Charlotte ~時を超える想い~   作:ナナシの新人

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Episode46 ~誓い~

 あの日から、五日後。俺と乙坂(おとさか)は、遠い異国の地、東南アジアの一国フィリピンに居た。

 

「で、どこに居るんだ?」

「貰った情報によると、この辺りのハズなんですけど」

 

 フィリピンへ降り立つ二日前、情報を共有しているシンガポールの特殊能力者保護組織で、最近、急速に勢力を増している若者の集団があると言う話しを聞き、探知系能力者が居る可能性が高いと判断し、急遽フィリピンへ飛ぶことにした。

 

「あっ! あの車じゃないか?」

 

 首都から外れたやや寂れた街のメイン通りに路上駐車している一台の自動車を、乙坂(おとさか)が指を差した。貰った情報のナンバーと合っているか確認する。車種も、ナンバーも一致していた。

 

「間違いないですね。この車の所有者が、まとめているリーダーです」

「そうか、どうする?」

「そうですね......」

 

 今持っている情報は、隼翼(しゅんすけ)たちと同世代くらいのリーダーと思われる青年と、彼の仲間と思われる数人の顔写真だけ。そもそもこの中に、目当ての探知系能力者が居るかも分からないのが現状。あまり目立ちたくはないが、ここだけはどうしようもない。

 

「ここで待ち伏せして、本人から直接聞き出すのが確実で手っ取り早いですね」

「だな」

 

 うなづいた乙坂(おとさか)が車の後部座席に目をやると、ドアに掛かっていたロックが独りでに開いた。

 

「じゃあ僕が、リーダーを脅して情報を聞き出す。近くで待っていてくれ」

「“念動力”、便利な能力ですね」

「こんなことに使うことになるなんて思わなかったけどな」

 

 どこか自虐的に言った乙坂(おとさか)は、車の後部座席に座ってドアを閉め。俺は、少し離れた場所で観光客のふりしてリーダーが現れるの待った。しばらくして、それらしき青年が歩道を車へ向かって歩いて来た。タイミングを見計らって、肩をぶつける。

 

『おっと、失礼』

『チッ』

 

 不機嫌そうに軽く舌打ちをしたリーダーが運転席へ乗り込んだのを確認し、俺はこの場を離れて、乙坂(おとさか)が戻って来るのを待った。

 

「お疲れさまです。どうでした?」

 

 角を曲がった路地裏で乙坂(おとさか)と無事に合流し、成果のほどを訊ねる。

 

「あのリーダーは、“読唇”の能力者だった。相手が思ってることが分かる能力だ」

「それはまた、レアな能力ですね。本命の方は?」

「そっちも分かったよ。探知系能力者の名前は、アンジェロ」

「アンジェロ、ですか。えーと......」

 

 スマホの電話帳アプリを立ち上げて、名前を探す。アルファベット順に表示されているからすぐに見つかるだろう。

 

「そのスマホ、どうしたんだ?」

「これですか? 肩がぶつかった拍子に落としたんですよ、はっはっは」

「......どうしてぶつかったのかと思ったら、そう言うことか。お前、友利(ともり)に似てきたんじゃないのか?」

「さて、何のことやら? あった。メッセージを送って、人通りの多い場所へ呼び出します」

「どうして? あー、そっか、人混みに紛れて目立たないようにするのか」

 

 さっそく考えを読まれた。便利な反面、読まれる方としては厄介な能力だな。別に困ることでもないけど、“共鳴”で遮断しておこう。能力を意識して断ち切る。

 

「あれ? 急に聞こえなくなったぞ?」

「便利でしょ?」

「例の能力の無力化か......とんでもない能力だな。でもどうして、熊耳(くまがみ)さんは見つけられたんだ?」

「あれは、受信されただけなので」

 

 指定した、人通りの多い駅前広場へ話しをしながら向かう。

 

「直接能力をかけられた訳じゃないから無力化できないのか」

「だから“偽り”が必要だったんですよ。ああいった能力への対処は難しいんです」

 

