Charlotte ~時を超える想い~   作:ナナシの新人

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お待たせしました。


Episode45 ~覚悟~

 ――アラームが、鳴っている。

 目を閉じたまま、手探りで枕元の目覚まし時計のスイッチを押す。だが、アラームは鳴り止まなかった。おかしいな、と思って重いまぶたを開くと、目覚まし時計の横に置いてある、携帯のランプが点滅した。

 

「ああ......電話か......」

 

 目覚ましを手放して携帯を取り、発信者を確認することもなく通話ボタンを押して、耳元へ持っていく。

 

「はい、宮瀬(みやせ)......」

宮瀬(みやせ)か? 今すぐ、こっちへ来てくれ!』

「はあ......?」

『そっちへ車を向かわせた、それに乗れ!』

 

 睡眠薬の睡魔のおかげで、まだ頭が上手く回らない。ただ、電話越しから聞こえる声は、何やら緊急事態を。なのだけれど......。

 

「......どちらさまでしょうか?」

『俺だ、隼翼(しゅんすけ)だ!』

 

 通話を終え、少し気だるさが残る身体を強引に起こす。ベッド脇に奈緒(なお)が用意してくれたカゴから、一番上私服を引っ張り出して、静かに着替えを始める。

 

「う~ん、どーしたんすか~......?」

 

 背中越しに、奈緒(なお)の声が聞こえた。起こしてしまったみたいだ。振り向くと、奈緒(なお)は隣のベッドの上に座って、まだ眠たそうに軽く目を擦っていた。

 

「すみません、起こしちゃいましたね」

「いえ......キズが痛むんですか?」

「そうじゃないですよ。隼翼(しゅんすけ)さんから、呼び出しの電話が来たんです」

「えっ、こんな時間にっすか?」

 

 スマホのデジタル時計に目をやって、不思議そうに首をかしげた。無理もない。今の時刻は、午前三時を少し回ったところ、草木も眠る丑三つ時なのだから。

 

「緊急の用件みたいです。ここへ迎えを寄越しているそうですので行ってきますね」

「そうですか。ではあたしも、すぐに支度します」

「寝ててくれていいですよ。早いですし」

「もう目が冴えました。と言うことで、着替えますので」

「あ、はい。外で待ってますね」

「はーい」

 

 簡単に身仕度を整え、寝室謙自室を出て、一足先に玄関を出る。

 季節は、夏。日が昇るのも早いとはいえ、外はまだ闇の夜の錦。深夜帯のため人気もまったくなく、とても静かな夜だった。やや絞られた柔らかな常夜灯とライトグリーンの非常灯が灯る廊下の手すりに片手を置き、手入れが行き届いた中庭を四角に囲った造りのマンションの吹き抜けから、空を見上げる。都心から離れているからなのか、静寂の夜空の向こうには、まるで宝石をばらまいたかのように、夏の星座がキラキラと輝きを放っていた。

 ――こんなにも静かな夜に突然の呼び出し、よほどのことがあったのだろう......。

 無数の星々が瞬く夜空を眺めていると、後ろで静かにドアが開いた。

 

「お待たせしました。さぁ行きましょー」

 

 身支度を済ませて出てきた奈緒(なお)に言葉に頷き、エレベーターに乗って、マンションのエントランスへ出ると、前に迎えに来てくれた施設の職員が待っていた。駐車場に止められていた車の後部座席に乗り込むと、隼翼(しゅんすけ)が待つ施設へ向かって走り出した。

 

「どんな用事なんすかね?」

「さあ。けど、こんな時間に呼び出すと言うことは――」

「大ごとですよね、きっと」

「おそらく......」

 

 もしかしたら、奪ったDNAから有力な物を得たのかも知れない。もしそうだとしたら何かが大きく動く。そんな予感が頭に浮かんで離れなかった。

 

「ところで、それは?」

 

 奈緒(なお)の膝の上にあるトートバッグに目をやって、半ば強引に話しを替える。

 

「救急道具です。いつもの時間には帰れないと思って持ってきました。怠ると大変なことになりますから」

「ああー......ですね」

 

