乙坂からの連絡を受け、組織の仲間が迎えに来るのを星ノ海学園の正門前で待ち、隼翼たちの元へと向かった。車は首都高に乗り、徐々に都心を離れて行く。やがて山中に入って舗装されていない林道をしばらく走行して、開けたところで停車。礼を言って車を降りて、運転手に組織の施設まで案内してもらい、前世で見たリモコンで動く大きな岩の前に辿り着くと、肩に掛かるくらいのミディアムヘアーの女子が待っていた。
「キミが、宮瀬くんね」
「あなたは?」
「私は、目時。あなたを迎えにきたの」
彼女が、“崩壊”の現場を見たという目時。案内人は彼女に替わり、隼翼たちの待つ部屋へ向かう道中で経緯を簡単に説明してくれた。
「私たちに協力してくれていた仲間の家族が人質になってるの」
「それで、熊耳さんの拉致に手を貸したんですか」
「そう、熊耳から漏れた情報で奈緒ちゃんも攫われちゃって。ごめんね」
立ち止まった彼女は足下に目を落として、本当に申し訳なさそうな声で謝罪の意を述べる。
「なぜ、あなたが謝るんですか」
「あなたたちの関係は、有宇くんから聞いてるから......」
「......相手の要求は?」
「有宇くんよ」
「乙坂?」
「正確には、有宇くんの能力」
「なるほど」
起きた事態をまとめる。
海外のテロリストに古木という人が家族を人質に脅され、組織ナンバーツーの熊耳の身柄を売った。テロリストたちは彼を拷問し、重要な情報を吐かせ、奈緒を誘拐。人質二人と引き換えに、乙坂の身柄を要求している。
ちょうど整理し終わったところで、前世で隼翼と対面した部屋の前に到着。目時の後に続いて。部屋の中に入った際違和感を感じた。壁の所々に前世ではなかった亀裂がいくつも入っていた。
そして部屋には、隼翼と乙坂の他に見知らぬ男子二人の計四人。一人は冷静を保とうと、もう一人は苛立ちを隠せないでいる。前者は前泊、後者は七野という名。隼翼と熊耳、目時と彼らを含めた二名が組織の創設メンバー。
「隼翼、連れてきたわよ」
「そうか、ありがとう」
目時の声を聞いて、隼翼が礼を言い。俺の姿を見た乙坂は、目を伏せてしまった。
「......友利が、ごめん」
「目時さんから聞いた。大丈夫、任せろ」
「お前が、宮瀬でいいんだよな? 有宇から話は聞いた。頼む、知恵を貸してくれ」
深々と頭を下げた隼翼の拳は、どうしようもないやるせなさに奮えている。
「顔を上げてください。俺は、そのために来ました」
部屋中央のテーブルを囲み、二人を救出するための作戦を立てる。
「“時空移動”は?」
「最初に考えた。けど、古木さんが脅されたのは星ノ海学園を買収する前だ。そこまで戻るとなると、同じ道を辿れるかわからない」
そうなると星ノ海学園どころか、組織そのものがなくなるおそれがある。そこまで戻るとなると俺もまたアメリカに戻って、いちから全てをやり直さなければならない。直後から隼翼たちと協力して、星ノ海学園を買収してから渡米するという手段もなくもないが、出来ることなら俺が目指している“救済”への目処が立つまで戻るのは得策じゃない。
足下へ目を落として思考を巡らせる。俺の中で救出方法がまとまりかけた時、七野が名案だと言わんばかりに話し出した。
「やっぱり、弟を一人で行かせた方が勝機があるんじゃないか? 相手が能力者でも、“略奪"で奪えばいいし。もし失敗しても、“時空移動”でやり直しがきくだろ」
七野の提案に消極的ではあるが、目時も同意。
「確かにね。一番無難だし、成功する可能性も高いわ」
「だろ? これなら異変が生じないから、相手にも悟られない!」
「有宇に賭けるしかないか」
「僕に......」
隼翼は揺らいでいる。乙坂は、テロリスト相手に立ち回れるのか、と不安そうに顔を伏せた。名案だと自信を持って提案した七野に対する俺の答えは、もちろん――。
「却下」
返答に全員の視線が一斉に集まる。提案を否定された七野は声を荒げた。
「何でだよ、完璧じゃないか!」
「落ち着け、七野。宮瀬、どうしてなんだ?」
七野をなだめてくれた隼翼には悪いが、返答は控えて前泊に意見を仰ぐ。彼に訊いたのは今、この中で一番冷静でいるから。
