Another Episode1
徐々に意識が覚醒していくのが判る。
懐かしい感覚だ。この感覚は、もう二度と体感することのないと想っていた。
「今日の朝食は、兄さんの担当だろ?」
この声は、まだ小さな頃の
俺はまた、無事に時空を遡ることが出来たのか......。そうだ、アイツは、どうなったんだ? 記憶を持って飛べたのだろうか。
「――って、兄さんどうしたの? ぼーっとして」
「ああ......悪い。なんか、目が見えないんだ」
「え......えぇーっ!?」
「どうしたのでしょーか?
「大変だ
「え......えぇーっ!?」
先ずは何を置いても、
「スゴい能力者が現れたな......」
土手に座っていると、背中から懐かしい声が聞こえた。
「やっと来てくれたか、
「――なっ!? 俺を、知っているのか......?」
「混乱するのは判るけど、今は時間が惜しいんだ。
「アイツたちのことも......やはりお前は、未来から“
* * *
前世と同じ道を。いや、前世よりも遙かに良い道を歩き出した。
「しかし、こんなにもスムーズにことが進むだなんて。けど
「ああ......そう言えば、まだ話してなかったな。それは――うっ!?」
「
「えっ、大丈夫なのっ?」
「オイオイ、何だってんだよっ?」
「
心配する
「......何だよ、これ――」
見えないはずの目の前に、懐かしい少年の姿があった。そいつに向かって手を伸ばす、向こうも同じように手を伸ばしてきた。そして、俺たちの手が重なった。
「はは......あはは......」
思わず笑いがこぼれた。そう言うことかよ、やってくれる。
「ちょっと、本当に大丈夫? 病院行く......?」
「ああ、悪い。大丈夫だよ、
「う、うん、それならいいんだけど......」
目を見て微笑みかけると
「それから悪いけど、用事を思い出した」
「そうか、じゃあ――」
「いや、ひとりで大丈夫。って言うか、ひとりじゃないと片付かない用件なんだ」
「と言うと、前世での重要事項か」
「そんなところだよ、プー。じゃあ行ってくる」
俺は、ひとりで部屋を出た。
外出時欠かさず持ち歩いていた、杖を持たずに――。
* * *
目黒区自由が丘の住宅街を、スマホの地図アプリを頼りに歩いている。都内屈指の高級住宅街に門を構える純和風造りの屋敷の前で、アプリのナビゲートは終了した。
「ここか......?」
表札で確認する。“
『はい。どちら様でしょうか?』
若い男性の声。どこかで聞いたことのある声のような気がしたが、用件を伝えることを優先した。
「
『......少々お待ちください』
しばらくして、重量感のありそうな横開きの格子戸が滑らかに開いた。
「
「えっ......ふ、
俺を出迎えてくれたのは、前世でも組織の立ち上げに協力してくれた
「話しは聞いています。前世では、多大なるご迷惑をおかけしたと......本当に申し訳ない」
「いえ、気にしないでください。それより、なぜここに?」
「先生の知り合いの方から声をかけていただいたんです。どうやら前世の働きを高く評価してくれたようで。今では、同期の友人の倍以上の給料をいただいています。こちらへ」
廊下を曲がり、まるで日本庭園のような池が正面に見えるふすまの前で立ち止まった。
「先生。
『ありがとう。通してくれるかい?』
ふすまを開けた
「いらっしゃい、良く来たね。まあ、座ってくれ」
「失礼します」
一枚板の漆塗りのテーブルを挟んで、正面の座布団に座る。
「はは、そう堅苦しくしなくていい。見ての通り、僕も崩しているからね」
そう言って穏やかに微笑んだ。そう言うことならと、俺も遠慮せずに足を崩させてもらう。
「さて、話しは聞いているよ。とある学校法人買収の件だね」
「はい。その前に、アイツは......