 つい先日、すごい剣幕で主治医に叱られたことを思い出した。毎日朝晩必ず傷口を消毒することを言いつけられ、通院時の診察で処置を怠ったと判断した場合は、問答無用で即再入院と言う、とてもありがたいお言葉をいただいた。

 ただ、その主治医の迫力より恐ろしかったのが、隣に立っていた看護士の無表情で発せられる威圧感。俗に言う“目で殺す”とは、ああ言うことなのかと深く思い知らされた出来事だった。

 

「着いたら、すぐに消毒します」

「はい、お願いします」

 

 マンションを出てしばらく、特殊能力研究施設へと続く山中の広場で車は停車。職員に礼を言って、ライトを受け取り、暗い足下に注意を払いながら山道を上る。施設入り口の大岩の前に、人影があった。前泊(まえどまり)だった。

 

「いらっしゃい、二人とも。さあ入って」

「失礼します」

「お邪魔しまーす」

 

 前泊(まえどまり)の案内で、隼翼(しゅんすけ)が待つ部屋へ。

 

隼翼(しゅんすけ)、二人を連れてきたよ」

「ああ、ありがとう。奈緒(なお)ちゃんも来たんだね」

「お邪魔でしたか?」

「そんなことはないよ。って言うか悪いな、こんな時間に呼び出しちまって」

「いえ、それで?」

「本題に入る前に背中を見せてください」

「あ、はい」

 

 上着を脱ぎ、奈緒(なお)に背中を向ける。

 

「はっはっは、順調に尻に敷かれてるみたいだな!」

「みたいだね」

「で、用件は......?」

「ああ、そうだったな。研究所の方で重要な発見があったらしい。それで呼んだんだ」

「発見? 詳細は?」

「わからない。急いでお前を呼んでくれって頼まれただけだ。研究所は今、ごたついていて話しを聞ける状況にないんだ」

「そうですか。では、すぐに行きます」

「まだ動かないでくださいっ!」

「あ、はい! す、すみません......」

 

 俺たちのやり取りに隼翼(しゅんすけ)は笑い、前泊(まえどまり)は微笑んでいる。

 

「これでよしっ、と。はい、終わりました。もう上着を着ていいっすよ」

「ありがとうございます」

 

 お礼を言って、上着を着る。

 そして、隼翼(しゅんすけ)たちと一緒に研究所へと向かう。研究所へ入ると、施設の科学者たちは慌ただしく動き回っていた。

 

「騒々しいっすね」

「そうですね」

「こう言う状況なんだよ」

 

 なるほど、確かに気軽に話しを聞ける雰囲気じゃなさそうだ。

 

隼翼(しゅんすけ)

 

 熊耳(くまがみ)の声が聞こえた。奥の方から、目時(めどき)と一緒に急ぎ足でこちらへ歩いて来た。

 

「待ってたぞ」

「なあ、プー。これは、いったいなんの騒ぎなんだ?」

「詳しくことは奥で話す。着いて来い」

隼翼(しゅんすけ)は、私に捕まって」

「ああ、ありがとう」

 

 熊耳(くまがみ)の後に続いて、忙しなく動き回る科学者たちの間を縫うようにして奥の部屋へ。

 

「もう歩けるようになったんすね」

「ああ、リハビリには苦労したけどな」

 

 俺も最初の頃は、苦労したからよく分かる。

 

堤内(つつみうち)さん、連れてきました」

「おお、そうか、ありがとう」

 

 礼を言った堤内(つつみうち)は、こちらへ来た。

 

「朝早くすまないね」

「いえ、それで用件は?」

「うむ、これを見てくれるかい?」

 

 数枚綴りの資料を受け取り、内容を確認する。

 そこに書かれていたのは、まったく予想していない内容(もの)だった。

 

「これは......」

「なんっすか? あたしにも見せてください」

 

 奈緒(なお)に試料を渡す。

 

「何が書いてあったんだ?」

乙坂(おとさか)さんの、弟の有宇(ゆう)さんの検査結果です」

有宇(ゆう)の検査結果?」

「驚きの結果ですよ、これは......」

 

 乙坂(おとさか)のDNAからは、本来の“略奪"だけではなく、「念写」「念動力」「電撃」「空中浮遊」「崩壊」「時空移動(タイムリープ)」と、今までに奪った能力全ての情報を採取することが出来た。