「前泊さん。あなたが思う一番最悪な状況はなんだと思いますか?」
「そうだね......」
前泊は少し考えて、自分なりの見解を述べた。
「弟さんを一人で行かせた結果、弟さんの身柄を拘束された上で誰も助けられない。そうなれば、組織は壊滅的な打撃を受けます」
「だから! そうならないようにいざって時には“時空移動”を使って――」
「おい、少し黙れ」
「――なっ、チッ......」
ドスを効かせ、七野に言い聞かせる。憤る彼をなだめつつ、目時が訊いた。
「どうして、ダメなの?」
「リスクが高過ぎる。仮に、敵の要求通り乙坂が一人で行ったとしよう。相手は、乙坂が“時空移動”を持っていることを熊耳から聞き出している。そうだな?」
俺の問いに目時ではなく、隼翼が答えた。
「ああ、間違いない。すべて吐かされている、保有している能力のことも。自分たちの計画に少しでも狂いが生じれば、古木さんの家族を殺すと脅迫してきた」
「つまり、相手が欲しがっているのは“略奪"であって、“時空移動”が欲しい訳じゃない」
むしろ、計画遂行のための障害であると判断しているとみて差し支えない。
「“時空移動”は、目に光が射さなければ跳べないと言ったが、他に制限は? 例えば、月や星、海底、街灯の光も差さない夜、深い森、洞窟、地下室。真っ暗な空間でどの程度の光があれば跳べる?」
「それは......わからない」
隼翼は、首を横に振った。両目の視力を同時に失った彼には、もはやそれ知る術はない。彼の返答を聞き、目時に頼む。
「性別は問いません。今、この施設に居る人で成人している人を呼んできていただけますか?」
「うん、わかった」
目時は職員を連れに部屋を出て。乙坂は、少し困惑気味に訊いてきた。
「何をするんだ?」
「実験と検証」
「はあ?」
しばらくして、目時は先ほどの男性運転手を連れて戻ってきた。
「連れてきたわよ」
「何か、ご用でしょうか?」
「少々協力をお願いします。照明を落としてください。先ずは、間接照明から」
「わかりました。切り替えます」
前泊が照明を切り替え、乙坂と運転手の協力のもと実験開始。目隠しをした状態や光の加減、幾つかの条件下で何度も検証を重ねた。部屋の明かりを通常に戻す。
「ありがとうございました」
「いえ、では私は、これで......」
運転手は困惑した表情を見せつつ、部屋を出ていった。
「仕上げに今の状態で、時空移動を」
「ああ、わかった」
片目を両手でしっかり密着させ、光が洩れない状況で乙坂が目に力を込める。だが、何も起こらない。俺の身体にも異変は起こらなかった。
「ダメだ、跳べない!」
実験の結果、微かな光でもあれば使用可能な“時空移動”は両目に同じように光が射さなければ跳べず、“略奪”の乗り移りは片目でも発動可能という検証結果が出た。
「片目を潰されたら終わり。つまり最悪は、熊耳と――」
声にしたくなくて言葉に詰まった。
「......奈緒を失うことじゃない。乙坂の片目を潰され、薬か何かで操り人形にされること。相手の目論見通りにやらせる訳にはいかない」
「なら、どうすればいいのよ......」
俺以外の全員が落胆した。
「そう悲観することはない」
勢いよく顔を上げた隼翼は、やや声を大に言う。
「何か策があるのか?」
テーブルにノートを広げ、ペンを片手に敵のプロファイリングを始める。
「まず、敵の人数だが。多くても七、八人といったところだろう」
「何でわかるんだよ?」
七野は、疑るように言う。
「テロは基本的に少数で行う、目立たないようにな。とりあえず、四人以上なのは確定だ」
「四人以上? どうして分かるの?」
「まず、隼翼に電話をかけてきたのは通訳、これで一人。指示・指揮している人物がいる、これで二人。そして、奈緒を襲ったヤツは複数人で間違いない」
奈緒を襲ったのが複数人と聞いて、隼翼が勘づいた。
「そうか、奈緒ちゃんの能力は“不可視"だから、相手が一人なら逃げられる......!」
「そう、ボスと通訳は戦闘には不向きだろう。それらから戦闘に長けた人員が二人以上居ると推察できる」
「相手は複数か。有宇一人じゃ厳しいな......」
