Charlotte ~時を超える想い~   作:ナナシの新人

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Episode43 ~日記~

 退院翌日、星ノ海学園の制服に袖を通して、久しぶりの登校。通い慣れた通学路に少し懐かしさを覚えながら、奈緒(なお)と並んで、病院で借りた松葉杖をついてゆっくり歩いている。

 

「昨夜は、ちゃんと眠れましたか?」

「おかげさまで」

「そうっすか。それは、何よりで」

 

 奈緒(なお)の部屋での寝泊まりは、病室での寝泊まりとはまた違った意味で戸惑ったけど。鎮痛剤と一緒に処方してくれた睡眠導入剤のおかげで、夜中に起きることもなく朝まで眠ることが出来た。けれど、彼女はと言うと、俺とは対照的に軽く目元をこすっている。

 

「眠れなかったんですか?」

「病院の枕に慣れ始めたところでしたので......」

 

 短期間で何度も枕が変わって熟睡出来なかった、と。

 本当にいろいろなことで負担をかけてしまっているのだと、改めて思い知らされて、申し訳ない気持ちになる。

 

「おはようございます!」

 

 背中からの突然の挨拶に、俺たちは同じタイミングで振り向いた。声の主は、高城(たかじょう)。「おはようございます」と、挨拶を返す。

 

「先ずは、退院おめでとうございます。もうよろしいのですか?」

「この通りですよ」

「それは、何よりです」

「あたしも、今日から生徒会活動に復帰します。仕事を押しつける形になってしまって、ご迷惑をおかけました」

「いいえ、お気になさらず。ゆさりんと二人きりの生徒会室で、夢の様な時間を満喫させていただきましたから!」

「ひくなっ! と言いたいところですけど、迷惑ついでに頼みごとがあります」

「私に、頼みごとですか? どんな用件でしょう?」

「詳しい話は、昼休みにします。生徒会室へ来てください」

 

 通学路では話せない内容であると察した高城(たかじょう)は、「了解いたしました」と真面目な顔でうなづいた。

 そのまま三人で話をしながら通学路を歩き、五分もかからず正門に到着した。

 教室へ向かう高城(たかじょう)とは昇降口で別れ、俺と奈緒(なお)は職員室へ立ち寄り、担任に復学の報告をしたのち、生徒会の仕事を手伝ってくれていた仲村(なかむら)先生にもお礼の挨拶へ行く。

 

「ご心配、ご迷惑をおかけしました」

 

 声を重ね、二人揃って頭を下げる。

 

「気にしなくていいわよ。ところで、奈緒(なお)ちゃん」

 

 手招きして奈緒(なお)だけを呼び、二人でヒソヒソと話しだした。

 

「えっ? まだなの? 意外に奥手なのね」

「それは、あたしにではなく、あの人に言ってください」

 

 奈緒(なお)が、こちらを見た。彼女と同じく仲村(なかむら)先生も、俺を見る。二人に、じとーっと冷ややかに見つめられ......いや、奈緒(なお)の方は若干睨んでいるに近いのかもしれない視線だ。

 

「あの......何でしょうか?」

「はぁ~、こう言うことっす」

「罰な男子ねー」

「ほら、教室へ行きますよー。失礼しましましたー」

 

 腕を取られ、強引に180度向きを変えられ、軽く背中に手を添えられて、ドアの方へ強制連行されてしまう。

 

「あ、はい。仲村(なかむら)先生、失礼します」

「はいはい、まだ無理しちゃダメよ」

 

 職員室を出て、教室へ向かう。階段は少し苦労したけど、手を借りて無事に上り切ることができ。約三週間振りに教室へ入った。松葉杖をつく俺の姿に、クラスメイトたちは何ごとか集まってくる。

 

「おーい、出席取るぞー。席付けー」

 

 担任の登場で助かったけど。心配してくれる声や、ケガの理由を聞かれたりと、まるで動物園のパンダにでもなったような気分だった。

 

          * * *

 

 

 午前の授業が終わり、昼休み。チャイムと同時に教室を出た俺たちは、生徒会室へ集まっている。芸能活動で朝は居なかった黒羽(くろばね)も、昼前に登校して来た。

 

「はぁ~......」

 

 生徒会長の席に座るやいなや深いタメ息をついた、奈緒(なお)。それを不思議に思った黒羽(くろばね)は、小さく首を傾げる。

 

「どうしたんですか~?」

「これを見てください」

 

