Charlotte ~時を超える想い~   作:ナナシの新人

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Episode48 ~黒幕~

 前泊(まえどまり)の到着を待つまでの間に、隼翼(しゅんすけ)に用意してもらったタブレット端末にデータを入れ、円滑にことが進むよう準備を整えておく。

 

「俺たちに出来ることはあるか?」

「じゃあ、お言葉に甘えて。国営、都・県営、市営、民間を問わず。港、空港、飛行場、ヘリポートをリストアップしてもらえますか? 東京と、隣接している県だけで構いません」

「東京近郊......相当な数になるな。お前たちも手伝ってくれ」

「オッケー、みんなで手分けして調べましょ。柚咲(ゆさ)ちゃんは、時間平気?」

「はいっ、お休みをもらっていますので!」

 

 クリスマスのドームライブと正月の特番が終わって、少し遅めの冬休みとのことだった。奈緒(なお)たちは担当する地域を決めて各自作業に取りかかり、俺も自分の作業に戻る。

 

「で。お前は今、なにをしているんだ?」

 

 手を持て余している隼翼(しゅんすけ)が、俺がしている作業について訊いてきた。

 

「名簿を作ってます。年商10億ドルを超える企業の重役、個人資産家及び実業家、発言力のある大物政治家など。欧米、露、大陸、中東からピックアップしています」

「テロ活動には支援者がいるとみている訳か。リストから日本を除いた理由は?」

「居たら今、保護施設(ここ)は存在していないでしょ?」

「確かに、な」

 

 今作っているリストの中に、前泊(まえどまり)の見覚えのある人物がいたのならそれは、少なくとも奴らと何かしらの接点がある人物。今回の件にも、直接ないし間接的に絡んでいる可能性が出てくる。

 ただ、腑に落ちないことがいくつかある。

 一番は、今になって標的を変更した理由。

 

「当初の標的は、政府要人や科学者でしたよね。なぜ今になって、標的を変更したんだと思いますか?」

 

 手を動かしながら、隼翼(しゅんすけ)に意見を求める。

 

「それは俺も、同じことを思っていた。当初の目的は、能力者をぞんざいに扱ってきた連中への報復......正確には、無差別攻撃(テロ)ではなく、明確な標的を定めた襲撃のハズだった。それなのに――」

「無関係の一般市民を巻き込むようなテロ行為は、民衆の反感を買う。能力者の立場をより悪化させる愚行でしかない」

「その通りだ。なにもメリットがない、誰も得をしない。ただ不幸になるだけだ......」

 

 やや伏し目がちになり、拳を強く握り締め、とてもやるせない表情(かお)を見せた隼翼(しゅんすけ)は、深く息を吐いて顔を上げた。

 

「今作っているリストを、前泊(まえどまり)に見せるんだろ?」

「ええ。もし見知った人物が居たのなら、目的と手段を見いだせるかもしれません」

「......そうか。見つかるといいな」

 

 そして、目時(めどき)が連絡を入れてくれてから、二時間弱。俺たちの作業が終わったのとほぼ同時に、前泊(まえどまり)が施設へ到着した。

 

 

           * * *

 

 

「お待たせ。それで、僕に用事とは?」

「これを」

「タブレット端末......顔写真とプロフィール?」

「この中に、あの連中......。奈緒(なお)さんと熊耳(くまがみ)さんを拉致した奴らの記憶の中に居たか、前泊(まえどまり)さんの記憶と照らし合わせみてください」

「......それは、大変な作業になりそうですね」

 

 拉致事件から時間が経っているし、探った記憶も曖昧になっているだろう。数百単位の人数、気が遠くなる作業だ。そもそも居ないことだって十分に考えられる。でも今は、わずかでも可能性がある限りひとつひとつ潰していかなければならない。

 

「再生を押すと、十秒ごとに自動で次の人物へ切り替わるようになっています。自信がなくても構いません、ほんの少しでも気になる人物がいたらチェックを入れてください。お願いします」

「了解。さっそく始めます」

「なにか飲む?」

「ありがとう。目時(めどき)に任せるよ」

 

 前泊(まえどまり)に任せて、スクリーンの地図に顔を向ける。能力者の所在マークは一旦すべて消され、代わりに数え切れないほどのマークが所有者別に色分けして表示されていた。

 

「こうして見ると圧巻っすね。東京だけでも、かなりの数があります」

「ですね」

 

 世界中の人々が乗り降りするハブ空港、日・米軍関係の飛行場、個人所有のセスナや遊覧飛行などのヘリが発着する飛行場、患者を緊急搬送するドクターヘリを持つ大病院、市・区役所、民間企業所有のビルの屋上。自宅がある、六本木タワーの屋上も候補に入っている。これら加え、港に寄港する客船や漁船、物資を運搬する大型タンカーなど。この数え切れないほどの候補の中からピンポイントで探し出さなくてはならない。

 

「どうですか?」

「今のところこれと言って気になる人物はいないですね」

「そうですか。引き続きお願いします」

 