 

「そう。私も、彼も得られるは“略奪"だけだと思っていたが......。これは嬉しい誤算だった」

「では、“消去"の能力開発の研究が進みますね」

「その通りだよ、乙坂(おとさか)くん」

 

 ――いや、これはそんな次元の話しじゃない。もっと、とてつもない可能性を秘めている。それこそ、時計の針を一気に数十年先へ進めることが出来るかも知れない。

 

「どうした?」

 

 足下に目を落として考え込んでいた俺に、熊耳(くまがみ)が声をかけてきた。

 

「いえ、なんでもありません。ニールは、どこにいますか?」

「今は、実験室にいる。案内しよう」

 

 ニールは、同室内の無菌室で能力開発の実験を行っていた。大学のラボで見慣れた光景にどこか懐かしさを感じつつ、軽く窓をノックする。ノックの音に気がついたニールは、手を止めて部屋を出てきた。

 

「やぁ、ショウ」

「ああ、とんでもないことになったな」

「うん、そうだね、驚いたよ。まさか、たった一人から七つも得られるなんて思いもしなかった」

「そうだな。なあ、ニール......作れるか?」

 

 俺の問いかけに、「何を?」とは聞かずに答えた。

 

「......出来てるよ」

「――ホントか!?」

「本体が手に入ったからね。ゼロから作るよりも簡単に出来た」

「なあ、なんの話しをしているんだ?」

 

 主語がない俺たちの会話に、隼翼(しゅんすけ)が疑問を投げ掛ける。

 

「“略奪"を得る投薬の話しですよ」

「“略奪"を!?」

 

 “略奪”と訊いて、資料を読むことに集中している奈緒(なお)以外の全員の顔色が変わった。

 

「どこにある?」

 

 黙ったまま俺に背を向けたニールは、医療品用の冷蔵庫の奥から小瓶を取り出し、テーブルに置いた。

 

「これが、そうなの?」

「想像よりも小さいですね」

「っんだよ、俺にも教えてくれよ」

「小さな瓶だ。三センチくらいのな」

 

 熊耳(くまがみ)が言ったように、高さ三センチほどの小瓶の半分ほどに“略奪”を得ることの出来る投薬が入っている。その小瓶に手を伸ばしたところ、ニールは取り上げた。

 

「これは、科学者として言わせてもらうよ......」

「何だ?」

 

 珍しく真剣な表情(かお)だ。

 

「......最後だ。これを打ったら、命の保証は出来ない」

 

 それほど危険なのか、と全員が絶句している。

 ただ一人......俺を除いて。

 

「覚悟は、もう既に出来てる」

「知ってる。でも、万全を敷いていたあの時とはワケが違う。もう次はない。身体は限界なんだ」

「......そうなのか?」

 

 深刻な顔の隼翼(しゅんすけ)からの問いかけに、ニールはゆっくりとうなづいた。

 

「“偽り"、“共鳴"、今回の大怪我。死線を三度越えた。病院で検査をしたけど、生きているのが奇跡だ」

「......そこまでなのか?」

 

 隼翼(しゅんすけ)から外した視線を、俺に向け直す。

 

「ショウの考えは分かってる。この投薬で“略奪"の能力を得て、世界中の能力者から特殊能力を奪い、オレたちの悲願である“消去"を完成させる。だろ?」

 

 ――言い当てられた、その通りだ。

 特殊能力を使えなくなる時期には個人差がある。早ければ、あと二年持たないかも知れない......時間がない。だが、“略奪”を使えば、他の組織からデータを奪うより確実で、なおかつ短時間で莫大な数のデータを集めることが出来る。俺が特殊能力を使える間に“消去"を作り出すには、この方法しかない。命を賭ける価値は十分だ。

 

「......寄越せ」

「ち、ちょっと、宮瀬(みやせ)くんっ?」

「お、おいっ!? 前泊(まえどまり)、止めろ!」

 

 普段とは違う俺の声色に、隼翼(しゅんすけ)は慌てて指示を出した。前泊(まえどまり)はすぐさま、俺とニールの間に割って入った。

 

「ここは、いったん落ち着いて話しを――」

「邪魔だ、どけ......」

 