 生徒会長の席上に山積みになっている書類の束を軽く叩いて見せた。

 

「わぁ~、スゴい量ですねー」

高城(たかじょう)が代わりに業務していてくれたとはいえ、しばらく残業っすよ」

「わたしに、何かお手伝いできることってありますか?」

「では、こっちの箱に入っている書類に判子を押してください。目印がありますので、そこに押してください」

「はいっ、わかりました~っ」

 

 頼まれた書類にぽんぽんっと判子を押していた手を止めた黒羽(くろばね)は、判子を押した書類を見ながら奈緒(なお)に訊ねた。

 

「これって、どう言った内容の書類なんですか?」

「今多いのは、夏休み中の合宿の申請です。移動手段と宿泊先の確認、緊急時の連絡方法とか。中には部費だけでは賄いきれない部活もあるので、その辺りの調整も大変なんすよ」

「そうなんですかー。でも合宿って、なんだか楽しそうですねっ」

「生徒会に合宿はありませんよ」

「あ、そうなんですね......」

 

 少し残念のそうに肩を落とした。

 

「さあ、手を動かしてください。お昼を食べる時間がなくなりますよ」

「あ、はーい」

 

 奈緒(なお)にうながされた黒羽(くろばね)は、再び判子を押す手を動かし。俺も、予算編成の方を手伝う。作業を始めて十分ほどが経った頃、個人的に用事を頼んでいた高城(たかじょう)が、ビニール袋を両手に持って生徒会室へやって来た。

 

「お待たせいたしました!」

「ん? この匂いは......」

「カレーですねっ!」

「その通りです!」

「もしかして、牛タンが乗ってるカレーっすかっ?」

「はい、その牛タンカレーです!」

「マジっすかっ、やったー!」

 

 難しい顔で書類とにらめっこしていた、奈緒(なお)のテンションが上がった。

 

「そのカレーって、美味しいんですか?」

「それはもう。すぐに完売してしまう限定メニューですから! 宮瀬(みやせ)さんが、裏技で確保してくれていたんです」

 

 頼んでいた個人的な用事は、このカレーを受け取って来て貰うこと。さすがに松葉杖をついた状態では、他の生徒の邪魔になってしまうため、高城(たかじょう)にお願いした。

 

「冷めないうちにいただきましょう」

 

 四人前のカレーを中央の大テーブルに並べる。作業していた奈緒(なお)も手を止め、こちらのテーブルに着く。

 

「いただきまーすっ」

「では、私も、ご相伴にお預かりいたします!」

「わたしも、いただいていいんですか?」

「もちろんですよ。ちゃんと人数分頼んでおきましたから」

「ありがとうございますっ」

 

 四人でカレーを食べながら、本題を切り出す。

 

高城(たかじょう)さん、朝の件ですが」

「あ、はい。何でしょうか?」

 

 教室から持ってきていた大きめの紙袋から、とある学校のパンフレットを取り出す。

 

「これは......以前、友利(ともり)さんが通っていた中高一貫校のパンフレットですか?」

「ええ、そうです。この学校の研究施設へ潜入し、研究データを奪おうと考えています」

「な、なんと! また無茶なことを考えますね......」

「そこで、高城(たかじょう)さんの力をお借りしたいんです」

「具体的には、何をすればよろしいのでしょうか?」

「学校の警備体制、関係者の出入り状況、校舎内での大まかな人の動きなどの偵察です。それと郵便物を入手していただきたいです」

「前者の方は出来ると思いますが、郵便物は......なかなか困難なミッションになりそうですね」

「そこで、これを用意しました」

 

 パンフレット入れていたのと同じ紙袋から、スーツと白衣を取り出す。これは、奈緒(なお)が記憶していた研究員の服装を元に、隼翼(しゅんすけ)に頼んで似たような物を用意して貰った。

 

「生徒手帳、お借り出来ますか?」

「生徒手帳ですか? どうぞ」

「どうも。これを......っと」

 

 受け取った生徒手帳から顔写真を丁寧に剥がす。

 

「写真をどうするんですか?」

「まあ、見ててください」

 

 パンフレットの校章と学校名の部分と、“空中浮遊”の能力者がスクープされたオカルト雑誌のバーコードをハサミで切り取る。

 

友利(ともり)さん」

「牛タン、うっまっ! ん? なんすかー?」

「のり、ありますか?」

「ちょっと待ってください。はい、どうぞー」

 

