしているのが気に入らないと。ようするに嫉妬ですね。まあ気持ちは分からなくはないですけど。ですが、それを歩未(あゆみ)ちゃんにぶつけるのは筋違いです。擁護は出来ませんし、当然見逃すことも出来ません。

 ――って、どうしてあたし、あの子の気持ちがわかるだなんて......おっと。

 小西(こにし)さんは、スカートのポケットからカッターナイフを取り出し、刃を剥き出しにした。歩未(あゆみ)ちゃんは危険を感じて、背を向けて走り出した。廊下を追われて、階段を駆け上がっていく。乙坂(おとさか)さんが待つ、最上階の踊り場へ向かって。

 最上階に追い詰められた歩未(あゆみ)ちゃんは、扉を開けようとするが扉には施錠されていて開かない。威圧するようにカッターの刃を出し入れしながら獲物を追い詰めるかように、小西(こにし)さんはゆっくりと階段を上がってくる。

 

「あなたのせいだ......」

「ち、違うよっ!」

「だから......あなたが痛い目にあうのっ!」

 

 カッター持った右手を振り上げ、歩未(あゆみ)ちゃんに向け振りかざそうとした刹那、乙坂(おとさか)さんがロッカーから飛び出して、歩未(あゆみ)ちゃんを背中に隠して庇った。

 

「だ、だれ!?」

 

 突然現れた乙坂(おとさか)さんに、小西(こにし)さんは動揺している。ナイスタイミングですね。

 

有宇(ゆう)お兄ちゃんっ!」

「ちょっと脅させてもらう......!」

 

 福山(ふくやま)さんから奪った“念動力"を使って、踊り場のガラスをすべて割った。怯んだ小西(こにし)さんが落としたカッターナイフを、あたしは階段の下に蹴り落とし、ハサミを使って彼女の長い前髪を切り落とす。

 

「えっ? えっ!? なっ、なにが......っ!?」

 

 連続して起こる突然の出来事に小西(こにし)さんは、動揺を隠せず慌てふためく。

 ――あとはあなたの仕事です、有宇(ゆう)お兄ちゃん。

 この場を乙坂(おとさか)さんに任せて、散らばったガラス片を避けながら階段を下り、裏口から校舎の外へ出る。すると、黒羽(くろばね)さんと高城(たかじょう)が待っていた。

 

「いかがでしたか? 作戦の方は」

「もう大丈夫です」

「そうですか」

「よかったです~」

「お疲れさまでした。今日は、これで解散にしましょう」

「午後の授業がありますけど?」

「サボっても内申に影響はありませんので」

「そうですね、柚咲(ゆさ)さんも今日は帰りましょう。こってり絞られましたので疲れました......」

 

 ひと足先に中等部の敷地を出て二人を見送り、スマホを取り出す。そして報告をするために、電話帳のアプリで宮瀬(みやせ)さんのページを選択する。

 表示されてた名前を見て、少し緊張してきた。

 でも......未来でなにがあったのか、あたしは知りたい。

 胸に手を当て、ひとつ深呼吸をして、少し勇気を出して、あたしは通話ボタンをタップした。

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