 前泊(まえどまり)を、力づくで押し退ける。

 

「時間がないのは分かっているだろ......他に方法はない。寄越せ......」

「だとしてもだ。死ぬのが解ってるのに渡すわけないだろ?」

 

 険悪な空気が部屋中に流れる。

 だが、この空気を一変させる言葉が放たれた。

 

「打ってください。あたしが、“略奪”の能力者になります」

友利(ともり)さん!?」

「トモリ!?」

 

 覚悟を決めた、迷いのない力強い声。

 奈緒(なお)の目は、本気だ。

 

「絶対にダメだ!」

「そうだよ! これは命に関わるんだよ!?」

 

 さっきまで言い争っていたのに、俺たちは二人で止めに入っていた。

 

「わかっています」

「だったら――」

「時間がないんですよね?」

「それは......」

 

 奈緒(なお)は、まっすぐ俺の目を見つめる。

 

「いつも守ってもらって......今度は、あたしがあなたの力になりたいんです」

「何を言ってるんですか? 入院していた時も、退院した後も、ずっと助けてくれたじゃないですか」

「ぜんぜん足りないです」

「いいえ、もう十分過ぎます!」

「ニールさん、打ってください」

 

 俺の横をすり抜けて前に出た奈緒(なお)は、自分の腕を差し出した。

 

「ダメだっ!」

 

 後ろから抱き止める。

 

「ニール、絶対に打つなッ!」

「邪魔しないでくださいっ」

 

 奈緒(なお)は、離れようと必死に抵抗をした。だけど俺は、抱き留めている力を緩めなかった。そんなこと出来るわけがない。

 

「離してくださいっ」

「......考える。他の方法を考えるから......だから、お願いします。こんなことやめてください。あなたが居なくなったら、俺は......」

 

 抵抗する力が、次第に弱くなっていくのが分かった。

 

「......本当ですか、今の言葉。本当に、他の方法を考えてくれますか?」

「......はい」

「......もう“略奪"の投薬を打つなんて、絶対に言いませんか?」

「......はい、言いません」

「約束......してくれますか?」

「はい、約束します」

「今度は、絶対っすよ?」

「はい、必ず守ります。だから――」

「じゃあ離してください。ちょっと苦しいっす」

「あっ! すみません......」

 

 その言葉に慌てて腕を離すと、奈緒(なお)は胸に手を当てて深く深呼吸をして振り向いた。

 

「はい、それでは他の方法を考えましょう」

「お前、切り替え早いな」

 

 冷静な突っ込みを入れた熊耳(くまがみ)は、場が落ち着いてから仕切り直した。

 

「時間がないと言ったが、“時空移動(タイムリープ)”は?」

「却下」

 

 間髪入れずに俺は答える。

 

「オレもショウと同じ意見だよ。“時空移動(タイムリープ)”の代償は、視力。あまりにも重い。仮に使うにしても回数に限りがあるから、ある程度の道筋が見えてからじゃないと」

「......だな。俺も、有宇(ゆう)には俺と同じ代償を背負わせたくはない」

「そう言うことです。“時空移動(タイムリープ)”は、あくまでも最終手段です」

「それで、“略奪"なのね」

「ええ、“略奪"なら能力者を説得する必要もなく、確実に奪えますから。でも――」

 

 隣に居る奈緒(なお)を見ると、「ダメっすよ」とジト目で睨まれた。

 

「なるほどな。さて、どうしたものか......」

「ちょっと考えさせておくれよ」

 

 目を閉じて言った隼翼(しゅんすけ)の言葉が合図となり、ニールと堤内(つつみうち)を残して研究所を後にした。

 

「さっきは、すみません。つい感情的になってしまって......」

「気にしないでください」

 

 別室へ向かいながら謝罪すると、前泊(まえどまり)は穏やかに微笑んで許してくれた。

 

「ねぇ、前泊(まえどまり)、いいアイデアはありそう?」

「......そうだね。やっぱり先ずは、組織が保護している能力者たち全員から協力を得て、DNAを採取するのが近道じゃないかな?」

「急がば回れ、ね」

 