場の空気が重苦しくなった。この空気を払拭するために言う。
「言っただろ、悲観する必要はない。コイツらは素人だ」
その言葉に全員が、身を乗り出して食いついた。
「仮にプロだとしたら、あまりにもお粗末だ。お世辞にも頭が良いとは言えない」
推察に異議を唱える人がいた、前泊。
「いえ、それはありません。相手は間違いなくマフィアです」
「なぜ、断言できる?」
「僕の能力、“記憶操作”は対象に触れて記憶を探り出し消すことができる能力。以前キミたちが解決した“電撃”の能力者と、彼らに依頼をした黒幕の記憶を探った時、黒幕だったテレビ局のプロデューサーと大陸系のマフィアの繋がりを見ました。おそらく、今回の誘拐犯と同一のグループかと」
「身なりは?」
「身なりですか?」
「見たんだろ、そいつらの姿を」
「交渉に当たっていた通訳らしき男は、スーツを着ていました。その他は、まちまちだったかと......」
更に突っ込んで、詳しく訊く。
「一番年配と思われる人物は?」
「確か、半袖シャツに半ズボンとラフな格好でした」
「なら、間違いない。敵はマフィアではなくチンピラだ。本物ほど身だしなみに気を使う。普段からいいスーツを着るし、装飾品や小物類にも独自のこだわりを持つ場合が多い。交渉や取引の場においては特にな」
「......そうかもしれない」
「兄さん?」
隼翼が、俺の意見に同意した。
「俺も、今に辿り着くまで何度も危ない橋を渡ってきたからわかる。そういった相手は、信頼関係を重要視する」
「つまり、相手の身なりや待たせている間の態度で信頼出来る相手かを見極めるってこと?」
「その通りだよ、目時。交渉はテーブルに着く前から始まっているんだ。莫大な金を用意して約束を取り付けても、肝心の交渉相手が姿を現さないなんてこともザラあった」
「そうなんだ......」
「僕たちは、そういった分野を経験のある隼翼に頼りきっていたことが多かったですからね」
「お前の理屈はわかったけどよ。どうすりゃいい? 熊耳と友利が拉致されているのは変わらねーぞ」
七野の言う通り、問題の本質はそこ。だが、やりようはいくらでもある。
「優位に立っていると思い込んでいる相手の隙をつく」
「って言うと、慢心や油断と言ったところか?」
「ヤツらは、古木が屈したことで勝ちを確信している。だからこそ、必ず隙が生まれる。そこをつく」
「具体的には?」
「俺が乙坂のふりをして、相手の指定した場所へ乗り込む。乙坂の顔を知っているかは分からないが、幸い髪は長い方だからウィッグで顔を隠せば誤魔化せるだろう」
「だが、相手は複数人だろ。お前一人で、どうにかできるのか?」
「敵は多く見積もっても四人。その内の二人は、戦闘力のない通訳とボス。実質二人ならどうにでもなる」
「それ以上いたら?」
「いないな。別の場所で監禁していると仮定した場合、人質を一人見張るのに最低でも二人は人員を割かなければならない。現時点で無事か否かは出発前に確認すれば済む。乙坂を行かせたとして、本当に古木の家族を無事に解放すると思うか。一度奴らに屈してしまっているんだ。一度でも脅しに屈してしまった人間はもう相手の言いなりだ。俺なら何度でも利用する、利用価値がなくなるまでな」
意見を交わしていた隼翼が黙った。
俺は構わず、話を続ける。
「いいか? 次はない、ここで確実に潰すぞ」
ここに居る全員に、作戦の全容を伝える。
「隼翼と乙坂を除く全員で古木の車に乗り、敵が待つ拠点へと向かう」
「古木さん、了承してくれるかな?」
目時が、不安そうに呟いた。
「脅してでもさせる。家族のためとはいえ組織を裏切り、重要人物の熊耳を売り、無関係の奈緒を巻き込んだ。これぐらいのことはやってもらう」
有無をいわさないほどの怒気を込めて口に出した俺の言葉に、全員が黙り込んだ。
「話を続ける。敵のアジトを目視できる位置で三人は車を降り、その場で身を隠し待機。古木が戻って来たところを再度車に乗り込み、家族が捕まっている現場へ向かう」
「もし、古木さんが戻って来なかった場合は?」
七野からの質問。それはもっとな疑問。
「その時は、取引が成立しなかったと見なし、拠点に乗り込んで来てくれ。二人の能力は?」
