Charlotte ~時を超える想い~   作:ナナシの新人

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Episode38 ~優しさ~

 電車とバスを乗り継いで数時間、入院先の病院に到着。病院の正面玄関を抜けて、長い廊下を宮瀬(みやせ)さんの病室へ歩いていると、とても仲の良さそうな男女が歩いてきた。二人も、あたしに気が付いた。

 

「あっ、友利(ともり)のお姉ちゃんなのですー!」

友利(ともり)?」

歩未(あゆみ)ちゃんと乙坂(おとさか)さん」

 

 前から歩いてきたのは、乙坂(おとさか)兄妹(きょうだい)

 

「どうしてここに居るんだ? 東京に戻ったって聞いたけど?」

 

 時刻は既に19時を回っている。面会時間の終わりも近い疎らな時間帯に戻ってきたことを不思議に思われた。

 

「用事は済んだので。お二人は?」

「あゆと有宇(ゆう)お兄ちゃんは、隼翼(しゅん)お兄ちゃんの付き添いでござるっ」

「兄さんが、熊耳(くまがみ)さんの面会に来ているんだ。込み入った話みたいだから、売店(ここ)で待っているんだ」

 

 歩未(あゆみ)ちゃんの話に、乙坂(おとさか)さんが補足を入れた。黒羽(くろばね)さんと高城(たかじょう)は、入れ違いで帰宅したそう。

 

「しっかし、本当に隼翼(しゅんすけ)さんの弟だったんですね。似てないなー」

 

 乙坂(おとさか)さんの顔をまじまじと見て、素直な感想を述べる。ま、整った顔立ちであるところは共通点ではありますけど、歩未(あゆみ)ちゃんも可愛いですし。

 

「ほっとけよ!」

有宇(ゆう)お兄ちゃん、病院で大きな声を出したらダメなのです!」

 

 歩未(あゆみ)ちゃんにお叱りの言葉を頂いた乙坂(おとさか)さんは、気まずそうに顔を背けた。

 

「うん、そうだよねー。歩未(あゆみ)ちゃんはいい子だね、あたしの妹になりませんか?」

「ならないよ!」

 

 歩未(あゆみ)ちゃんではなく、兄の乙坂(おとさか)さんが間髪入れずに拒否。誰かさんと一緒で、妹のことになると全く冗談が通じない。

 

「どうして、あなたが答えるんっすかー?」

「う~ん、どうしよーかな~?」

「お前も悩むなっ!」

「大きな声を出したらダメですっ。冗談なのにー」

 

 あたしと歩未(あゆみ)ちゃんは顔を合わせて、「ねぇーっ」と息を揃えて言う。

 

「うぐっ......」

 

 からかわれた乙坂(おとさか)さんは、まるで苦虫でも噛み潰したような屈辱的な顔をしている。本当にシスコンっすよね、この人。ま、歩未(あゆみ)ちゃんのために未来から戻ってくるような人ですし。

 

「ところで、友利(ともり)お姉ちゃんはどうして、病院にいるのでしょうか? まさか、ご病気ですかっ?」

「お、おいっ、歩未(あゆみ)っ!」

 

 歩未(あゆみ)ちゃんの素朴な疑問に、乙坂(おとさか)さんは慌てて止めに入った。「気にしなくていいです」と制止して膝を屈め、歩未(あゆみ)ちゃんに目線を合わせる。

 

「この病院には今、あたしの大切な人たちが入院しているんです」

「それは、一大事なのですー。一日も早く良くなるよう微力ながら、あゆもお祈りいたしますっ」

「うん、ありがとう」

 

 まるで自分のことのように心配をしてくれる歩未(あゆみ)ちゃんの頭を撫でながら、お礼の言葉を伝える。歩未(あゆみ)ちゃんは、少しくすぐったそうにしながら顔をほころばせた。

 

「あ、そうだ、まだ時間ありますか?」

「ん? ああ、まだ話が長くなりそうだったから売店に来たんだ」

「そうですか。では、少し待っていてもらえますか?」

「わかった。歩未(あゆみ)、ジュースでも飲むか?」

「アイスがいいー」

「わかったわかった」

 

 一度二人と別れて、病室に中に入る。持ってきた荷物をベッドの横に置き、昼と同じように眠ったままの彼に「また、少し出てきますね」と伝えてから病室を出て、二人が待つ売店へ向かった。

 

「お待たせしました」

「いや、それで何だ?」

 

 あたしは膝を曲げて、歩未(あゆみ)ちゃんに視線を合わせる。

 