 他者へ直接影響を与えない能力相手には、能力者だと知っていないと対応できないのが難点。などと話して歩いている間に指定した広場に到着。二人がけのベンチに座って、呼び出したアンジェロが現れるのを待つ。

 ほどなくして、それらしき三人組が広場へ姿を現した。スキンヘッドの屈強そうな男、黒髪の短髪、特徴的な金髪のモヒカン頭少年の三人。キョロキョロと周囲を見回し、モヒカンの少年がスマホを取り出した。直後、俺の手元にあるリーダーのスマホにメッセージが入った。

 

「メッセージが来ました。送信者は、アンジェロ」

「あのモヒカン頭が、探知の能力者か」

「能力の使い方が知りたいですね」

「取り巻きが邪魔だな」

「ええ。先ずは、“念写"で所持品を調べましょう」

「了解。撮ったぞ」

 

 ポラロイドのフィルムに徐々に浮かび上がってきた。下着姿の三人が写り、服の中の携帯や財布などの所持品が透けて見える。

 

「黒髪の男が、ナイフを持ってますね」

「じゃあ最初に、そいつを倒そう。あと、どうでもいいんだけど男の下着姿をまじまじと見るのは気分が悪いな......」

「同感です、後で燃やしてください」

 

 能力を奪うために必要な“略奪”の乗り移りで、スキンヘッドの男に乗り移った乙坂(おとさか)は、アンジェロの隣に立っている黒髪の男を殴ってノックアウトさせると、自らの頭を思い切りコンクリートの壁に打ち付けた。そのまま仰向けで倒れ込む。

 

「......すごい痛かったんだけど?」

「4.7秒くらい。ちょっと速かったですね」

「コンマ単位でタイミングとれるか! ......とりあえず奪う」

 

 突然の仲間割れを目の当たりにして、腰を抜かしているアンジェロに“略奪”を使って乗り移り、そして、きっちり五秒後に意識を取り戻した。

 

「どうです?」

「うーん、特になにも感じないな。隣に居ても能力者だって分からない」

「そうですか、じゃあ行きましょう」

「ああ」

 

 変装用のダテメガネを掛けて、野次馬が出来上がっているアンジェロたちの元へ向かう。乙坂(おとさか)は野次馬の中で待機して、俺は、リーダーのスマホを片手にアンジェロの隣で片膝をつく。

 

『今、救急車を呼んだ。すぐに来る』

『え、あ、ああ......』

『ところで、どうやって能力者を見つけているんだ?』

『――えっ?』

 

 野次馬の中の乙坂(おとさか)から、合図が来た。指紋を拭き取ったスマホをアンジェロに押し付けて、立ち上がる。

 

『落とし物だ。お前から、届けておいてくれ』

 

 茫然としているアンジェロを後目に、野次馬の中へ紛れ込み現場を離れる。隣町のビジネスホテルの部屋に入ると、乙坂(おとさか)はベッドの上に地図を拡げた。

 

「......スゴい、完璧な探知能力だ!」

 

 乙坂(おとさか)の話しによると、地図上に赤い点が表示されているらしく、それは今居る、このビジネスホテルにもあるらしい。つまり俺の反応と言うこと。一応確かめるため意識して遮断してみる。

 

「あっ、地図上からホテルにあった反応が消えた」

「間違いないですね」

「これですべての能力者の居場所が分かるぞ! だけど、スマホの地図アプリには反応がない」

「紙媒体専用の能力ですか。あとで調達しましょう」

 

 軽く頷き、持ちやすい大きさに折りたたんだ地図を持った乙坂(おとさか)は窓際に立ち、窓の外に広がる景色と地図を照らし合わせて“略奪”を使う。五秒後に意識が戻り、もう一度地図を確認する。

 

「......よし、反応が消えた。これで、能力を奪えたハズだ」

「意識の方は?」

「大丈夫だ、問題ない。それよりも急ごう。こうしている時間も惜しい」

「ですね。ですが、くれぐれも慎重に......」

「ああ、分かってる。行こう!」

 

 日本を発って一週間足らずの早い段階で、完璧な探知能力を手に入れることが出来たことにより、計画は一気に加速することになった。

 