 スプーンを置いて、生徒会長の席へ戻り、引き出しからのりを持ってきてくれた。

 

「ありがとうございます」

「何に使うんですか?」

「ん~?」

 

 黒羽(くろばね)も気になったらしく、興味深そうに見ている。

 切り取った校章と学校名、証明写真、雑誌のバーコードを適当な大きさの白紙の用紙に張り付ける。テキトーな偽名と役職を書き記し、名札ケースに入れ紐を通して完成。

 

「どうですか? それっぽいでしょ」

「なんとっ!」

「わぁ~っ」

「でも、職員相手だとバレますよ?」

「そうですね。ですが、配達員くらいなら欺けます」

「なるほど......」

「配達時間を把握して、研究員のフリをして敷地外で郵便物を受け取って下さい」

「確かに、それなら出きるかもしれませんね。しかし――」

「どうしました?」

 

 何か気になることがあるのだろうか?

 

「いえ、この『高松大宙』と言う偽名に妙な親近感が沸くと言いますか......」

「気のせいでしょ? あと、超望遠レンズ搭載デジカメと定点観測用の三脚とビデオカメラ、眼鏡に装着出来る超小型ピンカメラ。それと撮影ポイントを印した地図です」

「あっ、最新型だー! いいな~」

 

 機材の方に、奈緒(なお)が食いついた。

 

「了解いたしましたっ!」

「校舎の敷地へ近づく時は、常に監視カメラの死角で行動してください。それと危険と判断したら即刻“瞬間移動"で離脱してください」

「はい、お任せください。この手の調査は慣れていますので」

「休学のことは生徒会の任務だと、あたしから伝えておきます。まあ、あと数日で夏休みですけど」

「ありがとうございます。では、このカレーを食べ終えたら、さっそく任務に取りかかります」

 

 カレーを食べ終えた高城(たかじょう)は、必要な荷物を持ち、奈緒(なお)が通っていた学校へと向かっていった。

 

「あたしたちも食べちゃいましょう。もう時間がないっす」

「そうですね」

 

 偵察の道具と一緒に持ってきたコーヒーを淹れながら答える。

 

「飲みますか? 紅茶もありますけど」

「はい、いただきますっ」

「いただきまーす」

「めさめさおいしいのですーっ」

 

 

           * * *

 

 

 午後の授業も無事に終わって放課後。

 俺と奈緒(なお)は、二人で生徒会室で昼の続きをしていた。

 

「急ぎの用件は片付きましたね」

「はい。今日は、ここまでにしましょう」

 

 処理し終えた書類を種類別にまとめて棚にしまう。

 

「では、病院へ行きましょう」

「一人で行けますよ」

「まだ松葉杖じゃないっすか。ほら、行きますよ」

 

 有無を言わさず、登校時と同じように並んで歩き、最寄り駅でバスに乗り換えて病院へ。

 東京の病院に戻った主治医の診察を受け、駐車場まで向かえに来てくれていた施設の職員の車に乗り、隼翼(しゅんすけ)たちの拠点特殊能力者保護施設へ向う。彼らがいつも居ると言うレクリエーションルームへ向かう途中の廊下で、前方から見知った少女が歩いてきた。

 

「あーっ! 友利(ともり)のお姉ちゃんと、宮瀬(みやせ)のお兄さんなのですー!」

「あ。歩未(あゆみ)ちゃん」

「久しぶりですね、歩未(あゆみ)さん」

「はい、お久しぶりでござる! ――って、松葉杖っ!?」

 

 ワンテンポ遅れて、俺が松葉杖をついていることに驚いた。

 

「だ、大丈夫なのでしょうかっ!?」

「大丈夫ですよ、お医者さんが大袈裟なんです」

「そうなんですか?」

「そうなんです」

 

 笑って見せると、歩未(あゆみ)も笑顔を見せてくれた。

 

「それは安心しましたー!」

「ねぇ、歩未(あゆみ)ちゃん。隼翼(しゅんすけ)さんは、どこにいますか?」

 

 膝を曲げて、奈緒(なお)歩未(あゆみ)に目線を合わせる。

 

「こっちなのですー!」

 

 歩未(あゆみ)に案内をしてもらい、隼翼(しゅんすけ)の元へ。案内された先の部屋は、よく集まっていると言うレクリエーションルームではなく、前世で隼翼(しゅんすけ)と初めて対面した部屋だった。

 