歩未(あゆみ)ちゃんは、星は好きですか?」

「はい、大好きなのですーっ!」

「お前いつも、望遠鏡を覗いてるもんな」

「そうでしたか。じゃあ、天体観測に行きませんか? 近くに、とても綺麗な星空が見える場所があるんだよ」

「お~っ! それは是非とも行きたいのですー! あ、でも......」

 

 歩未(あゆみ)ちゃんはチラッと、乙坂(おとさか)さんに目を向けた。

 

「行ってこい。兄さんには、僕から話しておくから」

「いいのっ?」

「ああ。友利(ともり)歩未(あゆみ)を頼むな」

「はい、お任せください。歩未(あゆみ)ちゃん、行きましょう」

「はっ! では有宇(ゆう)お兄ちゃん、行ってきますっ!」

 

 乙坂(おとさか)さんに敬礼した歩未(あゆみ)ちゃんと星空を見るため、病院の外へ出る。日が暮れて、辺りはもう暗くなっていた。持参した小型の懐中電灯で足元を照らして、病院の裏手からまっすぐ伸びる一本道を並んで歩く。だんだんと潮の香りが濃くなってきた。

 

「とうちゃーく」

「す、すごい......すごいのですー!」

 

 目的の岬に到着。沈み行く夕日が美しい岬の澄んだ夜空には、都心とは比べ物にならないほどの満天の星空が広がっている。手を伸ばせば、掴めてしまいそう。

 

「喜んでもらえた?」

「はいっ! 手を伸ばせば届きそうなのですー!」

 

 同じことを思っていた。星々が瞬く夜空へ向かって目一杯両手を伸ばしてぴょんぴょんっと飛び跳ねる歩未(あゆみ)ちゃんは、とても無邪気で微笑ましい。黒いキャンバスの中で瞬く星々の間を光が流れた。

 

「あっ、流れ星! お願い事間に合わなかったでござる~......」

歩未(あゆみ)ちゃんは、何をお願いしたかったの?」

 

 願いごとが間に合わず残念そうに項垂れている歩未(あゆみ)ちゃんに、叶えたかった願いごとはなんだったのか訊ねる。返ってきた答えは、とても優しい気持ち。

 

友利(ともり)お姉ちゃんの大切な人たちが早く良くなりますように、ですっ!」

「――ありがとう。歩未(あゆみ)ちゃんは、優しいね」

 

 歩未(あゆみ)ちゃんの頭を撫でながら、お礼の言葉を伝える。地面にハンカチを敷いて、星空を眺めながら話を聞いた。学校の友だちこと、今の施設暮らしこと、いろいろなことを歩未(あゆみ)ちゃんは楽しそうに話した。

 

「さて、そろそろ戻りましょー」

 

 スマホの時計を見て、立ち上がりスカートを整える。

 

「えぇ~、もう帰るのーっ?」

「あんまり遅くなると、お兄ちゃんたちが心配しちゃうよ」

「う~ん......名残惜しですが、了解でござるっ!」

 

 来た道を戻り、病院に帰ってきた。乙坂(おとさか)さんにメッセージを打つと熊耳(くまがみ)さんの病室に居るとのことで、病室まで歩未(あゆみ)ちゃんの案内してもらうことに。

 話し声が聞こえるひとり部屋の病室の戸を軽くノック、「はい」と熊耳(くまがみ)さんの返事が返って来たのを聞いて中に入る。病室には、ベッドを椅子代わりに座る熊耳(くまがみ)さんと、パイプ椅子に座っている乙坂(おとさか)さん、隼翼(しゅんすけ)さんの三人が居た。

 

「あゆ、ただいま帰還した所存であります!」

「ああ、おかえり。友利(ともり)も、歩未(あゆみ)を送ってくれてありがとう」

「いえ、お気になさらず」

奈緒(なお)ちゃん、歩未(あゆみ)と遊んでくれてありがとな」

「いえ、あたしが歩未(あゆみ)ちゃんと遊びたかったんです」

「そっか」

 

 突然、空気が重くなった。いえ、正確にはもっと重くなった、ですね。学校から報告が行き届いているみたいです。

 

奈緒(なお)ちゃん、話は聞いたよ。これから、どうするつもりなんだい?」

「近くで、アパートを借りようと思っています」

「それじゃ金がかかるだろう?」

「能力の仕事でいただいた報酬の貯金がありますので、しばらくは大丈夫です」

 

 アルバイトを探して、ワンルームのアパートを借りて、節約して生活すれば十分にやっていける。特殊能力の方は、あとで乙坂(おとさか)さんに奪っていただけばもう、科学者に捕まる心配もありませんし。