           * * *

 

 地図上にリアルタイムで表示される能力者から、特殊能力を片っ端から奪い去り、別の街へ。そして、別の国へと舞台を移し、同じ手順で能力を奪っていく。そんなことを続けているうちに、日本を旅立ってから数ヶ月が経過しようとしていた。

 この数ヶ月で変わったことは旅に慣れたことと、「有宇(ゆう)」「(しょう)」とお互い下の名前で呼び合うことになったことくらいだ。日本とは比べものにならないほど治安の悪い遠い異国の地で、お互いに命を預けて旅を続けるうちに遠慮なく話せる関係になった。

 

「この国の旅も終わった。明日の朝、次の国へ行くよ、兄さん」

 

 隼翼(しゅんすけ)と電話で報告している間に俺は、都市部から少し離れた砂漠の大地に張ったテントの片隅で夕食の下準備を始める。運悪く空き部屋は見つからず野宿することになったが、代わりに市場で偶然日本のインスタントラーメンを見つけた。一緒に購入したカセットコンロで湯を沸かし、沸騰したお湯を容器に注ぐ。

 

「うん、大丈夫。歩未(あゆみ)にも、よろしく伝えてくれ。じゃあ、また」

「出来たぞ」

 

 出来上がったインスタントラーメンの容器とフォークを渡す。

 

「ああ......ありがと。美味いな!」

「だな」

 

 箸じゃないから少し食べづらさがあるけど、久しぶりに口にする醤油味のラーメンは懐かしい味がした。

 

「次は、どこへ行く?」

「そうだな。中東は避けて、欧州へ行くか。イタリアに情報を共有してる能力者保護組織の施設がある」

「それはいいな。久しぶりにゆっくり眠れそうだ」

 

 能力を奪う旅を本格的に始めてからホテルでも、野宿の時も常に交代で見張りをして休むことにしている。まともに休んだことはほぼ皆無に等しかった。

 

「先に寝てくれ。俺は、航空券を手配しておく」

「ああ、そうさせてもらうよ。スマホ」

「サンキュー」

 

 スマホを借りて、欧州行きの便に空きが有るか調べる。

 

「あと幾つくらいだ?」

「そうだな......」

 

 手を動かしながら今まで奪った能力の数と、隼翼(しゅんすけ)たち、そして情報を共有している保護組織が見つけた能力者の数を合わせておおよその数字を出す。

 

「半分以上はクリアしてるハズだ」

「そっか、もう半分も奪ったのか。じゃああともう少しだな」

「ああ、そうだな」

 

 今のペースを維持して奪い続けることができれば、新年度までに集められるかも知れない。けど、自国の能力者たちから不自然に能力が消えていることは気づかれているとみて間違いないだろう。警戒が強まることは必至だ。今まで以上に慎重に動かなければならない。

 航空券の手配が済み、上着を脱ぎ、ボディーシートで身体を拭く。

 

「それ、ずっと着けてるよな」

「ん? あー、これか」

 

 視線の先は、首から下げたネックレス。

 

「連絡してやらなくていいのか?」

「......ああ」

 

 ――声を聞くと、きっと逢いたくなる。

 

「そっか、じゃあ僕は寝る。おやすみ......」

 

 察したのか有宇(ゆう)は、俺に背中を向けて横になった。

 上着を着て、すっかり日が暮れた空を見上げる。異国の大地の夜空には、東京では決して見ることの出来ない、まるで宝石を散蒔いたような満天の星々が瞬いていた。

 夜空を見上げながら、ネックレスのチェーンに通った指輪を軽く握る。

 

 これは、日本を旅立つ前にした誓いの証だ――。

 

 

           * * *

 

 

 保護組織の研究所から併設マンションへ戻った俺は、奈緒(なお)の手も借りて海外へ向かうための準備を始めた。必要最低限の必需品を出来るだけコンパクトにまとめる。

 

「これで、一応は揃いましたか?」

「はい、ありがとうございました」

 