「俺は、“透過"だ。障害物をすり抜けられる。けど、壁を一枚抜けるのにも極度に疲れる」
「私は、“催眠"よ。ただ、使うと私自身も寝てしまうの。二人が精一杯かな」
七野は「透過」、目時は「催眠」。そして前泊は「記憶操作」。どれもレアな部類の能力。よくこれだけの面子が集まったものだ。
「それで、あなたの本当の能力は?」
「確か、奈緒ちゃんの報告書によると、任意で使える能力じゃなく、ただ漠然と断片的な未来が突発的に見える予知能力って話しだったけど。戻ってきた有宇の話しだと、それは虚偽だったんだろ?」
奈緒は、そういう報告をしていたのか。まあ、能力に関してはもう別に隠す必要はないし、話してもいいだろう。
「“継承"、“偽り"、“共鳴"の三つ」
「えっ? 三つも持ってるのっ!?」
三種の能力を保有していると聞いて、目時は目を大きく見開いて驚いている。七野と前泊も同じような反応。どうやら俺の本当の能力について、三人は知らされていなかったようだ。詳しく聞きたいと言った様子ではあるが、この場は簡単に説明することだけで納得してもらうことにする。
「“共鳴"ってのは、具体的にはどういう能力なんだ?」
訊いてきたのは七野、他の二人も興味津々といった感じで俺を見ている。
「簡単に言えば、相手の能力に直接干渉できる能力。対象者の能力の強弱を操る能力。乙坂の“略奪"を防いだのも“略奪"の力を無力化した。逆に能力を強制的に引き出すことも可能。実際に見せた方が早いな。“透過”の能力で、この壁を廊下から抜けて見せてくれ」
部屋の壁を軽く叩く。
「あん?」
「七野、頼む」
「わーったよ」
隼翼に頼まれた七野はめんどくさそうに、いったんドアから部屋の外に出て、壁を抜けて戻ってきた。肩で息をしている。まるで100メートルを全力で走り抜けたあとのようだ。
「じゃあ今度は、こっちから外へ抜けて見せてくれ」
「見ての通り疲れるんだけどな......」
「出来ないなら別にいい」
「くそ! やってやる!」
挑発に乗って、勢いよく壁に向かって走り出した。壁に手を触れて能力を使う。
「ぐはッ......!?」
七野は壁を通過できずに思い切り激突、仰向けに倒れ込んだ。
「ちょっと、大丈夫っ?」
目時が、心配して駆け寄って行く。
「な、なんで通り抜けれなかったんだ......?」
「この壁を通して能力を使った。意識している間は、ほぼ完全に無力化出来る」
“電撃”の能力者相手に使ったのと同じ手段。ただあの時はまだ、不馴れなこともあって対処に遅れて軽い火傷を負う嵌めになった。
「もちろん制限はあるが、精神的な攻撃に関しては完全に無力化することが出来る」
「つまり、私や前泊の能力は効かないってことなのね」
「そう思ってくれて差し支えない。ただ、俺の身体を媒介に発動するから当然リスクはある。この能力は本来“時空移動”を無力化するために身に付けた能力だ」
「驚異的な能力は、俺対策の能力だったってことか......」
能力の説明は終わらせて、話を戻す。
「まずは、情報収集。監禁場所にもよるが、透過の能力で偵察後、見張りを可能な限り多く眠らせる。捌ききれない場合は、透過で死角から攻撃。威力は不意討ち同然、鉄パイプか金属バットでも使えば余裕で倒せるだろう」
「おっけー、七野がカギを握るわね」
「任せろ!」
「僕は、どうすれば?」
「眠ってしまう彼女の介抱と、敵の記憶から能力者の情報を消す。パスポートや身分証明書の類、査証を持っていたら全て回収し、ナイフでも持たせて、交番付近に放置しておけばいい。身元不詳の上に銃刀法違反も加われば、身柄の拘束は免れない。加えて外国籍なら、大使館との調整でしばらく足止め出来る」
「わかりました。そう対処します」
一通り話を終わったところで、隼翼が勢いよく言った。
「よし、これで作戦は決まったな! 目が見えない俺は今回、役に立たない。みんな、熊耳を、熊耳と奈緒ちゃんを。古木さんの家族を頼む......!」
頭をさげた隼翼に、三人はそれぞれ任せてくれと声をかける。そのようすを黙って見ていた乙坂が口を開いた。
「僕も一緒に連れて行ってくれ。二人で力を合わせれば――」