 

隼翼(しゅんすけ)

「ああ、わかってるよ、プー。奈緒(なお)ちゃん、この病院で寝泊まりするといい」

「いえ、それは――」

 

 そんなこと出来るわけない。だってこれは、あたしのわがまま。だけど、隼翼(しゅんすけ)さんは構わずに話を続けた。

 

「院長とは話はついている。ただ、病室は使えないから、宮瀬(みやせ)の病室に寝泊まりしてもらうことになるけど」

「どうして......」

「この病院は、俺たちの組織が出資して運営しているようなものだから問題ないよ。熊耳(くまがみ)の病室と同じであいつの病室も個室だし、広いから簡易ベットを置ける位のスペースは十分にある」

「いえ、そうではなくて。どうして、そこまでしてくれるんですか?」

 

 あたしの疑問に答えたのは、熊耳(くまがみ)さん。

 

「俺が、頼んだ。宮瀬(アイツ)は、俺にとっても命の恩人だからな。まだ、礼を伝えられてない。それに――」

 

 熊耳(くまがみ)さんは視線を、隼翼(しゅんすけ)さんに移した。

 

「俺たち兄弟にとっても......な。もし宮瀬(みやせ)が居なかったら、今回の件で有宇(ゆう)を失っていたかもしれない。いや、有宇(ゆう)だけじゃない。熊耳(くまがみ)や、古木(ふるき)さんたちも――」

「僕も同じだ。未来で、宮瀬(みやせ)友利(ともり)が居なかったら、僕はどうなっていたかわからない......」

「あのー、なんのお話でしょうか? ちんぷんかんぷんなのです~......」

 

 話題についていけない歩未(あゆみ)ちゃんは、両側のこめかみに人差し指を当てながら首をかしげている。そんな歩未(あゆみ)ちゃんに、隼翼(しゅんすけ)さんは声を頼りに優しく頭に手を乗せた。

 

「みんな、宮瀬(みやせ)に感謝してるってことだよ」

「おぉーっ、宮瀬(みやせ)のお兄さんのお話しでしたかっ! あゆも荷物を持ってもらって、ケーキをご馳走していただいたでござるっ。それに、あゆの料理をご馳走する約束もまだなのですーっ」

「そう言えば、そうだったな」

「そうか、歩未(あゆみ)もか。じゃあ、早く元気になってもらわないとな。奈緒(なお)ちゃん」

「あ、はい......」

「みんな、同じ気持ちなんだよ。けど俺たちは、ずっとここにはいられない。やらないといけないことがある。だから、俺たちの代わり......いや、俺たちの分も、宮瀬(アイツ)のことを奈緒(なお)ちゃんに頼みたい。お願い出来るかい?」

「......はい。ありがとう......ございます......」

 

 隼翼(しゅんすけ)さんの、みんなの優しさに触れたあたしは深く頭を下げて、熊耳(くまがみ)さんの病室を後にした。宮瀬(みやせ)さんの病室へは向かわず、同病院の精神病棟に入院している兄の病室を訪ねた。鎮静剤が効いているのか、兄は体を起こしたまま一点を見つめている。

 

「これからは、毎日お見舞いに来られます」

 

 話かけるも、やはり反応は返って来ない。

 

「......明日、また来ますね」

 

 兄の病室を出て、宮瀬(みやせ)さんの病室へ向かう。病室の前に着くと、あの女性看護士さんが中から出てきた。

 

友利(ともり)さんだったわね。ちょうど今、ベッドの用意が出来たところよ」

「ご迷惑おかけしてすみません、ありがとうございます」

 

 頭を下げて、お礼を言う。

 

「話は聞いたから。大変だと思うけど頑張って」

「はい、お世話になります」

 

 看護士さんを見送って、病室に入る。ちょっとだけ奥に移動された宮瀬(みやせ)さんのベッドの隣に、簡易ベッドが用意されていた。あたしはベッドを椅子の代わりにして座り、峠を越えてなお昏睡状態が続いている彼に話しかける。

 

「あなたは、いったいどれだけの人を助けてきたんですか? みんな、あなたに感謝してましたよ。歩未(あゆみ)ちゃんの手料理を食べる約束は絶対に守らないとダメっすよ。えっと、それから......あたしも......」

 

 今日は、本当にいろいろなことがあって心身共に疲れきっていたあたしは、話し終わる前に自然と体が横に倒れた。

 そして、そのまま眠りについた。

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