 足りないものは現地調達すればいい。あとは病院へ行って、主治医の許可を貰う。正直、これが一番の難題になりそうだ。そう易々と認めてくれないだろう。今から気が重い。

 

「あっ! ひとつ忘れ物がありましたっ」

 

 突然思い出したように、奈緒(なお)が言う。

 

「何でしょう?」

「長旅に必要な物です。今から行きましょー」

 

 最初にリストを作って、確認しながら荷造りをしたから特にこれといって思い当たる物はないのだけれど。少し疑問に思いながら忘れ物を購入するため、マンションの最寄り駅から電車に乗って都心へと向かった。

 連れてこられた場所は自宅のある六本木の近く、赤坂のとある神社だった。

 

「お待たせしました、どうぞ」

「これは、お守りですか?」

「はい、ここの神社のお守りは良く効くと評判です。ですので、必ず無事に帰って来てください」

 

 お守りはなくさないように紙袋に入ったまま財布の中にしまっておく。

 

「診察まで、まだ時間がありますね」

「そうですね」

 

 診察は午後の予定だから十分に時間がある。

 

「買い物に付き合ってくれますか?」

「ええ、もちろんです」

「では、行きましょうっ」

 

 近くのショップで“ZHIEND(ジエンド)”のライブDVDを購入。歩道を上機嫌で歩いていた足が不意に立ち止まった。奈緒(なお)が見ている方向に目を向ける。そこは、小さなアクセサリーショップ。

 

「入りましょうか」

「いいんすか?」

 

 うなづくと嬉しそうにショップの中へ入って行く。店内を見て回っていると気になる物があったのか、ショーウィンドウを見つめている。視線の先にあった物は、指輪だった。

 

「プレゼントさせてください」

「でも......」

「看病してくれたお礼、じゃあダメですか?」

 

 奈緒(なお)は少し考えて、遠慮がちな目を向ける。

 

「あの......」

「はい?」

「あの時の約束、ここで使ってもいいですか?」

「あー、はい、どうぞ」

 

 学校潜入の前、彼女を納得してもらうためにした提案。

 わがままを聞いてもらう代わりに、無事に成し遂げた時は、どんなわがままでも聞く。

 あの約束を、ここで使いたいみたいだ。

 

「えっとですね......これ、ペアで欲しいっす」

「――えっ?」

「ダメですか......?」

 

 不安そうな表情(かお)。こんな顔をされたら断れる訳がない。

 

「ペアで買いましょう」

 

 さっきまでの表情(かお)が嘘だったみたいに笑顔になった。店員に声をかけると、サイズの調整に少し時間がかかると言う話しだったため一旦ショップを出て、近くのスーパーで昼食の買い物をすることに。買い物を済ませた後ショップへ戻り、出来上がった商品を受け取って、久しぶりに六本木(ろっぽんぎ)の自宅へ帰る。

 

「では、少し早いですけどお昼にしましょう」

「手伝います」

 

 いつもは頼んでも手伝わせてもらえなかったけど、今日は許しをもらえた。手分けをして昼食を作る。

「こうやって、二人で作るのもいいっすね」と、どこか楽しそうな様子だった。二人で一緒に作った昼食を食べて、先ほど購入した“ZHIEND(ジエンド)”のライブDVDを一緒に観る。

 

「そういえば、“ZHIEND(ジエンド)”のボーカルのサラさんが、お見舞いに来てくれたんですよ」

「そうだったんですか?」

「はい、乙坂(おとさか)さんが連れて来てくれたんっすよ。もしかしたら、あなたに良い影響を与えてくれるかもって、まっ、あなたには影響なかったみたいっすけど」

 

 その言葉に少し引っ掛かった。

 

「あなたには?」

「言葉のあやっすよー」

「はぁ? そうですか?」

「そろそろ時間っすね。病院へ行きましょう」

 

 持ってきた荷物を持って、病院へ向かう。

 主治医の診察を受けたあと、海外へ行くことを伝えると怒るを通り越して呆れられてしまった。なにを言っても無駄だと判断したのか機内へ持ち込める常備薬と救急キッドを用意してくれた。主治医と看護士にお礼を言って、東京駅から特急列車に乗り、一希(かずき)さんが入院している病院へ向かった。