“
「うむ。彼は今、世界中を飛び回っている。文字通りね」
順調にいってるってことか。
「そうですか。帰国の予定は?」
「未定。一年や二年では済まないことは間違いないだろう。さて、本題の方だが、少し面白い話しがあってね。買収したいという学校法人の理事長を含めた一部の理事たちが、国からの補助金を私的流用していると言う話しだ。加えて虚偽申請での補助金不正受給も判明した」
「そんな話しまで......」
前世では、札束をばら撒いて学園の理事たちを味方につけてた。不正な金の流れがあることを知ったのは後になってからだ。内部情報を事前に把握しているだなんて、政財界との太いパイプは伊達じゃないらしい。
「文科省を始めとした関係各所とは既に話しは付けてある。あとはタイミングだけだったが、
「では星ノ海学園の買収資金については、俺が......」
「いや、その必要はない。併設マンションの改修費用と並行して用意してある。現在在住の住人たちには去年から説明会を複数回開き、利便の良い同等レベル以上の新居への引っ越しを快諾してもらった」
不正の判明で学校法人の元値自体が下がるため買収経費はあまり掛からないとのこと。しかし、併設のマンションごと買い取って地方から上京してくる学生の寮として活用しようだなんて、本当に別次元の人だな。
「しかしだ。僕にも出来ないことはある。そこでキミに、重要な仕事を頼みたい。新星ノ海学園の初代生徒会長として尽力してもらいたい」
「俺が、生徒会長ですか?」
「ああそうだ、これは大変な仕事だよ。来年度から受験者数も生徒数も確実に増える。経済的な理由などで進学を諦めざるを得なかった子どもたちの編入試験も積極的に行う方針だからね。元々の生徒と新しく入学してくる生徒、何らかの衝突が起きるだろう。巨大組織を束ねたカリスマ性を発揮して欲しい。今の学校から転入してもらうことになるが、構わないかな?」
俺がうなづくと、老人は安心したように微笑んだ。
「引っ越しのタイミングは任せる。弟さんと妹さんも一緒に越してくるといい」
「ありがとうございます。ですが、どうしてこれほど......」
「責任を取るのは、しでかした大人の仕事だからね。キミが責任を負う必要はない。ただ今は、本来過ごせるはずだった家族との日常を、学生生活を楽しみなさい」
俺はこの人の、人としての器の大きさを知った。
そして
「......ふむ。いかんな。年を重ねるとどうも説教ぽくなってしまう。コーヒーを淹れよう。今度は、
* * *
「あ、
隠れ家へ帰ると、
「どうしたんだ? そんなに慌てて」
「どうしたんだ、じゃないわよっ。電話も繋がらないし、何かあったんじゃないかって。みんな心配してたんだからっ」
「ああ~、悪い。人と会ってたからサイレントモードにしてた」
スマホを見ると、
「けど、ほんとよかった。無事で」
「心配かけて悪かった。申し訳ついでにメンバー全員の招集を頼めるか? あと、前髪が乱れてるから直した方がいい」
「はぁ、了解......って今、髪が乱れてるって何で――」
「それも含めて話す。全員集まったら、な」
戸惑う
「みんな、忙しいところ集まってもらってすまない。重要な話しだから緊急に集まってもらった」
ランタンの明かりだけが灯る薄暗い地下室で、コンクリート打ちっ放しの壁を背に話しを切り出す。全メンバーの注目が俺に集まる。右から左へとゆっくり視線を移し、仲間たちの顔を見終え、目を閉じ。改めて、まっすぐ前を見据える。
「今、この時を持って、この組織を解散する」
一瞬の沈黙。そして、響めきが起こる。
「
「そうだ! 俺たち能力者を、科学者から守るための組織なんだろ!?」
「もう必要が無くなったんだ。ちゃんとした理由もある。説明するから落ちつてくれ」
場を宥め、鎮まるのを待つ。
「それで、どういうことなんだ?」
「さっきも言ったけど、必要が無くなったんだ。百聞は一見に如かず。
「何でだよ?」
「
「チッ! わーったよ!」
面白くなさそうに舌打ちをした
「い、イテェーッ!?」
「――なっ!?」
「ちょっと、大丈夫っ?」
額を抑えながらの転げ回る
「これは......
「能力が無くなったんだよ。特殊能力は、この世界から全て――」
この場に居る全員が絶句し。そして各々、自身の能力を試した。その結果、全員が使用不能であることが証明された。
「本当に使えなくなってるだなんて......でも、どうしてなの?」
「特殊能力を消し去ることの出来る能力者が現れたんだよ、
世界中で非人道的な行いをしていた政治家や科学者が拘束されている、というニュースが表示されれいるスマホを見せる。
「こんなことが......」
「まだ表にはなっていないが、日本も例外じゃない。もう、俺たちを狙う敵は居なくなったんだよ」
信じられないと言った感じだったが、他のニュースサイト等からの情報。なにより、現に能力が使えなかったことで信用せざるを得なかった。後日また話し合いの場を設けることを約束し、協力してくれた元能力者の大人、集まってくれた仲間たちを見送った。地下室へ戻って、椅子に座る。
「ふぅ......」
「おつかれ、ほら」
「おっ、サンキュー」
無糖の缶コーヒーをテーブルに置いた
「しかし、能力が使えなくなっただけではなく、見えなくなった目に光りが戻るとはな」
それについては、俺が一番驚いている。サプライズもいいところだ。日の光を受けると、まだちょっと目がちかちかする。
「それで
「どうしたんだ、プゥ。マジな顔して」
「真面目に答えろ。こうなることを知っていたのなら、この組織そのものを創設しなかったはずだ」
さすが俺の親友。まだ子どもなのに、俺のことをよく理解してくれてる。
「
「お前のせいだろ!」
「あっはっは!」
「誤魔化すな」
「ああ、悪い悪い。ふぅ......」
仕切り直し。
「信じていなかった訳じゃないが、保険は必要だったんだ」
常に最悪を想定して行動しろ。アイツ自身が言っていた言葉だ。必ず上手くいくなんて保証はどこにも無かったから――。
「それはつまり、能力を消した能力者は前世での知人と言うことか?」
「まあな。で、これからのことだけど。さっきも言った通り、俺たちを狙う科学者は居ない。これからは自由に生きてくれ」
「いきなり自由って言われたってな......」
「そうですね。身を守ることを目的に生きてきたことですし」
唐突に目的を失ってしまったがゆえの戸惑い、ってところか。無理もない。事情を知らなかったら、たぶん俺も同じ反応をしていただろう。けど俺には、まだやることが残ってる。
「
「俺か? 俺にはまだ、やらなくちゃならないことがある」
今度は俺が、約束を果たす番だ。
アイツが帰って来られる場所を、星ノ海学園を誇れる学校にする。