隼翼(しゅん)お兄ちゃんっ」

「ん? その声は、歩未(あゆみ)だな。どうした?」

友利(ともり)お姉ちゃんと宮瀬(みやせ)お兄さんが来てくれたのですー」

「そうか、ありがとう。歩未(あゆみ)目時(めどき)を呼んできてくれるかい?」

「はっ! 了解でござるっ!」

 

 ビシッと敬礼をした歩未(あゆみ)は部屋を出て、目時(めどき)を呼びに行く。

 

「ニールに、用事があるんだったな?」

「ええ、研究所ですよね?」

「ああ、目時(めどき)が来たら案内する。座って待っててくれ」

 

 ソファーに座って待つこと五分足らず、目時(めどき)と、車椅子に乗ったの熊耳(くまがみ)が部屋に入ってきた。呼びに行ってくれた歩未(あゆみ)の姿が見えないのは、夕食の用意をしているそうだ。

 

「研究所に用事があるんでしょ? 行きましょう」

 

 みんなで部屋に出て、施設の研究所へ向かう。

 

「ここよ」

「おお~、すっげー! 撮っていいっすかっ?」

「ダメに決まってるだろ。外部に漏れたら困る」

「ちっ」

 

 奈緒(なお)が、愛用のカメラを取り出して構えようとするも、熊耳(くまがみ)に制止され、軽く舌打ちを打った。

 

宮瀬(みやせ)くんは、あまり驚かないのね」

「あ、いえ、驚いてますよ」

 

 反応が薄い俺に、目時(めどき)が訊いてきた。

 ただ、人を探していたため研究所の方に目がいなかっただけで、改めて見渡して見ると、補助金で賄っていた大学の研究所よりも充実した設備だ。資金力の差を痛感させられる。

 

「ニールは、どこにいますか?」

「こっちだ」

 

 熊耳(くまがみ)が先導して、研究所内を案内してくれる。

 大勢の科学者たちが作業をしている研究所の一番奥の扉が開く。部屋の中では、ニールと、責任者と思われる初老の男性が作業していた。

 

「やぁ、ショウ!」

「ニール、頼みたいことがあるんだ」

「オッケー、ちょっと待っててね」

 

 ニールの作業に区切りがつくのを待っている間、隼翼(しゅんすけ)から初老の研究員を紹介してもらう。

 

「ここの責任者の堤内(つつみうち)さんだ。こっちは、宮瀬(みやせ)

宮瀬(みやせ)です」

堤内(つつみうち)です。よろしく」

 

 握手を交わし、ここの研究内容を簡単に説明してもらった。事前に聞いていた通り、主に特殊能力を消す研究をしているそうだ。

 

「お待たせー。で、なに?」

「用意して欲しい物があるんだ、頼めるか?」

 

 用意して欲しい道具を書き起こしたリストを渡す。

 

「美術品でもかっ攫うの?」

「いや、他の研究所から研究データとDNA(サンプル)を奪う」

「何それ、面白そう。オレも行っていい?」

「研究はいいのか?」

「うーん、こっちも今、面白いところだし。わかった、準備しておくよ」

「ありがとう。頼むな」

「了解、他にも役立ちそうな物を用意しておく。クマガミ、あとでまた 、まーじゃんだっけ? やろうね~」

「あ、ああ......」

 

 なんだか、歯切れの悪い返事だ。

 

「麻雀?」

「ここには、一通りの娯楽は揃ってるんだけど。私たちは、ボードゲームをすることが多いの」

「結構快適なんすね」

「まあね。だけど、熊耳(くまがみ)が負け込むのなんて初めてみたわ。しかも素人を相手に」

「ほんと、驚いたぞ」

「へぇ~、強いんすね」

 

 隼翼(しゅんすけ)たちの話しですべてを察した俺は、研究の邪魔になると言って研究所を出ることをうながした。

 その後、歩未(あゆみ)が、いつか約束した夕食をごちそうしてくれると言うことで、乙坂(おとさか)兄妹が生活している部屋へ招かれることになった。

 

「いらっしゃいませなのですー」

「こんばんは、お邪魔しまーす」

「久しぶり......でもないか」

「二日ぶりですね」

 

 軽く笑い合って、家庭的な料理が用意されている席に着き、歩未(あゆみ)の料理をご相伴にあずかる。

 

「いかがでしょうか......?」

 

 少し不安そうに味の感想を求めてくる。

 