 改めて地図へ目を戻し、思考を巡らせようとしたところ、不意に軽く袖を引っぱられた。その犯人は、奈緒(なお)

 

「少し休憩しましょう。根の詰めすぎは逆効果です」

 

 奈緒(なお)の気づかいにうなづき、一時中断して施設内の食堂へ。夕食前に軽くつまみながら休息を取っていると、テレビ画面がニュース速報に切り替わった。ニュースの内容は、中東諸国で現政府勢力・反政府勢力を問わず、次々と壊滅していることを知らせる第一報。しかも、いずれの襲撃も奇跡的に死者はいないとのことで。目撃者はテレビのインタビューに対し、突然爆撃のような轟音が鳴り響き、激しい銃声が数分間続き、鳴り止むと崩れた瓦礫の上に立つ人影の様な物が音も立てず消え去ったと、とても興奮した様子で語っていた。

 

「このニュース、まさかとは想いますが......」

乙坂(おとさか)さんのしわざっすね、間違いなく」

「はわわっ、だ、大丈夫なのでしょうか......?」

「大丈夫、心配ないですよ。謎の人影は消え去ったって言ってましたし。能力者が多数集まる別の組織へ向かったんでしょう」

「しかし、よろしいのですか? これほど大胆な行動を取って」

「むしろ大胆に動いてくれる方が好都合です」

「プランを大幅に変更せざるを得なくなる、と言うことっすね」

「ええ、その通りです」

 

 そう、この行為が想定外の事案であれば、おそらく何かしらのアクションを起こしてくる。しかし、予め計算に入れられていたのだとしたら――。

 

「ん?」

 

 目の前に突然、銀色のスプーンが現れた。そのスプーンには、ホイップクリームがトッピングされたプリンが乗っかっている。

 

「休憩に来たんすよ、考えごとは部屋に戻ってからにしてください。と言うことで、はい、あーん」

「生クリーム、あまり得意じゃないんですけど......」

「たまには甘い物を食べて、ちゃんと糖分を摂らないと頭も回らないっすよ。ですので、はい、あーん」

 

 話しが最初に戻った。黒羽(くろばね)は、にっこりと微笑み。高城(たかじょう)は観念した方が良いですよと、すまし顔で、湯気の立つ汁粉を食べている。どうやら食べる以外の選択肢はないらしい。意を決して食べる。

 

「どうっすか?」

「......甘い」

「そんなに甘い物が苦手なんですか?」

 

 このプリンと同じプリンを美味しそうに食べている黒羽(くろばね)は、少し首をかしげた。

 

「研究に没頭してた頃、まともな食事をしてなくて低血糖になりかけたことがあったんです。それでラボの同僚が、近くのコンビニでショートケーキを買ってきてくれたんですけど......。そのケーキの生クリームが尋常じゃないほど甘くて......」

 

 元々ちゃんとした食事をしていなかったところへ、水飴に砂糖とグラニュー糖を混ぜたような激甘生クリーム。当然、胃が受け付ける訳もなく。激しい胸焼けにみまわれ、二日ほど寝込むことに。まともな食事を心がけるきっかけであり、若干トラウマでもある出来事。野球の試合のあとに奈緒(なお)と一緒に食べたケーキは、フルーツが多めで甘さも控えめだったからまだ良かったけど。あの出来事以来、生クリームは苦手。

 

「じゃあ、チョコとかもダメなんですか?」

「チョコは普通に食べられますよ、甘過ぎなければ」

「あ、そうなんですねー」

 

 黒羽(くろばね)が、奈緒(なお)に笑顔を向ける。しかし奈緒(なお)は、特に反応することなく、食べかけのプリンをスプーンですくって自分の口へ運んだ。

 

 

           * * *

 

 

 食堂を出て、対策室へ戻る。

 休憩中も用意した顔写真の確認作業をしてくれていた前泊(まえどまり)に、成果のほどを訊ねる。

 

「どうですか?」

「いえ、明確にこれと言った人物は......」

 

 結果は、空振り。別の方法を見つけなければならない、と思ったが、前泊(まえどまり)の話しには続きがあった。

 

「ですが、少し気になる人物が。この写真なんですけど」

 

 タブレット端末の画面には、何かの式典に参列している女性の写真が映し出されてた。確か、環境問題に熱心に取り組んでいる欧州の政治家だったハズだ。

 

「それから、これ」

 

 別の写真へ切り替えた。今度は、男性の写真。更に続けて別の写真へ切り替える。今度も男性の写真だった。見せられた三人のプロフィールは、政治家、官僚、企業経営者。職業も、国籍も全員ばらばらで特に共通する点は見受けられない。

 

「この三人ですか?」

「ううん、見て欲しいのは、写真の後ろの人よ」

「後ろ?」

 

 目時(めどき)が俺の肩越しに指を差した先、写真の端を見る。そこには、見るからに値の張るスーツを身にまとった男性の後ろ姿が写っていた。右手には、特徴的な金色の指輪が光っている。