 前泊(まえどまり)の意見はもっともだ。でも、それには時間がかかり過ぎる。専用の検査機材が揃い、作業にも慣れている大学のラボの科学者が行うならまだしも、ここには俺とニールしかいない。ずいぶん前に採取した乙坂(おとさか)の検査結果が出たのが、今日。先日奪ったDNAには、まだ手が回っていない状態だ。聞いた話しによると、組織の科学者たちは特殊能力の発症そのものを抑えるワクチンの量産に手一杯、そちらの邪魔は出来ない。俺たちだけで能力者全員分となると、いったいどれだけの時間がかかることか。

 

「あれ? 友利(ともり)宮瀬(みやせ)じゃないか。どうして、こんな時間にいるんだ?」

「あなたですか。隼翼(しゅんすけ)さんに呼ばれたんすよ」

「兄さんに?」

「先ずは部屋に入ろう。有宇(ゆう)も、詳しい話は中でする」

 

 着いた時と同じ部屋に入り、乙坂(おとさか)に状況を説明してから話の続き。

 

「で、どうする?」

隼翼(しゅんすけ)さん、あなた方が囚われていた場所は、どこですか?」

「お前、まさか......!」

「忍び込みます」

「ダメだ! 奈緒(なお)ちゃんが居た学校とは訳が違う! 戦闘訓練を受けた武装集団が監視しているんだ、容赦なく殺されるぞ!」

 

 血相を変えた隼翼(しゅんすけ)は、全力で止めに来た。

 それは、分かっている。だが――。

 

「他に短時間で集める方法がありますか?」

「それは......」

「......熊耳(くまがみ)の能力で探すのが無難だと思います」

「任意で探せますか?」

「いや、俺の能力は前触れもなく唐突に発動する。任意では無理だ」

 

 強制型の探知・探査能力。居場所と能力を把握出来る代わりに自在には使えない制限がある。今、七野(しちの)がここに居ないのは、昨日見つかった能力者の調査へ出かけているからだそうだ。

 

「あなたたちは、三年生ですよね? なら、能力を消失するまで長くてあと半年ほど。到底集められるとは思えません」

「因みに、どれぐらいの数が必要なの?」

「最低でも、あと三千は必要です」

「三千!? そんなに必要なのっ?」

「新しいモノをゼロから創り出すのは大変なんです。近い能力があれば別ですけど」

 

 議論は止まり、場が静まり返った。

 その沈黙を破ったのは、ずっと硬く口を閉ざして話しを聞いていた、乙坂(おとさか)だった。

 

「......僕が、やる」

有宇(ゆう)!?」

有宇(ゆう)くんっ?」

「いやいや、無謀ですって。聞いていたっしょ」

「正気ですか? 乙坂(おとさか)さん」

「正気だ。僕は、お前たちには恩がある」

「恩って、前世の話しっすか? 動機としては薄いっすよ。当たり前のことをしただけですし」

「薄くないっ! お前たちは、僕と歩未(あゆみ)を救ってくれた......」

 

 ――関係を断ってまで......。そう言いたそうだったが口にはしなかった。

 

「だから今度は、僕がお前たちの力になりたい」

「どう言う意味か分かっているんですか?」

「えっ......?」

「特殊能力を奪うというのは、身体や脳へ尋常じゃない負荷がかかるんです」

「そうっすよ、考えてみてください。特殊能力を持っているだけでも常人からしたら化け物じみた力です。それを宮瀬(みやせ)さんは、新たな能力をたった二つの得るために命懸けだったんです」

「............」

「あなたは今のところ正気を保てていますが、能力を奪い続けたらどうなるかは分かりません。それこそ、あなた自身を滅ぼしかねません」

「二人の言う通りだ、有宇(ゆう)

 

 手探りに乙坂(おとさか)の肩に手を乗せて、言い聞かせるように諭す。

 しかし、乙坂(おとさか)は、隼翼(しゅんすけ)の手を払いのけた。

 

「......それでもいい、壊れてもいい! 世界中の能力者から能力を奪ってみせるッ!」

有宇(ゆう)......無理だ、やめておけ」

「なら、他に方法があるのか!?」

 