 病室へ入り、海外へ行くことを報告するも反応は返ってこなかった。でも、どこか落ち着いているように思えた。

 

「“ZHIEND(ジエンド)”の音楽を聴いていると、こうして落ち着いているんです」

「そうでなんですね」

 

 やっぱり一希(かずき)さんにとって、“ZHIEND(ジエンド)”は特別な存在なのだと改めて思った。

 

「あっ、そうだ」

 

 奈緒(なお)は、手荷物からさっき一緒に観ていた“ZHIEND(ジエンド)”のDVDとポータブルDVDプレイヤーを取り出して、一希(かずき)さんの膝の上に置き、再生ボタンを押した。一希(かずき)さんの目は画面に行ったが、さほど大きな反応はない。でも見入っているようにも思えた。

 

「うーん、ダメか。ライブ映像なら、もう少し反応してくれると思ったんですけど......」

「大丈夫、必ず救います」

 

 ――そう、必ず救う。能力者も、一希(かずき)さんも。

 そう誓って病室を後にした。

 病院の外へ出ると、日が傾き始めオレンジ色の空が広がっていた。

 不意に奈緒(なお)と目が合う。それを合図にしたかのように、どちらからともなく、あの岬へと歩き出した。

 夕日と夜空の狭間というのだろうか、言葉では表現できないほど幻想的な風景が眼前に広がっている。やがて日が沈み、夜空には満天の星空が姿を現した。

 

「ここは、綺麗に見えますね」

「はい、すごく綺麗です」

 

 キャンプの時に一緒に見た星空とは、また別次元の星空が広がっている。

 この時、気がついたんだ。ずっと引っ掛かっていた。二つの言葉の意味を――。

 

『今度は、絶対っすよ?』

『あなたには影響なかったみたいっすけど』

 

 今日の行動、一緒に買い物して、一緒にご飯を作って、一緒にDVDを観て、そして星空を観る。

 あの日、前世の別れの日。出来なかった約束のデートを今日、奈緒(なお)は果たしてくれたんだ。

 

 ――奈緒(なお)は、前世の記憶を取り戻していたんだ。

 

奈緒(なお)さん」

「――はいっ」

 

 本当は、伝えるつもりはなかった。

 想いを胸に秘めたまま旅立ちたかった。

 

「あなたが、好きです」

「......はい、あたしもです」

「......でも俺は、また、あなたを泣かせてしまいます」

 

 俺は、この旅を終えたら。

 全てを救済するために、全てを終わらせる旅に出る。

 

「わかってます。それでもあなたに、もう一度好きと言って欲しかった、あたしのわがままです......」

 

 ――違う。これは、俺のエゴだ。

 奈緒(なお)が傷つくのが、傷つけるのをわかっていて、それでも想いを伝えずにはいられなかった。

 

「そんな顔しないでください。大丈夫っす。また逢えます。絶対っす!」

 

 ニッと笑顔を見せながら言った。

 俺が成そうしていること、彼女は気づいている。

 

「逢えない、ですよ......」

「じゃあ、あなたがどうにかしてください」

「えっ......?」

「天才なんでしょ?」

 

 彼女の言葉に、思わず笑ってしまった。

 

「あはは......そうですね、そうでした。俺は、天才でしたね」

「はい、だから......先ずは無事に帰って来てください。あたしのところへ――」

「必ず帰ってきます」

 

 奈緒(なお)は、アクセサリーショップで買ったペアの指輪の箱から小さい方の指輪を取り出した。

 

「これを持っていてください」

「これは、奈緒(なお)さんのですよね?」

「はい、あなたのはあたしが預かっておきます」

 

 箱に入っているもう一つ指輪を両手でとても大事そうに包み込んだ。

 

「そろそろ行きましょう。夜ご飯と休む時間がなくなってしまします」

「そうですね。帰りましょう」

 

 必ず帰ってくる。

 そしてまた、必ず再開することを誓い、美しい岬を後にした。

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