「すっごくおいしいよっ!」

「本当に美味しいです。こんな美味しい料理を毎日食べられるなんて、乙坂(おとさか)さんが羨ましいですよ」

「えへへ~、よかったのですっ。いっぱい食べてくださいっ!」

 

 美味しく料理をいただいている間、乙坂(おとさか)は、ずっと何かを訴えたそうな顔をしていたような気がしたけど、きっと気のせいだろう。

 

「ここの生活には、もう慣れましたか?」

「ああ。ちょっと退屈なこともあるけど、特に不便もないし。みんな、よくしてくれる」

有宇(ゆう)お兄ちゃん、いつも難しいゲームで遊んでばかりでちんぷんかんぷんなのですー......。あゆにも出来るゲームで遊んで欲しいのです!」

「ああ~、麻雀でしたか?」

「兄さんたちがよくやっているから、僕は付き合ってるだけだよ。って言うか、お前の知り合い強すぎだろ? メンバー最強の熊耳(くまがみ)さんが、(トン)場で飛ばされたぞ? みんなで対抗策を練っても、悪魔に魂を売ったみたいな鬼引きをしてくるんだ」

「ほら、またーっ。こんな風にいつも置いてけぼりなのですー」

「わかったわかった。兄さんと話して、今度、どこかへ遊びに行けるように頼んでみるよ」

「えっ、ほんとっ? あゆ、プールに行きたいでござるっ」

「プールか......夏だもんな」

 

 服の袖を軽く引っ張って来た奈緒(なお)が、話で盛り上がっている兄妹の邪魔にならないように小声で話しかけてきた。

 

「どうしたんですか? さっきから難しい顔してますよ」

「イカサマですよ」

「ん? イカサマですか?」

「麻雀の話です。おそらく何かしらの細工を施しているんです」

「......そんなこと出来るんですか?」

「ニールの偽造の腕は、超一流の鑑定士を欺くほどの腕前ですから。まともに勝負したら、絶対に勝てません」

「うわぁ......」

 

 対策を練っても無駄と知り、熊耳(くまがみ)たちに同情していた奈緒(なお)に、歩未(あゆみ)が笑顔で話を振った。

 

「お二人も一緒に......友利(ともり)お姉ちゃん?」

「どうしたんだ?」

「いえ、何でもないっす。プールの話しでしたね。もちろんいいですよ」

 

 歩未(あゆみ)にお礼と、隼翼(しゅんすけ)たちにも挨拶をして、行きと同じ職員に、マンションの最寄り駅まで車で送ってもらう。

 リハビリがてら、併設マンションまでの道を歩いて帰る。

 

「あなたなら勝てますか?」

「麻雀ですか?」

「はい」

「正直、勝てる気はしないですね」

「そうですか......」

 

 その声は、少し残念そうに聞こえた。

 

友利(ともり)さんは『格闘家を倒せ』と言われたら勝つ自信はありますか? 特殊能力はなしで」

「無理っす」

 

 即答。

 

「でしょうね。けど、ニールは勝ちます」

「あの人、そんなに強いんですか?」

「迷わずに銃口を向けるでしょうね」

「――えっ?」

「仮に短距離の世界記録保持者が相手だったら、事故に見せかけて足を潰します。コース上にピアノ線を張るとか、スターターに細工するとか」

 

 予想外の回答に唖然としている。

 

「卑怯だと思いますよね。でも、そう言うことなんです。麻雀も一緒、麻雀を麻雀で勝負する時点で敗けなんです」

「............」

「策略の立て方などは全てニールの戦術を見て学んだんです。言わば、師匠みたいなものですね」

「何か、わかった気がします」

 

 何やら納得しているようだった。

 併設のマンションに到着、彼女の部屋に上がる。あまり傷口が濡れないように注意してシャワーを浴び、リビングに入る。

 

「いつもすみません」

「気にしないでください。この背中のキズが、あたしを守ってくれたんですから」

 

 自分では手が届かない傷口の消毒してくれる。

 

「はい、終わりました。もう上着を着ていいっすよ」

「ありがとうございます。ところで気になっていたんですけど、さっきカメラで何を撮っていたんですか?」

「あれっすか? まあ、日記みたいなものです」

「どんなことを――」

「秘密です」

 

 ピシャリと拒否され、結局撮っていた動画は教えてもらえなかった。

 

 翌日から俺は、本格的にリハビリを開始した。

 例の計画を遂行するために――。

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