 誰も反論出来なかった。

 確かにその通りだ。机で何時間、何日議論を重ねたところで結論は出ないだろう。はっきり言って無駄な時間でしかない。いくら知恵を絞っても他に有効な策を見いだせない。なんて無力なんだ、俺は――。

 乙坂(おとさか)は、俺に目を向けた。

 さっきの奈緒(なお)と同じ、覚悟を決めた力強い目をしている。

 

宮瀬(みやせ)、これは僕にしか出来ないことだ。やらせてくれ......!」

有宇(ゆう)、ダメだ! 切り札の“時空移動(タイムリープ)”を使えるお前に、もしなにかあったら――」

「......わかった」

宮瀬(みやせ)!?」

「ただし、条件がある。俺も一緒に行く。お前が壊れないように、俺がお前を支える。それが条件だ」

「でも、それは......」

 

 乙坂(おとさか)は、奈緒(なお)に目をやった。

 

「あたしは、いいと思います」

奈緒(なお)ちゃんまで......!」

「大丈夫ですよ、隼翼(しゅんすけ)さん。乙坂(おとさか)さん一人では心配ですけど、宮瀬(みやせ)さんが一緒なら安心です。必ず成し遂げてくれます」

「......友利(ともり)宮瀬(みやせ)、一緒に行こう。兄さん、僕は必ず帰ってくるよ。だから、歩未(あゆみ)のことを頼むよ」

有宇(ゆう)......」

乙坂(おとさか)さん。はいっ!」

 

 奈緒(なお)は、乙坂(おとさか)に向かって両手を広げた。

 

「何だよ?」

「あたしの能力を奪ってください」

「えっ?」

「あたしの能力が使えることは、学校潜入の時に実証済みです。必ず役に立ちます」

「だけど......」

 

 俺は頷いて、乙坂(おとさか)をうながす。

 

「わかった......すまない」

「謝る必要なんてありません。これで真っ当な人間に戻れるので」

「......そっか、じゃあ行くぞ?」

 

 乙坂(おとさか)は“略奪"を使い、奈緒(なお)の“不可視"を奪った。

 

「んっ、ありがとうございます......」

 

 きっちり五秒後、意識を取り戻した奈緒(なお)は嬉しそうに。そして、どこか寂しそうな声で感謝の言葉を伝えた。

 乙坂(おとさか)は、隼翼(しゅんすけ)と向き合う。

 

「兄さん、もうこれで引き返せない」

 

 熊耳(くまがみ)が、険しい顔でうつむいている隼翼(しゅんすけ)の肩に手をやった。

 

隼翼(しゅんすけ)、コイツらの覚悟は本物だ。世界を変えるために己の視力を、人生を犠牲にしてきたお前と同じだ。そうだろう?」

熊耳(くまがみ)......わかった。お前たちに任せる」

「兄さんっ!」

有宇(ゆう)宮瀬(みやせ)、お前たちは海外へ飛んでくれ。日本の能力者は、俺たちが見つけ出す。今、調査している能力者を含めれば、ある程度の人数は集められるハズだ。手分けをすれば、奪う必要のある絶対数は減らせる」

 

 今、組織が保護している能力者と元能力者を含めて三百人強くらいの数はある。必要な数の一割とは言え、これは大きい。それに大学との連携が円滑に進めば、合わせて三割近くは稼げるハズだ。全てが上手く回れば、半年かからないかも知れない。

 そして何より、奪う数が少なくなれば乙坂(おとさか)への負担が軽減出来る。

 

「でも、二人はどうやって探すの? 熊耳(くまがみ)の能力を奪って行くの?」

「それは、ご心配なく。海外には大学と協力関係を築いている保護組織がいくつもあります 。そこから探知・探査系能力の能力者の情報を得ることができますので、現地調達出来ます」

「そうか、それなら大丈夫だな。ただ気をつけろ。今、世界中で能力者たちを束ねる組織が一斉蜂起し、身の危険を脅かす科学者や政府関係者を狙った大規模テロを行おうとしている動きがある」

 

 ならば、なおのこと急がなければならない。

 隼翼(しゅんすけ)の警告を聞いた俺は、奈緒(なお)と一緒に施設を後にして、急いで併設のマンションへ戻り、さっそく旅の準備に取りかかった。

 

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