 

「他の写真にも似た人が写ってるの」

 

 画面を戻して写真を確認すると、確かに似たスーツを着た人物が写っている。指輪も同じだ。

 

「この三枚以外にも写っている写真があった。ただの偶然かもしれない関係ないが、少し気になってな」

 

 目時(めどき)の横から手を伸ばした熊耳(くまがみ)は端末を操作して、更に二枚別の写真を見せてくれた。正面の写真はないし、横顔が写っている写真も、サングラスをかけているから断定は出来ない。だが、おそらく、奴らと同じ大陸系出身と思われる。

 

「お前は、どう思う?」

「......そうですね」

 

 数百人分ある写真の中の、たった五枚の写真に写る人物......いや、五枚もの写真に写り込んでいると捉えるべきか。

 

「念のために調べてみましょう」

 

 五枚の写真を画像検索にかけて、写真が撮られた日付と場所を調べる。有名人をリストアップしているだけあって簡単に特定することが出来た。そして、すべての写真に共通する点も見つかった。

 

「環境問題、人権問題、チャリティー......他も全部、慈善事業のイベントみたいね」

「よほど熱心に取り組んでいるみたいですね、この人は」

「テロとはかけ離れたイベントだな。関係ありそうな気がしたが、思い過ごしだったか」

「......もう一度、最初から確認してみます」

「ちょっと休憩してからにしたら? 休みなしで見てるんだし」

「そうしておけ、集中力も持たないだろう」

 

 席を立った三人は、少し離れたところのソファーに深く腰を預けて休憩に入る。その間に俺は、この男について詳しく調べることにした。

 ――おそらく、三人の勘は当たってる。

 この男は、明らかに場から浮いている。詳しく調べていくと、この人物の正体に辿り着いた。

 

「......隼翼(しゅんすけ)さん、国交省とパイプはありますか?」

「国交省? いや、ない」

 

 星ノ海学園を買収する際に、文科相に勤める元能力者の協力は得たが、国交省との繋がりはないとのことだった。

 

「どうして、国交省なんだ?」

「近日中に東京近郊から飛び立つ予定のヘリのフライト予定を知りたいんです。これを見てください」

 

 テーブルにタブレット端末を置き、イベントの企画運営主催者、協賛者の名簿を見せながら説明する。休憩をしていた熊耳(くまがみ)たちも戻ってきた。

 

「これらはすべて、民間企業が主催したイベントだったんです」

「あ、ホントだ。国営がひとつもないっすね」

「そうです。そこで、この男が写っているすべてのイベントに協賛している共通の企業を調べました。重複していた企業は一社だけ。該当したのは、この企業です」

 

 該当した企業のホームページへアクセスし、事業内容を紹介しているページを開く。

 

「この会社......ちょっと待って! これ、本当なのっ?」

「これは......」

「まるっきり()()じゃないか......!」

 

 声を上げた目時(めどき)たちだけではなく、奈緒(なお)も深刻な顔で眉をひそめている。

 

「おいおい、お前たちだけで納得しないで俺にもわかるように教えてくれよー」

「......唯一該当した企業は――」

 

 不満を口にしていた隼翼(しゅんすけ)だったが、熊耳(くまがみ)の言葉を聞いて絶句した。

 それもそのハズ、なぜなら慈善事業とは正反対の事業を生業としている企業であり。取り扱っている製品紹介ページの製品の精度をプレゼンする動画には、サングラスはしていないが、写真同じ特徴的な金色の指輪をはめた大陸系の男が他の重役や社員たちと一緒に写っていた。

 更にご丁寧なことに、この企業が発信するSNSのURLまで記載されていて、掘り下げていくと例の拉致事件のボスが数年前に、他の企業が主催する立食パーティーに参加していたことが集合写真で判明、僅かながら繋がりも見つかった。

 今回の件も、この企業が関わっているとみて間違いない。

 あの拉致事件のボスに能力者の情報を与え、テロ活動を支援している黒幕は、ある分野において独自開発した新技術が注目を集め近年急激な成長を遂げた企業。

 その技術は、主に紛争や内戦で多く用いられる武器や兵器。

 表では慈善事業に積極的に取り組み、裏では海洋進出へ積極的な大陸や、対抗する東南アジア諸国へ武器を売りさばき。中東のテロ活動を支援する、闇の企業。

 

 そう、この企業の生業は――軍事産業。

 

 

           * * *

 

 

 俺は、施設の外へ出ていた。

 日が沈むのが早い真冬の空は、まだ17時を回ったばかりなのにもう真っ暗で、とても冷たい北風が体温を奪っていく。

 吐く息が白く染まるほどの寒空の下、かじかむ手で携帯を操作して、ある人へ電話をかける。数回のコールで繋がった。

 

宮瀬(みやせ)です。ご無沙汰しています、先生――」

 

 一呼吸置いて、受話口から、懐かしさを感じる深い声の返事が聞こえた。

 

 ――......ああ、久しぶりだね、と。

 

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