「ダメだ、お前を失えば全てが終わる」
「でも......!」
自分も力になりたい乙坂の気持ちは、痛いほど伝わってくる。だが、だからこそ連れて行く訳には行かない。
正直、前泊が言った最悪の状況は甘い。本当の最悪は、奈緒を含めた人質全員が既に消されている可能性があるということ。最初から乙坂を連れてこさせることだけが目的で、この取引その物が成立していないことも十分に考えられる。そんな状況で行かせる訳には行かない。乙坂を、“時空移動”を失えば終焉を意味する。
隼翼は手探りに、乙坂の肩に手を置いて諭す。
「有宇、今回は四人を信じて任せよう。お前が興奮して、“崩壊"が発動したら熊耳と奈緒ちゃんも巻き込まれる」
隼翼の言葉からこの部屋中のヒビは、乙坂がなんらかの理由で興奮し“崩壊”が発動しかけたということ。“崩壊"は感情で高ぶりで発動する半任意的能力......厄介、感情のコントロールは制御が難しい。
「兄さん......わかった。宮瀬、熊耳さんと友利を頼む!」
「ああ、任せろ」
作戦を遂行するため別室で待機を命じられていた、古木をこの部屋へ呼び出た。そして作戦を伝える。それを聞いた古木は唇を震わせ、深々と頭を下げながら絞り出すように言った。
「それは出来ない、すまない......」
「古木さん、不安な気持ちはわかります。けど、だからこそ協力させてください。もし仮に助けに行って待ち伏せされていたら、あなた一人で対処できますか?」
「そ、それは......」
「大丈夫です。彼らなら必ず無事に救出してくれます」
目時、七野、前泊の三人が力強く頷く。
「そして、捕まっている熊耳さんを。奈緒を助け出すためには、あなたの協力が必要不可欠なんです。お願いします。俺に、俺たちに、あなたの力を貸してください」
俺は、古木に頭を下げる。逆に古木は驚いて顔を上げた。
「ど、どうして、キミが......」
「古木さん」
「頭を下げるんだ?」と言いかけた時、隼翼が間に割って入る。
「テロリストに拉致された奈緒ちゃんは、宮瀬にとって大切な人なんです。あなたにとっての家族と同じなんです」
隼翼の話しを聞いた古木は少し間黙り、絞り出すような小さな声で言った「......すまない、お願いします」と。
救出に向かうため部屋を出ようとした時、不意に乙坂が呟いたのが聞こえた。
「でもどうして、友利を......」
「消去法だよ」
「えっ?」
「最初に狙ったのは、妹さんだろう」
「歩未をっ? なんで!?」
乙坂の大きな声を聞いて、先に部屋を出た四人が戻って来た。
「関係の薄い熊耳さんだけだと動かないこともあり得る。だから、もう一人人質を取りにきた。古木さんの時と同じように脅すために。乙坂さんにとって一番効果的な人は、妹の歩未さんでしょ?」
――ああ......と、乙坂は小さく頷いた。
「歩未さんが“崩壊”を失った今が、相手に取って最大の好機だった。けど、行動を移す前に歩未さんは、この施設に保護されてしまった。そうやすやすと手は出せない。だから、他の誰かを狙うしかない。となれば、交遊関係から調べる。けど、熊耳さんから聞き出した情報しかないわけだから、彼が知っている生徒会のメンバーしかいない。つまり、俺を含めて四人。その中で誰を狙うか、まず実行当時日本にいなかった俺は除外される。次に除外されるのは高城さん、能力は“瞬間移動"だから簡単に逃げられる。次に黒羽さん、人気アイドルが突然と姿を消したら世間的に大事になるし。仮に狙ったとしても、姉の美砂さんの能力は“発火"、下手をすれば自分たちが致命傷を負うことになる」
推察を聞いた隼翼は、納得したと言った感じにうなづく。
「それで、奈緒ちゃんを狙ったのか」
「“不可視"は一人に対してのみ有効な能力。複数でなら簡単に捕まえられると踏んだんでしょう。さあ、行きましょう」
「......奈緒ちゃんを人質に取ったのは、敵にとって最大のミスだったかもしれないな」
「どういうこと?」
「宮瀬の逆鱗にふれた」
すべての準備を済ませた俺たちは、奈緒と熊耳、古木の家族を救出するべく。古木が運転する車で、敵が指定した交渉場所へ向かった。